第14話 ミッドガルドの長い夜 7
急いで帰り蒼の家まで走ると、もう家では有風が晩御飯の仕度を終えていた。
一日で貰った、お礼の鞄や『問言団子』を見せてひとしきり説明すると、蒼とブリュンヒルデはそれ所じゃなくて、晩ご飯の『から揚げ』と『エビフライ』に齧り付くのであった。
今日もブリュンヒルデを連れて帰ってきてくれた事は有風の機嫌を相当に上げてくれたし、大好物の『問言団子』を持ち帰った事も、一層有風の機嫌を良くさせた原因になった。
昨日に引き続き、地上の平和を守った事も蒼には嬉しかった。
本当に、運が良い日で、永遠にこの幸せが繰り返せば良いとさえ、蒼は思うのだった。
その原因は、唯一つ、傍にそのブリュンヒルデが居るからである。
「明日はどう言えば引き止められるだろうか……?」
お風呂から出て二階に上がってきた時から、蒼は後ろを歩くブリュンヒルデを気にしながらそんな事を考えていた。
今初めて、考えたのだろうか?
いや、それは今日起きた時から、実は、ずっと考えてた事なのだった。
昨日も考えていたが、理由が無くなったらブリュンヒルデは居なくなってしまうだろう。それが、蒼には一番苦しかった。
「疲れてるだろうけど眠る前に少しだけ、話しても大丈夫かなと思って?」
蒼は、自分でも珍しく勇気を出して言って見た。
ブリュンヒルデはすっと、蒼の妹の部屋のドアを持ったまま止まった。
「疲れてなんて居ません。私は話したいですけど、蒼さまが疲れてると思ってたので、昨日も我慢したのです」
ブリュンヒルデは嬉しそうに言ってくれた。
「また、そっちの部屋に行っても良いのですね?」
ブリュンヒルデのその喜ぶ顔は、蒼には何よりの回復薬だった。
「実は聞きたい事が有ったんだけど、聞いても良いですか?」
蒼はなんか自分の部屋でブリュンヒルデと話していると、照れくさくて何かを持ったり、目覚まし時計のスイッチを入れたり切ったりしてしまう。
「はい」
そんな蒼の様子を見ながら、ブリュンヒルデは楽しそうに答えてくれるのであった。
「実は聞きたい事って、言ってくれた僕の戦女神って言うのは、どう言う事なのかなって事で……」
ブリュンヒルデは蒼の質問にちょっとだけ首を傾げた。
「何をするのかって事ですか?」
「いや、それは戦士の勝利の女神で、戦死したら勇敢な戦士は戦士の宮殿に連れて行くことは知ってるんだけど、その……」
そこまで言って、蒼はなんだか恥ずかしくなってきてしまった。一番聞きたい事が、上手く言い出せない。しかし、意を決して言うことにした。
「『勝利の女神』って言うのはいつも一緒に居てくれるのかって事なんですが。このまま地上には居られないのですかね?」
蒼が急に真面目な顔で言い出した物だから、ブリュンヒルデはキョトンとして、蒼の顔を見つめるのであった。
しかし、その理由はあまり分からないブリュンヒルデは蒼の質問ににこやかに答えるのであった。
「いえ、普通は天の上から様子を見守って居るだけですね。有事には、降りて来て一緒に戦いますが……」
「やはりそうなんだ……」
蒼の淡い期待が脆くも崩れ去った瞬間だった。
「?」―――― そんな様子を不思議そうに見るブリュンヒルデ。
しかし、その程度でめげてる場合じゃないと、蒼は直ぐ気を取り直して思いつくままに言ってみる。
「でも、何か理由が有れば地上に居られるとか、何か有ると地上に居なければ行けないと、そう言うのは無いのかな……?」
「う~ん……」ブリュンヒルデは少し考えた。「いいえ、それも無いですね。大概は皆すぐ帰ってきますから」
だが、返事は簡潔にダメみたいだった。
蒼はブリュンヒルデを返さない方法を、必死に考えるのであった。
「あ、少し連絡を入れても良いですか?」
しかし、蒼がそのことで必死に考えて何とか良い方法はないかと考えて居ると、ブリュンヒルデが何かを思い出し急に蒼に聞いてくるのであった。
