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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第3章 栄える町、消えゆく町
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第65話 地底湖の巨怪



 ズガン、と轟音を立てて叩きつけられる触手に、『レックス』の機体が大きく揺らぐ。

 2度、3度……どころではなく、何度もそれが繰り返される。


 しかし抜け出そうにも、何本もの別な触手が体中に絡みついて、動くことができない。


「マジかよ、上手く動かねえ……『レックス』がパワー負けしてんのか……!?」


 見た目に反して触手は強靭そのもので、単なる馬力だけでは、ゆっくりと少し動くのが精いっぱいだった。力で引きちぎることができない。


 前足のブレードを使えば断ち切ることもできたが、それが届く範囲のものに限られた。

 あちこちに触手は絡みついている上に、次々に新しい触手が伸びてきてまた絡めとられる。さらに、また別な触手による打撃攻撃も苛烈さを増し、ろくに対応できなかった。


 それに加えて、部屋中に大量にいる『メタルスラッグ』が群がってきて、『レックス』の機体表面のほとんどを覆いつくさんがばかりに張り付いていた。

 溶解液は変わらず効いていないが、カメラ部分にまで張り付くせいで、全天モニターの視界すら塞がってきている。


 幸いと言っていいのかわからないが、そういった個所に一切配慮せずに『アンモナイト(仮称)』が打撃を叩き込んでくるため、張り付いている『メタルスラッグ』も大量に巻き込まれて吹き飛ばされたり、叩き潰されたりしているのだが。


『お、おい! すげー音してんだけど!? 大丈夫なのかよハルキ!?』


「っ……機体そのものにダメージはほとんどない。相変わらずバカみてーなタフネスだよ……ただ、こっちから反撃する暇もねえってのがな!」


「近づくのは……っていうか、移動するのも難しいっすね! 完全にパワー負けしてるし、手数も違いすぎる……遠距離からぶっ放すにしても、横向いて縛られてるし、砲身回らないから狙いがつけられないっす……アリの時みたいに、至近距離での機雷で触手ごと吹っ飛ばすっすか!?」


『危険ですアキラ特務少尉! 非実体兵器でも、周囲への衝撃を伴うものは、鉱道内部の崩落を湯発する可能性があります! 実際に崩落で多数の穴が開いていると推定されるである以上、周囲の壁や天井へのダメージは最小限にしないと……』


「っ……なら、実弾兵器はもちろん、エネルギー系の兵装でも、機雷や砲撃は使えないっすね……それなら……さっき言ったガスは!?」


『そう、ですね……爆発させるわけではなく、熱そのもので攻撃するようなタイプであれば……』


「よし決まり! 範囲焼却用高熱ガス用意! 殺虫剤ばら撒いて一網打尽にしてやるっすよ!」


 言うと同時にアキラは思考で指示を出し、それにしたがって『レックス』の機体各部にある放出口から、超高温のガスが勢いよく、全方向に放出される。


 バシュウゥゥウウ!! という凄まじい噴射音と共に、肉眼でも確認可能な、白い霧のような煙が……しかしその正体たるや、数百度という超高温にまで熱された、炎なき火炎放射である。

 巻き込まれた部分の水分を急激に奪って蒸発させ、さらに大量の水蒸気を作り出した。それ自体も、数百度とは言わないまでも、かなりの温度である。


 日の当たらない洞窟の中ゆえに、むしろ肌寒いとすら言える温度だったそこは、一瞬にしておよそ生物が生きていられないほどの熱地獄となった。


 体中に張り付いていた『メタルスラッグ』も、絡みついていた触手も等しくあぶられて動きを止める。水分が奪われて蒸発し、金属成分だけが残る。

 そのまま、生物としては絶命した鋼のカタツムリ達は、ぽろぽろと零れ落ちていった。その小さな体は、特に至近距離で直接ガスに当たったものなどは、体に残った金属成分が赤熱するまでになっていた。


 同じ成分でできていると思しき触手も……大本の『アンモナイト』はともかく、その部分は『死んだ』ということになったのか、締め付ける力も感じられなくなり、身をよじれば簡単に振りほどくことはできた。


 何本もの触手を焼かれ、想定外のダメージがあったからだろうか。『アンモナイト』は少し怯んでいるようだ。その隙にハルキ達は、体勢を立て直す。


「よっし、脱出……! で、どうするここから……『戦闘モード』……は、やめた方がいいよな」


『やめとけ。人型の『戦闘モード』の強みは、馬力以上に機動力だ。ブースターによる高速移動も、それを生かした足技も、閉所で使うにはむしろ邪魔になる。使えて高熱の鉤爪くらいのもんだ。加えて、今は高熱ガスのおかげで乾いてるが、その洞窟内の地面は基本、『メタルスラッグ』の粘液で濡れてて、あまり激しく動くとスリップの危険もある』


