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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第1章 ディストピア2068
32/79

第32話 第7特務部隊



「第一射、弾着確認。しかし大半が迎撃されて撃墜されました。例の特殊機です。敵部隊への直接の損害はなし、前後の道については、崩落に伴う落石によって、軽度の遮断状態になりました」


「構わん。足さえ止められれば問題ない。作戦を続行する」


 ハルキ達から見て、土煙の向こう側。

 そこに展開している何機かのAW間で交わされている通信。


 淡々と無感情に、今、自分達が行った遠距離での攻撃……それによる第7特務部隊の状況を報告していた。


 言った通り、損害は皆無であるが、それもある程度は想定の範囲内であったらしい。指揮官と思しき男が、通信越しに、部下達に次の動きを指示する。


「各機へ通達。これより作戦をフェーズ2へ移行、敵部隊を殲滅し、標的の特殊機(レックス)を奪取する。爆破系火器については、道及び壁面の崩落の危険を考え、小規模までの使用を限定的に許可とする。他の機体については、可能ならば拿捕、難しければ破壊せよ」


「了解。……しかし、少しもったいないですね。あれら全部、『第4世代』以降ですよ。『第5世代』まで2機もついてやがる……金のあるところは羨ましいな」


「気を抜くな、それだけ実力のある部隊だということだ。……数で勝っているとはいえ、油断すれば死ぬぞ」


 そんな会話の通り、彼らが乗っている機体のほとんどは、『第3世代』のAWだ。

 戦闘能力はそれなりにあるが、人型の『戦闘モード』への変形機構を持たず、汎用性と戦闘能力の両面において『第4世代』に大きく劣る世代区分。


 しかしそれでも、武装を厳選し、状況に合ったそれを用意して挑めば、中型~大型の『クリーチャー』などが相手でも十分に戦える能力は持っている。


 それでも結局『数で勝負』な点があることは否めないが、今現在、一般的なフォートにおいて、軍用のそれも含めて最主力の機体として広まりつつあるだけの性能はあるのだ。そして彼らもまた、『選ばれて』それに乗っているのである。


 それに加えて、彼らにとっても虎の子の『第4世代』5機を投入し、総勢16機での布陣で臨んでいる作戦。万全の体制であると確信している彼らに、敗北のビジョンはなかった。


 指揮官が広域用のチャンネルで、敵部隊……第7部隊に対して投降を呼びかける。

 完全に包囲されている、遠距離攻撃の用意もある、抵抗は無意味だ。

 そんなお決まりの文句と共に発した、最初で最後の勧告はしかし、けんもほろろに断られた。


『何も言わずに突然撃ってくる追剥の言うことを聞く気はありません』


 同時に周囲に展開し始め、人型の『戦闘形態』に変形。明らかに抗戦の姿勢を見せる。


 盛大に皮肉った上に要求を突っぱねた彼らに対して、襲撃者達は不快感をあらわにする。ちっ、と舌打ちの音が通信に乗ってしまう者もいた。


 皮肉はもちろんだが、こんな言い草をするということは……彼らは、この数を相手にして勝てると思っている。少なくとも、この場面を切り抜けることはできると考えた上で、抗う姿勢を見せている。

 機体の性能に差はあるとはいえ、地の利を持ち、作戦を立て、数もそろえた自分達に対して。それを、なめられていると感じた者は少なくなかった。


「大規模フォートの傘の下でぬくぬく暮らしてる奴らが……舐めやがって」


 誰かがつぶやいた言葉。そこに込められている感情こそは、そこにいる全員に共通のものだった。

 そんな後ろ暗い感情は、部隊の全体に広まっていく。しかし、それに任せて動き出す者はいない。仮にも、『訓練された部隊』ということなのだろう。


 自分達がこの重要な任務に選抜されたという誇り、そして、自分達が背負っているものが確かに存在し、その行く末がこの任務にかかっているという自負もまた、間違いなく彼らの原動力の1つだった。そのやろうとしていることは、指摘通りの追剥、ないし強盗殺人だとしても。


