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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第2章 空を舞う、鋼の翼
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第43話 路地裏の孤児院



 そろそろ日も傾いてきたくらいの時間。


 マリカの案内で、『サラセニア』の町を歩いて回ったハルキ達だったが、その後の、案内するマリカ自身も楽しみにしていた『酒の飲める飲食店』への案内を前に、一旦解散していた。


「1回宿舎に戻って荷物置いてきましょ。このままお店に持ってっても邪魔になるだけだし」


 というものだった。


 ショッピングでは、各々好きなように買ったものを手に歩いていたのだが、確かにそれぞれで量に差はあれど、買ったものはそのまま自分の荷物になっている。確かにこのまま食事の店に行くのは、少し困るかもしれない。


 メリルなど、両手に大きな荷物袋を提げて持っており、それらの中身はほとんどが食料である。

 彼女が、ご飯を食べるのはもちろん、作って食べさせるのも大好きだと言うのは、第7部隊の中どころか、まだ付き合いの短いマリカにとっても周知のことだったりする。

 こうなることは、ある意味予想通りではあった。


 今まで話していた通り、ここ『サラセニア』ではそれほど物資に余裕もないため、あまり1人で大量の食糧を買い込んで食べたりするのは、本来なら褒められたことではない。


 しかしハルキ達は、むしろその状況を打開すべく食料を運んできた側である。

 既に耳聡い商人たちの間には、他の大きなフォートから物資が大量に届けられたという話が出回っており、近く起こるであろう経済の活性化にどう乗るか、各々が思案する段階になっている。


 加えて、メリルが選んだのは、痛んでこそいないし十分食べられるものの、『新鮮』とまでは言えないようなものがほとんどだった。

 もう少し経てば、傷んでしまって捨てるか、その前に捨て値同然で売るしかない。それを思えば、正規の値段で買ってくれるというメリルの申し出は、店からすればむしろありがたかったのだ。


 もっとも、世知辛い話、食べられるというだけでこの時代では価値のあるものであるし、場所が変われば多少痛んでいたとしても手を伸ばす者はいるのだろうが……それについては言及しても仕方のないことなので、誰も何も言うことはない。


「うん、じゃあ一回部屋に戻って荷物置いてこようか。あーでも、ここ部屋に冷蔵庫なかったよね……共有スペースの冷蔵庫使っていい? 流石に今の時期に野菜とか外に置いとくの不安だし」


「いいけど……間違って食べられないように、袋に名前とか書いて入れといたほうがいいかもよ」


「あーそれなら多分大丈夫。今日の夜……は、マリカちゃんの案内で外食か。明日の朝とかに料理して保存できるようにするし」


 即席の燻製とか漬物にすれば常温保存できる、とさらりと言うメリル。

 それも見越して、それに適した食材を選んだり、調味料を買い込んでいるあたり……家庭的、とでもいえばいいのか、そういう方面の能力がそれなり以上に高いことがわかる。


 作ったら皆におすそ分けするね、と言えば、耳にしたほぼ全員が、その時を想像して楽しみに待つことを決めた。


「ついでに『ヴォーダトロンから来た関係者の持ち物です。盗って食べたら国際問題に発展します』とかなんとか書いとけばもっと予防になるんじゃね?」


「しょーもない理由で変な火種を撒かせようとするなよ、ハルキ……」


 こちらは呆れた様子でツッコミを入れるロイド。それに苦笑しつつマリカは、


「とりあえずじゃあ……えーっと、よし、いったん解散して部屋に荷物置くとかして、6時に宿舎の玄関に集合、でいい?」


「6時? ……随分時間あるっすね? もちょっと早くでもよくないっすか?」


 自分……は、つけていないので、横に立っているハルキの腕を持ちあげて、そこについている腕時計を確認しながら言うアキラ。

 ハルキの視線には『自分の買えよ』という感情が乗っているし、実際機会があるごとにそう言っていたりもするのがあ、特に必要だと思っていないアキラは気にしていないし買うつもりもなかったりする。


 彼女の中では……というよりも、このご時世では、腕時計も十分高級品である。

 かつての時代、品質の悪いものであれば雑貨屋で数百円で買えたものであっても、今の時代は、確実に売れる需要が広くあるならともかく、安かろう悪かろうの粗悪品を大量に作るような余裕はないため、実用に足る相応の品質のものが、相応かそれ以上の高値で売られているのみだ。


