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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第3章 栄える町、消えゆく町
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第67話 動き出す計画



「それでは報告させていただきます。『ウルタブデラ』近郊の鉱山で発見された『縞状鉄鉱床』及び、そこを住処にしていたクリーチャーについてです」


 ハルキ達が『ウルタブデラ』に遠征に行ってから、数日が過ぎていた。

 既に『第7特務部隊』は全員が『ヴォーダトロン』帰還している。そして今まさに、今回の遠征と、そこで起こった一連の出来事の顛末について、隊長であるファウーラが報告しているところだ。


 普段であれば、それを聞くのはアルフレッド総司令1人、場所は執務室で、少しの時間をとって聞くという程度で問題なかっただろう。


 しかし現在ファウーラは、かなり大きめの会議室にて、フォートの意思決定機関である『議会』の議員達や、その他の有識者たちが参集している前で、報告を行っていた。

 自分よりも人生経験を積んだ、アルフレッド自身も信を置く面々。その視線が集中する中で、ファウーラもさすがに緊張していた。しかし、情けない姿は見せまいと、臆せずはきはきとした口調で発表を続ける。


「遭遇したクリーチャーは、『メタルスラッグ』及び、今回正式に名称を設定した新種『メタルノーチラス』は、今申し上げました通り、地底湖を住処とし、『縞状鉄鉱床』を餌場として生息していたようです。そこで岩壁の崩落が起こって鉱道と繋がり、あのように行動全体に跋扈するに至りました。地震らしきものは直近では確認されておりませんので、おそらく『ゴールドラッシュ』の採掘の際の振動が原因で崩落が起こり、奴らの住処である洞窟につながったのだと思われます」


 今ファウーラが述べた通り、あの巨大なクリーチャー……暫定で『アンモナイト』と呼ばれていたそれにも、正式に名前がついた。


 その名も『メタルノーチラス』。

 『メタルスラッグ』と同様、体組織と甲殻に大量の金属を含んでいるのに加え、その外見が『オウムガイ』に近いことから、英名でそれを意味する『Nautilus』の名がつけられた。


 詳細に調べたところ――と言っても、あくまでこの数日間でわかる範囲にとどまるが――やはりこのクリーチャーは、『メタルスラッグ』の上位種にあたる存在であり、群れのボスとして君臨していたと目された。

 持ち帰った死体を調べた結果、やはり体内には大量の金属をため込んでおり、精製すれば良質な金属資源を得ることができた。

 また、『捕食』によってそれを取り込んだ『レックス』もまた、当然『捕食変換』によって不純物をきれいに分離し、良質な『鉄のインゴット』を大量に作り出していた。


 『メタルノーチラス』から作ったのもそうだが、『レックス』の場合、それ以外の材料……数千匹はいようかという『メタルスラッグ』の大群もまた捕食している。

 あの日に踏み潰したり蹴飛ばしたりして死骸を放置していたものもそうだが、地底湖での戦いの際、高熱ガスという名の殺虫剤で焙り殺し、赤熱してコロコロと死んでいたもの、さらには、後から来ることになるであろう採掘者達のため、残っている『メタルスラッグ』もあらかた討伐しておくということで、とにかく『捕食』を繰り返していた。


 その結果、『縞状鉄鉱床』の採掘開始を待たずして、大量の鉄資源が既に手に入っていた。

 既にそれらは技術部のガレージと資材保管庫に収まり、限りなく品質を高めて精錬して、なおも保管庫を圧迫するという、あちこちで嬉しい悲鳴が上がる事態となっている。

 

 なお、もちろん採掘は採掘で、きちんとヴォーダトロンも参加するつもりである。


 また、それとは別な『生態』についての情報も続けて報告される。


 『メタルノーチラス』の死体を検分してわかったのは、『メタルスラッグ』との関係性だけではない。他にも、上位種のクリーチャーらしいと言えるような能力を、この巨獣はいくつも持っていた。


 そのうちの1つが、『獲物を保存する』という能力、ないし機能である。

 『メタルノーチラス』は、『メタルスラッグ』と同様、強力な酸性の駅液体を分泌して攻撃、ないし捕食の助けとすることができるが……それだけではないのだ。


 『メタルノーチラス』が分泌できる液体は、酸だけではなく……セメントか石膏のように、獲物の体に浴びせてしばらくすると固形化し、動きを封じることができるものがある。この性質を利用して、どうやら『メタルノーチラス』は、先にここにいた……すなわち、クリーチャーから逃げてこの鉱道に、そして洞窟の中に入ってしまった者に対して、それを使っていたようなのだ。


