フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶33
いつの間にか、テルシアの震えが止まっていた。
彼女が呼吸する度に僅かに、背中が動いているのが分かる。
その間隔が最初よりかは随分と長い間隔になって来た。
どうやら、落ち着いたようだ。
ゆっくりと、距離をとる。
テルシアの身体を支える様に伸ばした腕に手を乗せながら彼女がこちらを見やる。
「あ、すみません。
服を汚してしまいました」
恥ずかしそうに俯いた。
「いいや、別に構わんさ。
落ち着いたか」
まるでバルが言う紳士的な言い方だな、と思いつつ言った。
「はい。
本当に」
それは良かった。
と、思いつつ立ち上がろうとする。
しかし、テルシアが俺の腕を持ったまま離さない。
「あの…。
その……。」
と、彼女が視線を泳がせながら言う。
「そう言えば、さっきのキスは……。」
言われた途端、動きを止めてしまう。
あれは、何と言うか、事故の様な…。
いや、違う。
事故では無く、故意で、いやしかし等と狼狽えつつ。
「まぁ、あれは、何だ。
勢いに任せていたと言うか」
「ですから、ちゃんとするのはどうでしょう」
「お、おう」
俺が言う前に、テルシアが目を閉じた。
長い睫毛が僅かに震えている。
鼓動が高鳴る。
テルシアの綺麗な形の唇。
そっと触れる様に重ねる。
何度かそれを繰り返す。
ゆっくりと瞳を開けて、囁くように言う。
「今日だけで良いです。
明日からは、元通りになります。
ですから、せめて今だけでも良いですから、今日あった事を忘れさせて欲しいです」
俺は壊れ物を扱う様にテルシアの腰に腕を回して、もう一度そっと抱き寄せてキスをする。
そして、ゆっくりとパイロットスーツのボタンを外していく。
彼女は着やせするタイプだったのだろうか、或はパイロットスーツの性質なのか、バランスの良い胸元が現れる。
まるでヴィーナス像のようにきめ細かい透き通った白い肌。
彼女の上着を床に置いて、シート代わりに広げた。
その上にテルシアを横たえる。
「そんなに見ないで下さいよ」
そう言って、恥ずかしそうに両手の甲で目を隠そうとする。
「ひゃん!」
不意に子猫が鳴く様にテルシアが小さく悲鳴を上げる。
「痛かったか?」
「痛いんじゃなくて、ですね。
手が冷たいです」
「悪い」
「こう言う時にはちゃんと手を温めてからにして下さいよ」
「すまん。
悪かった」
「まぁ、許してあげます」
何処か優しげに彼女は答えた。