 あとは、アクセサリーとして価値を見出す者もまあいるが、そこに当てはまることがなく、基本ハルキといつも一緒にいるアキラは、時間が知りたくなったら、施設とかにある時計を見るかハルキに聞けばいいと思っているため、買おうと思わないのである。


「荷物置くのなんて時間かからないし、帰り時間含めても30分あればおつりがくるっすよ」


「うん、まあそうだけど……ちょっと色々やることとかあってさ」


 なぜか少々歯切れの悪い言い方をするマリカだったが、『まあそっちの方が都合がいいなら』と、アキラを含む『第7部隊』の面々はその申し出を承諾し、言った通りに6時に集合とした。

 それまでは、着替えたり、荷物の整理をしたり、軽食を食べたり、各々のやり方で時間をつぶすことにしたわけだが……その外食の、そして『6時集合』の言い出しっぺであるマリカはというと、


「……うん、40分あれば十分間に合うかな」


 なぜか、買い物から戻った時よりも大きな荷物を抱えて、宿舎から走って出ていき……


「……? 何してんだあいつ?」


 その様子を、暇だから散歩でもするか、と思って外に出てきていたハルキが見つけていた。



 ☆☆☆



 『サラセニア』の司令部から、大人の足で15分ほどのところに、その孤児院はあった。

 

 大きさはかなり大きいし、庭付きで敷地も広い。ただ、かなり建物自体が年季の入ったものだ。掃除自体は行き届いている様だが、壁にはシミやひび割れなどがあちこちにあり、キレイ、とは少々言い難い状態である。


 もっとも、このご時世、そんな建物は珍しくないのだが。

 しっかりした壁と屋根があって、雨風をしのいで眠ることができるならば、一般市民にとってはそれで十分に暮らせる家だ。……そんな家すら持てない者も、大勢いるのだから。


 そんな家に住んで寝起きし、粗末ではあるが食事も1日2回、食べることができる。自分1人では生きていける力のない、か弱い子供たちにとっては、間違いなく恵まれた環境と言える。


 その孤児院の入り口で、マリカは小さな子供たちに囲まれて、もみくちゃにされていた。


「マリカおねーちゃん、お帰りー!」


「久しぶりー!」


「お土産はー?」


「遊んでー!」


「ちょっとくさーい」


「はいはい、ちょっと落ち着けおちびたちー。遊ぶのはちょっと無理だけど、ちゃんとお土産持ってきてるからねー。あと最後言ったの誰だコラ」


 少し困った風にしながらも、どこか嬉しそうな、そして懐かしそうな様子で、マリカは自分を囲む弟妹達に声をかけたり、頭をなでてあやすようにしたりしていた。

 ただし、最後にいらんことを言った者に対してはちょっとだけ視線に怒気が乗っていたが。


 かけよって抱きついてきた子供達には、確かにマリカは少し汗臭く感じてしまったのかもしれないが、それも仕方ないことである。

 『ヴォーダトロン』から『サラセニア』まで、陸路で数日間の遠征。その道中は、濡れタオルで体を拭くくらいしかできなかったのだから。


 女の子としては気になる部分でもあるので、できれば触れてほしくなかったのだが、子供というのは時に残酷である。


 この後食事に行くわけだが、早めに帰ってシャワーを浴びるべきだろうか、とマリカが思ったところで、孤児院の入り口から、こちらに駆け足で寄ってくる者が見えた。


 マリカよりも少し年上、20歳を少し過ぎたあたりの見た目の女性だ。

 質素だが清潔な衣服に身を包み、その上にエプロンをつけている。料理でもしていたのだろうか。


「マリカ! 久しぶりね……お帰りなさい」


「あーただいま、マリア姉さん……って、私もうここに暮らしてるわけじゃないけどね。つい言っちゃったけど」


「ふふっ、そうね。でも別にいいじゃない。あなたが私達の家族なのは変わりないんだもの……小さい子供達の中には、未だにあなたが出ていってしまったのを寂しがってる子もいるし」


「それもしょうがないでしょ……私もう19だよ、ここにいられる年齢じゃないってば」


 子供達の態度や言葉、今のやり取りからもわかる通り……マリカと、今出てきた女性――マリアは、元はこの孤児院で育った孤児である。OG、とでも言うべきか。

 小さい子供たちにとっては、自分達の面倒を見てくれた姉のような存在……いや、姉そのものである。そしてそれは、今も変わらないのだというのは、この光景を見れば容易に理解できた。


