表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災世のディザイアスター  作者: 和尚
第2章 空を舞う、鋼の翼
42/79

第42話 仕事と観光案内



 『サラセニア』に到着した一行は、ひとまず案内に従って荷物や機体を移動させていった。


 物資を運んできた武装トレーラーは、中身を詳しく確認した上で取引の交渉を進める必要があるため、行政部門の方に。


 『レックス』を含む、護衛部隊のAW各機や、その他の武装車両は、格納設備として用意されているガレージに。

 もちろん、機体には最低限の補給や、要請ないし同意の元で行われるものを除いては手を触れない、という確約の元で、とのことだった。


 そして、それらに乗っていた使節団や護衛部隊―――第7特務部隊の面々もまた、この滞在期間中に世話になる宿舎に案内され、それぞれ荷物を運びこむ。


 士官用、及び下士官用の宿舎だということだったが、ヴォーダトロンのそれに比べると、やや質素なイメージが強い建物だった。

 決して、みすぼらしいとかそういうわけではない。余計な煌びやかさのない、質実剛健な作り、と言えばいいのかもしれない。機能面で言えば、宿舎という建物に求められる機能はきちんと残らずついているし、掃除や手入れが行き届いていて清潔さも保たれている。


 ただやはり、『必要最小限』というような印象を覚えてしまうような内装ではあった。


 部屋に荷物を運んだ後は、各々自由に過ごしていい時間になる。


 と言っても、どこに何があるかもわからない場所であるため、暇になったからさあ出かけよう! などと外に出ていけるわけでもない。彼らが外部の人間である以上、立ち入り禁止の場所なども当然あるだろうし、そのあたりをきちんと把握していなければ、最悪トラブルの元になりかねない。自由時間とはいえ、自分達だけで行動するには、いささか不安があった。


 が、それならば……自分達『だけ』でなければいい、というだけの話である。


「よーっし、皆揃ったわね? それじゃ、私がこの基地の中……の、出歩いても問題ない場所とか案内するから、ついてきて。その後、希望者で町に繰り出しましょうか、時間もちょうどいいし」


「時間もちょうどいいって……もうすぐ夕方だけど?」


「だからいいのよ。仕事終わる時間になるから好きに出歩けるし、お酒扱う店も開くしね」


「ああ、そういやお前飲みたがってたもんな、ずっと」


 そんな軽口と共に、第7特務部隊の面々(ただし、別行動になっているファウーラを除く)は、マリカの案内で、『サラセニア』を案内してもらうために歩き出す。

 『ヴォーダトロン』の時とは逆で、自分が自分の町を、よーく知っている施設や店を案内できるとあって、マリカは意気揚々と先頭を歩いていくのだった。



 ☆☆☆


 

 『第7』の面々がマリカに施設を案内してもらっている間、使節団としてここにきている立場の者達……ファティマとヴィルジニア、そしてその部下達は、早速各々の仕事にとりかかっていた。


 まだ日も高く、時間もある。さらに、『サラセニア』側も、少しでも早くそういった方向の話を進めたいという方針のようだったからだ。

 仰々しい、ないし堅苦しいやり取りむしろは最小限に。挨拶などを至極簡単に済ませた後、場所を変えつつ、各々実務的なやり取りに移っていく。


 その態度からファティマは、ここに来る途中から組み立てていたいくつかの仮説のうち、あまり当たっていてほしくなかったある予想が現実味を帯びてきたのを感じていた。


 文字通り交渉のテーブルにつくと同時に、ファティマの目の前に座る、『サラセニア』側の担当者である男性が早速話を切り出した。


「此度の来訪、あらためて歓迎申し上げます、ファティマ代表殿。して、今後の取引等について、簡単なところから話を進めていきたいと思うのですが」


「よろしくお願いします。詳細は……そうですね、条件として提示していただいた『油田』の現地などを見せていただいたり、こちらで用意した物資に関する交渉や評価の結果を資料として、随時詰めていくことになるかと思われます。物資の方は情報が入り次第ということで……まずは、スケジュールの調整からということでよろしいでしょうか?」


「そうですな。こちらでいくつか案をすでに作ってありますので、確認の上ご意見をいただければと……」




 ファティマが順序だてて外交分野での交渉を1つずつ進めているのと時を同じくして、ヴィルジニアの方も、己の仕事を着々とこなしていっていた。


 こちらも、今のところは、場所は会議室(当然、ファティマ達が使っているのとは別)の机の上。用意した、あるいはされた書類にお互い目を通しながらの段階である。


「これは……なんとも……」


「お気に召していただけましたでしょうか? キヴァリー少尉から聞かせていただいた話をもとに、こちらのフォートにおいて需要があると思われるものを中心に揃えてみたのですが」


