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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第3章 栄える町、消えゆく町
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第57話 クリスの『副業』



 場所は移って……先程まで、マリカの『三式』を整備していたのとはまた別な、『レックス』が仕舞われているガレージ。


 作業着のまま、ハルキは『レックス』に乗り込み、それを起動させたところだった。

 同時に、全天モニターに外の景色が浮かび上がり、見慣れた格納庫の中の景色を映し出す。


 コクピット内には、ハルキ1人だ。アキラはいない。

 ただ動かすだけ、あるいは簡単な操作をするだけなら、1人で事足りる。アキラは今回、外での作業に回ってもらうことになっていた。

 ちょうど、『サラセニア』で『油翡翠』の浄化を行った実験の時のように。


 その実験と、やることもまさに同じなのだが。


 大型車両も楽に出入りできる出入り口から外に出て、事前に指定されていた場所に向かう。

 かなり広い、駐車場のような場所。そこには既に、クリスやアキラ、マリカも待っていた。


 そして、その3人以外にも……待っている者達がいた。


 一目見て、そのいずれも軍関係者ではない、部外者だろうとわかる。軍の制服や、指定の作業着を着ていないのもそうだし……年齢、性別、体格、その他色々とばらばらだ。まだ小学生くらいの子供もいれば、初老に差し掛かっているような年齢の者もいる。男性もいれば、女性もいる。


 共通点と言えば、服装ないし身なりが……決して身綺麗とは言えないようなものだということだろうか。率直に言って、薄汚れているというか、小汚いというか。

 少なくとも、きちんと毎日風呂に入るどころか、体をふいているかどうかも怪しいといった様子だ。服は何日も洗わずに着まわしているだろう。匂いも、若干気になるものがあった。


 一応これでも、彼ら、彼女らは身なりに気を使い、持っている服の中でも比較的マシなものを選んで着てきていた。体も、髪も、流石に入浴などという贅沢なことはできなかったが、布で拭いてできる限り汚れを落としてあった。匂いばかりはどうにもならなかった。


 自分達の『雇い主』であるクリスに、少しでも不快な思いをさせないために。


 そして、彼らが持ってきたものが、その背後に積み上げられている。

 これもクリスが手配して貸し出した作業用車両――といっても、動くだけで戦闘能力は皆無、AWの第1世代以下の性能しかない――によってここまで運ばれてきた、大量の鉄屑である。


 ここに来るまでに、既にハルキ達には説明がなされているのだが、クリスは軍人として働く傍ら、様々な事業に副業として手を出している。


 その1つに、リサイクル可能な廃材を集めて換金するというものがある。


 『ヴォーダトロン』の中でも、市街地から遠い路地裏などには、半ばスラムと化している区域がある。

 そこには、日々色々なものが捨てられる。ゴミや廃棄物の類はもちろん、時には人すら捨てられる。養えなくなった子供や、望まれなかった赤ん坊など。働けなくなった老人などが、自分で自分を捨てに来ることすらあった。生きている、元気な家族の負担にならないようにと。

 そういった者達は、スラムで逞しく、あるいは生きぎたなく生き延びていく者もいれば……ついていけずに、ひっそりと命を落とす者もいる。


 そのスラムに捨てられるものの中には、金属ごみなどの廃材もある。

 単なる中古の機械やAWであれば、下取りと言う選択肢があるが、単純に壊れて動かなくなった機械類などは、売ることなど出来ない。


 専門の業者に依頼して解体し、金になる部分は換金する……ということができればいいが、状態が悪くてそうもいかない場合も多い。解体や処分のための手数料で、かえって赤字になってしまうようなこともよくある。

 そういう場合、捨てる時にまで金がかかってはたまらないと、持ち主はスラムに……誰に迷惑がかかるわけでもない、社会の日陰になっている場所に、それらを棄てていくのだ……スラムに住んでいる者達に対しての迷惑は特に考える必要はないらしい。


 もっとも、そうして捨てられた廃材の中から、使えるもの、売れるものを探し出して金に換えるなどして、たくましく生きているスラム民もいるため、一概に迷惑、というわけでもないのかもしれないが。


 クリスが行っているのは、そういう連中に声をかけて廃材を集めさせるビジネスだ。


 クリスには、金属の加工やリサイクルを行う業者の伝手がいくつかある。それらの業者から、『最近ちょっとこういうのが足りなくてほしいんですよ』などの、今の『需要』を定期的に聞いている。