 マリカが手に抱えていた土産を子供たちに渡し、『みんなで仲良く食べなさい』と声をかけると、子供達は大喜びで、マリカにお礼を言って、それを持って孤児院の中に走って戻っていく。大半の子供達がそれに続いた。

 苦笑しながら、それを見送るマリカとマリア。


「おーおー、キレイにいなくなったわね……我が弟妹ながら現金だわ」


「……仕方ないわ。最近は食べ物も値上がりしてるから、少し食事も減っていてね……物足りなそうな子も結構いるみたいで」


「あー……やっぱりそうか。……マリア姉さん、私もっと仕送り増やそうか?」


「それは悪いわよ、あなたが稼いだお金なんだから……やりくりで何とかなる範囲だから、心配しないで。ところで……」


「?」


「そちらの方は……あなたのお友達?」


「へ? そちらのって……え゛!?」


 そう、マリアに指摘されて振り返ったマリカは……


「あー、ども」


 孤児院の敷地のすぐ外、門のところで、少し気まずそうにしているハルキを見つけて、わかりやすく仰天するのだった。




 それから数分後。

 庭のベンチに、マリア、マリカ、そしてハルキの3人が、並んで腰かけて、遊んでいる子供達を見守っていた。


 真ん中に座っているマリカは、むすっとした面白くなさそうな顔をして、ジト目でハルキの方を見ながら言う。


「事情は分かったけどさ……それなら一声かけてくれればいいじゃん」


「悪い悪い。あっちこっち転がるもんだから、拾ってたらいつの間にかここ着いてて」


「すいません、この子のおっちょこちょいでご迷惑を……お仕事でいらしているのに」


「あーいえ、お気になさらず。自由時間ですんで今は」


 ハルキがここにいる理由は、聞いてしまえば単純な話だった。

 宿舎前で、大荷物を運んでいるマリカを見かけたハルキは、その時は特に『何か用事でもあるのか』程度にしか考えていなかったし、その後についていくつもりもなかった。


 しかし、駆け足でその場を後にするマリカの、手に持っている大きな袋……その底の部分に小さな穴が開いていて、そこからぽとりとリンゴが零れ落ちてしまったのを見た。


 慌ててハルキはそこに駆け寄り、それを拾って渡そうとするが、呼び止める前にマリカは大通りから小さな小道に入ってしまう。しかもその際、また1つリンゴがこぼれた。


 そこからハルキは、孤児院へ通じる裏路地の狭い道(近道)を走るマリカを見失わないように走り続けた。

 途中で声をかければよかったのだが、タイミング悪くこぼれるリンゴを拾っていたために、中々距離が縮まらず、かといって、裏路地とはいえ町中で大声を出して何だなんだと騒がれるのも嫌だったため、そのまま追いかけ続けて……気が付けばここに到着していたのだ。


 そこに至るまでに拾い集めた、合計6個のリンゴを渡しながら、ハルキが説明したのはそんな内容だった。


 なお、その際にハルキの自己紹介も済んでいる。

 軍服を着ているから軍人だろうとはマリアも思っていたようだが、『ヴォーダトロン』から使節団の護衛として来ていると聞いた時は、流石に驚いた様子で……加えて、飛行機が墜落したマリカを助けたのも彼だと聞いて、深々と頭を下げて感謝していた。


 ちなみに、落としたリンゴは少し傷ついてしまっていたが、これくらいなら気にならない、とマリアが笑顔で受け取った。見た目が気になるなら、後でジャムにでもするそうだ。マリカが持ってきた『お土産』の中には、砂糖もあったからと。


「にしても……お砂糖なんて高かったんじゃない、マリカ? しかも、あんなに大きな袋で……」


「それが全っ然! 調味料の中でも安い方だったくらいなの! すごいよホント、びっくりしちゃった……やっぱ大きなフォートは違うなって思ったわ」


「そうなの? すごいのね、『ヴォーダトロン』って……」


 ここ『サラセニア』では、調味料は……『連作障害』関係の事情で生産されている一部のものを除けば、やはり高価な部類に入る。文句なく『高級品』あるいは『ぜいたく品』の扱いだ。

