二十四話 優秀すぎる護りと変らない日々
「だ、大丈夫なの!? 恋人なの!!」
「フェリスさん、そんな事有るはず無いですわ」
フェリスさん、目がぐるぐるしていらっしゃいます。
落ち着いて下さいませ、ザハエル様、いえアマト様は、私などが個人的に関われる存在ではございません。
きっとあの方に釣り合うのは、それこそ本当の聖女様なのですわ。
「そんな、マリーだって月の女神みたいに、美しいのに青銀の髪もオレンジの瞳も……」
「そ、そんな事、初めて言われましたわ」
「はぁ、マリー貴女の周りは節穴ばっかりね」
フェリスさんは最近、凄く褒めて下さって、慣れていないものですから、何だか照れてしまいますね。
そんな騒動は少しありましたが、周囲に警護の冒険者様方それとアマト様が増えました。
しかし基本的には変わりなく、穏やかな日々を過ごせています。
そろそろ、私がこの修道院に来てから4、5ヶ月目に入りますでしょうか。
朝の掃除は時間に余裕を持って、終わらせられるようになり、雑巾も及第点くらいには絞れるようになり、書写の他にお守り作りも覚えました。
これにも祈りを込めます、ザハエル様のお力を借りられますので、私の作ったものは評判が良いと言っていただいております。
「しかし、アマト様が直接作製された方が、効果があるのですよね」
一度、ご本人に伺った事がありました。
「はぁ、なんでそんな面倒をやらなくちゃならん、俺様は忙しいんだ」
「そうなのですか?」
此方も、私を通してっと言う事なのでしょうか?
それでも、忙しい面倒と仰いながらも、修道院の事は完璧に守って下さっているのですよね。
彼が来て下さってから、二度ほど件の貴族が来て暴れ、追い返したそうですし、夜に何度か襲撃もあったようです。
私達にはやはり詳細を教えて戴けないのですが、修道女の先輩方が言うには、誰か目当ての人物を浚うつもりであったようです。
……これは、自意識過剰で無ければ、私が目的だったのでは無いでしょうか?
妹や王太子様の命令か、もしくは彼らに気に入られようと、気を利かせてかもしれません。私を痛め付ければ、喜ばれると思う者が居ても可笑しくはありませんから。
考えていて、やはり少し悲しくなりますわね、半分と言えど血が繋がった妹です。
どうしてこうも憎まれてしまったのでしょう、私には解りません。
彼女は何でも持っていますのに。
「どうかしたか?」
手が止まっていると、青い鳥に覗き込まれました。
このお姿でも気付くと、たまに側に居られるのですよね。本当に神出鬼没でいらっしゃる。
「いえ、何も、それよりも泥で尾羽が汚れてしまいますよ」
今は修道院裏の菜園で作業をしていまして、近くに着地した彼の美しい長い尾が地面に接している事が気になりました。土が付いてしまったら、残念な気持ちになりそうです。
「ふふん、心配するな。俺様の流水の羽根がただの土なんぞで、汚れるはずも無いだろう」
彼は言うと胸の羽毛をふわふわと膨らませて、偉そうに胸を反らしました。実際偉い方なのですが、このお姿ではどんな仕草も可愛らしく感じさせますね。
「それは失礼致しました。凄いのですね」
「当たり前だ」
「そうですよね。尊い方なので、汚れる場所にはっと思ってしまいましたが愚考でした」
「まあ、俺様の羽根は美しいからな。そう思うのも仕方あるまい」
今日は何時にも増して、ご機嫌のようですね。
周囲を歩き回っている、ザハエル様を気にしつつ、私は考え事で止まっていた手を動かし始めました。
芽を出したばかりの雑草をプチプチと引き抜くのですが、頻繁に交代で世話をしていますし、それ程多い訳ではありません。
暫くしない内に、綺麗に取り終わってしまいました。
すると丁度フェリスさんが遠くから声を掛けてきます。
少し離れた畝で、ユウリの蔦を支柱に縛り直したり、余分な芽を摘んおられたのですが、彼女の方も作業を終えられたようです。
「この後は水を撒くのだろう、なら俺様が雨を降らせてやろう」
「え?」
私が返答する前に、小鳥のザハエル様が翼をパッと広げると、小雨が畑に降り注ぎ始めます。
暑くなり始めている所に、涼しい優しい雨です。
「あれ、晴れているのに雨が降っているわ」
此方にやって来たフェリスさんが、不思議そうに空を見上げました。
確かにこれならば、水を撒く必要は無いですわね。
しかし――
「この後はどうしようかな? 小雨だしすぐ止むかしら?」
「そうですね」
抜いた雑草を籠に入れて持ち、畑の外の堆肥置き場に二人で移動していきます。
実はこの後は、洗濯をする予定だったのですよね。足元を付いてくるザハエル様は、未だ得意げにされていらっしゃいますので、とてもでは無いですが雨を止めて欲しいとは言えそうにありません。
「あれ?」
また不思議そうにフェリスさんが首を傾げられました。
片手を上げて、雨を受け止めるようにされます。どうされたのでしょうか?
「あ、止んだ? あれ違う、畑の上だけ降っている? 不思議な事も有るものね」
チラリと青い小鳥を見ますと、何故か「どやぁ」っと鳴き声のようなものを……?。
「す、凄いのですね」
「これは何方か、神霊様の思し召しかもしれないわね」
晴天の光が雨水に反射し、虹色を見せる空に、フェリスさんは感謝の祈りを捧げていらっしゃいました。
私も、そのままザハエル様に直接感謝の祈りを捧げました。しかしこれは、特権の乱用のような気がしてしまいます。
少し怖いですわね。




