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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第1章 ディストピア2068
23/79

第23話 昼休みのラジオから



 『次のニュースです。先日正式にヴォーダトロン総司令部より発表のあった、新型特殊戦闘・作業兼用AW『レックス』について、周辺各フォート及び民間各社からの情報開示の要請がなされていましたが、ヴォーダトロン総司令部は本日、いずれも棄却するとの回答を発表しました。当該機体には多数の機密情報にあたる機能が搭載されていることから、情報の――』


 ある日の午後。

 昼休憩を利用してフードコートで昼食をとっていたアキラ、メリル、セリアの3人は、ラジオから聞こえて来たそんな言葉に、ぴくっと反応し、食事の手を止めて耳を傾けた。


 彼女達以外にも、何人かは同じようにしてラジオニュースに注意を向けている様だ。


 聞いているとやはり、ここ最近、各所で話題になっている、ヴォーダトロンの新戦力であり、特徴的過ぎる見た目と強力極まりない戦闘能力で話題になっている『レックス』についての情報をまとめた内容である。

 といっても、今アナウンサーが言っていたように、ヴォーダトロンの総司令部は『レックス』に関する情報開示をほとんど行っていないため、そのことに対する各所の反応や、有識者の見解・推測などがメインになっている構成のようだった。


「最近あっちこっちで話題にされてるよね、アキラ達の『レックス』。ラジオとか広報誌とか、1日に何回も見たり聞いたりするよ」


「無理もないかと。大々的に見せたわけではありませんが、あれほどの能力を持つ機体であれば、遅かれ早かれこうなるのは目に見えていましたし。こういう世の中ですから、少しでも強力な戦力がフォートそのものの力に、ひいてはその管轄下の安全につながる以上、興味関心は高いでしょう」


 メリルとセリアはそう言って、ちらり、とアキラの方を見る。


 件のその『レックス』の搭乗者の片割れである彼女は、ラジオの音声が聞こえてくるスピーカーをしばらくじっと見ていたが、少しして、はぁ、と疲れたように息をついてから、手を動かして食事に戻った。


「まあ、気持ちというか言ってることはわかるっすけど……色々好きなように言ってくれて……」


 どうやらため息の原因は、今まさにラジオから流れて聞こえて来たニュースの内容、ひいては世間の『レックス』に対する反応そのものだったらしい。


 ラジオから聞こえて来た言葉は、決して好ましいものばかりではなかった。


 もちろん、ポジティブにとれる、素直に喜べるような内容もないわけではない。

 『レックス』の持つ様々な能力……単純な戦闘能力はもちろん、『捕食変換』の機能による『インゴット』の生産、その他さまざまな機能が、ここ数日の調査で続々と明らかになっている。


 その大半は、未だ検証途中であったり、公表するには刺激が大きすぎるとみなされて明らかになっていないが、それでも、今の時点で公にされている部分だけでも、『レックス』によってヴォーダトロンが今後どんどん豊かになり、力をつけていくであろうことは明らかだ。


 しかし一方で、その存在について、あるいはそれを擁するヴォーダトロンの対応について、批判的な意見も少なからずある。


 いつの間にこんな機体を作り上げたのか、どのような技術で、どんな機能を持たせたAWなのかなど、当然ながら軍外部……他のフォートや事業者からは問い合わせが殺到している。

 それらの技術を自分のところのAWその他に応用できれば、同様の飛躍が望めるとなれば、当然の反応と言えるだろう。


 しかしそれらは、先程ラジオでも述べていたように、『機密事項』として明らかにはされない……というよりも、偶々手に入ったものをそのまま使っている状態であるため、わかっていない。

 オーパーツ扱いしているヴォーダトロンの方が、むしろそれを知りたがっているのが現状だ。


 そういったヴォーダトロン総司令部の返答に対し、それらの情報・技術を諦めきれない者達は、『革新的な技術を秘匿・独占せずに、より多くの人類の豊かな暮らしのために公開すべきだ』と繰り返して公表を要求している。


 裏から探ろうとする動きもあるようだが、そのあたりもアルフレッドが指示してきちんと対処している。もっとも、いくら探ろうと何も出て来ようがないのだが、こそこそと嗅ぎ回られてそのままでいいというわけでもないため、しっかりと備えはしてあった。

