17 土地の権利書
宿屋の自室で今後の予定を考えていたらドアがノックされた。
「はい」
「フリージアです。 土地の件でお伺いしました」
「入っていいよ」
私は横になっていたベッドから起き上がり、入室許可を出す。
リーアが丸めた紙を2つ持って入ってきた。
紙は本で使われていた物と同じようなものだ。
部屋には椅子がないので、ベッドの横に土魔法で椅子と机を用意してリーアを椅子に座らせ、私はベッドに腰掛ける。
「ありがとうございます。 まず土地ですが。 孤児院の周囲、この辺りがお父様所有の土地になります」
リーアが持ってきた紙の1つは街の地図だった。
その地図を広げて孤児院周辺の土地を指でなぞる。
「その周りの土地は?」
「そこは商業ギルドで販売されている土地ですね。 商店通りから遠いので住んでる方はいませんけど。 そしてお父様が所有している孤児院の近くは販売されていないみたいです」
孤児院は街の外れにあり、近くに街の壁がある。
壁から孤児院を含む円形の大き目な範囲は販売してないそうだ。
つまり土地を買うならその外に買えばいいのか。
ちょっと離れるけど、宿屋から行くことを考えれば遠くもないしいいか。
まあ商店通りに近くても孤児院に近くても、移動には走れば問題ないんだけどね。
「この範囲外に買えばいいって事ね」
「いえ、この範囲の土地を条件付きで譲っていいそうです」
この範囲を譲る?
買ったらそれなりの金額がするだろう土地を譲る条件・・・・・・面倒なことになりそうだ。
「条件は?」
「孤児院の方たちが住む場所をちゃんと確保し、孤児院の方たちを追い出したりしない事、だそうです。 その条件を満たすなら孤児院の建物を含む土地の権利を譲っていいと言われました」
なにそれ、破格過ぎない?
孤児院があるからここを選んだわけで、孤児院を潰すつもりも土地から追い出すつもりもない。
つまり私にとっては無条件で譲るのと変わらないということになる。
「私は孤児院があるからここを選んでるんだよ? その条件、私にはあってないような物なんだけど、それでいいの?」
「はい、問題ありません。 土地の使用については建物を建てたり畑を作ったりは自由にしていいそうです。 さすがに地面に大穴開けるとかは困りますが、普通に使って頂く分には自由に使ってかまいません」
「うーん・・・・・・」
「何か気に入りませんか?」
「条件が良すぎて何かあるんじゃないかと疑ってしまう」
後から土地を譲ったんだからと何か言われるのは嫌だ。
いや、言われるのはいい。
じゃあ返すと言って返せばいいだけだ。
問題はそれで相手が納得しなかった場合含めて、この街に残れるのかという事。
せっかく仲良くなったのにサクラとお別れは寂しいし。
「何もありませんよ、わたしがお父様に頼んだんです」
「リーアが? サクラを助けたお礼って事?」
「それもありますが、わたしはサクラとあまり一緒にいられません。 当然依頼を一緒になんていけませんし、お父様も許してくれません。 ですので、ユリアさんには何もできないわたしの代わりにサクラを守ってほしいんです。 もちろんその事で拘束するつもりも押し付けるつもりもありません。 近くにいる時にできる範囲でかまいません」
サクラを守ってほしいから、その見返りとして土地を譲るように交渉したって事?
それでよく納得したね領主。
「もちろんできる範囲では守るつもりだよ。 サクラが依頼に行くなら護衛はするつもりだし。 いや、依頼を受けに行かなくてもいい状況を作るべき、かな」
サクラは冒険者になりたいわけでも依頼を受けたいわけでもない。 と思う。
要は孤児院の生活を少しでも良くしたいだけ。
衣食住の内、住む場所は問題ない。
物が少ないだけで建物はそれなりにしっかりしている。
そうなると、今何とかしたいのは着る物と食べる物だ。
着る物は買う以外に選択肢がない。
作るなんて無理だし。
明日は服屋に行ってみようかな。
運動用の服は買ってあげたいと思ってたし。
あとは食べる物だけど、これが一番重要。
できれば何か育てたいところだけど、簡単に育つ野菜って何だろう?
うーん・・・・・・ジャガイモとか?
あれってジャガイモそのまま植えるだけでできるんだよね?