「総員、攻撃開始!」


 感情をぶつける大義名分を得た彼襲撃者達の行動は速かった。

 『隊長』の合図と共に、その怒りを指先に込めて……彼らは、引き金を引いた。


 彼らのAWの装備は、この作戦に合わせて厳選されている。


 まずこの、狭くはないが広いとも言えない山道で敵部隊を待ち伏せ、奇襲する。

 その際、わざと前後の道の崖面を崩して落石で進路をふさぎ、行動できなくする。


 奇襲で勝負がつけばそれでよし。

 もし防がれてしまった場合、あるいは生き残りがいた場合は、フェーズ2。


 落石によってできた、通行困難なバリケード……というには粗末ではあるが、その向こう側から砲撃タイプを主軸とした、遠距離攻撃用の兵装によって攻撃を加える。相手に接近を許さず、距離を保ったまま、物量と火力で封殺するというものだ。


 当然相手も銃火器などを使って抵抗するだろうが、それらを防ぐため、5機いる第4世代は、それぞれ主力の装備以外に、堅牢な大盾を持ち込んでおり、敵の砲撃はこれで防ぐ想定だった。

 さらに、万が一接近を許してしまった時のために、接近戦用の装備も持ち込んでいる。


 警戒すべきは『特殊機』こと『レックス』の火力だが、この道では移動することはできても、あまり火力の大きすぎる武器は、崩落の危険を考えれば使うことはできない。接近戦だよりの戦闘になるならば、同じく遠距離で封殺してしまえばいい。


 そして恐らく敵部隊はこの後、前方か後方、どちらかに戦力を集中させて突破を狙いに来るはずだ。そうなれば、無視された形になるもう一方の部隊が、その背中に集中砲火を加えることで、むしろトドメをさせる。崩落で作り上げた戦場は、その全体が、両部隊の射程範囲内なのだから。

 もっともその攻撃も、この集中砲火で数を減らした後のことになるだろうが。


 しかし、襲撃者達のそんな予想は、開幕早々、二重の意味で覆されることになる。

 

 できることならこの一斉射で勝負を決めるつもりだった彼らだったが、その弾丸は1発も敵部隊の機体に当たることはなく、回避され、あるいは撃ち落とされてしまった。


 ほとんどはまたしても『レックス』の拡散レーザーによるものだったが、他のいくつかは、別な機体が乱射した機関銃によって撃ち落とされた。

 爆破系ではないこちらの銃撃は、その射線を読まれてかわされたのか、あるいはこちらの狙いが単に甘かったのか、1発も当たった様子はない。


 指揮官はちっ、と舌打ちして、しかし取り乱すことなく冷静に指示を出す。

 

 この攻撃を切り抜けられることまでは想定のうちだった。何も慌てることはない。

 むしろそれよりも、驚かされたのはもう1つの方の『想定外』だ。


(前方と後方、両側に散開しただと……?)


 どちらかに戦力を集中させるのではなく……7機いるうち、『特殊機』1機をその場に残し、残り6機は、前方と後方に3機ずつ分かれて立ち向かってくる。


 どちらかを突破してそこから脱出する、という、想定していた対応を考えれば……そのつもりであれば、この形はありえない。愚策でしかない。

 この状況で戦力を分散させるメリットなどない。加えて、仮にどちらかが包囲を突破して脱出できたとしても、残りの部隊は反対側で戦っているままである以上、取り残されることになる。


 恐らく、軍人であれば考えなくともわかるであろうこんなことが、相手の指揮官にはわからなかったとは思えない。想定するにしても、楽観的どこ炉の話ではない。


 ならばこれは、狙って出した指示・判断によるものだと見るべき。

 そうだとすれば、そこに見受けられる狙いは、意図は、1つだ。


(『突破』ではなく『制圧』するつもりだと……3機ずつ分散させて、俺達に勝てるつもりだということか……!)