蒼が頷くと、ブリュンヒルデは自分の目の前の空間をなぞって、いきなり空中にテレビのモニターのような物を出現させるのであった。
「?!」
驚く蒼を他所に、ブリュンヒルデはモニター越しに、綺麗な女の子が並ぶ通信室のような場所を呼び出すのであった。
すると、モニターの向こうの女の子は、いきなりのブリュンヒルデの通信に、びっくりしたようにインカムをつけて話し出すのであった。
「ああ、良かったです。今まで連絡が無くて心配してたのですよ、どうしてるのかと。こちらからする連絡は通じず、皆頭を痛めてた所でした……」
ブリュンヒルデが通信を入れると、通信室らしいその部屋の女の子が皆喜んで拍手するのだった。
ブリュンヒルデが地上に向かった時に居たメンバーであった。
その時のメンバーだから、この夜勤の時間に居るのだったが……。
「ごめんなさい。私のせいで、みんなには迷惑掛けてるみたいで……」
「本当です……」
ブリュンヒルデが罰悪そうに頭を下げながら皆に謝ってみると、オペレーターのメンバーも少し怒った表情を作りブリュンヒルデの無事を祝うのであった。冗談だが。
しかし、気を取り直して話すブリュンヒルデは、地上のミッドガルドに降り立ってからずっと連絡を取ってないことを思い出したのである。
それを、蒼と話してる会話で思い出した為、少しだけと言って故郷のアースガルドに連絡を入れたのであった。
「私は、この通り無事です。そして、見事に2回も襲ってきたフェンリルも斃してミッドガルドの危機を救いましたが。お父さまは、どうでしょうか? 勝手に出てきてしまいましたが……」
言い難そうにブリュンヒルデは聞いてみた。
すると、メガネの似合うルピアがブリュンヒルデに答えるのであった。
彼女は、ブリュンヒルデに『拘束用ヘルフレイム』の砲弾を命中させた女の子である。
「ああ、それでしたらあまり宜しく有りません。結局、スクルド様は出発準備の途中でお嬢様がヘルフレイムを脱出しフェンリルを撃退してしまった為、誰も地上に行く理由が無くなってしまったのですから……」
ルピアはそこまで言ってマイクに近づいて小声になった。
「きっと、スクルド様なら言っていた運命を変える事も出来て、一応、お嬢様へのご自分の面目も通せると思ってたのでしょうね。実際は、それも潰された結果ですが……」
その言葉にブリュンヒルデは苦笑いを浮かべるのであった。「潰したって……」
「あと、お嬢様が送り返してきたフェンリルは無事こちらに届きましたので、今は頑丈な檻に収監して有りますからご安心下さい。この手柄は、今アースガルド中に響き渡っていますので、戻ってくれば、一躍時の人に成れますから、お楽しみに」
ブリュンヒルデの功績を称える事も忘れない凄腕のオペレーターだと、ブリュンヒルデもそれは認めるてる可愛い女の子だった。
「ま、今帰ってきて、フェンリル退治の功績がアースガルドで賑わえば、すぐに王様もご機嫌が直ると思いますね。ま、王様は基本的にはそうゆう方なので……」
ルピアに偉い言われようだな……と少し父親を不憫に思いながら、ブリュンヒルデはルピアの話を聞いていた。
「所で、そちらはいつ戻られるのでしょうか、今晩ですか?」
ブーッ!
ルピアの唐突な質問に、蒼は思わず噴き出してしまった。
何を言い出すんだこのメガネの天界の人は―ー。蒼は、心の中で呟くのだった。
「あれ、地上の方もそこにいらっしゃいましたか、すみませんね。夜遅くにこんなこと言って……」
モニターの向こうでルピアが舌を出した。
すると、その言葉に返事を少し思案気なブリュンヒルデの姿を緊張で蒼は見つめる。
もしも、すぐ帰ると言ったらどうしよう……?
少し考えて、ブリュンヒルデは答えた。
「いえ、今しばらくはここに残りたいのですが……。無理なんですよね? 規則があるから」
自分をチラとブリュンヒルデが見たような気がした。
何故だろう?