 他の情報を守る意味も込めて、そういった密偵の類はシャットアウトされている。


 また、『レックス』という機体の、AWとしてのあり方を否定的に見ている者も少なくない。


 もともとAWは、作業用の重機に戦闘能力を持たせた車両を源流としており、あくまで人類の生存、及び生存圏の開拓・維持のための手段である、そうあるべきだという考えは各所で根強い。

 ゆえにこそ、最新鋭機である第4世代や第5世代……『ドルデオン』や『ブラムスター』といった機体であっても、車両形態で重機としても活動できるようになっている。


 実際、戦闘だけの一芸特化では、このご時世、肝心な時に手が足りず、そこにある資源を逃してしまう、などということも往々にして起こるし、そもそも動く車両は1台たりともガレージの置物にしておくことはできない時代だ。

 戦いがなければ作業用重機として、戦いとなれば機動兵器として、時と場面に合わせて活躍させられてこそAWである、というのが長らく通っている考え方だ。


 その観点から見ると、戦闘における性能は高くとも、『重機』としての側面がない……どころか、車両ですらない外見をしている『レックス』に違和感を覚えるのも無理のないことであろう。


 その恐竜のような外見は、作業に用いるという点を度外視しているどころか……率直な話、単に見た目のカッコよさを重視した道楽設計のように受け取られている。

 『こんな形で作るよりも、もっと効率的に働けるデザインがあっただろう』『折角の技術と性能の無駄遣いじゃないか』……そういった意見も、少なくない数が届いている。


 実際には様々な、それこそ作業用重機と比べても、そん色ないどころか圧倒的にフォートに貢献できる多彩な機能を搭載しているとはいえ、その大半は公開されていない機能である。であれば、そういった評価になってしまうのも仕方ない。


「まーぶっちゃけ、私らも『何でこんな形で作ったんだ』とは思うんすけどねー……コレ作ったどっかの誰かは、何を考えてこんな、機械仕掛けの動物モドキにしたのやら。もっと普通にショベルカーとかにしてくれてたらよかったのに」


「そのあたりは、『レックス』がいつ、どこで、誰に、どうやって作られたか……何もわかっていない以上、考えても仕方がないでしょう。操縦席でデータ、ないし知識を取り出そうとしても、そういった情報は取り出せなかったのでしたね?」


「うん。なんか、一部の情報はロックがかかってるみたいで、くれって言っても『今はダメ』みたいな感じで拒否されるみたいなんすよ。まあ、拒否されるってことは、情報自体はあるってことだと思うんすけど……」


「むー……ハイテクなのに親切じゃない……」


「ハイテクというより、オーバーテクノロジーとすら言うべきものだと思われますが……かつて、今よりもはるかに世界が物質的に豊かだったという、西暦2000年代前半の時代でも、あのような機体を作り出すのは不可能でしょうし」


「セリアちゃんそういうの詳しいよね。やっぱ士官学校出てる人は物知りだなー」


「当時あったという技術の中には、資源の枯渇と共に永遠に失われてしまったものも多く、それによって分野によっては、今の時代は当時よりも技術レベルが後退しているようです。私も資料や学校の教材でしかか知りませんが、今よりもはるかに物であふれた時代だったそうです」


「あー、私も別に詳しいわけじゃないっすけど……モノによってはAWより性能よくて、でもめっちゃ高価な戦闘用の車両とかがあったってのは聞いたことあるっすね。『戦車』とか言ったっけか」


「当時のテクノロジーを駆使して極限まで戦闘に特化した性能を持たせた戦闘用の車両ですね。銃弾、砲弾が飛び交う戦場でも活動可能な能力を持っていた一方、戦闘以外の場面での汎用性はほぼ皆無で、コストも非常に高価だったと聞いています。当時先進国と呼ばれていた国で運用されていたものの中には、1台あたり、現在の価値で100億ノールを超えるものも存在したとか」


「「ひゃ……!?」」


 セリアのいつもの無表情でしれっと告げられた驚愕の数字に、唖然とするメリルとアキラ。

 言い間違い、あるいは冗談だと言って訂正する様子がないことから、本当にその数字で間違っていないのだと悟って、開いた口が塞がらない。


「お、おかしいんじゃないすか、昔の人の金銭感覚……100億もあったら、新型のAWでも、市販の奴なら100台くらい買えるっすよ……即金で」


「軍で使うような高スペックの奴でも、1台たしか5億とかだよね? 私達が乗ってる奴。まあ、隊長やシドが乗ってる第5世代とかはもっと高いけど、でも100億って……えー……」