 舐められている。

 先程、数で劣る点を無視して抗戦の意思を示された時よりも、はるかに強い不快感と怒りが、襲撃者達の胸の奥から湧き上がってきた。


 どこまでもこちらを下に見ている。この状況を障害だなどと思わないほどに。

 ならば教えてやろう。その傲慢と油断の代償は高くつくということを、身を持っているがいい。




 ……そんな彼らの怒りこそ『傲慢と油断』に他ならないのだということに、彼らは気づかない。

 任務にかける誇りと自負、そのために練り上げた『万全』の準備ゆえに、気付くことができない。

 そして、自分で気付けない彼らはこの後、身をもって知らされることになるのだ。




 ―――ドガァン!!


 突如、そんな音が、襲撃者達の車列の一角で響く、

 何事かと、そのパイロット達は音がした方を見た。


 そして、唖然とする。

 そこには、友軍の1機が内側から無残に爆発し、機体からを火を噴いていた。


「っ!? 何だ、何が起きた!?」


「わ、わかりません……いきなり、エンジン付近から爆発して、そのまま……つ、通信も繋がりません。恐らく、乗員はもう……」


 強化ガラスのコクピットの窓はひび割れ、中には黒煙と炎が充満している。恐らく、エンジンの爆発で内側から吹き飛んだのだろう。パイロットが無事かどうかなど、確認せずともわかる。


 そしてそのAW……の、残骸を見ていた指揮官は、ふとそのエンジン付近に、吹き飛んでできたものだとは考えづらい、丸く小さな穴が開いているのに気づいた。


(……銃創……? まさか……)



「1機、撃墜。こちら側、残り7機です」


 特に感情の1つも乗っていない声で、セリアは自らの戦果を淡々と報告する。

 搭乗している『ドルデオン』は、スナイパータイプの銃を構えている姿勢のままだ。今しがた放った一射で、エンジンと燃料タンクを正確に、まとめて打ち抜いて仕留めてみせた。


「ナイス、セリアちゃ……シャドー4! 私も行くよ!」


 そしてそれを称賛しつつも、特に驚いたような様子を見せないメリル。

 セリアのこの精密射撃は見事ではあるが、メリルや、その横を走るファウーラにとっては、褒めはしても、どうやらわざわざ驚くほどのものでもないらしい。


 悪路をものともせず、岩を避けて突っ込んでくるメリルに対し、襲撃者達のAWは銃撃を加えるが、撃つ瞬間に、それがわかっているかのようにさっと射線から外れられ、攻撃が当たらない。

 再び狙いをつけ直しても、2度、3度と同じことが繰り返され、無駄玉が背後の地面を弾けさせるばかり。


「くそっ、何で当たらねえ!?」


「動きが速い……いくら世代が違うからって、ここまで差が出るもんなのかよ……!? 普通、あんな速さで動いたら、バランスを崩してもおかしk……」


 ――ガゥン、ドガァン!!


「なっ……また!?」


 再び、そのメリルの機体の背後から、援護射撃の形で放たれたセリアの狙撃。

 先程の焼き直しのように、また1機、エンジンを撃ち抜かれて爆散した。


 メリルは右に、左に動き、さらに加速と減速を繰り返して狙いを定めさせない。それに業を煮やしたその機体は、もっと撃ちやすい位置に移動して攻撃すべく、機体を動かしていた。


 その瞬間、後ろで狙っていたセリアにとっても撃ちやすい位置に出てしまったことに、気付く暇もなく、最初に吹き飛んだAWとそのパイロットと、同じ末路をたどった。


 狙いをつける速さ、その正確さに、その隣で共に撃っていた別な機体のパイロットは戦慄する……暇もない。


 高速で迫るメリルと、遠距離の狙撃で狙ってくるセリア。

 その2人に気を取られて、もう1機からほんのわずか、注意をそらしてしまった瞬間……その、ファウーラの乗る『ブラムスター』が放った機銃の掃射が、コクピットとエンジンを撃ち抜いた。