 当然、砂糖もそれに入る。普段料理などに用いられるのは、安く手に入る方の調味料だけだ。


「それに、ここの環境じゃ、野菜も果物も育つものは限られてるし、他のフォートから輸入したものは高いから……孤児院にいるような子供達には、めったにお目にかかれないご馳走だもんね。それこそ……誰かの誕生日とかに、ちょっと奮発する時くらいかな」


「ええ……だからこそ皆喜んでいたわ。ありがとう、マリカ……いつも悪いわね、苦労をかけて」


「こら、姉さん、それは言わない約束でしょ」


 庭で元気に遊ぶ子供達を見ながら、少しだけ沈んだ声で言うマリア。

 それを横から、こちらも少しだけ呆れたような声音で諭すマリカ。


 何か貧しい家の親子の会話みたいだな、と、横で聞いていたハルキはふと思った。


 その後、マリアが『そろそろ食事の支度をしないと』と、一声かけてその場から立ち去ると、ベンチにはハルキとマリカの2人が残される。

 腕時計を見れば、集合時間も近づいてきている。自分達もぼちぼち移動すべきか、とハルキが思ったところで、隣のマリカが、少し言いづらそうに口を開いた。


「あのさ……さっきはああ言ったけど……ありがとね」


「うん? 何が?」


「リンゴ、拾ってくれて。さっき言ったけど、皆大好きだから」


「あー、いいっていいってそんくらい。せっかく美味そうなもん選んで土産に買ったんだしな」


 子供達も喜んでたし、とハルキが笑って言うと、マリカも苦笑しながら……また、いつの間にかさっきとは違う遊びを始めている子供達を見る。


 ハルキも同様にその様子を見ていたが、そんな目の前で、1人の子供が使っていたけん玉の紐がぷちん、と切れて玉が落ちてしまった。

 それを見て、子供達は『あっ』と少し驚いたようにしたものの、すぐにその子は、壊れたけん玉を持って、孤児院の中に入っていく。

 少しして、その子がまた出て来た。手には、きちんと紐がつながっているけん玉がある。


(新しいの……じゃないな。紐だけさっきと変わってる。修理したのか……してもらったのか)


 そう考えながらよく見てみると、ハルキは、彼ら、彼女らの使っている遊び道具が、建物と同様に随分と年期が入っていることに気づく。


「おもちゃが壊れたら、壊しちゃった子がきちんと自分で、あるいは職員に相談して直すの」


 ハルキが考えていることを何となく察したらしいマリカが、横から説明する形で言ってきた。


「この孤児院の規則か何かか?」


「そ。新しいおもちゃを買うお金なんてないからね……毎月、少ない収入をかなりギリギリな感じでやりくりしてるからさ。しかも、最近は物価も高くなってきてるし」


 物資不足の影響はあちこちに現れているようだ。

 子供を何人も養わなければいけないわけだから、食費をはじめ、そこにかかる経費による負担は決して軽くはないのだろう。


 それもあって、マリカはたびたびこの孤児院に、仕送りという名の寄付や、お土産を持って訪れていたりするのである。かつてここでお世話になっていた、という縁で。


「収入……孤児院の収入って、何だ? 寄付とかか?」


「それもあるけど……メインは大きく分けて2つね。司令部からの援助金と、子供達の内職」


 簡単に、この孤児院の経営、というよりも、運営や存在の仕組みについて説明するマリカ。


 この孤児院は、公的な施設であり、司令部――すなわち、行政から、運営に必要な資金が提供されている。『サラセニア』にいる身寄りのない子供を引き取って、路頭に迷うことがないようにするのを目的に設立された施設だ。


 暮らしている子供は乳飲み子から15歳まで。それまでは、最低限の衣食住を保証され、社会勉強のために多少の労働――簡単な内職や、自給自足を兼ねた農作業など――を行い、勉強も教えてもらいながら成長していく。

 そして15歳になると、自分で職を見つけるか、あるいは司令部から職を斡旋してもらって就職し、院を出る。もちろん、職や引き取り手の里親が見つかれば、それより早くここを出てもいい。


 マリカも4年前、そうしてこの孤児院を出て、軍に入隊した。

 それより前に卒業したマリアは、この孤児院で職員として働く道を選んだ。


「じゃあこの孤児院、司令部が運営してたのか……珍しいな、そういうの」


「? 『ヴォーダトロン』には、そういうのってないの? 孤児院とか」


 そう、マリカが尋ねると……ハルキはほんの少し、眉間にしわを寄せた。


「……なくはない、と思う。けど、誰彼構わず受け入れてるわけじゃないし、慈善事業としてやってるわけでもなかったはずだな」


「?」


「軍人の親が死んで残された子供とか、そういう、きちんと理由とか立場がある孤児を受け入れる施設として整備されているようなのはある。けど、ただ単に親を失って1人になった子供を受け入れるような孤児院は……多分、ない」