「当時はそれらを、砲弾含めて半ば消耗品として扱うような戦いが時には起こっていたそうです。それを考えると、低コストで汎用性の高い武装車両を開発可能になっている今の時代は、その意味では技術も進歩している、と言えるのかもしれません」


「確か、一般に流通してるようなAWって、『大連合』の研究機関が色々開発とか進めてるんだったよね? そう考えると、安くていい機体が作れるようになったのってすごいよねー……研究機関の人達、頑張ったんだなあ」


 メリルの言う『大連合』とは、この『災害世紀』において、各地に存在する主要なフォートが協力する形で結成している機関である。


 様々な自然災害や、凶悪な『クリーチャー』の発生といった、人類の存続を脅かす事態に対抗するため、協調と結束によってこの時代を乗り越えるために、2000年代中盤に発足。以降、各フォートの意見調整・集約などを行う、国際的な意思決定機関として機能している。


 世界規模で統一した内容の調整が必要になる事項……国際統一通貨であるノール札の発行や、新規に確認されたクリーチャーの情報共有などを行う、互助団体のようなものだ。


 一方で、利害関係の発生する事項等については、過度な干渉はしないという姿勢を取っている。


 フォートが独自に開発した技術や、そのフォートが有している資源、及びその採掘場所に関する情報などがそれにあたるが、それらはそのフォート固有の財産であるとして権利を認めており、どこか特定のフォートに肩入れしたり、逆に敵対したりすることはない。


 可能ならばそういった、人類全体に有益となるような情報・技術は、広く開かれたものとしてほしい、という呼びかけ程度は行うが、基本的に『大連合』として関わることはなく、あくまでそういった交渉は個々のフォート同士で行うものとされている。


 この荒廃した世界で、人類という種がこれからも生き残っていくため、最低限必要となるであろう国際協調を担うための組織。しかし、基本的には各国、各フォートの独立独歩として、その盛衰を見守る俯瞰的な立場に立つ組織。それが『大連合』である。


「その『大連合』の研究機関なら、『レックス』の解析もできるんすかね?」


「どうでしょうか……確かにそこであれば、普通のフォートよりも設備も整っているでしょうし、技術も高いレベルで保有しているでしょうが……それでもこの『ヴォーダトロン』との間に、そこまで隔絶したというほどの差はないはずです。ここも世界的に見れば、かなり発展しているフォートの1つですから」


「じゃあダメか……まあ、使うだけなら今でもできてるっすからね」


「少なくとも、総司令を含む上層部はその必要がないと判断したからこそ、『レックス』とそのパイロットであるアキラさん達をここに置いているのでしょう。それに『レックス』に関連する事項は、『大連合』の干渉対象外である『利害が絡む事項』に該当しますし……仮に解析をお願いすることができても、その後に色々と面倒なことになる可能性も危惧されますから」


「? 面倒、っていうと?」


「解析お願いして貸したまま、返ってこない、とか?」


「それも考えられますね。『大連合』の機関で解析を行った以上、そこで得られたデータの一部、あるいは全部は『大連合』の、及びそこに加盟しているフォート群の共有財産として扱われる可能性が高いですから。情報ソースである『レックス』そのものや、そのパイロットであるアキラさん達も含めて、『大連合』及び加盟フォートで管理すべき、という結論になる可能性も……」


「うわ、超めんどくさそう……嫌っすよそんなの。機体だけならともかく、私らまでセット?」


「総司令、そういうのも見越してアキラちゃん達守ってくれたのかもねー」


「マジっすか……これは感謝しなきゃっすね」


「まあ、そもそも解析可能かどうかもわからないわけですが……それに、レックスの解析が始まったという時点で、その情報のひと欠片でもどうにか手に入れようと、各フォートによる密偵派遣の応酬になることも考えられます。あれだけの力を持つ機体に搭載されているテクノロジーであれば、どれか1つの情報を持ち帰るだけでも一段上のステージに飛躍できるでしょうから。そのために色々と後ろ暗い、あるいは物騒なことが起こったりもするでしょうし……」


「……人類って、協力し合って生きてるんじゃなかったんすか? この時代……」


「きれいごとだけでは、世界は回らないそうです。何かの本で読みました」


「世知辛い話っすね……」


「みんな仲良くできればいいのにねー……っていうかさっきアキラちゃん『機体だけなら』とか言ってたけど、『レックス』持っていかれちゃうのはいいの? せっかく手に入れたのに」


