第18話 不自然な痕跡
コールサイン・シャドー6……もといハルキは、周辺の警戒を残りのメンバーに任せて、調査班と、それを護衛する2人の仲間がいるところにかけていく。
特に迷いやすい地形というわけでもないため、すぐに見覚えのある軍服2人を含む、数人の人間が固まって何やら調べて話し合っているのが見えた。
そのうち、軍服を着ている2人が、現在のハルキの同僚である『特務部隊』の2名……セリアとクリスだ。2人がハルキの接近に気付くと、セリアは姿勢を正して出迎え、クリスは手元のバインダーに何やら書き込む作業を続けながら、
「……来たか。こっちだ、新入り」
「お疲れ様です、ジャウハリー少尉」
「ああ、はい。お疲れ様……で、現場っていうか、仕事は?」
「こちらです。調査班の方々が、所属不明機の残骸らしきものを発見しまして……解析のお手伝いをお願いします」
そう言われてハルキが、セリアが指さす先……調査員たちが囲むようにして見ている所を見ると、そこには確かに、何かの車両……恐らくはAWの類であろうそれの部品がいくつも転がっていた。
しかも、明らかに普通の壊れ方をしたものではない、とわかる状態で。
聞けば、調査班も同様の見解だそうだが、主に自然環境や『クリーチャー』の生態などに詳しいメンバーが揃えられているとのことで、こう言ったAW関係の知識はあまりなく、それゆえにハルキに応援を頼んだのだという。
(まあ、俺ってもともとそう言う役目で雇われてる側面強いし、いいけど……しかしこれは……)
「少尉、何かわかりますか?」
「……少し待ってくれ、考えをまとめる」
セリアにそう聞かれたハルキは、しばし考えをまとめるために黙考した。
なお、クリスはハルキへの説明をセリアに任せることにしたようで、引き続き自分は少し離れたところで、他の作業員達に指示を出したり、報告を受け取ったりする仕事を続けるようだ。
それはさておいて、観察と思考の後、何かわかったかと聞かれれれば、この残骸からでも……なんならその中の歯車1つから見ても、わかることはいくつもあった。
まず、このパーツ……が、組み込まれていたと思しきAWは、恐らくヴォーダトロンの……少なくとも、総司令部で使っているものや、広く流通しているものではない。
いくつかの部品の規格が、あの都市でメジャーに使われているものとは微妙に異なるし、その他のパーツとの相性もあまりよくないであろう規格だ。間に合わせで粗悪品を使っていただけという可能性もなくはないが……こんな、町から離れた危険な区域に来るのに、そんな不安な性能のものに乗ってくる者がいるだろうか。
次に、これが使われていたのは恐らく、単なる作業用のAWではなく、かなり大型で馬力も大きいタイプのそれだということ。少なくとも、第3世代機を大量輸送用にカスタムしたレベルの運搬性能を持っているだろう。
そして最後に、それらの痕跡は……可能な限り隠されようとしていた、ということか。
それらを考えたハルキは、セリアに『ちょっと失礼』と断って、無線機を手に取った。
「シャドー6よりシャドーリーダーへ。ちょっと確認したいことがあるんですが、いいですか?」
『シャドーリーダー了解。何でしょうか?』
「この現場、たしか……前回の『ナイトローラー』との戦いで、別任務でここに来ていた部隊がナイトローラーと遭遇したんですよね? その際の任務って何だったのかと……あと、その時の編成を詳しく教えてください」
『構いませんが……それは、今回の調査に関係あることなのですか?』
「一応、今ここにある手がかり?の解析に必要な情報だとは思います。任務の内容がまずければ……その時の編成、どんなAWで来ていたかでもいいです」
『……いえ、それも構いません。当時私達がここに来ていたのは、この地域でクリーチャーの生息分布に若干の異常が検出されていたため、その調査が目的でした』
ファウーラがハルキ達と初めて会ったあの日……彼女達の部隊は、別件でここに出向いて任務に当たっていたところ、不意の遭遇戦と言う形で『ナイトローラー』と遭遇したというのは、既に聞いて知っていたことだ。
だが、その時に具体的にはどんな任務に就いていたのかをハルキは聞いていなかったので、無線でそう尋ね、帰ってきた答えを聞いて……彼の中で、不可解さがむしろ悪化した。
