第66話 今後の予定と展望
『アンモナイト』との戦いが終わった後、ハルキ達は状況を整理するため、最低限の『調査』を終えてから、最寄りのフォートである『ウルタブデラ』に帰還。
そこで、『ウルタブデラ』の司令部はもちろん、『ヴォーダトロン』の総司令部にも連絡を入れ、今回の顛末と……これからのことについて説明した。
そして同時に、『これから忙しくなる』という、ほとんど確信といっていいくらいの予想も、忘れずに付け加えておいたのだった。
一体どういう意味なのかというと、話はハルキ達が、洞窟内での『調査』に際して見つけたあるものに端を発するのだが。
今晩の宿として貸し出された『ウルタブデラ』司令部の一室。
そこで、ハルキ達は、仲間達と今日のことを振り返っていた。
ちょうどいいので、ハルキは端末を使い、今日あった出来事の報告書を作っている。『レックス』で実際に現場に赴いたのはハルキなので、より状況の詳細な描写ができるだろうというのに加え、こういった事務仕事についてはまだまだハルキ達は勉強中なので、練習という意味もある。
無論、提出する前にはシドやファウーラによるチェックがきちんと入り、必要な部分は修正されることとなるが。
「にしても今回の報告書、書くこと多いな……まあ、実際色々あったから仕方ないけどよ。あー、何か目疲れてきた」
「ははは、確かに、『色々あった』よねえ……色んな意味で」
けらけらとおかしそうに笑いながら言うマリカ。その周囲では、他の仲間達も、うんうん、とでも言いたげに頷いたり、当時のことを思いだして苦笑したりもしていた。
「しかし驚いたな……地底湖の底にあんなもんがあったとは。さすがにびっくりした」
「大規模な酸化鉄の鉱床、だっけ? それであんなに『メタルスラッグ』がいたんだね」
「『メタルスラッグ』の大群自体は災厄でしかないが、そもそも餌となる金属が多量にある条件下じゃなけりゃ、あれだけの数が湧いて出てくるはずはないからな。災い転じてなんとやら、だ」
「あそこで死んじまった人達のことを考えると、手放しで喜ぶのもちょっと躊躇われるけどな……」
「それはもう、仕方ないわよ。気の毒だとは私も思うけど……私達が何か手を抜いてたわけじゃないし……運が悪かった、としか言えないわ。……『あんなこと』になってたことも含めてね」
言った通り、色々なことがあった分、今回の報告書は書くことが多い。
鉱山内部で起こっていた異常事態……『メタルスラッグ』の大量発生や、その住処と思われる地底湖の存在。そしてそこで遭遇した、『アンモナイト(仮称)』との戦い。
特に『アンモナイト』については、詳細に調べてみないことには断定はできないとはいえ、新種のクリーチャーである可能性もあるため、なるべく詳細に書く必要があった。生態的な特徴や攻撃手段など、可能な限り細かく書く。もちろん、持ち帰った死体もサンプルとして提出予定だ。
が、それと同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが、その後に見つけたもの……地底湖の底に広がっていた、『酸化鉄の鉱床』についてだった。
戦闘終了後、ようやく終わったか、と安堵していたハルキ達だが、ふとモニターの表示を見て……『捕食』によって取り込んだ物質の中に、『酸化鉄』なるものが含まれていることに気づいた。しかも、結構な量を。
恐らく、『アンモナイト』を捕食して攻撃している最中、一緒に地面、ないし水底の一部を食いちぎっていたのだろうと思われる。途中からは『アンモナイト』の巨体を引きずり倒し、体の端から順序良く(?)食いちぎっていっていたので。
加えて、『アンモナイト』との戦いの最中、『レックス』が何度も高熱のガスで攻撃したことで、地底湖の一部が蒸発し、水かさが下がって水底の一部が見えるようになっていたため、それを発見できた。
『アンモナイト』や『メタルスラッグ』達が住処としていた、そして同時に餌場でもあったのであろう、『縞状鉄鉱床』
名前通り、縞模様のようになっているためにそう呼ばれるそれは、太古の昔……数十億年も前に、海底に沈殿した、その名の通り『酸化鉄』の鉱床である。