 それを、スラムに暮らしている者達のうち、自分が『雇っている』者達に伝えて、条件に合致する廃材を集めさせる。


 ゆがんだネジや、さびた鉄パイプなどは、そのままでは買い取ってももらえない。ゆえに、金属ごみを換金するような者達にも放っておかれている。

 しかし、そのようなものでも、ニーズがきちんとある時に、一度にまとまった量を売ることができれば金になる。クリスが狙っているのはそれだった。


 比較的状態のいいものを集めさせ、それをまとまった量一度に買い取って転売することで利益を出し、働いた者達には賃金を支払う、という仕組みだ。

 買い取り元である業者に需要があるかないか、どんな廃材に需要があるかに左右されるため、決して安定した仕事とは言えないが、それでも小遣い稼ぎくらいにはなる。


 また、スラムに住む者達にとっても、クリスのこの仕事は貴重な収入源だった。

 そのままで金になるような廃材の運搬は、どうしても大きくて重い場合が多く、働き手は大人の男などに限られる。その点、小さくても数をこなして稼ぎを増やせるため、女子供や老人でも手伝えるという点も魅力的なのだ。

 もちろん、人数が多い分、賃金も高いとは言えないが、彼らからすればそれでもありがたい。力仕事に向かない家族でも、時間がある者総出でかかれば、それなりの額にはなるのだし。


 そして今日もその仕事なのだが、クリスから彼ら・彼女らへの指示は、いつもと違っていた。


 曰く、『質は悪くてもいいので、とにかく数を、量を持ってこい』。

 曰く、『場所は、いつも集積場所にしている工場ではなく、司令部の敷地内にある広場』。


 後者に関しては、もちろん一般人でも立ち入れる範囲内だ(それでも許可はもちろん要るが)。


 いつもと違うことに多少戸惑いはしたものの、売れるものが多くなるなら、もらえる賃金も多くなるかもしれない。貸し出された運搬用の車両で、何度もスラムとその場所を往復し、ピストン輸送。数日かけて集めた大量の廃材を、どうにかそこまで全て運んだ。


 その際、クリスはそれらの廃材を、品質ごとに分けた。材料そのものの質だけでなく、さびや破損の具合などで基準を定め、車両から降ろす際に別々な場所に分けて置かせたのである。