 簡単に言えば、生かして捕らえつつ、逃亡防止のための拘束具として使っていた。


 生きたまま、捕らえた人間を壁かどこかに『セメントの体液』を塗り付けて固める。溶かして殺すのではなく、生きたままそこに固定するのだ。

 何のためかと問われれば、話は簡単。後で食べるためだ。保存食として、あの『生存者達』は生かされていたのだ。痕跡から察するに、壁にべとっと貼り付けられていたようだった。腹が減ったら、後から食べるために。


 わざと生かしておいた理由があるのか、それともただ単に溶かさないように貼り付けだけしておいた……言ってみれば、手加減の結果として生きていたのかは定かではない。


 しかしあの時は、ハルキ達が来る直前で、その命の灯は消えてしまった。腹を減らした『メタルノーチラス』によって捕食されたか、絶食と低体温で体力が限界に達したか……死因は定かではないが、いずれにせよ死体が見つからなかったところを見ると、それは食われてしまったのだろう。


「恐ろしいことをする奴がいたものですな……生かしたままとらえておいて後で食うとは……」


「捕らわれていた者達の恐怖と絶望は相当なものだっただろう。悪辣なことをする……」


「そうですかねえ? 生物としては、至極真っ当というか、合理的なことをやってるだけだと思いますけど」


 と、口々に議員達が『メタルノーチラス』がいかに恐ろしく残酷かを口にする中、議員ではなく『有識者』としてその場に参加していた1人……ヴィルジニアが、軽い感じの口調で、割り込むようにして言った。

 当然、部屋のあちこちから視線が集中するが、彼女に特にこたえた様子はない。同じ調子のまま、話し続ける。


「ああもちろん、このクリーチャーの行為自体というか、被害が出ていることを肯定ないし正当化する意図はないですけどね? 食べ物を新鮮なまま保管しておいて、食べる時に殺して料理して、なんて、人間だって普通にやってることですよ。畜産とか、生け簀とか。自然界にも……まあ今は少なくなりましたが、似たような生態を持つ生き物は多かったようですし」


「ヴィルジニア……言わんとすることはわかるが、時と場所と言い方を選べ」


 ため息をつきながら、呆れた様子で、横からファティマが言う。


「確かにな、やってることは、『生物としては真っ当』なのだろう。ただ連中の場合、そもそも存在や生態自体が生物として真っ当でないのと……標的に我々人間が含まれている点が問題なだけだ」


「後者は我々人間の都合ですけどね~。起こってることは大よそ普通の食物連鎖ですし」


 そんな2人の会話に、常と変わらない微笑を浮かべたままのアルフレッドが割り込むように、


「確かにね。だがそれならば逆に、捕食者に対して反抗し、返り討ちにする権利というものもあるはずだ。様々な脅威に対して抗い、克服し、その先の繁栄を手にすると言うのは、有史以来人類が繰り返してきたことでもある……時には我々人類が勝ち、時にはそういった脅威に敗れてきた」