「い、いや、とんでもない! 率直に申し上げまして、期待以上です。いや、お恥ずかしい話……うまく言葉が出てこず……いや、お見苦しいところをお見せしております」


「あっはっは、いやいや、喜んでいただけたのなら何よりです。こちらも、大荷物を1000km以上も運んできたかいがありました。して、ひとまず今日は書類のチェックからにしますか? 双方の意見といいますか、需要と供給の突き合わせや、実際に品目を確認する際の手順などの打ち合わせも必要でしょうし」


「むぅ……そうですな、正直な話、今すぐにでも確認に行きたい気分ではありますが……これだけの量をお持ちいただいたのであれば、きちんと段取りをしてからにすべきでしょう。おい、兵站や流通、各部門の責任者を、今日17時までに集合させろ。今夜は徹夜になるぞ」


「はっ!」


 傍に控えていた部下の1人にそう指示を出すと、その部下は敬礼して駆け足で部屋を出て行った。

 言葉通りなら、彼らは今日は夜を徹して、各部門の担当者達との打ち合わせを行うのだろう。明日以降、少しでも早く『品物』の確認を、そして今後の取引にかかる交渉を前に進めるために。


 今回持ち込んだ物資も含めての扱いだが……これは単なる支援ではなく、れっきとした『取引』である。ゆえに、持ち込んだ物資を正式に『サラセニア』側に引き渡し、『サラセニア』側が任意のやり方でそれらを使えるようになるのは、それにかかる交渉がきちんと終了し、『取引』が成立してからになるのだ。


 ヴィルジニアとしても、せっかく苦労して運んできた物資であるし、速いところ有効利用してもらいたい思いはなくはない。マリカに話を聞いて、このフォートが決して余裕のある状況にないことも知っている。

 しかし、慈善だけで回る世の中でないのもまた、事実。買い求めようとすれば、数億ノールにもなるであろう大量の物資を、自分達にとっても『有効利用』するために、諸々の手続きは軽んじることはできないし、時には冷に徹して状況を見定める必要もある。


「あっはっは……いや、そちらさんのやる気があるのはいいことだと思いますが、ご無理はなさらないでくださいね? お体を壊してしまっては元も子もないですよ?」


「はっはっは! 何のなんの、これしきのことでへこたれるほど『サラセニア』は軟弱ではありませんとも! 遠路はるばる宝の山を持ってきていただいたのだ、それをいかに早く生かして使えるかどうか、それが我らの仕事にかかっているとなれば、こちらも根性を見せなければ!」


 砕けた風になり、双方かなりリラックスして話せる空気になった会議室で、ヴィルジニアはあっはっは、と軽い感じで笑いつつも、この場で聞いて確かめるべきことを1つ1つ、脳裏に浮かべて会議を進めていくつもりだった。

 もっとも、この場を任されるに至っている以上、それは相手も同じだろうが。



 ☆☆☆



 マリカの案内で、まず司令部の中を案内してもらった『第7』一同。


 彼ら彼女らはその次に、マリカに連れられて『サラセニア』の町に出てきていた。


 既に司令部に向かう道中、AWのコクピットから眺めて見ている街並みではあるが……そこから見ていたのでは気づけなかったことを、ハルキ達は既にいくつか目にしていた。


「なるほど……聞いた通り、ちゃんと店とかは営業してるんだな。屋内でだけど」


「そらそうよ、じゃなきゃ買い物とかできないもん。……ま、そうだとしても、品ぞろえとかそのへんは、やっぱり『ヴォーダトロン』には負けるけどね」


「まあ、立地が立地だもんなあ……でも、逆に『ヴォーダトロン』じゃあんまり見かけないようなものを売ってたりもしたよな」


「そうだね。山菜とかキノコとか、見たことないけど結構美味しそうだったから、つい買っちゃったし。後で料理するから、皆で食べよ?」


「よっしゃ! メリルの料理美味いから楽しみっス! あーでも、初見の食材でも大丈夫なんすか?」


「お店の人におすすめの料理とか、しない方がいい料理法とかも簡単に聞いといたから大丈夫だよ。料理に使えるように、調味料もいくつか買っておいたし」


「そういや、調味料で思い出したが……このフォートの店、一部の香辛料や漬物は妙に安く売ってたな? この辺で特産的に採れるようなやつなのか?」


 と、ふと思いだしたようにクリスが尋ねる。それを聞いて、ハルキ達他の面々も、先程まで巡っていた店で見たラインナップを思い出していた。


 物資自体が品薄になりつつあるせいもあるかもしれないが、食料品は全般、『ヴォーダトロン』で買うのに比べてやや割高になっていたし、先程マリカが言っていた通り、種類もあまりなかった。


