01.封印された爆乳ドラゴン娘
「待ちなさい、ユキト!」
「ちょっと待ってってば、ユキト!」
背後から迫ってくる二つの声に、ユキトは半泣きで廊下を駆け抜けていた。
一人は、明るい色の髪を揺らす目立つ女子生徒。
もう一人は、落ち着いた雰囲気の、やけに姿勢の綺麗な女子生徒。
そんな二人に今まさに詰め寄られている。
――どっちがどうこう、という話ではない。
ただ、どちらも明らかに普通ではなかった。
(無理無理無理無理!!)
(これは命の危機だ!!)
「止まりなさい!」
「逃げないでよ!」
「逃げるに決まってるだろ!!」
曲がり角を曲がり、階段を飛び降り、息を切らしながらユキトは必死に逃げ続ける。
止まったら終わる。
いや、社会的にではない。物理的にだ。
後ろから聞こえる足音は二つ。
なのに逃げ道はどんどん減っていく気がした。
「話をするだけです!」
「そうそう、ちょっと確認したいだけ!」
「その“だけ”が怖いんだよ!!」
叫び返しながら、ユキトはほとんど転がるように廊下を駆けた。
どこか隠れる場所。
今すぐ。
できれば二人とも絶対に入ってこなさそうな場所。
視界の端に飛び込んできたのは、古びた校内倉庫だった。
「ここだ!!」
薄暗い室内には、掃除用具や使われなくなった机、段ボール箱が雑然と積み上げられていた。
扉を閉めたユキトは、その場で肩を上下させる。
「はぁ……はぁ……。とりあえず隠れ――」
言いかけた瞬間だった。
足元が、青白く光った。
「……え?」
視線を落とした先。
床一面に刻まれていたのは、見覚えのない巨大な紋様だった。
円と幾何学模様が幾重にも重なり、淡い光を放っている。
魔法陣。
その言葉が頭に浮かんだ直後、光は一気に強まった。
「ちょ、待て待て待て待て!!」
廊下の向こうから声が近づいてくる。
「ユキト?」
「そこにいるんでしょ?」
ユキトは魔法陣の中心に立ったまま、半ば叫ぶように言った。
「ちょっとタイム!! 今それどころじゃ――」
光が爆ぜた。
視界が真っ白になる。
重力が消える。
身体が宙に投げ出されたような浮遊感。
そして――世界が反転した。
気がつくと、森の中に立っていた。
見上げれば、濃い緑の枝葉の隙間から青空が覗いている。
周囲には見たこともない植物が生い茂り、湿った土と草の匂いが鼻をくすぐった。
ユキトはしばらく呆然と突っ立っていたが、やがて無言でポケットからスマホを取り出した。
画面には、当然のように表示される二文字。
圏外。
数秒の沈黙のあと、ユキトは満面の笑みを浮かべた。
「ラッキー!!!」
両手を突き上げる。
「これで逃げられる!!!」
「しかも異世界転移とか!! テンション上がるなぁ!!」
すると、頭の中に直接、声が響いた。
『異世界へようこそ』
「おお!」
目の前に、半透明のウィンドウが浮かび上がる。
ステータス
ユキト
職業:なし
戦闘力:1
魔力:1
特殊能力:なし
「……」
しばしの沈黙。
ユキトは空を見上げた。
「……終わってない? 俺」
『正常です』
「いや正常じゃないだろ!? 異世界って剣と魔法のファンタジーだろ!?」
「普通こういうの、チート能力とかあるんじゃないのかよ!!」
『ありません』
「せめてスキル!」
『ありません』
「武器!」
『ありません』
「仲間!」
『いません』
ユキトはもう一度、空を見上げた。
「……詰んだ」
その時だった。
森の奥の茂みが、ガサガサッと大きく揺れた。
ユキトがびくりと振り向く。
そこから現れたのは、青く半透明のゼリー状の生物だった。
ぷるぷると揺れながら、こちらへにじり寄ってくる。
目の前に数字が浮かぶ。
スライム
戦闘力:3
「俺より強いじゃん!!!」
スライムが、ぴょん、と跳ねた。
ユキトは迷わず走り出した。
「うわあああ!!」
ぴょん。
ぴょん。
後ろから跳ねて追いかけてくるスライムの音が、妙に軽快で腹立たしい。
「くそ! くそ! 異世界って普通もっとこう……!」
枝を払い、草を踏み分け、転びそうになりながら叫ぶ。
「封印された美少女とかいないのかよ!!」
その瞬間。
ズドン!!