 自然、その場にいた者達の視線が彼に集中する。

 それをわかっていた、あるいはむしろ待っていたかのように、アルフレッドは話を続ける。


「『メタルノーチラス』に限ったことではない。先に『サラセニア』で現れた『ドラゴン』……いや、『ワイバーン』のことを覚えているだろう、皆?」


 その問いに、会議参加者たちはもちろん、といった風で頷いた。

 空を飛び、強靭な鱗や甲殻で身を守り、口から炎を吐く。サラセニア自慢の『航空隊』をも苦戦させた、新種と思しきクリーチャー。

 彼らの多くは映像記録で、そして一部はその目で見て直接、その空飛ぶ龍を見て、その強さ、恐ろしさを知っている。


 直接的な戦闘能力に加えて、飛行する点が厄介だ。対空兵器による対処法があるとはいえ、地上にいる者のほとんどの攻撃が届かないというそれだけで、こちらに不利となる。


 ただしこの種族については、あれ以降調べた結果、『新種』ではないということも明らかになっていた。


 定期的に報告を送って連絡を取り合っている『大連合』に問い合わせたところ、そこに所属する他のフォートで目撃及び交戦記録があった。

 そこで既に命名もされており、『ワイバーン』という名前がついていたこともわかった。


 そこから受け取れた情報提供のおかげで、『サラセニア』周辺で出没する『ワイバーン』に対しての応戦ドクトリンは、より完成度の高い形に仕上がっている。


 もっとも、あれ以降『ワイバーン』は、交戦はおろか目撃されること自体ほとんどなく、現状のところ、『サラセニア』はその意味でも無事でいられている。

 中間捕食者である『イオンバード』にしぼって駆除及び撃退を行い、『ワイバーン』の行動範囲をフォート近くまで近づけないという作戦も功を奏しているのだろうが。


「結果的にほとんど問題なく対処できているとはいえ、『ワイバーン』然り『メタルノーチラス』然り……今まで目にすることのなかった強敵が次々に現れていることに変わりはない。そして、楽観的なものの見方ができない以上……それはこれからも続くと思った方がいいだろう」

 

 ゆえに、と続けるアルフレッド。


「いかにこの『ヴォーダトロン』が、現状で大規模フォートの枠内にあり、相応の力を持っているとはいえ……現状維持のままではいられない。膨れ上がっていく脅威に対応できなくなり、食い破られる時が必ず来る。ゆえに……人類こちらも強くなることが必要だ」


 そこまで話が及んだところで、皆、アルフレッドが言わんとすることを理解した。


 ここに集まっているメンバーは、既に彼から、タイミングは違えど、事前に『ある計画』について聞かされている者ばかりだからだ。恐らくは、最初からこれを話題に上げるつもりで、その共通点がある面々を招集したというのもあるのだろう。


 それを察して部屋の中の緊張感が高まる中、アルフレッドは、皆の予想通りに話を切り出した。


「幸い、新たな同盟の締結や、『アイアンラッシュ』の開始による資源的な余裕、そして何より、『レックス』を迎えたことによる戦力的な意味での充実……流れはできつつある。ゆえに私はここで、改めて……『アークル計画』の実行を提唱したい」


「「「…………!」」」



 ☆☆☆



 かつて、『アークル』という名のフォートがあった。


 位置的には、『ヴォーダトロン』や『サラセニア』よりもさらにユーラシア大陸の内側、旧時代で言うチベット自治区から北、崑崙山脈付近にあったとされるフォートである。

 規模的には中規模と大規模の中間程度だが、様々な理由から、当時かなり進んだ技術が結集していたフォートだった。


 そこはかつて存在した『中国』という国の一部だった場所だった。

 政治的な意味で色々と複雑な区域ではあったのだが、それについては置いておくこととして……かつての中国政府は、そこに『フォート』の前身となる軍事基地を置き、様々な脅威に対抗しようとしていたという。


 『クリーチャー』はもちろんのこと、資源不足で内紛が常態化した中東各国から毎日のようにやってくる、盗賊や難民もまた問題だった。

 中国もまた、ただでさえ人口が多く資源が少ない状態で、他の国から食べ物や仕事を求めてやってくる人々の面倒を見ている余裕などない。人道や倫理といったものを掲げていられるのは、あくまでも自分のところに余裕があるうちだけだ。

 脅威となる怪物達も、助けを求めてやってくる人間達も、等しく拒絶し続けた。


 それは、中国という国が滅ぶまで続いた。

 もっともその頃には、難民の大移動すら起こらないほどに……そんな余裕すらどこにもないほどに……世界そのものが『災害世紀』という時代に突入し、追い込まれた状態となっていたが。


 しかしそこに至るまでは、中国は最前線である『アークル』に人材や技術を結集し、外的脅威の排除と並行して、それらに関する研究を続けていた。


 しかしある時期以降……具体的に言えば、中国が主要都市付近の統率や防衛、治安維持で手一杯となり、それ以外……末端部分にまで手が回らなくなった時に、そこにあったものの多くは切り捨てられた。

 大を生かすために、小を切り捨てる……とは違う。それが行われた当時、切り捨てる側と切り捨てられる側の間に、人口規模的にそこまでの差はなかった。国土面積で言えば、切り捨てられた側の方が大きかったくらいである。あくまで、政治的、効率的、重要度的な問題だった。


 その際に、切り捨てる予定の場所から資源などを撤収させようとしたようだが、それを察した末端の人民や、一部の軍人達により、妨害されてほとんどは叶わなかった。

 それも当然と言える。中心部にいる人間たちだけを確実に生かすため、自分達を『中央のためにお前達は死ね』とばかりに、見殺しにしようとしたのだから。


 結局そのしばらく後、中国という国は、国という形を保てずに崩壊し……その生き残りがいくつかのフォートに分かれて今も存続し続けている。

 それについての詳細は今は省くが……問題はその『見殺し』未遂の際、資源の回収に失敗した結果、最新鋭の設備が残ったままの前線基地が各地にあるということだ。それらのいくつかは、後に『フォート』として存続しつづけている。