 と、シド。次いでセリアも、


『そのまま恐竜形態での戦闘継続を推奨します。可能であれば、遠距離からの攻撃が望ましいですが……ガスなど、衝撃を伴わない兵装は何がありますか?』


「なら……レーザー系や火炎放射っすね。ただ、あいつの触手めっちゃ長いんで、間合いの外から撃つのって難し……って言ってるそばから!」


 わずかな間に、恐怖ないし動揺は静まったらしい。再び触手を伸ばし……動かせなくなった触手は打撃用の武器にして振るってくる。

 だが、素早くハルキがそれにとらわれないように動き、近寄ってくる触手は切り払う。アキラは背部ユニットを動かし、レーザー砲で触手もろとも本体を狙い撃った。 


 ジュウッ、という音が聞こえ、苦痛からかアンモナイトが身をよじる。


「よし、効いてる! このまま……あぁ!?」


 かと思えば次の瞬間、アンモナイトは本体のほとんどを強固な鋼の甲殻の中にすっぽりと収めて隠してしまった。その状態から触手だけを伸ばして攻撃と拘束をしてくる。


 そこに先程と同様にレーザーを打ち込むが、甲殻を貫通することができない。まさに鎧のごとく、熱すら遮断して本体を守っていた。


「こんのっ……何つーめんどくさい!! 何引きこもってんすか出てこいよこのチキン野郎!」


「知能低そうな見た目しといて、意外と頭いいのか……? 確かにタコとかは見た目に反して知能が高かったりするらしいが……」


 種類にもよるが、タコの仲間の中には、保護色で身を隠して風景に同化する際、不自然にならないように足を操作して形まで風景に似せるものや、他の生物に似せるものもいる。

 水槽の中に柵がある場合など、簡単な仕掛けであれば閂を外して開けてしまったり、蓋が閉められているビンを、足で蓋を回して開け、中の食べ物を取り出して食べる、などという芸当も見せる。


 思考能力そのものはともかく、この『アンモナイト』もまた、体験したことを即座に学習し、身を守りつつ敵を倒す術を模索するだけの知能があるのかもしれないとハルキは考えた。




 そのまましばらく、ある種の膠着状態は続いた。


 距離を取ったまま、『アンモナイト』は触手を伸ばして攻撃を続ける。その隙間を縫って、別な触手で拘束を行い、縛り上げて引き倒そうとする。


 ハルキ達は触手を切り払い、レーザーで撃ち抜き、火炎放射で焼き払って迎撃していく。絡みつかれて動けなくなった時には、先程と同じように高熱ガスで丸ごと焼いて振りほどく。


 あまり火力の、具体的には直接的な『破壊力』のある兵器が使えない以上、文字通り鋼の甲殻による防御を抜くことができず、決定打が互いにない状態が続いていた。


 そんな繰り返しの中、ハルキは全天モニターの端の方に表示されている『エネルギー残量』にちらちらと目を向けている。


(エネルギー残量……ここまで減ったの初めてかもな。太陽光も届かないとこで、動きを少なくしてとはいえ、結構長いこと戦ってっから……。まあ、まだまだあるけど、今までと違ってここから先、補充の見込みが薄いってのは問題だ)


 今まではほぼほぼ気にならなかった、エネルギー残量の問題。

 太陽光さえ吸収出来ればかなりの効率で生み出すことができ、相当な長期戦にも耐えられる『レックス』だが、暗所で長時間の戦闘となれば、必然蓄えていたエネルギーだけで戦わざるを得なくなる。

 加えて、レーザーを含む非実体兵器は、エネルギーを直接攻撃に変換するため、消耗も実弾兵器より多いし、大量のガスを一気に超高温にするために必要なエネルギーも少なくはない。


 常にこのゲージを気にしながら戦うべき。場合によっては、残量がなくなる前に撤退という選択肢も考える必要があるかもしれない。

 ハルキ達がそう考えた……その時だった。


 長く続いた膠着状態が……突如、終わりを告げた。

 『アンモナイト』の側がしびれをきらした、あるいは……これ以上、末端といえど、触手部分にダメージが入るのを看過できなくなったために。


 触手での攻撃が緩んだかと思うと、突然アンモナイトは凄まじい勢いで、甲殻を突き出してレックスに向かって突進してきたのだ。


「「『は!?』」」


 ハルキとアキラも、カメラを通してみていたファウーラ達も、当然驚く。

 とっさにハルキは回避しようとするも、絡みついた触手がそれを阻み……巨大かつ超重量の鉄の塊が激突してきて、轟音と共にそのまま岩壁に叩きつけられた。


「やっ、ば……!」


『ハルキ!? 大丈夫!? 揺れ、こっちまで来たわよ……崩落は!?』


「多分、大丈夫だ。あっちこっち崩れたり、ひびは入ったっぽいけど……こいつさては、このまま押しつぶすつもりか!?」


「やば……ちょっと装甲とフレームにダメージ入ってる! このままじゃ流石にまずいっすよ!」


 これまでどんな攻撃を受けてもびくともしなかった『レックス』だが、流石にこれほどの重量の物体が、しかも押し付け続けられるというのは、負荷が限度を超えて大きいらしい。

 全天モニターに映し出された、破損個所アリの表示に、2人も、通信の向こうのファウーラ達も血の気が引く。


 先程までと同じくガスの噴射で攻撃するが、学習したのかはたまた偶然か、アンモナイトは触手のほとんどを、甲殻を挟んで反対側に隠している。甲殻が巨大なため、熱がそこまではほとんど届かない。

