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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第一章 僕は姉さんと関わりたくない
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8.アイビーはぼったくられる

 そもそも、はぐれてしまったクローは僕の姉ではない。

 身分を隠す上で、渋々姉妹のフリをしているのだが……。


「んむぅ、見えますねぇ。これはお嬢さんが探し人に会える未来の光景ですぅ」


 胡散臭い占い師はそう言って閉じていた。目を開けた。


「クローは……姉はどこにいますか? どこへ行けば会えますか?」

「動いてはダメですぅ」

「え?」

「ここにいなきゃですぅ。お姉様の方も、お嬢さんを探してますぅ」

「本当ですか?」

「お姉様も、ひとりで寂しいから早く会いたいって思ってますぅ」

「本当にここで待ってれば会えるんですか?」

「大丈夫ですぅ。すぐに会えますぅ」


 そこまで言うと、ティオーラは顔をあげた。


「はい、終わり」

「え?」

「お代は五千ステム」

「嘘ですよね?」


 ぼったくりだ。

 間違いない。

 これはぼったくりというやつだ。

 初めて見た。


「占いって、カードとか水晶を使うんじゃないんですか?」

「私は使わないですぅ。《天眼鼠》とお酒があれば、なんでも探せますしぃ」

「それです! 何よりそれが問題です!」


 僕はビシっとティオーラを指差した。


「こんなにお酒臭い占い師なんていませんよ。あなた、ただの酔っ払いじゃないですか」

「んむぅ! そんな言い方ひどいですぅ」


 ティオーラは、キッと僕を睨みつける。


「酒の力を借りて生きているだけですぅ!」

「ダメじゃないですか」

「そうまでして働いてるんですぅ! 勤勉の鑑ですぅ!」

「勤勉と真逆ですよ。昼間っからお酒飲んでる人が偉そうに何言ってるんですか」

「あのですねぇ」


 ティオーラは、軽くため息をついてやれやれとでも言うように首を振った。


「お酒ってのは、無敵なんですよぅ?」

「ああ、駄目な大人だ」

「私の人生色々あって決意したんですぅ。これからはお酒に頼って生きて行こうって」

「それは決意ではなく堕落です」


 どうやったらこんな風になるんだ。

 一体何が人間をここまで堕としてしまうんだ。


「いちいちうるさい子ですぅ。そんなに言うなら、おまけで色々見てあげますよぅ」


 飲んだくれの占い師は、スッと目を細めると「お嬢さん――尊敬している人がいますねぇ」と呟いた。


 尊敬している人……。

 僕が世界一、尊敬している人。それは父さん以外考えられない。


 ティオーラは今度は目を見開き、僕の顔をマジマジと見つめる。

 どんよりと濁っていた琥珀色の瞳に、鋭い光が宿る。


「自分の事を認めて欲しいと思っている……いつか横に並びたい、でも、自分の力が足りない、その事に悩んでいる……」

「そんなの、誰にでも当てはまる事じゃ――」

「その瞳に浮かぶのは『恐れ』ですぅ」


 僕の言葉に被せるように、ティオーラは続ける。


「お嬢さんは信じてないんですぅ、相手の事。真っ直ぐな言葉をそのまま受け取っていいのか疑っている――だからそんなに怯えているんですぅ」


『信じていない』


 その言葉は、僕の心の深い所をえぐった。

 そうだ。

 屋敷を出てから、僕はずっと父さんの言葉を疑っていた。

 姉が十九人もいるだなんて、そんな荒唐無稽な事がありえるだろうか。


 もしも嘘だったら? 

 なぜ?

 何のために? 


 それは――もしかして、僕を屋敷から追い出すためなのではないか。


 黄金の輝きを引き継がなかった、黒い瞳の息子。

 跡継ぎにふさわしくない僕をどこか遠くへやるために、あんな嘘をついたのではないか。


「……僕……ヤドリ草の《植え付け》をしてから、ふた月以上経つんです」


 抑えていたものがこぼれ落ちるように、溜め込んでいた不安が、言葉となって溢れ出す。


「本当は、とっくに発芽しても良いはずなんです……もしかしたら、僕はヤドリ草を使えるほどの魔力がないのかもしれなくて」

「魔力量は個人差がありますぅ。そこはしょうがないですよぅ」


 ヤドリ草は宿主の魔力を糧にする。

 魔力が少なければヤドリ術を使うのは無理だろう。


「別に珍しい話じゃないですぅ。ヤドリ術を使えない人なんて、たくさんいるんじゃ――」

「それじゃダメなんだ! それじゃ僕は父さんの跡を継げない!」


 あの父さんの跡継ぎだ。

 ヤドリ術を使えないなんて事、あっていいはずがない。


「もしかしたら、本当に、父さんは僕を切り捨てるために旅に出したのかも……」

「考え過ぎじゃないですかぁ?」

「もういいです!」


 僕は席を立って、彼女の言葉を遮った。


「酔っ払いの言葉なんて、聞きたくありません」

「お嬢さん、大切な言葉を教えてあげますぅ」


 占い師は真面目な顔をして、僕を見つめた。


「酒と批判は浴びる方が成長しますぅ」

「そんなわけあるかっ!」


 名言っぽく言われたけど、全然響かない。

 むしろ腹が立つ。


 僕が気色ばんだその時だった。

 何やら僕の真横から殺気に満ちた視線を感じた。

 恐る恐るそちらに目をやると――


「……あ」


 そこにいたのは、クローだった。


 護衛対象を見失って大いに慌て、あたりを探し回った挙句、広場で酔っ払いと言い争いをしている僕を発見し、疲労と憤怒を隠す事もせず、むしろこの怒りをどうぶつけてやろうかと思案している――そんな剣士が薄笑いを浮かべて立っていたのだった。

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