しかし、はっきりとは分からないが、蒼には自分を見てブリュンヒルデが言ってくれたような気がしたのだ。
だが、そんな淡い期待はルピアには通じなかった。
「そうですね。地上にそんなに長く居れないでしょうね? 特別な契約も無いですし……」
蒼はがっかりした顔で下を向いた。
「そうですよね……」
ブリュンヒルデも心なしかがっかりしたように言ってくれた気が蒼にはした。
「何を言ってるのですか、お嬢様は私達と同じ誇り高き戦女神です。運命の三女神のようなステータスはありません。それにも増して、今は命令違反も有ります。今すぐに戻らないと、大変な事になりますよ……」
すると、奥のほうから別のオペレーターが声をかけて来た。
カーラだった。
ルピア達より少し年上なのか落ち着いている。巻き毛の美しい気品を帯びた皆にも憧れの存在だったが、同時に厳しい処も有る皆には怖い存在でも有るのだった。
椅子に腰掛けずルピアの後ろに立つと、ブリュンヒルデに少し強い口調で言うのだった。
「でもおかしいですよね? 今のステータスは何も異常がついてないから……」
がそう言うと、ブリュンヒルデが何かに気付いたのだった。
「!」――――
「まだだったと言う事なのですね?」
ブリュンヒルデがルピアにもう一度確認した。
?
小首を傾げてブリュンヒルデの言った意味が分からないルピアとカーラがモニターを見た。
そう言うと、ブリュンヒルデは蒼の耳元に何事かを囁くのであった。
蒼が、それを聞いて何かを言おうとした時だった。
「あっ!」
カーラが何かに気付いてモニターに近づいて止めようとしたが間に合わない。
蒼は、ブリュンヒルデに向き合って、改めてそう言うのだった。
「僕の戦女神になってくれますか。そして、傍に居てくれますか?」
「はい。喜んで!」
ブリュンヒルデが嬉しそうにそう答えた。
「あーっ、間に合わなかった!……」―――― カーラは、声を上げた。
その様子を横で見てるルピアがおかしそうに、カーラを見て呟くのだった。
「だって、それは出来ないシステムじゃないですか。女神は、この宮殿に戻らないと……」
しかし、ルピアがそう言ってシステムの解答を見た時だった。
「了承!」
「ええー、どうなったのコレ……。カーラ様?」
モニターの向こうでブリュンヒルデが笑ってる。
「システムが規則を破ったお嬢様の契約を『了承』したってどうゆう事なの……?」
ルピアが再度、案件をシステムに戻して実行しても、また『了承』と出るだけだった。
「同時に、二つの願いを入れさせてシステムに『了承』させましたね……やりましたね? お嬢さま!」―――― カーラはモニターのブリュンヒルデに怒って見せた。
「あれほど、これはやっては行けないって教えたのに……」
「だって、前から私がそれをやるとシステムが騙されるから……」
ブリュンヒルデは笑いながら済まなさそうにカーラに笑顔を振りまく。
「これは暫くすれば、どうせ無効になります。よって、お嬢さまは直ぐに帰還下さい!」
カーラは直ぐ様判断して、ブリュンヒルデの写るモニターに近づいた。
「でもこれ、直ぐにはエラーにならないですよね。バグの修正に回したらきっと何日か掛かるけど、それをやったらお嬢さまも戻る事になりますがね……」
それを聞いたカーラが、凄い顔でルピアに「余計な事を言うな」と目で言うのだった。
「そうですよね? お父様のお怒りが少し冷めるまで、こちらに居させて貰います……」
そう言って、ブリュンヒルデは蒼をチラと振り返って、笑ってくれた。
「少ししたら帰りますから……カーラさん。それまでお父様の事、宜しくお願い致します」
ブリュンヒルデの言葉に、カーラもしょうがない……と言わんばかりの顔をして、頭を下げてモニターを切った。切り際に、皆がこぞって手を振ってくれるのがブリュンヒルデも嬉しそうであった。
モニターが切れると、戻るカーラの横でルピアがシステムの画面を見て首を傾げる。
「あれ、このバグもう修正されてる。なら、なんで『了承』されたんだろう……?」
