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43 動乱終結

 ヴェール平原でのキャラバン隊襲撃に端を発する一連の事件は、指揮しきっていたアリスィダ神父の死をもって終息しゅうそくした。


 重症を負ったリスは迎えの馬車へと乗り込み一足先に屋敷へと帰還きかん。ルミエール家に仕える医師の治療を受け順調に回復中だ。魔術が使用出来るまでに回復すれば、自身の治癒魔術を併用へいようして、早期の完治を目指すことも可能だろう。


 数時間遅れてニュクスもソレイユと共に屋敷へと帰還。ニュクスの帰りを心待ちにしてたイリスが、ボロボロの体で戻って来たニュクスを見て、驚きのあまり泣き出してしまうハプニングもあったが、ニュクスがいつもの調子で軽口を叩いてやると気持ちが少しは落ち着いたらしく、泣くのを止めてくれた。

 ニュクスも医師の治療を受け処置は無事成功。当面は左腕をっての生活となるが、こちらもリスが治癒魔術を使用出来るまでに回復すれば、より早期の完治が可能であると見込まれている。

 

 クラージュは直ぐには屋敷へ帰還せず、事後処理のためにカキの村へ二日間滞在した。

 帰省予定だった村人を乗せたキャラバン隊の壊滅。魔物を使役する勢力による村への襲撃。

 危機は去ったとはいえ、村を襲った混乱を大きく、不安を抱える村民も決して少なくはない。安心感を与えるために、少しの間だけでも信頼の厚い人間を置いておく必要があったからだ。

 



 後日。犠牲となった帰省予定の村人やキャラバン隊員達をいたみ、合同の葬儀がカキの村で執り行われた。

 領主代行のソレイユと、村に滞在していたクラージュが葬儀へと出席。負傷したリスとニュクスは屋敷で待機することとなった。

 葬儀にはフィグ村長やヤスミンといった村民を始め、キャラバン隊の関係者である商人や傭兵ようへい仲間らが参列。

 犠牲者の遺体は例外なくエリュトン・リュコスに喰らいつくされており、遺体を回収することは叶わなかったが、現場に残されていた持ち主が判明している衣類や装飾品、武器などが遺品として遺族や関係者の手へと戻された。


 大切な人の死を、直ぐに受け入れることは難しいだろう。

 それでも、人は前に進まなければいけない。

 

 今回の事件は、ソレイユにも大きな影響を与えた。

 商人、護衛の傭兵、帰省予定の村人を含めた旅行者たち。キャラバン隊襲撃の犠牲者は計39名。これはソレイユが領主代行として領内の治安維持に当たるようになって以来、最悪の数字である。

 手練れの傭兵団を護衛につけたキャラバン隊が、魔物を使役する勢力による予期せぬ襲撃を受けて壊滅する。これは完全にイレギュラーな事態であり、事件を未然に防ぐことは不可能に近かったといえる。

 事件に対するソレイユの対応は早く、自身がアマルティア教団と対峙たいじすることで被害の拡大を抑えることにも成功した。

 

 感謝こそしても、彼女を責める者など誰もいないだろう。


 ただ一人、ソレイユ自身を除いては。


 責任感が強く、誰よりも領民のことを思うソレイユにとって、犠牲を出してしまった時点でそれは許されざることであった。

 例えそれが予期せぬ事態であったとしても、自身の力ではどうしようもない出来事だったとしても。仕方がなかったと自分をなぐさめるような真似をソレイユは絶対にしない。

 一度でも自分を納得させてしまえば、くせがついてしまうかもしれない。全体で見れば小さな犠牲でも、一人一人にはそれぞれの人生があり、それはこの世のあらゆる物と等価とうかに出来ぬとうといものだ。救えなかったという事実は、仕方がなかったの一言では済まされないとソレイユは考えている。

 

 例え不可能な状況であろうと、絶対に民を救わなければいけない。

 全力を尽くしても救えなかったとしたら、そんな自分を許してはいけない。

 心身ともに強靭きょうじんに。

 不可能を可能と出来るように、己をきたえ続けなければいけない。

 

 一連の事件を経て、ソレイユ・ルミエールは今以上に強くなる覚悟を決めた。


 それは、彼女が英雄にまた一歩近づいた瞬間でもある。




『邪神復活を目論むアマルティア教団の動向に関して――』


 一連の事件および、ニュクスがアリスィダ神父から入手した作戦内容に関する情報は、ソレイユの手により正式な書簡しょかんとしてしたためられ、王都に拠点を置く王国騎士団本部へと送られた。

 アマルティア教団の組織規模は不明だが、召喚術で多数の魔物を使役出来るという性質上、戦闘能力は文字通りの百人力であり、国家の平和を脅かす存在となる可能性は否定できない。

 これまでに発生した魔物による被害の中にも、アマルティア教団が関わっていたケースが存在している可能性は高い。これまでに確認されている魔物被害を再検証する必要性も、ソレイユは書簡上で求めていた。

 名将フォルス・ルミエールきょうの娘が、実際に遭遇そうぐうした事案をつづった書簡だ。王国騎士団の上層部も、決して内容を軽視することはないだろう。

 

 書簡が王都へと到着したのは、ウルズ・プレーヌ卿が国境線へ向けて出立した翌日のことである。


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