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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第1章 ディストピア2068
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第11話 個人にあらざる『武力』



 ――ゴロゴロゴロゴロ……!!


 地鳴りにも似た轟音を響かせながら、巨大な球体が転がっている。

 岩や植物など、その途中にあるものを全て轢き潰し、なぎ倒しながら、ひたすらに直進して、目の前の獲物をしとめんと突撃していく。

 

 転がっているそれは、巨大な岩にも見えるが……実はそうではない。

 『ナイトローラー』という、アルマジロ型の『クリーチャー』である。全長数m、大型トラック並の大きさを持つ大型種で、巨体ゆえの重量と馬力を武器とする。


 モデルになっている(と、思われる)アルマジロと同様、体を丸めて球体になり、背面にある甲殻を防具とすることができる。この甲殻は下手な金属をしのぐ硬度と、生体由来ゆえの強度、靭性をもっており、しなやかで壊れにくいため、並の武装では太刀打ちできない強度を誇る。


 それを防御に使うのはもちろん、武器として使った場合はより凶悪な力となる。丸まった状態での突撃は、その重量も相まってAWの装甲など一撃で粉砕してしまえるレベルの危険度だ。


 ゆえに、この種と遭遇して戦闘になった時は、丸まった状態では決して手を出さず、回避に徹することが鉄則とされる。


 崖面などの大きな障害物に当たって停止し、丸まった状態を解除したところで、装甲の継ぎ目や脇腹などの柔らかい部分を狙って一気に攻撃してて傷を負わせる。それを繰り返してダメージを蓄積させて討伐するか、それができない場合は撤退を誘う。


 生き延びたいのなら、間違っても正面から戦おうなどと思ってはいけない。それが、『ナイトローラー』を相手取る時の基本中の基本、絶対のルールである。


 ……もっとも、

 その突進や重量、甲殻の強靭さをものともしないだけの馬力と強度がある機体があれば、それも変わってくるのだが。



 ――バキィ!! ドッ、ゴォォオオン!!



 転がって突進してきた『ナイトローラー』に対し、『レックス』が――そして、それに乗っているハルキとアキラが――とった行動は、振りぬいた尾を横面から叩きつけること……ただそれだけ。


 そのたったの一撃で、何物にも止められないと思われるほどの勢いで転がっていた『ナイトローラー』は、蹴られたサッカーボールのごとく飛んでいった。


 空中にいる間に丸まった形態は解かれ、わかりやすい巨大アルマジロの姿になった状態で……数十mの距離を吹き飛ばされ、力なく転がる。この時点で既に息も絶え絶えであり、動き出して反撃する様子もなければ、逃亡する様子もない。丸まる力すら残っていないかのようだ。


 その状態であっても油断せず、『レックス』は地面を蹴り砕くかのごとき勢いで走り出して一気に距離を詰める。ろくに動けない『ナイトローラー』をその片足で踏みつけて抑え、前足の長い爪で喉元を切り裂き……とどめを刺した。


 攻撃力・防御力・機動力の全てが高く、AWの部隊を出しても多大な損害を覚悟しなければならないほどの相手であるはずの『ナイトローラー』。

 それが、ものの十数秒の、戦闘とも呼べない戦闘で息絶えたという展開は……当たり前ではあるが、見ていた者達を驚愕させる『ありえない』光景だった。

 

 そんな中、内心驚愕してはいつつも……『いつも通り』冷静沈着、かつ余裕を持った態度のままでいたその男は、ぱちぱちぱち、と拍手し、今の戦闘で見たすさまじい戦闘能力と、それを使いこなす操縦者の技術を、素直に称賛した。


『見事だ……いいものを見せてもらったよ。事前に聞いていたとはいえ、実際に目にするとそのすさまじさというものがわかるな。鋼鉄の装甲をもいともたやすく破砕する『ナイトローラー』の突進を、力でねじ伏せる……途轍もない戦闘力だな、その『レックス』とやらは』