足元の地面が抜けた。
「うわああああああ!!」
身体がそのまま穴の底へ落ちていく。
ドサッ、と鈍い音を立てて叩きつけられた先は、古びた地下遺跡だった。
石造りの広間。
中央には巨大な魔法陣が刻まれ、その中心には大きな透明の水晶が置かれている。
そして、その水晶の中で、一人の少女が眠っていた。
銀色の髪。
尖った耳。
透き通るように白い肌。
どう見ても、エルフの美少女だった。
水晶の表面には文字が刻まれている。
『古代魔導兵器 No.7 封印中』
ユキトは叫んだ。
「いた!!!!!!」
その瞬間、上の穴から、ぽよん、と青い塊が落ちてくる。
スライムだった。
「来んな!!」
スライムは床に着地し、弾むように揺れた。
同時に、水晶がぴしりと音を立てる。
ユキトは水晶の中の少女を見つめた。
銀髪。
尖った耳。
白い肌。
完璧に“そういう枠”のヒロインである。
普通なら助ける。
たぶん助ける。
むしろ助けるのがこの手の物語の常識だ。
だがユキトは数秒考えたあと、ゆっくり首を横に振った。
「……いや」
水晶の中の少女の意識が、ほんのわずかに揺れる。
(……え?)
ユキトは真顔で言った。
「エルフは対象外なんだ!!」
(……え?)
「ここで助けたらヒロイン枠になっちまうだろ!」
水晶の少女の沈黙が、逆に濃くなる。
ユキトは刻まれた文字を指差した。
『古代魔導兵器 No.7 封印中』
深く頷く。
「封印は……封印のままが一番平和だ」
その時、スライムがもう一度ぽよんと跳ねた。
「来んなって!!」
ユキトは即座に踵を返し、壁をよじ登り始める。
戦闘力は1。
だが逃走能力だけは妙に高かった。
滑りそうになりながらも何とか地上へ這い上がり、そのまま近くの土を掘り始める。
せっせ、せっせと土をかけ、穴を埋める。
数分後。
すっかり跡形もなくなった穴を見て、ユキトは満足そうに手を払った。
「よし。何もなかった」
地下では。
水晶の少女が無言で固まり、スライムが「ポヨ?」と首を傾げていた。
だが、そんなことを知るはずもなく、ユキトは森の中で拳を握りしめる。
「エルフじゃない……」
真剣な顔で空を見上げた。
「俺が求めているのは……」
両手を広げて叫ぶ。
「爆乳で可愛いドラゴン娘だ!!」
その瞬間。
遠くの山から、ドォォォォォン!! と大気を揺らす咆哮が響いた。
森の鳥が一斉に飛び立つ。
『警告:ドラゴン接近』
「え」
山の上空。
巨大な黒い影が翼を広げて旋回していた。
ユキトは震えながら木の陰に飛び込む。
「いやいやいや……落ち着け俺……」
灰色のドラゴンが羽ばたくたび、突風が森を揺らした。
ユキトは木にしがみつき、小声で呟く。
「封印されてる美少女を助けて仲間にするのが……異世界の常識だろ……」
拳を握る。
「だからさっきのエルフは罠に違いない!」
『正解です』
「いるの!?!?」
頭の中の声は淡々と続けた。
『なお、あなたの生存率は現在3%です』
「低すぎるだろ!!」
その直後だった。
ドォォォォン!!
灰色のドラゴンが森の近くに着地し、大地が揺れた。
ユキトは木の陰からそっと覗く。
ドラゴンの巨体が光に包まれ、人の姿へと変わっていく。
現れたのは、一人の少女だった。
灰色の角。
灰色の長い髪。
淡い灰銀の瞳。
しなやかに揺れる、灰色の尾。
全体が月明かりをそのまま形にしたような、静かな灰色で統一されていた。
だが、その落ち着いた色合いに反して、胸元はユキト基準でかなり自己主張が強い。
ユキトは小声で呟いた。
「……ドラゴン娘だ」
少女は周囲を見回し、鼻をひくりと鳴らした。
「んー……この辺に人間の匂いがしたんだけど」
ユキトは木の陰で震える。
少女がゆっくり歩み寄ってくる。
「……あ、いた」
完全に見つかっていた。
ユキトの脳内で警報が鳴り響く。
(待て待て待て待て。普通に考えて食われる可能性あるだろ!!)
