フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶32
「ハッピバスディートゥーユー」
一度、深呼吸して、テルシアが歌いだす。
本当なら、一緒に居る筈だったライトフライに向けて。
「ハッピバスディートゥーユー」
俺達の他に誰もいない格納庫にテルシアの声が寂しく響く。
彼女の声が震え始める。
「ハッピーバ……スディー」
感情を必死に堪えようとして、口を押えるテルシア。
肩を震わせて、膝を抱え込んで小さくなる。
「誕生日、おめで…う。
ライ………イ」
僅かに、聞こえるテルシアの声。
本来はこの歌は誕生日を祝う時のものだと言うのに、今だけは痛々しい程に哀しい歌だった。
彼女は膝に顔を押し当ててから上げた。
そして、静かに口を開く。
「ライトフライ、それとバルさん。
死んだんですね?」
「あぁ」
「何だか。
思う様にいかないですよね」
俺の返事を聞いて、視線を落とす。
「誰のせいでも無い」
俺は、俺自身にも言い聞かせる様に言った。
そうだ。
これは誰のせいでも無い事だ。
例えば、予想出来て、これを回避出来たか?
否、出来る筈が無い。
「そう、ですね。
勿論、分かってはいるんです。
でも」
テルシアがそう思う気持ちも痛い程に分かる。
もしも、あの時こうしていれば。
と、分かってはいてもつい考えてしまうのだ。
テルシアの肩に手を乗せる。
僅かに震えている事に気が付く。
「良いんだ」
そう言って、抱き寄せる。
普段、全くと言って良い程、感情を出さないテルシアだが、つらい事はつらいのだ。
哀しい事は哀しいのだ。
膝立ちのまま、こちらに体重を預るテルシア。
声を押し殺して、震えている。
俺はゆっくりと背中を摩る。
そうだ。
泣きたい時には泣けば良いんだ。
格納庫にすすり泣く声が響いていた。