 離れた位置に停車し、その操縦席内から一部始終を――といっても、ほんの数十秒ほどの出来事だったが――見ていたその男。

 フォート『ヴォーダトロン』の頂点、総司令・アルフレッドは、通信越しの独特な声で、嘘偽りない本心からの感想と共に、『レックス』と、その中のハルキ達を称賛した。


 そして、その横に停まっているもう1台のAW。

 その操縦席に座っている1人の少女が、驚愕と共に……隠しきれない興奮を、その表情と目から滲ませて、モニターの向こうの光景に見入っていた。



 ☆☆☆



 時は少しさかのぼる。


 リドリーが『手に負えない』と結論を出し、判断を請うために、上司であるアルフレッドに連絡。

 そのしばらく後、アルフレッドは自らその場に足を運んでいた。


 都市のトップが、護衛を連れてとはいえ、仮にも『クリーチャー』が出現した場所へ赴く。

 しかもそこには、既存のAWでは相手になるかどうかも怪しい、驚異的な戦闘能力を持つ所属不明機がおり、そのパイロット達も含めて、信用できるかどうかも確定していないのだ。


 後者については、もともと会う予定としていたのであるし、そのパイロット2人は機体から降りた状態でいたのだから問題はないのかもしれないが、それにしても、いきなり超のつく要人がフットワークも軽く現場に現れたのには、リドリーとムーアを除く全員が驚愕していた。


 なお、2人は付き合いが長いゆえに彼がこういう人物であると知っており、リドリーに至っては比較的慣れている立場である。そのため、『やっぱこうなったか』という程度の理解で済んでいた。


 とはいえ、来てしまったものを今から返すわけにも行かない、というリドリーの判断により、その場でハルキとアキラとの面会、そして暫定名『レックス』の見分が行われることとなった。


 流石にフォートの『総司令』が相手とあって、演技ではなく緊張しているハルキ達に対し、『楽にして話してくれ』と大人としての余裕を見せてから、アルフレッドは報告を促した。

 そして、一通り……リドリー達が受けたのと同様の説明を聞く。


「……ふむ、大体のことは理解できた。しかし、また面白い過程を経て力を手にしたものだね。事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだ」


 うんうん、と頷きながら言うアルフレッドに対して、ハルキやアキラを始め、その場にいる全員の、大なり小なり驚いた視線が集中する。


「ええと……その、信じていただけるんですか?」


「うん? 今の報告の中に、何か嘘の部分でもあったのかな?」


 そう聞き返されて、ハルキは慌てて、


「い、いえ、そんなことは決して……ただ、自分でもわかってて言うんですが……あまりに荒唐無稽と言いますか、突拍子もない内容だとわかってるもので。嘘偽りなく話そうとすれば、他に言いようはないとはいえ、正直信じてもらえないと思っていました。少なくとも、全部は」


「確かにね、正直なところを言えば、今話してもらったこと全てを鵜呑みにするわけにはいかない……ひとまず報告としてはそのように受け取り、最終判断は保留にさせてもらう、という形になるだろう。どの道、真贋を判断するだけの材料がないわけだしね」


 それに、とアルフレッドは続ける。


「機体のことは別として、ムーア君の評価や、リドリー君の人物眼は信頼できる。それに加えて、こうして、拘束すら受け入れると言って……彼らの話が真実だとしてだが、自分達も混乱しているところを、こちらに配慮してくれている点も評価できる。ならば、こちらも過度に譲る必要はないにせよ、無下に扱うべきではないと思ったまでだよ」


 迷いなく、そう言い切るアルフレッド。


 この状況においてもいささかも揺るがず、立場ある大人としての余裕、あるいは貫録とでも言うべきたたずまいを見せられ、特に責められているわけではないとわかっていても、ハルキとアキラは無意識に背筋が伸びるのを感じていた。


 目の前にいる優しそうな初老の男が、紛れもなく、フォートの『総司令』という立場にある大人物であると、単に聞かされたことでのみならず、感覚としても理解し始めていたのかもしれない。

 

 ムーアやリドリーでも、あまりに荒唐無稽な説明の内容と、それ以上に信じがたいほどの『力』を前にして、困惑からどうしていいかわからなくなっていた事案。特大のイレギュラー。

 しかし、それを責めることはできないだろう。何せ、このような場合にどうすればよいかなど、彼らの豊富な人生経験をもってしても、参考にできそうな前例がほぼないと言っていいのだから。