「これで3機……」


「っ……くそがっ! これ以上はやらせるか!」


 そこでようやく、銃撃対策の大盾を持った機体……襲撃者側の『第4世代』が前に出てくる。セリアの狙撃とファウーラの銃撃、両方から味方を守るために。


 しかしそこに、斜め前方から迫るメリルの機体。

 その機体は他の2機と違って銃を構えておらず、その手には……手斧を持っていた。


 接近戦で来ることが丸わかりではあるが、あの程度のサイズなら馬力自体は大したことはない。

 それも同じように大盾で受けて防ごうと考え、盾を前に突き出し……しかしその瞬間、僅かに開いてしまった隙間に、針の穴を通すような狙撃が三度決まる。


 足先に狙撃を受けてぐらりとバランスを崩してしまったその一瞬の隙を見逃さず、メリルは手に持った斧を横に素早く振るう。あえて引っ掛けるようにして盾に充てることで、ガギィン、と大きく横にずらさせ、前面をがら空きにした。

 そして、切り返す一撃を袈裟懸けに叩き込み、その機体を両断した。

 

「こんな、ばかな……!?」


 何が何だかわからないうちに攻め込まれ、鉄壁だったはずの盾の守りが全く通じず、

 今目の前で起こったことを受け入れられないまま、パイロットごとAWは炎に包まれる。


 目の前では、今自分の機体を両断したばかりのメリルの機体が、もう用はないとばかりに背を向けて去って行く。しかし最早自分の機体には、それを後ろからでも撃つだけの力もない。

 何もできず、その背中を見送るしかないパイロットは、次の瞬間には黒煙と炎の中に消えた。




 一方、反対側。ロイド、クリス、そしてシドが向かった先の戦線。

 こちらでも、既に2機の第3世代AWがスクラップになっていた。その機体の各所に、いくつもの風穴を開けて。


 ―――ガガガガガガガガ!!


「うっ……うわあぁぁああ!?」


 そして、また1機。クリスのガトリング型装備から放たれた銃弾でハチの巣にされ、爆散。


「これで3機目。楽な相手でいいな」


「そういこと言うんじゃないって、クリス。おっと……あのへんだな」


 別な機体が、破壊された味方の機体を盾にするように移動して、その向こうから撃ち込もうとするが……それよりも早く、狙いを読んだロイドがグレネードランチャーを放っていた。


 放物線を描いて飛び……その狙い通りに、今まさに射撃を開始しようとしていた機体の真上に飛来、直撃……炸裂……炎上。

 『盾』を飛び越えて飛んできたグレネードの一撃で、また1つ、鉄くずが増えた。


 その横で、盾を構えてどうにか自分に向けられるガトリングを防いでいた第4世代機(他を守る余裕は最早ない)に、その盾を死角に高速で迫る機体が1つ。


「おい、来てるぞ!?」


「来てるって……ひぃ!?」


 盾の陰からようやく見えたのは、自分の乗るドルデオンよりも重装甲な機体……第5世代AW『ブラムスター』。

 第7特務部隊副隊長にして同隊エース、シドの乗機である。


 腰に装備していた、サーベル、というよりも、青龍刀、あるいは鉈と言った方がよさそうな肉厚の刃を抜き放ち、その切っ先をこちらに向けてくる光景。


 とっさに盾を構えてその刃を受け止めようとするが、縦の下辺を地面につけて固定しようとした瞬間、その隙間に刃が滑り込み……刃自体のわずかな湾曲を利用して、てこの原理でこじ開けようとしてくる。


 盾が斜めに動いて自分の前側が徐々に開いていくのに恐怖したパイロットは、慌てて盾を一旦地面に押し付けるのをやめ、構えなおそうとして……しかしその瞬間、横合いから盾を殴りつけられて、かえって大きく前が空いてしまう。

 そして直後、素早く手を切り返したシドは、サーベルを横一文字に振り抜き、すれ違いざまにその機体を上下に両断した。


 そのドルデオンが爆発する前に、腰に装備していた剣型の武器を抜き去って奪うと、その爆発を見届けずに方向転換し、また別なドルデオンに向かっていくシド。


 今奪ったばかりの剣を、狙いを定めてその機体……コクピットめがけて投げつける。

 それを見て、パイロットは慌てて大盾を動かし、その剣を弾くが……しのいだことにほっとするよりも先に、そのコクピット含め、全身がハチの巣になった。


 もともと盾を向けて守っていた前面をがら空きにしてしまったことで、これ幸いとそこに素早く回り込んだクリスのガトリングが火を噴いたのだ。


 そのわずかな間に、シドは、背後に回り込んで撃とうとしていた第3世代機の攻撃をかわし、振り向きざまに豪快に足を振り上げ、後ろ回し蹴りをコクピットに叩き込んで粉砕していた。