 これについても、理由はわからなかったが、スラムの民達は黙って従った。


 そしてそれらの作業も終わり、一息ついたところで……ちょうど、ハルキが『レックス』を動かしてやってきたのである。


 突如として目の前に現れた、噂に聞いた『秘密兵器』に……大人たちは驚き、その力強さに、頼もしさと同時に……本能的に畏れを抱いた。


 子供達は無邪気なもので、『カッコイイ!』『すげー!』とはしゃいでいた。

 駆け寄ろうとする何人かを、親と思しき大人が必死で止めていた。怖いし、それ以前に危ない。


 そんな彼らをよそに、クリスは『お、来たか』とレックスに向き直り、


「よし……そんじゃ次の仕事だ。このAW……『レックス』っつーんだが、お前ら、これに、持ってきた廃材を食わせろ」


「え!? く、食わせる……ですか?」


「ああ。見ての通り、恐竜……ないし、トカゲみたいな見た目してるだろ? これからこいつが、持ってきて小分けにしてある廃材の山を1つずつ食っていく」


 説明は、ハルキも事前に聞いていた通りのものだった。


 まず、最初は普通に、ハルキが『レックス』を操作して、廃材の山を1つずつ食らう。

 しかし、全部それだけで食べきるのは難しい。廃材の中には、小さかったり細かったりで、巨大な『レックス』の顎ではとらえられないものも多くあるからだ。

 それらを無理やり食べようとすると、周囲の地面ごとかじり取ることになる。


 なので、あらかた山を食べた後は、今度は『レックス』の頭を低い位置にまで下げ、口を開けた状態でそのままにする。

 そしてそこに、スラムの者達が手作業で、口の中に廃材の残りを放り込んでいくのだ。


 ちょうど、『サラセニア』でマリカがやったのと同じことをするわけだ。『油翡翠』の小さな欠片を、口の中にぽい、と放り込んで、そのまま食べさせたように。


 説明を聞いた彼らは、少しまだ怖そうにしつつも……そこはきちんと、これは怪物のような見た目をしているが、れっきとしたAWだということがわかっている。

 やや腰が引けつつも、『レックス』の準備が整うのを……山を粗方食べて、口を開いて伏せるのを待って、言う通りに作業を始めた。


 1つの山が終わると、しばらくしてからまた別な山、という風に、繰り返しで『捕食変換』の作業を行っていく。

 それを、見学しているマリカやアキラは黙ってみていた。なお、2人は時々、重そうな廃材を運ぶ時に手伝ったりしている。


 作業の様子を見ながら、ふと気になったように、マリカが話し始めた。


「ねえクリス? これってさ……単なるあんたの副業じゃなくて、軍の仕事でもあるのよね?」


「ああ。当然だ。じゃなきゃ『レックス』の使用許可が下りるはずがないだろ」


 それは当然だった。

 現在、『レックス』の扱いは、司令部の所有物だ。私的な用件で持ちだして使うなど、できるはずもない。クリスはきちんと『許可を取った』と言っていた。それが本当であるのなら、これはれっきとした、軍人……ないし、軍として関わる『仕事』であるはずだ。


「そうよね……もしかしなくてもコレ、『捕食変換』の機能の調査とか?」


「察しがいいな、その通りだ」


「……! あ、それで状態とか素材別に細かく分けさせたんすね」


 マリがか察し、そしてアキラが気づいた通り、この作業は、クリスの副業と、『レックス』の捕食変換機能の調査を兼ねている。


 錆や汚れなど、条件の異なるいくつかの廃材を用意し、それを『捕食変換』で分解・再構築。鉄やその他の素材のインゴットにする。

 その際、材料とした廃材の状態や重量ごとに、どの程度の時間やエネルギーを要するかを調べるというものだ。


 クリスはただ何もせずに『レックス』に廃材を食べさせているわけではなく、食べさせたその廃材の量や汚れの程度、種類などを事細かに1つ1つ記録していた。

 重量や詳細な成分、使用したエネルギー量などについては、『レックス』が分解する段階で解析できるため、コクピットにいるハルキが記録し、後で報告することになっている。


 それらの作業を、廃材をまとめた山1つ1つごとに行い、データを集めていく。集めたデータは、今後の『レックス』の効率的な運用のための資料として役立てることとなる。


 そして、その過程でできた素材インゴットについては、いくらかを資料として司令部に提出した後は、クリスのルートで売却する。

 『捕食変換』でインゴット化した素材は、極めて純度が高く高品質だ。価値も高い。


 そもそも普段と違って、『金属ゴミを素材として売る』のではなく、『金属の素材を売る』という形にできる。品質の高さに加え、リサイクルにかかる手数料などを棒引きにされることもないのだ。信頼できるルートを通して売れば、かなりいい値段がつくとクリスは見ていた。


「実験としてやってるから、そこんとこはノーコスト。一方で売値は跳ね上がる……いい商売だ。『レックス』様々だよ」


「うわぁ……あくどい顔」


「でも、上手いこと考えられてるっすよね……まあ、もともとそういうルートを持ってたクリスだからこそ、っていうのもあるっすけど」


「……確かにね。なるほど……副業で稼ぐってのはこういうことなわけね」


 やや呆れつつも、感心したように言う2人。


 実際、事業としては上手く考えられていて、利益も決して小さくないものが出るだろう。こういうものの見方、考え方ができるところは、むしろ見習わなければならない。

 自分が『ヴォーダトロン』に来た大きな目的の1つを思い返しながら、マリカは引き続き、少しでも参考になる知識や経験を得るために、作業を見続けていた。


 それから1時間と少しかけて、『レックス』は全ての廃材の山を平らげ、インゴットに変えた。

 それまでのデータも全て記録済みである。どちらの意味での『仕事』も、無事に終了した。


 コクピットから出て降りてきたハルキが渡したデータも合わせて、クリスはぱらぱらと流し見してから、それを用意していたファイルに入れてまとめた。


「これでよし、と……あとは、作ったインゴットは司令部に納品する分を除いて、こっちで手配した業者に運ばせる。いつもの廃材売却とは勝手が違うんでな……お前らの仕事はここまでだ」