これまでの時代……旧時代にも、あちこちの国で発見され、鉄を作るため材料として大規模に採掘がおこなわれてきた。今回は、その未発見の鉱床が見つかったということになる。
念のため、その酸化鉄もいくらかレックスで捕食して持ち帰っているが、その際に2、3度かじったその下からも酸化鉄がまだその姿をのぞかせていたため、規模としてはかなり大きなものである可能性が出てきていた。
おそらく、この報告を受け取った『ヴォーダトロン』や『ウルタブデラ』では、資源採掘にかかる部署が、ハチの巣をつついたような大騒ぎになっていることだろう。
無理やり名付けるならば……『ゴールドラッシュ』ならぬ『アイアンラッシュ』だろうか。
新たに発見された『縞状鉄鉱床』は、どう控えめに言っても宝の山である。どの程度の規模あるのかは正確にはわからないが、あれだけの数の『メタルスラッグ』が生息していたということは、ちょっとやそっと掘ったくらいでは枯渇することはないだろう。
『酸化鉄』を採取してどんどん鉄を作り、さらにその鉄から様々なものを作るため、どこのフォートもこの資源の獲得競争に本腰を入れるはずだ。それこそ、以前の『ゴールドラッシュ』には乗ってこなかったフォートであっても、今回は別だろう。
「でもそうなると、俺らもここでの採掘作業、参加した方がいいのかね? 一応、『レックス』使えば結構なペースで掘る……というか食うというか、いずれにしろ回収進められるけど」
「さて、どうかね……採掘そのものは、専門のチームがすぐに来ると思うから別にいいだろう。それよりも俺達に仕事が回ってくるとしたら、その前段階……露払いだろうな」
「……あー。『メタルスラッグ』の排除か」
「ああ。採掘作業するにあたって邪魔でしかないからな、アレらは。しかも、普通のAWが閉所で相手をするにはかなり危険と来てる。恐らく俺らに出番が来るとしたらそっちだろ」
「加えて、『レックス』を用いた採掘は、確かにハイペースかつローコストで行えますが、あまり我々が率先しすぎてしまうのも問題になります。資源の採掘は原則早い者勝ちとはいえ、他のフォートが取る分がなくなる、あるいは採掘が難しくなるほど取り過ぎてしまえば反感を買います。また、この仕事はおそらく公共事業として、民間にも参加を募って大規模に動くはずです。それを考えれば、『ヴォーダトロン』で採掘を仕事にしている業者の仕事を奪うことにもつながります」
「なるほど……そのへんのことも考えなきゃいけないわけっすか」
「それにさ、今回の戦闘では『レックス』もちょっと壊れたんだろ? なら、無理せずに一度ドックインしてきちんと点検とか修理した方がいいんじゃないか?」
付け加えるようにロイドが言ったのを聞いて、そこにいた面々のほとんどが、思いだしてはっとしたような顔になったり、うんうん、と頷てみせたりした。
これまで、どんなクリーチャーのどんな攻撃でも、その身に傷の一つもつけること叶わなかった『レックス』。しかし今回の戦いで、初めてその身にダメージを生じさせていた。
『アンモナイト』の巨体から繰り出される、圧倒的な馬力と重量による攻撃、そしてそれに使われた超硬度・超強度の甲殻。さすがに『レックス』も無傷ではいられなかったのだ。
『レックス』に限った話ではないが、戦闘後、AWに破損個所を残した状態で作業ないし任務を継続するなどということはあり得ない。その仕事が戦闘であるならばなおのことだ。
ゆえに、わずかでも異常があるならば、きちんと整備して万全な状態に戻してから次に行くというのは、AWに乗る者全てにとって常識と言っていいことである。
もっとも、ロイドたちが心配している点として……そもそも『修理』や『整備』が可能なのだろうか、という点もあるのだが。
レックスは、およそその身の全てがと言っていいほどに、『オーバーテクノロジー』の塊である。
設計思想はもちろん、装甲の材質、搭載されているOS、兵装や動力部に使われているテクノロジーに、思考操縦や自動学習のシステムといったものまである。
どれか1つとっても、解き明かすのが不可能と言っていいレベルの異常な技術の集合体だ。
当然、それらの一部でも理解あるいは再現することに、未だ誰も成功していない。
となれば、これが破損した時、一体どのようにして直せばいいのかと、皆がそれを不安に思うのも当然のことではあった。
