第10話 メサイア
翌日、俺は明け方に家を出て馬車の準備をしに街まで向かった。
今頃ユメはメルを起こして身の回りの世話をしていると思うとなんだか微笑ましく思ってしまうな。
そして俺は目的地の場所までの賃金を払い、家の近くまで馬車を出してもらった。
「結構、出費痛いな…」
俺は3人の往復の金を払い終えるとくたくたになった財布の中身をみて嘆いた。軽く数日分の露店の売上が消えてしまい街に向かう前から少々後悔した…
家の近くまで行くと道脇に既に2人が待機していた。
ユメは相変わらずのメイド姿だったが、流石にメルにはブカブカの服を着せるわけにもいかず、明け方ユメが水魔法で服を洗濯すると破れた部分を応急措置で縫い合わせていた。彼女の手際と精度は相当なもので、昨日のボロ雑巾のような服とは思えないくらいの仕上がりだ。
そしてユメは馬車が近づいてくるとメルと手をつなぎながらこちらに笑顔で手を振っている。うん…楽しそうで何よりだ。
そのまま2人を馬車に乗せると大都市メサイアに向けて出発する。
馬車の騎手は中速度をキープしながら馬を走らせている。到着には数時間を要するそうだ。
座席は向かい合うようになっており、俺1人と向かい側に2人が座っている。
メルはユメの裾を握り俺にしきりに視線を送ると不安そうな表情を浮かべている。
微妙な空気が流れる中、俺はメルと会話を試みる。
「改めて自己紹介するぞ。俺はトーヤ、トーヤ・クラッジだ」
「…トーヤ?」
するとユメもその会話に割り込み笑顔で自己紹介をする。
「私は、ユメだよっ!ユメ・ブリーディング改めてよろしくねユメちゃん!」
「ユ…メ」
「そうそう、ユメお姉ちゃんって呼んでくれていいんだよっ!」
ユメが勝手な注文をつけると、それをコクコクと聞いたメルは答える。
「ユメ…ねーちゃん…?」
上目遣いで恐る恐るユメの目を見て答えるメルに彼女はたまらず抱きしめる。
「きゃー!!かわいーー!」
メルはなすすべなくユメの胸元に吸い寄せられていく。それを目の前で見せられていた俺は口を開く。
「おい、ユメ!メルが苦しそうだ…変わりに俺が変わるから離してやれよ」
俺はメルの危機を察知して身代わりになろうと提案する。
「あっ…すみません。メルちゃん…大丈夫だった…」
解放されたメルはジト目で答える。
「いい…香りがした…」
「ほら、苦しくてお花畑の香りまでしてるじゃねぇか。メル…後は俺に任せておけ」
俺が席を立ち上がろうとするとユメは目を閉じながら笑顔で答えた。
「トーヤさん、怒りますよ?」
「ごめんなさい…」
「?」
俺は暫く馬車から見える景色を横目で見ていたが、ふとメルに確認したいことがあったため視線を映す。
メルはユメに渡されたお手玉で一緒に遊んで時間を潰していた。
「なあ、メル…お前ってどうしてあそこで捕まっていたんだ?」
するとお手玉をする手が止まり俺の方を向く。
「わか…らない。きづいたら…あそこ…に…いた」
「記憶がないってことか?」
するとメルは無言で頷き、悲しい表情を浮かべる。ユメはそんなメルをじっと見つめていた。
俺はそんなメルの姿に居た堪れなくなりまた窓の方に視線を戻し答えた。
「そうか…ならいい…ごめんな、お前も不安なのに変なこと聞いちまったな」
3人はそれから到着するまで無言だった。
そして暫くして大都市メサイアに馬車は到着した。
騎手に合流時間を伝えると先に降りた2人の所に向かった。
「待たせたな、じゃあいこう」
そして俺達は街の門をくぐる。 するとそこは広大な石畳に覆われ、その長さは視界では見えないほど先に続いている。
立ち並ぶ民家や店もいつもの街とは比べものにならない程に立派で、様々なデザインを用した色合いや個性を強調している。
周りには等間隔で街灯が敷き詰められ夜になると灯りが通り美しい景観を引き立てる。
屋根と屋根の間にはロープが張り巡らされこの街のシンボルである垂れ幕がそこら中に下ろされており、気持ちよさそうになびいていた。そしてなんといってもこの街はその人口密度にある。
「ひと…いっぱい…」
メルはまるで現実のテーマパークに来た子供のようにユメと手を繋ぎながら辺りをキョロキョロと見回している。
「いつ来てもお祭りみたいな活気がありますね」
ユメもその街の活気に一喜一憂している。
ここのエリアは居住区、商業区が立ち並び一番栄えている場所だ。まず初めて訪れた人間はその情景に言葉を失い、立ち尽くす程だ。
「じゃあ、早速メルちゃんの服を見繕いに行きましょう!!」
3人は歩き出すとユメが先導しながら答えた。
早速お目当ての服屋に入るやいなや、ユメはメルを引っ張りあれやこれやと試着させテンションを上げながらキャーキャー云っていた。
メルはまるでお人形さんのようになすすべなく服をとっかえひっかえさせられている。
俺はというととうにお役御免で自分の買い物を済ませた後はただ無限に続くような待ち時間に明け暮れていた。
そして、暫くしてユメが両手にいっぱいの袋を抱えて戻ってきた。メルはというと早速新しい服を着ている。
「すみませんトーヤさん…メルちゃん、素材がいいから何でも似合うから迷っちゃって…」
俺はメルの方を見て確かに今なら何処ぞやのお嬢様に引けをとらないようなフリルのコーディネートであり、流石元々メイドなこともあって美的センスの光るユメの仕立てだった。
まあ、当の本人はというと着慣れない服装に少し歩きづらそうにしていたが…
「とりあえず飯にしないか?」
そんな俺の提案にユメは賛成した。
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大都市メサイア
人口80万人を超える大規模な都市でこの世界の大国の一つ。
特に人種間の差別も少ないため治安がよい国でもある。
国の中心部には権力者達が集っており、一人一人の力が小さな街や村を動かせるほどである。
トーヤ達も物資調達のため、たまに立ち寄ることがある。