そして彼は即断した。
「よし」
その場にばたりと倒れ込む。
「死んだふりだ」
少女がやってきて、足先でつん、とユキトをつついた。
「……この人間、さっきまで恐怖の匂いだったのに、今は“死体のふり”の匂いになってる」
(バレてる!?)
「ねえ」
顔を覗き込まれる。
「起きてるよね?」
(動くな……動いたら死ぬ……!)
『現在の選択:死んだふり。成功率12%』
(結構高い!!)
だが次の瞬間、少女はにやりと笑った。
「ところでさ。封印された爆乳ドラゴン娘しか認めないって、さっき言ってたよね?」
(聞かれてたーーーー!!!)
少女は肩を揺らして笑いを堪えながら、自分の角を指差した。
「残念だけど、私、封印されてないドラゴン娘なんだよね」
ユキトはゆっくり目を開けた。
至近距離にあるのは、灰色の角と、月光みたいな髪と、面白がるように細められた灰銀の瞳。
怒っている、というより、完全に遊んでいる顔だった。
ユキトは観念して身を起こした。
「……すみません」
「ん?」
「封印されてから出直してもらえます?」
森が静まり返った。
風が止まり、葉擦れの音すら消える。
少女はしばらくぽかんとしたあと、噴き出した。
「アハハハハハ!!」
腹を抱えて笑う。
「何それ! そんな理由で封印要求されたの初めてなんだけど!」
ユキトは真面目な顔で頷く。
「俺の理想としてはですね。古代遺跡とかに数千年封印されてて、俺が偶然見つけて、封印を解いたら『あなたが私を救ってくれたのですね……』みたいな流れが非常に美しいと思うんですよ」
少女は涙を拭きながら笑っていたが、やがて面白そうに片眉を上げた。
「へえ」
くるりとその場で回り、灰色の髪を揺らす。
「じゃあ、自己紹介しとこうか」
胸に手を当て、どこか芝居がかった仕草で言う。
「私はミラ。灰竜族のミラ」
口元にいたずらっぽい笑みを浮かべたまま、続ける。
「見ての通り、封印されてないドラゴン娘」
「でも、面白いから――封印されてあげてもいいよ?」
ユキトの目が輝いた。
「え???」
「この辺に古代遺跡もあったはずだし、そこに私を封印して、あとで君が解除する。どう?」
ユキトは即答した。
「ヒロインとして採用!!!!」
その瞬間だった。
ドゴォォォォン!!
地面が爆発した。
土が吹き飛び、そこから飛び出してきたのは――さっき埋めたはずのエルフ少女だった。
髪は土まみれ、服も泥まみれ。
だが怒気だけは異様に元気だった。
「やっと出れた……!」
「うわあああ出てきた!!!」
エルフは即座にユキトを指差した。
「あなたですか!! 私を埋めた人間は!!」
ミラが横目でユキトを見る。
「え、何それ」
「違う違う違う違う!!」
「全然違いません!!」
エルフの頬が怒りで引きつる。
「私は古代魔導兵器No.7です! 封印を解いてくれる救世主を待っていたのに、まさか埋められるとは思いませんでした!!」
「だってヒロイン枠になりそうだったから!!」
「理由が最低です!!」
ミラは肩を震わせて笑っていた。
「へぇ、ヒロイン枠か」
エルフはそこで初めてミラに気づき、ぴたりと動きを止めた。
「……ドラゴン?」
「そう」
ミラがあっさり頷く。
ユキトは慌てた。
「言うなよ!?」
だがミラは楽しそうに言葉を続ける。
「この人間さっき言ってたんだよ。封印された爆乳ドラゴン娘しか認めないって」
エルフのこめかみがぴくりと震えた。
ゆっくりとユキトを見る。
「なるほど」
静かすぎて逆に怖い声だった。
「つまりあなたは、そちらをヒロインにしたいと?」
「いや封印されたエルフさんの方で!!」
「今更遅いです!!」
ミラは腹を抱えて笑っている。
ユキトは空を見上げた。