……いくら、それが『必要ない』とは事前に聞かされていてもだ。
「大丈夫っすよ。自動修復機能でもう直ってるはずなんで」
そう、アキラが言う。さほど心配もしていない様子で。
『レックス』には『自動修復機能』……読んで字のごとく、自ら破損を修復する機能が搭載されていることは、コクピットからサルベージした情報の中にあった。
パイロットであるハルキとアキラが知っていたのはもちろん、部隊内でも周知の事実だ。その時の報告書にも記載して、関係各所で情報共有もしているし……時折、日常の雑談の中ででも話題に出すこともあった。
なので、最近この部隊に加入したマリカも含めて、それをきちんと知ってはいたのだが、それでも流石に『なら大丈夫だな』と素直に頷くのも難しかったのだ。
「それでもだよ……一応聞かされて知ってはいるけどさ、やっぱこう……人工物が自動でというか、自力で自分を直すってちょっと想像つかないっていうか……いや、疑ってるわけじゃないけどな?」
「それもう生きもののやることだもんね……修理じゃなくて治癒だよ治癒」
ロイドとメリルの述べた通り、ただでさえ『オーバーテクノロジー』の塊であるレックスの中でも、率直に言ってトップクラスに非常識な機能の1つであると言える機能だろう。
命を持たない人工物であれば、破損が合った際に自力でそれを修復するなどというのはありえない、きちんと作った人間が手を加えてそれを直すしかない。それが常識だ。
加えて、そんな機能について知ってはいても……なまじこれまで『レックス』が無傷で戦い抜いてきた関係上、実際にそれを見る機会はなかった。
ゆえに、実際に目にしている『エネルギー兵装』や『捕食変換』といった部分よりも、事実として飲み込めていなかったというのも大きいだろう。百聞は一見に如かず、とも言うし。
「まあ、気持ちはわかるっすよ。あたしらも最初は『マジかよ』って思ったし」
「一応、仕組みはあるっぽいんだけどな、きちんと。そのデータについても、なんかまだロックがかかってて全部は閲覧できてないんだが……『捕食』した素材をもとにして機体内で修復に必要な物質を作り出して、破損個所に充填するような形で直すんだと。もともとどういう状態が機体にとって最善の状態なのかが記憶されてるから、その情報をもとにして差異をなくすわけだな」
「余計に生きもののやることだよー……」
「食ったもんを材料にしてケガを直す、ってことだよな……」
呆れるメリルとロイド。反論できないハルキ達。
実際、2人もそういう印象を抱いてはいた。ハルキが今言った通り、核心となる部分の情報のロックが解除されていないので、それ以上のことはわからない。
「ナノマシンが関わってるっぽいってのはなんとなくわかってるんだが……その『素材』とかそのストック方法とかについてが謎なんだよな。何でこんな中途半端に開示されてんのやら」
「まあ一応、ロイドたちの言ってることもわかるっす。あたし達もきちんと自分の目と手で点検はやるつもりっすよ。技術屋っすからね、最後は自分で確認しないと安心できないし」
と、アキラ。
実際今までも、無傷で戦闘を終え、なおかつ『自動修復』が存在するとわかっていても、ドックに戻した後はきちんと点検は行っていた。そうすることが当然必要だと思っているし、2人にとっては、ある意味機体に対しての礼儀だという認識すらある。
それであらためて問題ないと確信できれば、また安心して身を任せられるというものだ。
「ともあれ、そういうことなら本格的に、俺らの仕事はもうなさそうだな。仮に『メタルスラッグ』の掃討任務とかが来ても、点検終わってればレックスも出せるだろうし」
「なら、ひとまずは別命あるまで待機、ってことでいいか」
「そうですね。もう時間も時間ですし、必要な報告や情報共有は済みました。この辺りで解散しましょう。明日の朝は、通常業務時間でこの部屋に集合。以上」
「「「了解」」」
最後にまとめたファウーラからの指示にそう返すと、それぞれ部屋に戻っていく。
宿泊用、という意味での部屋については、『サラセニア』の時などと同様に、事務室とは別に用意されていた。
こうして、予定よりもだいぶ色々なことがあって忙しかった1日は、ようやく終わったのだった。