 その勢いのまま反転すると、別なドルデオンが、ベコベコにひしゃげた盾を棄てている所だった。どうやら、ロイドの重砲とグレネードを正面からまともに何発も受け止めてしまった結果、あっさりと寿命を迎えてしまったようだ。各部の結合が剥がれて隙間ができたり、部品が飛んでいる。


「思ったより脆いな……使われてる金属が悪いのか、加工やら溶接が甘いのか……どっちにしろ、せいぜい防げてマシンガン程度の性能みたいだな、デカい割に」

 

 そしてのドルデオンは、ロイドとクリスの射線からどうにかして逃れようと思ったのか、慌てたように反転して走り出し……しかし走り出した先にシドが立ちふさがった。

 というか、周囲をよく見ていなくて、シドがいる方に走り出した、という方が正しい。


「……おいおい、状況判断が下の下だな」


「ああ……うちのフォートの軍なら訓練生にもいねーぞ、あんな奴。死ぬわありゃ」


 クリスとロイドが呆れて見る先で、こちらも内心呆れつつ……シドは手にした剣を大上段に振りかぶる。


 自分から突っ込んできたドルデオンは大慌てで自分も剣を抜いて、それを横に構えて受け止めようとし……間一髪それは間に合って、ガギン、と耳障りな音と共に、振り下ろされたシドの剣をどうにか止めた。


 ……が、助かったとはお世辞にも言えない。


 武器の性能の差か、ドルデオンの剣はその半ばまで破損し、シドのブラムスターの剣が食い込んでしまっている上、徐々に押し込まれていっている。


 第4世代と第5世代。

 接近戦が得意ではない『ドルデオン』と、馬力と装甲ゆえに接近戦も得意な『ブラムスター』。


 これ以上なくわかりやすく、マシンの性能差がそこに現れていた。全力で防ごうとしてもそれは叶わず、構える剣が徐々に下がってきて、シドの刃は首元に迫る。少しずつ、しかし明確に死が近づいてくる光景を前にした襲撃者の恐怖はいかほどか。


 しかし、打てる手も最早なく。刃が食い込んでいるために受け流すこともできず、剣を棄てて後ろに飛び退ろうとしても、いつの間にかブラムスターが機体の片足を踏みつけていて動けず。

 最早まな板の上の鯉、あるいは、断頭台に首を据えられた死刑囚か。


 何1つできないまま、あっけなく、シドは力押しでドルデオンの必死の抵抗を退け、ついに耐久限界を迎えたその剣ごと、縦に真っ二つに割った。


 そしてその背後では、ドルデオンと鍔迫り合いになっているシドを、隙アリと見て後ろから狙い撃とうとしていた第3世代機が……クリスとロイドによってあっさりと爆散させられていた。


 それを横目で確認したシドは……周りの状況を確認し、部隊用のチャンネルを開いて言った。


「こちらシャドー1、こちら側の敵機、全機撃墜完了。そちら側への応援は必要か」


「こちらシャドーリーダー、不要です。こちらももう終わります」




 こちらもこちらであっさりと返したファウーラ。

 その眼前で、素早く2回振るわれたメリルの手斧で、ドルデオンの1機が両足を壊されて地面に転がるところだった。転倒の際にどこかぶつけたのか、コクピットから『ぐえっ』と声が聞こえた。


「っ……バカな……っ!? 第3世代はともかく、『ドルデオン』は同じ性能のはずだ……なぜ、なぜここまで一方的に!?」


「へへーんだ、そんなの乗ってる人の差に決まってるでしょー? おじさん達、ただ動いて撃つ練習しかしてないみたいに、動きがワンパターンなんだもん。『ドルデオン』が人型になって動ける強みを理解してない。そんなんで当たるわけないし、私達の動きについてこれるはずもないじゃん」