「こーゆー面倒事が絶対発生するってわかってたっすからね……当初はハルキとも話して、持っててももうコレ面倒だから、誰かに引き取ってもらおうって思ってたんすよ。……結局セット扱いでココに来ることになったっすけど」


「「ああ……」」



 ☆☆☆



 丁度その頃、ところ変わって……第7部隊の事務室。

 昼休憩の時間ということで、同じラジオをつけて聞いていた面々のうちの1人であるハルキもまた、はぁ、とため息をついていた。


 事務仕事―――報告書の作成がキリのいいところで終わらず、昼食は少し遅めに取ろうと思って机についていたところ、誰かがスイッチを入れたラジオからニュースが聞こえて来た形だ。

 同じような理由で机に残っていたロイドやクリスもそれを聞いていた。


「こないだシドが言ってた『これから騒がしくなる』って……コレのことだったんかな?」


「……かもな」


「え、そんなこと言ってたの、あいつ?」


 頷くクリスに、その場にいなかったロイドが聞く。


 先に士官クラブで会った際、忠告するようにシドが言い残していったこと。あの時はよく意味が分からなかったが、成程確かに『騒がしく』なってきている。


 直接ハルキ達の元に何か、その関係の面倒事が押し寄せているわけではないが、件のAWの……『レックス』のパイロットであるという事実は、ハルキに十分、自分がこの騒ぎの当事者である、という意識を起こさせていた。


(まあ、気にしなきゃいいだけの話ではあるんだがな……こういうのから守ってくれるってのも、契約のうちだったわけだし。ただ……アキラの奴、意外とこういうの気にするタチだからな……参ってないといいんだが……)


 現状ではあるが、実害がないのであれば放っておけばいい、神経を太巻きに保っていればいいと切り替えるハルキだが、一方で妹のアキラのことを心配していた。


 普段明るく活発で、大雑把で細かいことを気にしない様子を見せている彼女ではあるが、その実繊細な一面を持っていることを、兄であるハルキは知っている。

 それを決して表に出そうとはしないが、その分心のうちに抱え込んでしまうことが多い、とも。


 ここ最近、寝ている間にまた布団に潜り込んでくる頻度が増えたのも、この『騒ぎ』と無関係ではないのだろう。

 いくつものフォートにまたがる話題・問題の中心に自分がいるというストレスは、それこそ本人も自覚していないところで影響を及ぼしているとハルキは見ていた。


(つっても、今の俺らに他にやれること、ないしとれる選択肢なんざ残ってないのも事実。今の立場でできることをやって、少しでも生活基盤やら何やらを盤石にしていくことを考えた方が建設的か……)


 などと考えていた時、事務室の扉が開いて、ファウーラが入ってきた。

 昼休憩だというのに、未だデスクに仕事を広げている3人を見て、おや、という顔になる。


「3人共、昼食がまだのようですが、いいのですか? もうそろそろ昼休みも半分終わりますよ?」


「あーすんません、キリのいいとこで終われなくて。この後急いで食ってきますんで」


「それならいいのですが……遅くならないうちに、きちんと摂ってくださいね? ……ああそうだ、ちょうどいいからあなた達には今伝えてしまいましょう」


 と、ファウーラは何かを思い出したように言うと、何の話かと自分に視線を向けるハルキ、ロイド、クリスに向けて言った。


「他のメンバーが戻ってきてから改めて詳細を連絡するつもりではいますが、第7部隊に新しく任務が入りました。フォート間の交易を行うための商隊の護衛任務です」


「商隊の……護衛?」


「ええ……出発は5日後、短期ではありますが、日をまたいでの遠征任務になります。ハルキさんとアキラさんにとっては初めての遠征ですね。どういった準備が必要かは……そうですね、ロイド、教えてあげてください」


「了解っす!」


 連絡は以上、とファウーラは自分の席について、自分も昼休みが終わるのを待たずして仕事に手を付け始める。


 ハルキは頭の中で任務の内容を反芻し、今回はどんな任務になるのやら、と想像しつつ……しかしちょうど『キリのいいところ』まで仕事が終わったので、部屋に残っている面々に一声かけて退室する。

 ひとまずは腹ごしらえだと思考を切り替え、早歩きで食堂に向かっていく。半分終わってしまった、昼休憩の残り時間を気にしながら。





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