ファウーラ曰く、その任務はあくまで、この地域に何か異常が起こったのかという、ごく簡単な調査であり、いわば今回、ないし今まさにやっているこの任務の簡易版のようなものだったらしい。多少のサンプルを採取するようなことはあっても、運搬用の車両が必要になるほどのことはない。
そもそも当時、ファウーラが連れて出ていた部隊は、ファウーラ自身の乗る『第5世代』を含め、全て比較的軽量級の機体である。各機に搭載されている作業用パーツも、汎用性の高いロボットアームと資材回収・保存用のケースだけだった。当然そのケースも、決して大きいものではない。
そして追加で確認した情報によれば、このあたりは特に何かめぼしい資材が取れるような場所ではない……『はず』、とのことである。
「……セリア、ちょっと確認したいんだけどいいか?」
「はい、何でしょう?」
「俺の記憶、っていうか知識だと、『ナイトローラー』ってたしか、本来、砂地や岩山なんかに巣穴を作って住むクリーチャーだった気がするんだが……それで間違ってなかったか?」
「はい、ですので、この辺りに出没すること自体はおかしくはありません。ただ、前回の調査と、今回の調査とに共通して……この辺りは、そういった巣穴を含め、ナイトローラーが生息していたとわかる痕跡そのものが少ないのです」
「……つまり、あのナイトローラーはごく最近この辺に越してきた?」
「いえ、それでも巣穴自体が見つからないのはおかしいかと」
「……あ、あの……意見具申、よろしいでしょうか?」
と、セリアとハルキの会話の最中、2人の会話を聞いていたと思しき、調査班の1人が声を上げて割り込んできた。
2人が振り返ると、2人よりもいくらか年上と思しき1人の女性の調査員が、少し緊張している様子で、挙手していた。
「えーっと……何?」
「あ、はい。『ナイトローラー』の生態についてご考察中のようでしたので、補足といいますか、お役に立てればと、情報を……。『ナイトローラー』は通常、自らが決めた縄張りから出ることはほぼありません。しかしその一方で非常に縄張り意識が強く、侵入した者は徹底的に……縄張りから追い出した後も追い続けて仕留める、とされています。もちろん、余程遠くにまで逃げればその限りではないでしょうが……特定の条件下で興奮状態にある個体の場合、侵入まで行かなくとも、縄張りに同じような存在が近づくだけで攻撃を仕掛けてくることもあるそうです」
「……前回の調査には私も同行しました。その時は確か……遭遇戦とは言いましたが、『ナイトローラー』は明らかにこちらを敵視していたように思えます。あの時は、ただ単に外敵や侵入者を見つけたから襲い掛かってきたのだと思っていたのですが……」
「……仮にそうでないとすると、あの『ナイトローラー』は……ここよりももっと遠くに縄張りがあって、そこから出張してきたってことっすか?」
「は、はい、あり得るかと」
「その、特定の条件、というものについても教えていただけますか?」
セリアの問いに、調査員は『ええと……』と、少し考えをまとめるようにして。、
「大きく分けて、2つだったはずです。1つは、繁殖期にあって、子供や巣、パートナーを守るために気が立っている場合。そしてもう1つは……同じような特徴を持つ者に、過去に縄張りに侵入されてしまっている場合……です」
「……より警戒しているがゆえ、ってことか。じゃあ仮に、ここから近いどこかにあった『ナイトローラー』の縄張りに、AWで無遠慮に踏み入った奴がいたとしたら……」
「同じ、あるいは似たモノに乗っている者達を、同一犯ないし同種と考えて排除しに来ることも?」
「……考えられます。そう言った事例も、いくつか過去に報告されています」
その言葉を受けて、ハルキは先程一旦停止させていた考察を再開する。
手掛かりは3つ。
大型の輸送用AWのそれと思しき残骸。
遠隔地に縄張りを持っていると思しき『ナイトローラー』。
それを刺激したと思しきAWの存在。
時系列を考えれば、まず最初に何者かがAWで『ナイトローラー』の縄張りを侵し、それに腹を立てた縄張りの主がAWを敵として認識した。
そして、縄張りに入っていない、周辺を通る無関係で無害なAWまでも襲うようになった。
このパーツの元の持ち主だったのであろうAWは、そのナイトローラーに襲われたのだろう。
