フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶31
通路を進むと、程なくして格納庫に辿り着いた。
テルシアの部屋と同じく照明が落とされた格納庫。
所々にある小さな窓から差し込んでくる月明かりと、誘導灯が僅かな光を放つ照明代わりだ。
目を凝らし、辺りを見渡す。
普段、主に俺達しか使っていない場所だけあって、物は少なく、がらんとした印象が強い。
念の為、周囲に注意しながら進んで行く。
徐々に目が慣れて、鮮明に見えるようになってきた。
と、薄暗い中、膝を抱え込む様にして座り込んでいるテルシアを見付け声を掛ける。
「こんな所で何をしているんだ?」
「あ、隊長じゃないですか。
どうしてここに来たんですか?」
「あぁ、ちょっとな。
お前を探していた」
じっとこちらを観察する様に見やるテルシア。
そうして一度、視線を逸らして、微かな笑みを浮かべながら口を開いた。
「横に来て下さいよ。
一人で寂しかったんです」
ボロボロになったライトフライの機体に背もたれて、床をぺちぺちと叩きながらテルシアは言う。
促されるまま、俺はテルシアの横に腰を下ろす。
「テルシア、あのな」
テルシアを見やる。
傍に誘導灯がある為か、彼女の顔が異様に白く見えた。
そのせいもあってか、何処か物哀しげな表情を浮かべている様に感じる。
俺は言わなければならない。
一度、ライトフライの機体に視線を向けて、言う。
「お前に言う事があって。
実は」
と、不意にテルシアの腕が伸びて来て、俺の口を塞ぐように唇を重ねて来た。
俺に覆いかぶさる様にして強引に唇を押し付けて来る。
僅かに甘い香り。
「えへへ。
キスしちゃいました。
って何、照れているんですか!
私まで恥ずかしいじゃないですか。
この意気地なし」
すっと身を引いて両手で顔を隠す。
その隙間から仄かに頬が紅潮しているのが見えた。
「お前なぁ」
ふざけているのか、と言い掛けて言葉を飲み込んだ。
明らかにテルシアの様子がいつもと違う。
普段、決して見せる事の無かった感情をここまで表立って出している。
こんな表情を持っていたのだと初めて思える程に。
だが、しかし、これには理由があるのだろう。
そしてその理由を俺はこの時、正確に感じとっていたのかも知れない。
だから俺は、宥める様に、ゆっくりと言う。
「テルシア。
あのな。
バルと、ライトフライは」
「あ、これはですね。
誕生日祝いなんですよ!!」
と、俺の言葉を遮る様に彼女は言いながら、脇にあったワインボトルを差し出す。
「知っていましたか?
今日ってライトフライの誕生日だったんですよ」
「あぁ、知っている」
「で、ちょっとサプライズと言う事で美味しいお酒を買っていたんです。
と、言っても私、お酒の事あまり詳しくは無いんですけれどね」
そう言って、視線を落とした。
彼女の視線の先には、液体の入ったグラスが4つ並んでいる。
小窓から差し込む月明かりの透明な白い輝きが注がれ、まるでそこがステージである様に。
仲良く並んでいた。