第9話 最後の絵3
数日後、カミラから調査を終えたと連絡が来た。
俺はランチ営業を終えたフロシェオンに、カミラを呼び出した。
「ルキウス様。調査の結果が出ました」
「早かったな。どうだった?」
「まず、リリルの絵に関しては、マフィアが絡んでいます」
「はあ? またかよ。クソどもはどこにでも湧くな」
カミラはマフィアの秘書だが、俺の言葉を全く気にしていない様子だ。
コーヒーに、スプーン3杯の砂糖を量ったかのようにきっちりと入れている。
「どこの組織だ?」
「州都の独立系組織で、美術関連専門のマフィアです」
「美術専門のマフィアなんてあるのか。なんでもあるんだな」
「儲かるところには必ず姿を見せますから。どんな汚い手でも使います」
マフィア本人が言うのだから間違いないだろう。
「リリルの絵は確かに人気があります。ただし、オークションの1000万リアに関しては、不当に値段を吊り上げたようです」
「なるほどね。マフィアによるサクラ入札ってやつか」
「はい。それと驚くべきことに、リリル本人には報酬がほぼ支払われていないようです」
「なんだと?」
「さらに、リリルは病気を患ってます」
「病気?」
「目の病気です。このままだと失明するそうです」
「マ、マジかよ!」
「そのことが発覚して、悲劇の画家としてさらに価値を高めようとしたところ、病気の公表を嫌がったリリルが逃げ出したようです」
「蛆虫どもが……。もしかして、リリルは狙われているのか?」
「はい。ですので、全く別の地域にいると偽の情報を流しています。さらに今はうちの者が見張っています」
「そりゃよくやった。で、リリルの病気は治らないのか?」
「手術が必要です。ただ、医療費が非常に高額でした」
「いくらだ?」
「1000万リアです」
「なっ! そりゃ高えな」
有名な画家とはいえ、報酬を受け取っていないのであれば小娘が出せる金額ではない。
「そういえばリリルの奴、最後の絵と言っていたな。そういうことだったのか……」
「最後の絵、ですか?」
「今描いているティターニャ海の絵が、リリルにとっての最後の絵になる。その覚悟を持って、この地に来たんだろうよ」
もし、本当にリリルの最後の絵となれば、とんでもない価値だし、マフィアが血眼になって探すはずだ。
「なあ、絵ってのは作品単体ではなく、作者のドラマも価値に含まれることがあるんだろ?」
「そういったパターンもあります」
「自分の病気を知ったリリルが、最後に選んだ場所で最後の絵を描いた。すげー金額になりそうだな」
「マフィアの最高のシナリオとしては、リリルが最後の絵を描き終えて、病気を悲観して自死です。数千万どころの価値ではありません」
「よく分かるな」
「私もマフィアですから」
「てめえも大概クソだな」
「ありがとうございます」
カミラは気にせずコーヒーを口にした。
俺もカップを手に持つ。
コーヒーを飲みながらも、淡々と報告してきたカミラの表情をチラチラとうかがう。
「何か?」
「い、いや、その……。リリルの様子はどうだった?」
「ルキウス様の使いとお伝えすると、露骨に嫌そうな表情を浮かべていました」
「そうか……」
「しかし、ルキウス様の購入代金は受け取っています。恐らくですが、自分の絵が投機目的とされていることを嫌っているようです。リリル本人としては、適正な価格で販売して、鑑賞してもらいたいのでしょう」
「安くても鑑賞目的で買ってもらいたいということか」
俺は数日前からフロシェオンの壁にリリルの絵を飾っていた。
購入した5枚全部だ。
当初は金にしたい気持ちが強く、汚れないように保管していた。
だが、それよりもこの絵は、人に見られてこそ価値があると思い直していた。
こんな俺でも反省はする。
カミラが壁の絵を見つめていた。
「この店を見せれば、リリルも喜ぶのでは?」
「別にそういうつもりでやってんじゃねーよ。この店とこの絵は相性がいい。店の売り上げに貢献してくれるってもんだ」
「この店の売り上げは、ルキウス様に1リアも入らないのでは?」
「う、うるせーな!」
「私もたまにここへ来てもいいですか? さしずめここはリリルの美術館ですから」
「金さえ使ってくれれば構わん」
「ありがとうございます」
カミラがコーヒーを飲み干し、テーブルにメモを1枚置いた。
「ルキウス様、最後にお伝えしたいことがあります」
「なんだ?」
「カノース一家は、新たに探偵事務所を立ち上げました。今回は初回サービスで無料です。次回からは有料ですので、正規の料金をいただきます」
「カノースの探偵事務所?」
「今、金なんて払うつもりはないと考えましたね? 無駄ですよ。代表は私ですから」
「ソ、ソンナコト思ッテナイヨ」
「これからも良き関係で……。リリルは一週間ほど、私どもでしっかりと守りますのでご安心ください。コーヒー代は?」
「奢ってやるよ」
「ありがとうございます」
そう言い残し、カミラは颯爽と店を出た。
俺はカミラが残したメモを広げる。
「ちっ、サービスが行き届いてることで……」
メモには、リリルを狙っている州都のマフィアに関する情報が書かれていた。
俺がそのマフィアを潰すと思っているのだろう。
一週間もあれば全てに片がつく。