「……そう、なんだ。ちょっと意外かも……あれだけ豊かな町なんだから、そういうのもきちんとあるのかな、って思ってた」


「『ヴォーダトロン』は……良くも悪くも、独立独歩、弱肉強食を信条としてる町だからな……自分の能力に見合った生活を自分で勝ち取るのが原則。ついてこれない奴は、置いていかれる。……弱者を見捨てないで、こうしてきちんと保護してるってのは、俺もむしろ驚いたよ」


 今日、町を案内してもらった時に、ハルキ達が……口には出さなかったものの、同じように驚いていることが、いくつかあった。

 その1つが、町の治安が極めてよく、また、裏路地などにうずくまっている浮浪者や浮浪児などが、全くと言っていいほどいないことだった。


 ヴォーダトロンには、スラム街……とは言わないまでも、そういった弱者の立場の者達が普通に存在している。仕事がなく、金がなく、今日食べるものにも困って物乞いをすることしかできない者達だ。

 しかし彼らは、憐れまれつつも手を差し伸べられることはなく、放置されている。


 彼らの多くはそのまま何もできずに細々と生きていく。日雇いの仕事をどうにか見つけて、その日暮らしでなんとか生きている。

 時に、現状に耐えかねて犯罪に走ることもある。そうなれば警察に終われる身となり、捕まれば罰を受ける。


 幸せが欲しければ自分で勝ち取れ……それが、『ヴォーダトロン』におけるルールだ。


 ハルキも、アキラも、そのことをよく知っていた。だからこそ、『置いて行かれない』ために、1日1日を必死で生きて来たのだ。時に、クリーチャーが出没するような、危険な区域に行きながらも、日々の生活の糧となるジャンクや素材を探して、狩ってきた。


 それを考えると、自分では何もできないであろう、弱者の立場の者達にもきちんと手を差し伸べ、行政から援助を出してでもきちんと育て上げる、この『サラセニア』のやり方は……ハルキからすればそれこそ驚きだったし、優しい制度だ、と思った。


 それを伝えると、マリカは、


「このフォートは……中小だからこそ、誰かを切り捨てることができないのよね」


「……っていうと?」


「マンパワーとか、人的資源、って言えばいいのかな……それがこれ以上減ってしまうと、フォート自体を存続させるのが難しくなっちゃうの。切り捨てる余裕が逆にないのよ」


「だから、貴重な人材を一人も損なうことがないように、きちんと金を出して育ててる、と」


「将来、フォートのために働いてくれることを期待して、ね」


 食料や資源の不足は、フォート全体に『余裕がない』という雰囲気を蔓延させている。

 それが原因で、余計な出費を抑えるために、各家庭では子供を作る数が減り……『サラセニア』の人口は、徐々に減少傾向にあるのだ。


 このままだと、今はよくても、数年後、十数年後に、フォートとしての機能がどんどん失われていき、運営自体立ちいかなくなる可能性が大きい。それゆえに、今ある人材をこれ以上すり減らさないために、こうして公的に保護・援助を行っているのだ。


 フォートが変われば、当然方針も変わる。そのことを、今の世の厳しさと共に、会話の中で2人は、実感を伴って理解した。


「……湿っぽくなっちゃったね。そろそろ行こうか、急がないと、集合時間遅れちゃうし」


「そうだな。あんだけ楽しみにしてた酒の店だもんな」


「あはは、そういうこと、あっちじゃ規則の関係で飲めなかったからねー……せっかくだし、ハルキ達も飲みなよ。ハルキは成人してるし、勤務時間外ならOKでしょ?」


「……そうだな……せっかくだし、ちょっと期待させてもらうか」


 そんな軽口を交わしながら、2人はベンチから立ち上がる。


 一度、建物の中の……職員室らしき部屋に顔を出し、マリアや他の職員たちに一声かけてから、子供達に『もう帰るのー?』『また来てねー』と惜しまれつつ、孤児院を後にする。

 そして、来た時と同様、駆け足で集合場所を目指すのだった。





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