影を束ねる
6.影を束ねる
次の日。澪は社長の御堂から、呼び出された。
「白崎。依頼だ」
御堂は澪に資料を渡す。
「対象者はこの老人?」
「あぁ、裏社会のフィクサーらしい」
影山朔夜。表の顔はベンチャーキャピタルの会社の会長だ。
「敵対組織から守るんですね!」
澪は資料をめくる。
「いや。少し違う」
「?」
澪は御堂を見る。
「《生き別れの妹の孫娘に生きて会う》までが任務だ」
「生き別れ?」
「あぁ。彼は天涯孤独なんだ」
「了解」
澪は頼もしく頷いた。
会長室。窓ガラスを真夏の雨が叩きつける。
「君があの《悪役の部下》か」
影山は杖をついて、澪に近づいてくる。
「失敗は許さん。失敗すれば、君は私の部下たちに殺される。いいな」
「はい」
「では、早速、護衛してもらおうか」
車内。進むたびに暖かい雨が車体を叩く。その音が心地よく響く。
「この子が、妹の孫娘だ」
影山は写真を見せる。そこには、長い黒髪をツインテールにした小学生が写っていた。
小学校校庭前。雨雲は辺りを薄暗くしていた。もう下校時刻。妹の孫娘、川崎愛莉が小学校の表玄関から出てくる。
――あの子!
澪は見つける。しかし、影山は動かない。ただ、彼女を見つめるだけだ。
そして、澪に頼む。
「この箱を彼女に」
その箱には、きっと指輪が入っているのだろう。とても小さかった。
「なぜ、これを?」
「時価数十億のアレキサンドライトが入っている」
「え!?」
澪は驚く。そして、呟く。
「贈与税が…」
「ふっ。見逃してくれ」
影山は微笑んだ。
「これは、もうすでに死んだ私の母に私が贈ったものだ。昼と夜で色が変わるこの宝石のように昼夜仕事を掛け持ちしていた昔の母に感謝を伝えるためにな」
――一代で成り上がったのか。
澪は驚いた。
すると、その瞬間、その指輪の入った箱が銃で撃ちぬかれた。中のアレキサンドライトがはじけ飛ぶ。キラキラと光る粒が飛んだ。
「そんな!」
澪は銃弾が飛んできた方を見た。そこには銃を構える影山の部下たちがいた。
――まさか、こうなることを予想していた!?
「私の最期はこれがお似合いさ」
影山が呟く。
――人を騙し、傷つけ、利用してきた。だから、最後の願いだけはかなわない。
「さぁ! 堂々と復讐しろぉ!」
影山は両腕を広げる。
「危ない!」
澪の身体に銃弾がめり込む。そして、人工皮膚が捲れた。
「邪魔をするな、白崎。これは俺の最期の足掻きだ」
――復讐されても、逮捕はされない。俺のわがままだよ。
「あぁ! めんどくせぇ!」
澪が叫ぶ。
「こちらも最後まで足掻かせてもらいますよ!」
澪は銃弾に被弾しながら、部下たちをなぎ倒していく。
ドンッ。頬の人工皮膚が完全に剥がれ落ちる。でも、気にしない。
そして、全員を鎮圧した後の姿は、もうボロボロ。
「ふっ。さすがにサイボーグの方が強いか」
影山は笑った。
「その顔じゃ、孫娘に怖がられるのぅ」
影山は澪に近づく。
「最後の最後に面白いものを見た気がする」
すると、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「お迎えじゃ」
「逃げないんですか?」
「あの世に逃げる気だったんじゃよ。とんだ邪魔を」
「すみません」
澪は少し俯く。
「ふっ。お前は最高の部下だな。たまには《違う道》にも進んでみるんだな」
「……」
「あぁ、雨が止んだな」
水滴が頬を濡らした。
――幸多からんことを。
澪は影山を見送った。
影山の事件が終わって数日。澪は久しぶりに、何の依頼も入っていない休日を迎えていた。外は雨上がり。濡れたアスファルトが光る。
澪はお洒落をして、出かける。待ち合わせ場所は相馬医院。今日は焼肉食べ放題だ。
「優斗、お待たせ」
優斗が振り向く。そして、ふわりと微笑んだ。
「かわいいね」
優斗はストレートに褒める。
「あ、ありがとう///」
澪は頬を染めた。
「焼肉食べ放題、予約しといたんだ」
「ほんと!?」
澪は目を輝かす。
「行こ」
優斗は澪の手をひいた。
「うん///」
澪は耳を熱くした。
雨上がりの空は澄んでいて、水たまりを青く染めていた。