「神様……これ絶対バッドルートだろ」
『生存率:現在2%』
「下がった!!」
エルフは怒りに震えながら杖を構えた。
その先端に、淡い光が集まり始める。
「覚悟してください人間――」
完全に殺意が乗っていた。
ユキトはその光景を見ながら、真顔で言う。
「ツルペタはお呼びじゃない!!」
「は???」
「えっ」
エルフとミラの声が同時に重なる。
ユキトは胸を張った。
「俺が求めているのは、封印された爆乳ドラゴン娘なんだ!」
「知りませんよそんな性癖!!」
そして彼の視線が、森の端にあった崩れかけの穴を捉える。
脳裏に電流が走った。
(……これだ)
ユキトは突然、悲鳴を上げながら駆け出した。
「うわあああ助けてくれええ!!」
「待ちなさい!!」
怒りに任せて追うエルフ。
魔法が乱射され、木が焦げ、地面が弾ける。
一方で、ミラは腕を組んでいた。
「面白いから見よ」
完全に観戦モードである。
森の中を全力で走るユキト。
その背後を追うエルフ。
そして――穴の手前。
ユキトが飛んだ。
エルフも勢いのまま追って、
ズドォォン!!
落ちた。
「きゃあああああ!!」
ユキトはすぐさま引き返し、せっせと土をかけ始める。
「よし」
さらに土。
さらに石。
さらに枝。
「登場人物から削除」
「まだ聞こえてますからねえええ!!」
「えっ」
「絶対出ますからね!!」
「……怖わ」
無言でさらに土をかけるユキトの横で、ミラが拍手した。
「すごいね君。主人公とは思えない行動」
ユキトは胸を張る。
「俺は生き残るためならなんでもする男だ」
「普通ヒロイン候補埋めないよ?」
その時だった。
地面が、みし、みし、と音を立てて割れ始めた。
地下からはエルフの怒声が響いている。
「絶対許しませんからねえええ!!」
「しつこい!!!」
そこへ、森の奥からひとりの老人が現れた。
長い白ひげに、ぼろぼろのローブ。
いかにも訳知りといった風体の老人である。
「い、いかん……」
「誰!?」
老人は震える指で地面を指差した。
「その地下には……古代の封印兵器が眠っておったのじゃ……」
「眠ってたの俺が埋めたやつ!?」
老人は杖を掲げ、深刻そうに言った。
「もし封印が完全に解かれれば、世界が壊れる!!」
「スケールでか」
ミラが感心したように呟く。
地面はさらに激しくひび割れ、土と石が跳ね始めた。
「出ますよおおおお!!」
「やっぱまずいの!?」
「まずいどころではない! 封印が解ければ魔力暴走で大陸が消える!!」
「なんでそんなやつ最初から埋まってたの!?」
「古代の勇者が命がけで封印したからじゃ!」
ユキトは頭を抱えた。
「俺、その上に土かけただけなんだけど!!」
老人は息を整えると、重々しく続けた。
「……だが、方法はある」
ユキトは即座に老人の肩を掴んだ。
「あるの!? あるなら最初に言えよ!!」
「ドラゴン族の封印魔法なら可能じゃ」
ユキトとミラの視線が同時に向く。
「え、私?」
「ただし条件がある」
嫌な予感しかしなかった。
「そのエルフを再封印すると――ドラゴン娘も一緒に封印される」
森が、しんと静まり返る。
「つまり?」
「二人セットで古代封印じゃ」
ユキトの目が見開かれた。
ミラはその横顔を覗き込み、にやりと笑う。
「どうする?」
一本指を立てる。
「君の理想通りだよ。封印されたドラゴン娘」
「理想すぎる……」
「感想を言っとる場合か!!」
その瞬間、地面が大きく裂けた。
銀髪のエルフが土煙の中から飛び出してくる。
「やっと出られ――」
「封印だ」
ユキトは力強く言った。
ミラは少しだけ目を細めた。
「ほんと変な人間だね、君」
次の瞬間、彼女の背から灰色の大翼が広がった。
ゴォォォォォ!!