 そう言ってクリスは、懐から茶封筒を取り出し、『並べ』と一声かける。

 それを聞いて、作業に従事していたスラムの彼ら・彼女らは、素早くクリスの前に一列に並んだ。『疲れたー』と地面に座り込んだり、寝転んで脱力していた子供達も一緒に。


「よし、並んだな? えーと……全部で17人か。よし、じゃあ今日の給金を配る」


 言うと同時に封筒を開く。中には、ノール札の分厚い束が入っていた。

 クリスはそこから何枚かを取り出して、目の前にいる1人に給料として渡す。金を受け取った者は横にずれてその場から離れ、次の者が前に出てきて、同じように金を受け取る。

 渡す額は、大人と子供で違うようだが、男と女では違わないようだった。


 受け取った者達は、金をそのままポケットに突っ込んだり、手持ちの鞄やポシェット、ポーチバッグに入れたりしていた。


「……! いつもより多いですね……いいんですか?」


「ああ、今回はこっちとしても割のいいビジネスになりそうだからな。次もよろしく頼む。見通しが立ちづらいから……また急に声かけちまうかもしれねえが」


「はい、いつでも呼んでください。皆、クリスさんの仕事なら喜んで働くって言ってますから! ……ホントに感謝してます。いつも……俺達みたいなのに仕事を回してもらって」


 金を受け取ってすぐにそこから去って行く他の者達と違い、最後に1人残った青年が、クリスと親し気に話していた。


「必要以上に気負うんじゃねえよ。俺はただ、お前らがすぐに動けて安く使えて、あまり自分じゃ出入りしたくないスラムから廃材を持ってこれるから利用してるだけなんだからな」


「それでも、真っ当な仕事がもらえるってだけで俺達には御の字です。スラムの住人なんて……表の通りに仕事なんてないに等しいですから」


 その青年は、スラムの住人達のまとめ役のような立場であり、クリスからの連絡に応じて働き手を探し、声をかけるのが仕事だった。無論、自らも労働力として参加もするが。

 まだ若くて力もあるのだが、かつて土木系の職場で働いていた際、作業中の事故で足を怪我して思うように動けなくなり、また長く職場から離れることになったため解雇され、仕事も何もかも失ってスラムに流れ着いたという過去を持っていた。


 それでも他の者よりは動けるし知識もあるため、こういった場面で役に立つとして、クリスの仕事でのまとめ役を担っているのだ。


 力仕事ができるような男であれば、比較的仕事を得やすい。……条件は必ずしもいいわけではなく、安い賃金で危険な仕事を任される場合も多々あるが。


 力仕事もできないような女子供には、そもそも仕事などない。

 女であれば道端に立って娼婦として日銭を稼いだり、子供なら多少同情的に見る人が増える分、物乞いに向いているかもしれない、という程度の扱いである。

 あるいはそれも無理なら、盗みなどをやってでも生きるしかない……それが現実だ。そして、無法の道に足を踏み入れてしまえば……そこでしくじれば、待っているのは破滅である。


 だからこそ、比喩も誇張も抜きに、クリスが回すこういった仕事は、彼らの生命線になっており……仕事をくれて、給金を出してくれるクリスに対しては、青年のみならず、雇われる立場の者達は皆、深く感謝していたし、仕事を通じて少しでも力になりたいと、いつも真面目に、全力で仕事をこなしているのだった。


「それじゃあな、気を付けて帰れよ」


「はい、お疲れ様でした!」


 クリスはそこで、話を切り上げて司令部に戻って行く。


 感謝を表すように、深く頭を下げてクリスを見送ったその青年は、ふと、先程までクリス達の仕事の様子を見ていたり、途中で多少手伝っていたマリカとアキラに気づいた。

 なお、ハルキは『レックス』を格納庫に戻すため、既に機体共々この場にいない。


 来ているのが軍服と作業着であることや、給金を受け取っていなかったことから、自分達と同じような立場ではないとすぐに察したようで、


「お2人は、クリスさんの同僚の方とかですか?」


「うん? ああ、はいまあ、そうっすね」


「そうですか……もし、お2人も何か仕事で人手が必要だとかいうことがあったら、いつでも声かけてください。クリスさん経由でなら、すぐ自分に連絡が取れるようになってますんで……まあ、紹介料取られるかもしれませんけどね」


 ははは、と笑いながら売り込みをかけてくる青年。マリカ達は、逞しいものだ、と感心してそれを聞いていた。

 マリカとしては実際、自分も今後、何かしら事業に手を出すかもしれない関係上、割とその言葉をきちんと本気で覚えておくつもりであり、その後追加で青年の名前や、任せられる仕事について聞いて確認していた。


(なるほど……やっぱり仕事は、どんな形であれ、需要があるところに供給するって形が基本であり、効果的なわけね。それも、買う側だけじゃなくて、働く側にも……もう既に『サラセニア』でのものの考え方じゃちょっとついていくの厳しいところの話になってる気がするな……。これ以上を効率的に学ぶなら、一回きちんと『市場』ってものを見ておくのが必要かしら。なら……)





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