「カタログスペック上の動きを引き出しただけでマスターした気になっている……初心者にありがちな慢心ですね。オマケに状況判断や周囲の警戒も甘い。作戦通りに、練習した通り動けば、それで勝てると思っている証拠です。……錬度自体も足りているとは言えませんが」


「っ……俺達が初心者だと!? このっ……温室育ちのガキどもが!」


 メリルとセリアの、口調はいつも通りだがなかなかに内容は辛らつな酷評に、コクピットの中で襲撃者は逆上するも、機体はもはや動かず、できることはもうない。

 他の機体のように爆散まではしておらず、命があるだけマシなのかもしれないが。


「そもそもさあ……ガキ共はちょっと酷いんじゃないの? 確かに私もセリアちゃんも19歳で成人前だけどさあ……これでも……あ、もしかして知らない? 私達のこと。襲うんなら事前に、相手がどういう部隊か下調べくらいして、覚悟してきてるもんだと思ってたよ」


「無理もないでしょう。別に隠してもいませんが、公にしているわけでもありませんから」


「そっか、じゃあおじさん達、知らないで来たんだね。私達、第7特務部隊が―――




 ―――隊員全員、エース級パイロットだって」




 第7特務部隊。

 フォート『ヴォーダトロン』の軍において、『参謀室』『戦闘部門』『後方支援部門』のいずれにも属さず、総司令直下の部隊として異なる指揮系統の元に編成されている『特務部隊』の1隊であり、同部門最強と言われている部隊。総司令アルフレッドの切り札のような存在の1つ。


 基本的には『戦闘部門』の一員と活動しているが、いざという時は、単なる戦闘部隊にはこなせない高難易度の任務や、いくつもの分野・要素が複合的に絡み合っているような複雑かつ、現場で迅速に判断・対応する必要がある任務にも赴くことになる。

 そういった場面において、100%完璧に任務を遂行するため、隊長であるファウーラが直々に声をかけて集めた精鋭集団。


 メンバーの中には、過去に色々と事情を抱えている者や、一癖も二癖もあって普通の部隊にはなじめず、力を十分に発揮できない、窮屈に感じていたような者も何人かいる。


 というより、ほとんどそういう『色々訳ありだが実力は確か』な面子を集めて結成されたのがこのチームだった。……最近ここに加わった2人を含めて。


 腕は確かだし頭も悪くないのだが、軍規に対する理解や自覚がやや低く、全体的に『軽い』態度で周囲に接するために、厳格な部隊や上官にはなじめず孤立していた、メリル。


 メリルとは真逆で常に規律を遵守し、しかしそれが過ぎる融通が利かず、能力も知識もあるのに扱いづらいとして、頭でっかちの腫物扱いされていた、セリア。


 フランクで人当たりはいいが、理想を追いかけすぎるきらいがあり、部外者とも距離が近くなりすぎるため、それが逆に足枷となって力を発揮できないことも多かった、ロイド。


 要領はいいし最低限規律も守りはするが、効率と自己の利益を追求しすぎるあまり、その他に対する配慮のなさから、空気を読まない守銭奴として疎まれ嫉妬されてていた、クリス。


 そして、軍人としての意識と自覚の高さゆえ、また所属する部隊の全員に常にそれを求め、自覚が足りない者を認めようとしない価値観ゆえに煙たがられていた、シド。


 なまじ能力もあり、それだけ見ればもっと上の地位を目指せるのに、と期待されつつも、それぞれの事情が原因で評価には至らず、かえって力を発揮できずにいた彼ら彼女らを、ファウーラは引き抜いてまとめ上げ、1つの部隊として機能するまでにした。


 価値観や考え方、性格は、その頃から大きく変わったわけではない。ただそれでも、形は違えど任務、ないし軍務に対しては真摯に向き合い……有体に言って『やる気がある』メンバーの集まりではあったのだ、元から。


 辛抱づよく交流を持たせ、共に任務に臨む中で理解を深めさせ、時に衝突すらさせながらも、最終的にはお互いを理解し合い、自分と違う所も、それぞれの『個性』として認めあった。


