二十五話 俄に異変
「ちょっと、マリーから離れて」
「ははっ面白い修道女だなお前も」
「むっきー」
フェリスさんが頭をくしゃくしゃに撫でられて、怒っておりますわ。
アマト様、彼女をあまりからかわないで下さい、手加減して下さいませ。
「もう、外を警備してなさいよ、修道女に絡むなんてどういう了見なの!」
「俺はいいんだよ俺は」
「アマト様……」
普通に駄目なのですけれどね異性との接触とか、修道女、修道士は慎み深くなくてはなりません。
質素清貧に務め、欲を遠ざけ、教えや聖句を学び。神術を極めて神霊に近付く……。
神霊に近付く……。
この方に近付く?
何でしょう何故か今。
私が見ている前で、ざばぁっと湯船から上がり、認識できない速度で天使の衣を身につけ、わざと驚かされた事を思い出しました。
「俺様の変身シーンが見たいなら、もっと目を鍛える事だな」と仰り、人差し指と中指の隙間から此方を見て……。
多分、神秘的なお力を使ったのだと思うのですが、少しだけイラッと致しました。
まぁ宜しいんですけれどね。
「こいつに様なんて要らないわよ」
「そうだ要らないぞ」
「そう言う訳には参りませんよ」
そんな様子でアマト様にからかわれつつ、夕方に宿舎の玄関を掃除して居りました。
今日のお勤めも、残り僅かです。この後お祈りを済ませましたら、お夕食ですわね。冒険者の方が捕った獲物のお肉を提供して下さったとかで、料理担当の方が張り切っておられました。
勿論私も、楽しみですわ。
「おーい」
「? どうしたのかしら?」
聖堂の表の方から、何時も一緒にお風呂掃除をしております修道女の方が声を上げながら、やって参りました。
何かあったのでしょうか?
「ちょっと手伝っておくれー」
「どうしたんですか、サリーさん?」
「はぁはぁ……実は、今馬車で怪我人病人が、一気に来てさ。今の作業を止めて、手伝いに来てくれって神官様が……」
息を乱しながら、彼女はそう仰いました。
遠くから助けを求めて来られ、今やっと辿り着いたと言う事でしょうか。初めての事態に詳細は解りませんが、直ぐに助けが必要なのは解ります。
「大変、解ったわ直ぐに行く!」
「た、頼んだよ、私は作業場に声かけたら戻るから!」
「はい! あっと、マリーはこっちに来ては駄目よ、残りの掃除をしていて」
「え!? いえ私も」
「アマト、マリーをお願いね」
「おう、任せとけ」
私も手伝いに行きたいと言おうとしたのですが、フェリスさんとアマト様に遮られ、出来ませんでした。
「アマト様私も……」
「止めとけ、お前が行くと混乱を招くかもしれん」
「ですが!」
こう言う時のため、私は加護を戴いているはずです。
他の方より、強い回復神術が使えるのは、自分の怪我を治すためだけじゃ無いはずですわ。
もしかしたら、襲撃者が紛れている事を危惧しているのかもしれませんが、保身だけを考え苦しんでいる人を見捨てる事は出来ません。
咄嗟にフェリスさんの後を追おうとしたのですが、アマト様に腕を掴まれて、阻止されてしまいました。
多少は筋力が付いたはずですが、ビクとも致しません。
「放して下さいませ」
「駄目だ」
「で、ではアマト様が手伝って戴けないでしょうか」
「え、嫌だが? 依頼は警備の仕事だけだ」
神霊様は、どうしてこう融通が利かない……。
やっぱり、この方も、助けてくれないのでしょうか。何時もならば、何も言わずともお力を振るわれていらっしゃいますのに。
「どうしてこんな時だけ、その様に冷たいのです」
「なぁちょっと落ち着け、あのくらいの負傷や人数ならここの奴らだけで大丈夫だ」
「見て、確認もしていませんのに、そんな事が何故解るのですか……?」
「解るものは解るんだよ。お前、ここの連中が毎日何のために祈ったり勉強したりしてるか、忘れてんのか? 絶対に無理そうなら俺も手を出すが、ここはしゃしゃり出る場面じゃねぇぞ?」
「しゃ……」
お姉様はそうやって、何時も何時もしゃしゃり出て、大っ嫌い!
妹の高い声が、頭に響いたような気がいたしました。
私が振り向いたからか、アマト様は手を放して下さいます。
少しほっと致しました。怪我などしていないので配慮して戴いていたのだと思いますが、腕を掴まれるのは、やはり何だか嫌な気持ちになりますわ。
「信用して任せりゃ良いって、な……? どうした、おま」
アマト様が言葉を続けようとしたその時です。宿舎から先輩方が、足早に出てこられました。
玄関口に立つ私たちに気付くと、治療所に行ってくる事と、後を任す旨の事を口々に仰います。
皆様、緊張が見て取れますが、大事に向かう戦士のように真剣な目をされて居りました。
「そうなのですね、解りましたわ」
私は浅はかだったのでしょう、力をひけらかし、先輩方の顔を潰して仕舞うところだったと……。
「……申し訳ありません、頑張って下さいませ」
私に出来たのは、そう言って走って行く皆様を見送るだけでした。
「……」