 何を隠そう、『サラセニア』もその1つである。航空設備が残されたままになっていたそこは、体勢を立て直して以降、数少ない『航空戦力』を持つフォートとして大成し、生き残った。


 そして、『アークル』もまた、その生き残ったフォートの1つに数えられていたのである。


 しかし『サラセニア』と違い、『アークル』は一時期はフォートとして機能していたものの、結局その後に滅んでしまったらしい。


 ただしその理由は、クリーチャーの襲撃や災害によるもの以上に……物的な問題が大きかった。


 『アークル』は、周囲に農業などに適した土地がなかったため、自給自足するほどの生産能力を確立することができなかった。

 また、地形やクリーチャーの生息域などの問題により、外部から食料や物資を買い付けるのも難しかった。いや、行き来自体が難しかったとも言われている。


 ゆえに、力としては大きかったものの、徐々にその規模を小さくしていき……さらにそんな中でクリーチャーの襲撃を受け続け、住人たちは疲弊していった。さらに、増えていくクリーチャーは今までは無事だった交易路をも圧迫し、寸断し始めた。


 やがて、耐えられなくなって人々はそのフォートを棄てた。


 その際、極めて強力なクリーチャーが出現したとも言われており……もともと移住を迫られていた彼らは、それが引き金になって、背中を蹴飛ばされるように慌てて移住した。

 そのせいで『アークル』には、多くの物資が置き去りにされたままになっているというのだ。


「今から数えて既に20年以上前の話だ。食料などは缶詰だったとしてもほぼ全滅だろうし、定期的にメンテナンスが必要な設備も難しいだろう。だが……それでも生き残っている、あるいは、少しの改修で使えるようになる物資は多いと私は見ている」


「確か……総司令のお知り合いに、『アークル』の生き残りの方がいらっしゃったんでしたね。今のお話は、そこから?」


「他にもいろいろあるけれどね……。それに何より、あそこには恐らく……物資以上に、『情報』が眠っていると思っているんだよ」


「情報……ですか」


「『アークル』は、かつて中国がクリーチャーの生態や、周辺地域の地形や災害の調査のために用意していた前線基地が元になっているフォートだ。同じ末端でも、他国への侵略を見据えて整備されていた『サラセニア』とは違い、情報を集め、分析することに特化している。しかし、結局集めた情報を十分に分析することも、それを持ちだすこともできなかったらしい」


「当時は紙媒体なんかの、かさばる記録やら資料も多かったらしいですからね……」


「だからこそ、私はそこへ行く価値があると思っている」


 迷いないはっきりとした口調で、アルフレッドは言った。


「当時『アークル』が集めた情報は膨大だ。そこから持ち出して、『大連合』を含む他のフォートで共有できたものはごく一部でしかないらしい。本人曰く、重要そうな情報を優先的に持ち出したということだが……実際のところ、それを精査する暇もなかったそうだからな。恐らく『アークル』に眠っている情報の中には……今であれば千金に値する情報も眠っているはずだ」


 災害やクリーチャーに関する研究も進み、昔と今では、同じデータから全く違う情報が――それこそ重要度も含めて――読み取れる、ということも珍しくない。


 確かにアルフレッドの言う通り、未精査のまま死蔵されているであろう『アークル』の情報は……それがどれも最前線で収集された生きた情報であることを考えれば、それだけでも千金の価値があると言う者は少なくないはずだ。

 実際に精査した結果重要度は少ないかもしれないが、それでも、今現在ある情報に照らして確実性を高めたり、知識の空白、ないし虫食い状態になっている様々な謎を解明するカギにもなる。


 それらを手に入れることは、人類にとって、迫り来る様々な武器に対抗するための、強力な武器になる。

 

 だが、アルフレッドの話はここで終わらなかった。


「ただ……皆も知っての通り、私の意図していることは、『アークル』に行って情報を入手し、そして帰ってくる……というところで終わりではない」


「「「…………!」」」


 来た、と全員が思った。

 それを悟りつつも、やはりアルフレッドは続ける。本題は、ここからだ。


「あらためて言おう。私が推奨する『アークル計画』。それは―――




 ―――フォートとしての『アークル』……それそのものを復活させ、手にすることだ」





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