そこには、『戦女神以来案件:1』と『女神常駐依頼:1』とはっきりと分かれてるのであった。
ルピアがそれを見て、どうしたものかと何も写らないをモニターを見つめるのであった。
「……と、言うことになりましたので、少しの間だけ、まだ置いて貰えますでしょうか? 迷惑でなかったら」
そう言うと、目の前に座りなおしてブリュンヒルデが改めて蒼に頭を下げてお願いをするのであった。
「うわ……嬉しいです! 本当に嬉しい!」
蒼は思わず、ブリュンヒルデの手を握って喜んだ。
ブリュンヒルデも蒼に握られた手を見て、嬉しそうに笑い返してくれた。
しかし、手を見てるブリュンヒルデに気付いて蒼が手を自分が握ってる事に気付くのであった。
「あわわっ、ごめんなさい。つい嬉しくて……」
慌てて手を離し、今度は蒼が頭を下げる始末。
二人で顔を見合わせて笑い出してしまうのだった。
「でも、数日しか時間は稼げないので、その時までは宜しくお願いします。蒼さま……」
おもむろに言われたその言葉に、蒼は少し寂びそうな顔をしてブリュンヒルデを見てるのであった。
「そんな、ずっと居て良いんだよ。迷惑なんかでないから……。でも、戻らないと行けない規則が有るんだもんね?」
そう言われると、ブリュンヒルデはまた済まなさそうに目を伏せるのであった。
「そうですね……」しかし、その顔を上げてブリュンヒルデは蒼を見た。「でも、迷惑じゃ無いって言って貰えて、私も凄く嬉しいです!」
その目が蒼をじっと見つめた。
吸い込まれそうな綺麗な瞳が、蒼の姿を写して静かに揺れている。
こんなにも心の綺麗な人に、蒼は有ったことが無かった。
ブリュンヒルデのその言葉に、蒼もまた嬉しくなってしまうのであった。
しかし、蒼はその言葉を聞いてて何かを思いついたようにブリュンヒルデに聞いてみた。
「でもね、もう一つお願いが有るんだけど、聞いてもらえるかな?」
その言葉にブリュンヒルデも快く『うん、うん』と頷いた。何を言われるかと期待した顔で見つめる。
「その『蒼さま』って言うのは可笑しいので、なんだろ、もっと友達的な感じで言って欲しいのだけど、良いかな?」―――― 蒼は、そのブリュンヒルデの興味有りげな顔から目を逸らして、言ってみた。「そのぉ、偉くも無いのに少し恥ずかしいから……」
「え?」―――― ブリュンヒルデはその言葉を聞いて、少し怒った態度を取った。
「いいえ! 蒼さまは「戦士さま」です。偉いのですから呼び方はこれで良いと思うのですが。でも、希望と有れば……どのように呼びますか?」
ブリュンヒルデの言葉に蒼はまた照れながら言った。
「『蒼!』って、呼び捨てで構わないよ。なんか、外国の人ってそういう感じでしょ? そういう方式にしたいのだけど……」
しかし、ブリュンヒルデは少し不満そうに蒼の顔を見た。
「ならば私の事も、『女神さま』でなく『ブリュンヒルデ』と名前だけで呼んで下さい。その方が私も嬉しいですから……」
ブリュンヒルデはそこまで言うと、自分も思ってたのか逆に蒼に頼むのであった。
そう言うと言わなきゃならないような顔で下から顔を見上げるのであった。
溜まらず、蒼は目を逸らして一言言ってみた。
「分かったよ……。そのぉ、ブリュンヒルデ」
それを聞くとブリュンヒルデは嬉しそうにそこへ座り直すのであった。
「はい。蒼……さん?」
そして、探るような顔をして、ゆっくりと蒼に返事を返すのであった。
まぁ、仕方ないか……。
そう思いながら、蒼は嬉しそうに笑っているブリュンヒルデの顔を見つめるのであった。
翌日、蒼と姿の透明になったブリュンヒルデが学校に向かっていた。
家に、そのままブリュンヒルデを置いておけないが、さりとて、連れて行くのもブリュンヒルデには大変だなと思い、ブリュンヒルデに蒼は提案をした。
「学校に行かないでも、どこかで色々な場所に行くのは良いじゃない? 学校に行くのも大変だから……」
しかし、ブリュンヒルデは一言でそれを却下した。