 加えて、そちら側で触手を総動員してふんばることで推力に変え、レックスの機体を全力で岩壁に押し付けて潰そうとしているのだ。


「まずいな、このままじゃ潰される……崩落覚悟で機雷使うしかねえか?」


「それでこのクソ硬い甲殻どうにかなりゃいいっすけどね……岩壁は壊せるかもっすけど、その後また追いついてこられたら繰り返しだし……あーもうホント鬱陶しい! 食ってやろうかこの貝タコ野郎!」


「お前それ俺のセリフ…………あ? 待てよ? ……そうか、その手があったか」


 その時、ハルキの脳内にはっと閃きが走った。


「そうだ、折角向こうから間合い詰めてくれたんだ。それなら……アキ! 機雷!」


「えっ、ちょ……いいんすか!? 下手したら崩落……」


「大丈夫だ、そこまで威力は要らない。規模は最小で……そうだな、少し岩壁を砕いて、ちょっとだけ体ひねる程度のスペースができればいい!」


「っ……!? わ、わかった、やってみるっす!」


『おい、何やる気お前ら!? 大丈夫なのか!?』


 ロイドの焦ったような問いかけには答えず、アキラは周囲に、熱エネルギー兵装の機雷をいくつか出して……『レックス』自身を巻き込むのも構わずに炸裂させる。

 その衝撃では、やはり『アンモナイト』の甲殻を砕くことはできなかったが、挟まれている反対側の岩壁が砕けて、少しのスペースができた。


 すぐさま『アンモナイト』はさらにぶつかってきて、また押しつぶそうとするが……そのわずかな隙に、ハルキは素早く姿勢を変えて、さらに背部のブースターも使って跳躍。『アンモナイト』の甲殻に、真正面から飛び乗るようにして、前足も使ってしがみついた。

 そして……


「捕まえたぞ貝イカ野郎……このまま……食ってやる!」


 文字通り、食らいついた。

 大きく顎を開いて、かつて『ナイトローラー』の甲殻を肉ごと食いちぎった時のように……その鋭い牙で、『アンモナイト』の甲殻に噛みついて……


 そのまま突き破り、食いちぎった。


「よし、行ける!」


 そのまま2度、3度と食らいつき、甲殻をかみ砕く。さらに、両腕の赤熱したブレードも使い、割って、削って、はがして大穴を開け……空いたそこに、頭を突っ込んだ。そして、中に隠されていた柔らかい本体部分に食らいつき、食いちぎる。


 痛覚があるのかどうかは不明だが、鉄壁だったはずの守りを突破して、急所とも呼べる部分を攻撃されたことで、流石に慌てたのかもしれない。アンモナイトは触手を総動員して、一転してレックスを引きはがして離脱しようとする。

 が、それよりも早く……無防備にむき出しになったそこへ、ゼロ距離で火炎放射とレーザーが叩き込まれ、そのダメージの大きさに動きを止めた。


 そしてすぐさま、『レックス』は捕食を再開する。

 柔らかい身を、甲殻に空いた穴から引きずり出し、食いちぎり、飲み込んでまた食らいついて……を繰り返す。時折『アンモナイト』が抵抗するたびに、火炎と熱戦を叩き込んで黙らせて、同じことをまた繰り返す。


 完全に勢いは『レックス』に移った……どころか、最早逆転の目もないほどに一方的な展開になりつつある。

 先程までの危機的状況からは脱したと言ってよかった。


 ハルキとアキラはもちろん、固唾をのんで見守っていたファウーラ達も安堵したが……今度は、別な部分が気になっていた。


 ―――ガブッ! ギリ、ブチブチブチッ! ぐちゃ、ぐじゅ……ガブッ! ブチッ!!


『うわぁぁあ……』


 通信の向こうから……緊張とはまた別な、微妙な感情の乗った声音で、メリルの声が聞こえた。

 声は出していないが、他の面々も大体同じ様子だった。


『ピンチじゃなくなったのはよかったけどさ、コレ、ちょっと絵面が……』


『もう戦闘じゃなくて、完全に捕食シーンだな』


『少々、生々しい……ですね』


 食らいつき、食いちぎり、かみ砕いて飲み込んで、また食らいつく。

 その繰り返しで、見る見るうちに『アンモナイト』の体積が減り、そして弱っていく様は、クリスがつぶやいた通り、『戦闘』ではなく『捕食』である。『レックス』自体が生きものの見た目をしていることもあって、余計にそういう印象が強かった。


 『レックス』の視点での映像である点がかえって良かったかもしれない。もし第三者視点でこの光景を見ることができていたとしたら……さぞかし迫力のある映像が撮れていただろう。

 タイトルをつけるとしたら、『食物連鎖』とかついてしまいそうではあるが。


 そのまましばらく。

 体積の半分ほどを失ったところで、『アンモナイト』はついに力尽き……動かなくなった。


 戦闘終了後に、ハルキが息をつきながら、ジョークのつもりも込めて何となく言った『ごちそうさまでした』の一言が妙にしっくりきたと、それを見ていた面々は後に語った。





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