 また、生鮮食品は少なく、燻製や漬物などに加工して、保存がきくようになっているものがほとんどだった。


 しかし一方で、いくつかの香辛料や野菜の漬物などは……マイナーなものなのか、聞いたことのないものばかりだったが(それ自体は他の食材でも同じことだが)、他の食材に比べてかなり多く、そして安く売られていた気がしたのだ。


 この辺りで特に多く採れるがゆえに、安価で売られているのだろうか、とクリスは考えて尋ねたのだが、マリカは少し考えて、『あぁ、あれね』と思いだしたように言う。

 そして、メリルがそういえばそれも買っていたなと思い至って、買い物袋からそれ――葉物野菜の漬物のビン詰めと、ビン入りの香辛料――を取り出して皆に見せながら説明する。


「まあ、特産……って言っていいのかな? いや、そんな大層なもんじゃないんだけどさ。コレ、どちらも疲れた土地を休める時に作られてるものなのよ」


「土地を休める? てか、疲れるって……え、土地が?」


 よくわからない、といった顔でロイドがそう聞く。メリルやアキラも同じ顔になっていた。

 しかし一方で、クリスやセリア、ハルキやファウーラは、思い至る知識があったのか、理解したような表情になっていた。

 シドは……きちんと話を聞いてはいるようだが、表情が変わらないので、わからない。


「私も詳しいわけじゃないんだけど……同じ土地で同じ作物を作り続けると、土地が疲れて痩せて、作物が育たなくなるっていう話、聞いたことない?」


「一般的には、連作障害などという形で周知されている現象ですね。同じ種類の作物を作り続けることで、土壌の栄養分のバランスが崩れたり、有害物質の蓄積が原因で起こると言われています」


 と、セリアが補足を入れた。


「セリア、解説ありがと。で、そういう時は、一旦作物を作るのをやめて土地を休ませたり、肥料や薬品を使って土地を元気にしたりすればいいんだけど……うちはもともと食料とかあんまり余裕あるわけじゃないから、作物を作らずに土地を遊ばせておくっていうのが難しかったの。かといって、お金や物資にも余裕もないから、高価な肥料を使って土地を元気にすることもできない。で、3つ目の選択肢が、他の相性のいい作物を作る、っていうもの」


「それが、コレ?」


 メリルが、今マリカが持っているビン詰めを指さして聞くと、マリカはこくりと頷いて答える。


「土地が痩せて疲れていても育つ上に、疲れた土地を元気にしてくれる種類なの。加えて、育てるのが簡単だし収穫できるまで早いから、本来育ててる作物と交代であちこちで作られてて……それでたくさんあって安く買えるってわけ。ただ……味はまあ、そこそこなんだけどね」


「へえ……そんなのあるんだな、知らなかったよ」


「農業に携わる者でなければ、中々学ぶ機会のない知識ですから、無理もないかと。ですが一応、『ヴォーダトロン』でも行われている手法ですよ?」


「え、そうなの? 私、こんな種類の野菜とか香辛料、見たことないけど……」


「『ヴォーダトロン』では、単純に色々な作物を交代で作ってるはずだ。芋や豆を作った後に、トマトやニンジンを作ったりな。こういう特定の種類の作物を間に挟むやり方は多分、やってない」


「それに……先程マリカさんが言っていた、肥料を使って土地を状態を整えるやり方や、何も作らずに土地を休ませるというやり方も行われていますからね。農家によって違います。後はまあ……水耕栽培のプラントなどもありますから、知識として触れる機会は確かに少ないですね」


 不思議そうに言うメリルに、クリスとファウーラが付け加えて説明する。

 それを聞いていたマリカは、はぁ、とため息をついて、


「つくづく羨ましいわぁ……お金とか物資に余裕があるのもそうだけど、あの辺って土地も普通に元気なんだね。うちは土地がそもそも痩せてるみたいで、育つ作物自体が少ないの。だからクリスが言ったみたいに、色んな作物を作って回すやり方は、今はもう使えないんだってさ」


「『今は』ってことは……昔はやってたのか?」


「そうみたい。まあ、私が生まれて、孤児院で作ってる畑を手伝ってた頃には……もうダメだったと思うけどね」


 さらっと重めの過去を混ぜ込んで言うマリカだが、本人がこの出自を何ら気にしていないのは皆知っているため、特に誰も何も言うことはなかった。


 しかし、


「「「…………」」」


 それとは別な部分を耳にして、何かに気づいたような表情になった者なら、中にはいた。


 次はどこに行こうか、などと楽しげに話しながら歩いている面々は……ファウーラ、クリス、そしてシドの様子が、ほんの数瞬おかしかったことには気づかなかった。


(昔は、違った……か。『マッドワーム』のことといい、これはやはり……)


 そしてそのまま、3人ともが表情を元に戻したため、何事もなかったかのように、『サラセニア』案内は続けられていった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