 それを前にしてなお、何に対して何を材料とし、どう評価すべきかという基準を即座に導き出して判断を下したアルフレッド。


 正確なところを言えば、彼も動揺していないわけではなかったが……一方で、喜んでもいた。


 この状況は……彼らがある程度でも信頼できるならば、という前提条件がつくものの、彼にとっては、むしろ望んだものだった、と言ってすらいいからだ。

 その胸の内に秘めていた、ある考えを推し進めるために。


 同様の小ささは、それに起因するものでもある。彼らに対する対処を決めかねているのと同時に、今後この力をいかにすれば有効に使えるか……それを考えてもいた。


 そして、その両方の理由により、彼は情報を欲していた。


 そんな時だった。彼の持っている通信機に、1件の着信が入ったのは。


 失礼、と一言断ってそれに出たアルフレッドは、そこでさらに舞い込んだ、2つめの願ったりな情報を知り、思わず笑みを浮かべてしまっていた。それが不謹慎なものであるとわかりつつ。


 電話に出たと思ったら、なぜか笑い始めた彼に対して、不思議そうな表情になっていた一同。

 アルフレッドは素早く考えをまとめて振り返ると、彼らに対して1つ提案をした。


「ちょうどいい、というのも変だが、1つ仕事ができた。ここはひとつ、その力とやらを実演して見せてもらうのはどうかな?」


「「「はい?」」」




 そうして彼が案内して連れて来たのが、今まさに『レックス』が『ナイトローラー』を打ち取ったその場所であった。


 アルフレッドの端末に入った連絡は、別件で動かしていた部隊からのものだった。


 『炭鉱アリ』とは別に、危険な『クリーチャー』と思しき存在の目撃情報が寄せられたため、その調査に駆り出していた部隊から、フォートからそう遠くない区域で『ナイトローラー』の存在を確認した、という報告が入ったのだ。


 都市部に接近されれば、大きな被害を出しかねない。まだ比較的遠くにいるうちに、防衛隊を動かして討伐すべきである。許可を――という内容のそれを聞いて、これを利用することを思いついたアルフレッドは、そのことをリドリーやムーア、そしてハルキ達にも話した。


 同時に、『もしよければ』とあくまで強制はしない形を強調しつつ、ハルキ達に提案した。


 数百匹の『炭鉱アリ』を巣ごと全滅させた力を、是非見せてほしいと。




 そして、現在に至る。


 看板に偽りなし。見事に単騎で『ナイトローラー』を、しかも銃火器を一切、けん制にすら使わず、正面から力技だけで叩き伏せた光景に、そこに居る全員が驚きを隠せない。


 それは、表情にはほぼ出ていないとはいえ、拍手でその健闘を称賛しているアルフレッドも同様だ。


 自分が今乗っている『第5世代』のAWであっても、あの突進を受ければただではすまない。

 よくて機体のどこかが機能不全、悪ければ一発で中破か大破までもっていかれるだろう。そのために、あの突進は受けずにひたすら回避することが必要とされるわけだが。


 それを、正真正銘、機体そのもののパワーとタフネスだけで打ち破った。それだけでも、あの機体は既存のいかなるAWをも上回る、いや圧倒するだけの力を持っていることの証明になる。

 その力に、報告にあ合った遠距離用の兵装の力が加われば、恐ろしいことになるだろう。


『まさか、これほどとは……』


 ふいに、通信の向こうからそんな声が聞こえて、アルフレッドは意識をそちらへ向けた。


 その声の出どころは、アルフレッドの隣に止まっているAWの中。そこにいる1人の少女からだ。

 どうやら驚愕して言葉もないらしい彼女の様子を察し、アルフレッドはその独り言に応えることにした。


「驚いたかい、ファウーラ? いや、私もこの目で見たのは今が初めてなんだがね……まさか、あれほどの力を持つAWが存在するなどとは、流石に度肝を抜かれたよ。いや、世界は広いな」


『緊張感のないことをおっしゃっている場合ですか……あの機体に関する報告は、先程一通り私も聞きましたが、明らかに個人で所有が許される武力の範疇を超えていますよ? ましてや所有しているのは、防衛隊どころか公的機関に所属すらしていない一市民……率直に言って危険では?』