理由は、それでは蒼と離れてしまうので、行きたくない。……という理由だった。
そうゆう蒼には嬉しすぎる訳で、今日も二人で学校に向かって居るのであった。
「なら、今日は学校終わってから、どこかに一緒に行こう!」嬉しくなってそう言ってみると、ブリュンヒルデが嬉しそうににっこり微笑むのだった。
学校へ向かう途中も、今日もラッキーな事は続いた。
学校へ行く道では、見たかった映画の券がタダで配っていたり、駅では、改札を通る瞬間落とした定期が今すぐ拾った綺麗なお姉さんが走って渡しに来てくれたり、まるで、今までの最悪な 運気が嘘のように、良いことが続くのだった。
その上、学校へも駅をおりると先生がついでに車に乗せてくれて、皆には羨ましがられるといった好転ぶりだった。
そんな今日も朝から運気の良い蒼は、早めについた教室でホームルームを待って、席に着いて居た。
考えて居るのは、学校帰りの行く場所をどうするか、どこがブリュンヒルデに楽しい所だろうか……と言う事だった。
「規則とかいう物のせいで、あまり何日も居れないだろうから……」
考えると、少し深刻になってしまうのだが、窓の外で宙に浮かんでこちらを見てるブリュンヒルデと目が合うと、とたんにそんな悪い考えは何処かへ吹っ飛んでしまうのだった。
「いかんいかん。彼女の楽しめる所だ……」
蒼が思い直して、放課後の行く場所に思いを巡らせた時だった。
「起立っ!」
教室に、朝のホームルームの担任が入ってきた。
教室がざわつき始めたが、蒼は考え事をしてたので、そちらを見ないで立っていた。
頭の中では、「少し別な駅で降りて、繁華街の方にも行けば楽しいのではないか……?」と、言う事だったので、まだ担任の顔を見ることも無かったのだ。どうせ、むさ苦しい歴史の男教師、聖徳 太志だったから。
着席の号令が掛かり蒼は席に座ると、そのむさ苦しい担任の聖徳が、連れて入ってきた人間を教壇の横に立たせた。
「おい、なんだ、転校生?」
「見て、凄い可愛いよ!」
「でも、なんだ外人か?目が青いよ……」
「ハーフとか言う選択肢あるのと違う?」
「でも、今頃転校生って時期外れでない?」
「先生! 彼女の電話番号教えて貰えますか~?」
「先生って、歴史の担任で〝聖徳”って安易過ぎない?」ー―ー―
すると、教室の中のざわつきが一遍に最高潮になり、次々に生徒は勝手な事を言い出すのであった。
蒼は、それで教室に誰か新しい人間が入って来たことを始めて知ったのだ。
「はい。皆、静かに~。幾ら私の名前が、『聖徳』だからって、一遍に言葉を発しないで下さーい。一つもまともに聞こえませんでした~。で、彼女は、今日転向してきた人で、外国から着たばっかりなので、皆さん仲良くして下さい。このあと、自己紹介して貰います」
転校生が着てるのか……?
蒼は男子生徒が立ち上がってるのでどんな人間なのか見えなかったが、取りあえず顔を上げて聞いてみようとした。
「ああ、あと、最後にサラッと先生の悪口を言った生徒が居たみたいなので、今日の授業はテストにするので宜しくです。では、自己紹介をお願いします。どうぞっ!」
そうむさ苦しい上に、悪口にテストを上乗せする”聖徳”の言葉に促されて、転校生が教壇の前で自己紹介を始めた。
「ええ~、始めまして。私の名前は『アテナ・グラウコーピス・ゼウス』と言います。ギリシャの学校から編入しました。皆さん、今日から宜しくお願いします」
その聞き覚えのある声を聞いて、蒼は直ぐさま席から立ち上がった。
窓の外を見ると、外に浮かんでいるブリュンヒルデも蒼を見て何事かを言っているのが見えていた。
そして、その転校生が蒼をじっと見て、少し笑ったように頭をちょこんと下げたのだ。
教室の皆が蒼を一斉に振り返った。
そこに、昨日フェンリルとの対決を一緒に戦ったアテナが、涼しい顔で笑っているのであった……。
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