でもこの街には売ってない。
「リーア。 ジャガイモって売ってる場所知ってる?」
「え、ジャガイモですか? いくつかの村で栽培しているのは知っていますが、他の街に売っている村はありませんね。 どうしても欲しいなら買いに行かないとですが、どうしてそんなものが欲しいんですか?」
「孤児院で栽培してみようかと思ってね。 この街に売ってないから私も食べたいし」
「ユリアさんはジャガイモを食べても平気なんですか?」
リーアが心配そうに私の方を見てくる。
「意味が分からないんだけど。 もしかして毒のこと言ってる? 普通に食べる分には毒になんて当たらないでしょ」
「そうなのですか? わたしは食べたことがありませんが、食べて亡くなった方もかなりいると聞いています」
「毒の部分取らずに食べたんじゃない?」
「毒だけ取れるんですか!?」
「ジャガイモの凹んでる芽の部分をちゃんと取って、変色した部分も取り除けば毒には当たらないよ。 あ、でも全部緑になってるのは捨てたほうがいいかな」
「それだけで大丈夫なんですか」
ジャガイモの毒の話を聞いてリーアが呆然としている。
というかジャガイモの毒って死ぬ可能性あるの?
腹痛だけだと思っていた。
「そういうわけでジャガイモが欲しいんだけど、売ってる場所教えてくれない? 買いに行きたいから」
「えっと、ここから一番近い場所ですと、東の道を進んで真っ直ぐ行き、2つ目の分かれ道を北に進んだところにある村が近いと思います。 徒歩だと多分4~5日ほどかかってしまうと思います。 もしよろしければ馬か馬車をご用意しますよ?」
「大丈夫、足の速さには自信があるから」
身体強化だけどね。
今日までに何回も走ってみたけど、疲れないし走るのも速い。
すごく便利な体だ。
「それでも結構大変だと思いますよ?」
「ちょっとした旅も兼ねて行ってくるよ」
「そういう事ならわかりました。 気を付けていってくださいね」
「うん、ありがとうリーア」
「それでは私はそろそろ戻りますね」
「今日はありがとね」
そういって地図を丸めてリーアが立ち上がる。
入口に向かうリーアを見送ると、ドアを開けたところでリーアが止まる。
持っていたもう一枚の紙を見て勢いよく振り返った。
「あ! 忘れてました、権利書を渡さず帰るところでした」
「権利書?」
「孤児院の周りの土地のですよ」
「ああ、もうジャガイモの事で頭いっぱいだったよ」
2枚持ってたのは何だったんだろうとは思ってたけど、もう1枚は権利書だったのか。
2人して笑いながら、リーアがもう1つの紙を渡してくる。
「内容を確認して問題がなければ身分証を紙に当ててください。 紙にユリアさんの名前が入れば譲渡完了です」
私は権利書を読んでみる。
読んでみるとは言ったけど、大したことは書いてない。
土地の範囲と、所有者であることを領主が認める、という事が書いてあるだけだった。
紙は2枚組になっていて、控用なのか同じ内容が書かれていた。
私は言われた通りカードを置いてみると、カードが少し光ってすぐ収まる。
カードをどかしてみると私の名前が紙に書かれていて、2枚目にも名前が入っている。
これを1枚リーアに渡して完了みたいだ。
紙やらいろいろな道具なんかは原始的なのに、このカードだけやたらハイテクだな・・・・・・
触ると発動する魔石も不思議だったけど、カードの方はそれが小さく思えるほど不思議だ。
「これでいいんだよね?」
「はい、大丈夫です。 これで孤児院周辺の土地はユリアさんが所有者になりました」
「よかったよかった。 実は孤児院の裏に子供たち用の遊具を作ったんだけど、勝手に作って怒られないか少し心配だったんだよね。 領主の土地って言ってたし。 私の土地になったのなら問題ないよね」
「ユリアさん・・・・・・」
リーアに白い目で見られる。
実際領主の土地を勝手にいじったわけだし、何か罰があってもおかしくなかったのかもしれない。
「それにしても遊具ですか」
「リーアも遊んでみたら? サクラが大喜びで遊んでるし、リーアも気に入るんじゃない?」
「サクラが?」
「うん、楽しそうに遊んでたよ」
「それは興味ありますね、後日様子を見に行ってみます」
「うん、いいんじゃないかな」
ちゃんと勉強もしてるなら、たまに遊んでもいいと思う。
貴族がどうなのかは知らないけど。
そうしてリーアは帰って行った。
私も夕食後、明日のために早く寝ることにする。