風が森を揺らし、空に巨大な古代魔法陣が浮かび上がる。
灰銀の光が回転し、空気を震わせる。
エルフが顔色を変えた。
「えっ」
ミラは彼女を見下ろした。
「ごめんね。世界のためだってさ」
「ちょっと待っ――」
ミラが地面に手をつく。
低く、古い響きを帯びた声が森に満ちた。
「古竜封印術式――双鎖封印」
空から光の鎖が落ちる。
ジャラァァァ!!
鎖はエルフの身体を拘束し、同時にミラ自身にも絡みついた。
「ちょっと!! なんで私まで!!」
「世界のため!!」
「あなたのせいでしょうが!!」
光はさらに強くなる。
その中で、ミラは最後にユキトを見た。
灰銀の瞳が、楽しげに細められる。
「約束、覚えてる?」
「?」
「封印されたドラゴン娘が理想なんでしょ?」
ユキトが息を呑む。
ミラは、今度は少しだけ優しい声で言った。
「じゃあ――いつか解きに来てよ」
その瞬間、光が爆発した。
ドォォォォォン!!
森が真白に染まり、衝撃が木々を揺らす。
やがて静寂が戻った時、そこに立っていたのは一本の巨大な封印柱だった。
古代文字が刻まれている。
『封印対象
古代魔導兵器 No.7
灰竜族ミラ』
老人が震える声で言った。
「世界は……救われた……」
頭の中に声が響く。
『イベントクリア』
『世界崩壊を防いだ』
『報酬を報酬を受け取りますか?』
「報酬!?」
ユキトの前に再びステータスが開き迷わず受け取るを選択。
ユキト
戦闘力:1 → 1
「何も変わってねえ!!!!」
ぽとり、と封印柱の傍らに小さな鍵が落ちた。
『探知の鍵――あらゆる封印を解く力と、望む対象を探し出す力を併せ持つ鍵』
その声は、それだけ告げて消えた。
老人が問う。
「若者よ。君はこれからどうする?」
ユキトは巨大な封印柱を見上げた。
石の中には、ミラとエルフが封じられている。
しばらく考え込んだあと、彼はぽつりと言った。
「……よく考えたら、これ解いたらあのエルフも出てくるよな?」
すると、柱の奥からかすかな声がした。
「聞こえてますからね人間!!!」
「まだ聞こえるの!?」
ユキトはしばらく無言で封印柱を見つめ、それから真顔で結論を出した。
「埋めて忘れよう」
「おぬしに良心はないのか!!!」
老人の叫びを無視して、ユキトは土をかけ始める。
ザッ。
ザッ。
ザッ。
さらに石。
枝。
葉。
数分後、巨大な封印柱はすっかり森の地形の一部になっていた。
ユキトは満足そうにうなずく。
「よし。今度こそ登場人物整理完了」
封印柱の内側。
薄暗い石の静寂の中で、ミラがぽつりと呟いた。
「ねえ」
隣で鎖に縛られたままのエルフが、疲れ切った顔で答える。
「……何ですか」
ミラはくすりと笑った。
「あの人、たぶん助けに来ないタイプだね」
「でしょうね!!」
エルフは即答した。
そして大きく溜息をつく。
「はぁ……また何もできない……」
少し間を置いてから、じろりとミラを見る。
「それに、あなたもあなたです。どうして初めて会った男に、そこまで付き合うんですか」
ミラは少し首を傾げた。
灰色の髪が、封印の淡い光の中で静かに揺れる。
「んー……弟に似てたからかな」
「弟?」
「うん。底抜けに馬鹿なところ」
そして、どこか楽しそうに笑う。
「あと、可愛いくない?」
エルフは真顔で答えた。
「……趣味悪」
ミラは吹き出した。
封印の中に、小さな笑い声が響いた。
その頃、地上では。
全てを埋め終えたユキトが、満足げに手を払っていた。
そして空を見上げ、堂々と言い放つ。
「よし。次はもっと都合のいい封印ヒロインを探そう」
もちろん、その発言がさらなる面倒を呼び込むことを、この時の彼はまだ知らない。