「ふむ……危険というが、では君はどうするべきだと思うんだい? 個人には過ぎた武力だという理由で、総司令部で接収するとでも?」


『一方的で反感を買う可能性があることは認めます……ですが、それも検討すべきでしょう。何度も言いますが、あれは個人が持っていていい武力ではありません。俗な理由ではなく、組織の庇護もない状態で、分不相応な力『だけ』を持っている個人そのものも危険なはずです』


「確かにね。あれほどの武力……知れば誰でも、『欲しい』と思うはずだ。このご時世だ、世界にはいくらでも、『力』を欲する者達はいる……その有無が生存の可否を分けるとなれば、なおさらに」


 『レックス』の持つ戦闘能力はあまりにも強い。

 単騎で『炭鉱アリ』の巣を壊滅させ、真正面から『ナイトローラー』を粉砕するほどの武力ともなれば、一般的なフォートが有する武力全軍に匹敵、あるいはそれを上回る可能性すらある。


 ゆえに、このことが公になれば、それを狙って動く輩は必ず出てくる。

 そしてそのための……『レックス』と、その操縦者であるハルキ達を手に入れるための手段は、必ずしも合法的で、礼節をわきまえたものであるとは限らない。

 

 むしろ、手段を選ばず、1も2もなく結果だけを求めて何でもするような組織の方が多いはずだ。

 脅迫、強奪、人質、洗脳……ろくでもない手段というのは、いくらでも思いつく。


 それらが『悪意』となって彼らに向けられたとなれば……個人に不釣り合いな力を持ってしまったがばかりに、彼らは過酷で、無情で、理不尽で、困難に満ちたどころではない道のりを歩まざるをえない事態になってしまうだろう。

 力というのは、振るえば、いや持っているだけでも、称えられ、縋られ、そしてそれ以上に狙われるものなのだ。


 このままいけば、この先ハルキ達はそういった……言ってしまえば『面倒なこと』に巻き込まれる可能性が非常に高い。そしてそうなった時、一個人でしかない彼らにできることは限られるだろう……そうなれば、十中八九、よい結末は待っていないと言える。言い切れる。


 それを懸念するからこそ、『ファウーラ』はアルフレッドに対して進言するのだ。

 言ってみれば『巻き込まれただけ』とも言える、彼らという『被害者』を救済し、これ以降のトラブルに巻き込まないためにも……あの機体という『力』を、彼らを引き離すべきではないかと。


 自分達の力にするという打算がないとは言えないが、彼女は正真正銘、その思いと共にアルフレッドにそう問いかけていた。


 アルフレッドの方もそれがわからないわけではないし、もちろん自分達があの力を使えるなら、それは何にもまして望ましいことではあると思っていた。


 さらに言えば、そういった『力について回る面倒ごと』の懸念について……この時点では、ファウーラどころかアルフレッドも聞けていなかったが、他ならぬハルキとアキラも頭の中に思い浮かべてはいたし、それに関してある考えを持ってもいた。

 まだそれを聞いていない段階のアルフレッドは、今ある情報を材料に頭を回転させる。


(しかしながら、彼らの話が本当なら、彼ら以外にアレを使うことはできない。『認証』とやらもそうだし、それを破った場合の『防衛機能』の危険度も……試すわけにも行かないからな。で、あるならば、現時点で取り得るその最善手は……)


「ともあれ、終わったみたいだから彼らと実際に話してみようじゃないか。ファウーラ、君も同席してくれると嬉しいんだが、いいかな?」


『私はもちろん構いませんが……ちなみに、どういった話の方向で進めるかお教えいただいても?』


「現時点では、話の展開次第、相手の出方次第としか言えないかな……まあ、八方丸く収まるように尽力するつもりではあるがね。じゃあ、よろしく」


 そう言って、スピーカーの向こうから了承の返事が返ってきてから、アルフレッドは通信を切った。


 同時に、『レックス』の操縦席に通信をつなぐため、あらかじめ決めていた周波数にチャンネルをセットし直した。

 自分達の『フォート』の……そして、彼ら2人の今後を左右するであろう交渉に臨むために。





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