 第7部隊はこうして、それぞれ持つ癖はそのままながら、自分や他人の何を押し殺すこともなく、力を発揮することができる場として完成を見た。

 隊長であるファウーラ自身を含め、エース級5名……そしてシドという『エースオブエース』級1名を有する、総司令・アルフレッドの切り札たる部隊として


 セリアの言う通り、決して声高に喧伝されているわけではないし、普段の部隊の様子を見ているとそうは見えないことから、あまり知られていないのだが。


 それでも、調べればどうにかわかる程度の情報を手にしないままに、浅はかな想定と作戦立案で彼ら彼女らの前に立ってしまった襲撃者達がこうなっているのは、言ってみれば必然だった。


 愕然とし、言葉を失っている男。それを、もう機体は動けないから脅威ではないと判断し、残る他の機体の相手をしようとメリル達が動こうとし、


 しかしその眼前で、横から大回りして2機の第3世代機が通り抜けていった。


(ダメだ、勝てねえ! こうなったら直接、あの『特殊機』を狙うしか……!)


 その2機は、中央に陣取ったまま動かない『レックス』を直接攻撃し、あわよくば奪い取れれば、それを使ってこの状況を打開できると考えて動いたようだった。


 トレーラーに乗っている状態の『レックス』は、いわば待機状態である。大火力の攻撃が来ないのなら、一か八か何とかなるかも、という……しかしこれも、希望的どころではない、甘い予想……どころか、願望であった。


「……バカ?」


「……としか言えませんね」



 ―――ヒュン、ゴガシャァアァン!!


 

 まさに、瞬殺。

 近づいて銃を向け、『動くな! 動けば撃つ!』『大人しく投降して降りてこい!』とのたまった第3世代機のうちの1機に……荷台に乗ったまま、レックスが振り回した尻尾が直撃。その一撃で原型をとどめないほどに酷い有様になったその機体は、崖面に激突して爆発・炎上した。


 まるで、うるさい虫を払うかのようにあっけなく叩き潰された片割れの末路を目にして、残る1機は言葉もなく、また動くことができない。


 その眼前で、機体をトレーラーに乗せたまま、ゆっくりと上半身だけを起こすレックス。

 それでも上から見下ろされる形になっている第3世代機。パイロットは、頭上でその顎が開かれ、ずらりと並んだ牙がぎらりと光る光景に、今更ながら、勝てるはずがないと後悔した。

 ……本当に、今更だが。


 次の瞬間には、走り出す間もなく、第3世代機はレックスに食らいつかれて、プレス機に挟まれたようにあっさりと圧壊。牙が窓も装甲も貫いて、口にくわえたままで機体は爆発した。

 それでもなお、レックスには傷一つついた様子はなく……スクラップになった機体を、乱暴にぶん、と投げ飛ばして捨てた。




「……ここまで、手も足も出んのか……ッ……!」


 そして、最後に残った1機。

 奇しくもそれは、『指揮官機』……最初に部下たちに指示を飛ばし、その時はまだ、この作戦の成功を信じて疑っていなかった、司令塔の乗るドルデオンだった。


 それも今、四肢の駆動部をファウーラの機銃で撃ち抜かれ、動けなくなったところに、ピンポイントで剣による一撃を、動力部と駆動部の間の連結部分に食らい……爆発・炎上しないままに機体を動かなくされ、その場で沈黙した。


 そしてファウーラは、コクピット部分に剣を突きつけて、最後通牒を出す。


「一度しか言いません。武装を解除し、大人しく投降を。どこのフォートの所属かはわかりかねますが、今ならば捕虜として最低限名誉ある扱いを約束します」


「……気づいていたのか」


「単なる野盗にしては装備が整いすぎていますし、型落ちとはいえ正規ロットの『ドルデオン』をこの数、この状態で用意できるとは考えにくい。加えて、動きも統率されており、相応に訓練を積んだ者のそれだとわかりました。……絶対値的な錬度や自覚が足りていませんでしたが」


「手厳しいな……あんたらを相手にするには、俺達ではそもそも不足だったわけか」


 動かなくなったドルデオンのコクピットで、指揮官は諦めたようにため息をつく。

 そして、素直にハッチを開けて外に出た。指示通り、武装は捨てて、両手を上げて……投降の意思を、明確にした。





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