そして同じナイトローラーは、あの日、調査に来ていたファウーラたちの部隊に襲い掛かり……合流した『レックス』に粉砕され、仕留められた。
この仮説であれば、一応のつじつまは合う。そうハルキに聞かされ、セリアも、調査班の女性も『成程』と頷いた。
後は、この仮説の裏付けとなる証拠を何か手に入れられれば……例えば、その個体が暮らしていたと思しき巣や、生活の痕跡などを持ち替えれれば、調査任務はひとまず目的を達成できるだろう。
……だが1つ、まだ明らかになっていない謎があった。
ハルキはその謎について、足元にある残骸のパーツを見下ろしながら考える。
大型の輸送用AWのパーツが落ちているということは、そのAWがここを通ったということ。
ここを通ったということはすなわち、この近辺に大型AWで輸送する必要があるような、大量の資源類を採掘・採集できる場所があるということだ。その点が、ファウーラの説明と矛盾する。
(何でこんな所を、輸送用のAWが通ったんだ? ファウーラ隊長の話じゃ、この辺には、別に資源の採掘場所も何もないんだろ? 寄り道や迂回路に使うような場所でもないし……)
「そもそも、これらのいくつかは駆動部のパーツだ。これが散らばるような損傷してるなら、大破ないし中破くらいまではいっててもおかしくない」
「それにしては、逆に痕跡が少なすぎますね……これらもかなりわかりづらい場所にあったものを、調査班の皆さんが発見したものですし……AWの持ち主、あるいはその同行者が回収したのでしょうか?」
「というか、そのAWはそもそもどこのAWで、何を目的にこんな所で大型車両走らせてたのか、っていう疑問に戻ってきちまうな……セリア? この辺の異常について、最初に通報貰ったのって情報源は誰だ?」
「この付近の交易路を利用する、民間の輸送会社です。それらの中には大型のAWを輸送手段として保有している業者もありますが、いずれもここを通る際にそういった車両は同行していなかったとのことです。そもそも、『ナイトローラー』に襲われた被害があるわけでもありません」
「それは、その通報してきた業者に限った話じゃないんだよな?」
「はい、『ナイトローラー』による輸送車両襲撃の被害報告自体が上がってきていません」
セリアから追加で聞いたいくつかの情報。
これらから導かれることを、ハルキは再度頭の中でまとめる。
ここを通ったと思われる大型の輸送用AWは、所属不明機である。
その破損、および襲撃を受けた報告自体が、総司令部に届いていない。つまりは、その事実を知られたくないか、あるいはそもそも別管轄で報告が上がって来ようがない所属である。
(あのパーツが落ちてて、その外側のパーツが落ちてないなんてことはありえない。明らかに何者かによって『回収』されてやがる。それに加えて、ここを通っていたとすれば、残っていなきゃおかしい、キャタピラ跡その他の痕跡も残ってない。これも消されてるな。あるいは、もともと痕跡が残りにくい細工をしてたか、あるいはその両方か……)
「……何か、ただの調査任務のはずが、きな臭くなってきた気が……」
『こちらシャドー1! シャドーリーダー、並びに特務部隊各位へ緊急通信!』
その時、唐突に全員の無線機から、大音量で音声が聞こえてくる。
はっとして、ハルキ、セリア、そしてクリスが無線機に注意を向ける。通信の内容に加え、声音からでも緊急事態を知らせる、シャドー1……シドからの通信に、調査班まで含めて全員が集中して聞く姿勢を見せた。
その中で、セリアとクリスが、同時に周囲を警戒しつつそうする体制に入れているのは、流石にキャリアを持つ軍人ゆえの反射的な対応と言えるのだろう。
『北西報告に敵影! 数1、『ナイトローラー』の……体の大きさと甲殻の形状からして雌体と推定! 周辺警戒班AWにて応戦する! 各位、周辺警戒を密にせよ! 繰り返す!』
その報告を聞きながら、ハルキはふいにあることを思いついて、セリアに問いかけた。
「……? ……セリア、もう1つ確認」
「先日少尉が討伐した『ナイトローラー』でしたら、雄でした。なお、現在はナイトローラーの繁殖期に該当する時期です」
「……さっきの予想……繁殖期か、侵入者警戒してるかってアレ……もしかして両方当たってたんじゃね?」
「あり得るかと」




