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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第五章 僕はわがままを聞きたくない
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10.ストレツィアはやり直す

「ツィー姉さん、襲撃から逃げ延びたのは何人だったんですか?」


 僕に背を向けたまま、ツィー姉さんは答えた。


「わかるでしょう? ()()()()


(ああ……やっぱり)

 

 僕はグッと目をつぶる。

 そう言う事だったのか。


「アキレアはジャルダン学園の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼なりの償いだったのかもしれないわね。家族を失ってしまった私たちへの」


 父さんは言っていた。

 母さんの子供は僕だけだと。

 僕の十九人の姉さん達。

 それは、全てジャルダン学園の元生徒。

 生き残りの十九人だったのだ。


「僕、父さんがその……いろんな女性と親密になって子供をもうけたのかと思ってました」

「違うわ。アキレアは、あなたの母親……へデラ先生を愛していたみたいだから」

「へデラ先生?」

「あなたの母親はね、元々は学園の前身である孤児院の先生だったのよ」

「そうだったんですか……」


 母さんの事を思い出そうとしても、頭に浮かぶのは、額縁の中で微笑む肖像画の姿だ。


「本当にあなたって、ぬくぬくと愛されて育ったって感じよね」


 初めて会った時、ツィー姉さんは僕の事を憎しみのこもった目で見つめていた。

 その時の顔が頭に浮かぶ。

 今、目の前にいる姉さんは僕に背を向けていて、表情を窺い知ることは出来ない。

 けれど、その声には、明らかな敵意が込められていた。


「私達は守ってもらえなかったのに、あなたは守ってもらえた。ねえ。アキレアが作った学園が襲われたというのに、どうしてアキレア本人が私達を守れなかったかわかる?」


「ツィー、それは――」とクローが姉さんに声をかける。

 けれどツィー姉さんは「あなたは黙っていて」と首を振った。


「あの日……七年前のあの日。五歳だったあなたとあなたの母へデラ先生はね。出かけた先で、何者かに()()()()()()()()


 思いもよらない言葉に、僕は絶句する。


(……あん…さつ……?)


「その時、へデラ先生は命を落とした。そしてあなたも殺されかけた。その場に駆けつけたアキレアは、あなたの命を守るのに手一杯だった。その隙をついて、ジャルダン学園が襲撃されたのよ」

「そんな……」


 そんな話、父さんからは聞いた事がなかった。

 母さんが亡くなったのは、不幸な事故としか聞いてなかった。


「おそらく、あなた達親子を襲ったのも、反ヤドリ主義の一派だったんでしょうけど。結局捕まらなかったらしいわ」


 そう言うと姉さんは、僕に向かって石のような物を投げつけて来た。


「こんなもの、私はいらない。あなたにあげるわ」


 それは、黄金に煌めく石だった。

 ティオーラ姉さん、フラン姉さん、キョウ姉さん、そしてアリウム姉さんから受け取った物と同じ、黄金の欠片。

 勇者アキレアの子供である証。


「私は、アキレアの家族なんかじゃない。私の家族はここにいるんだから」


 今になって僕は気がつく。

 ツィー姉さんは、父さんの事を「アキレア」と名前で呼び続けているのだ。


「……本当に、僕がもらってしまっても……」

「いいって言ってるでしょ」


 姉さんは、膝に乗せていたユーリの頭をそっと撫でた。


「守ってくれなかったアキレアも、逃げたティオーラも、隠れていたフランも、役に立たないキョウも、分かり合えないアリウムも、そばにいてくれないクローも、みんなみんな、家族なんかじゃない」


 だんだんと小さくなる姉さんの声とは対照的に、姿の見えない鳥の声はどんどんと大きく重なっていく。


「私の家族は、ここジャルダン学園にいるみんなだけなの。そばにいてくれる人だけなの」


――ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ


 鳥の声がうるさい。


「家族って、そういうものでしょう」


 僕は姉さんが言ってた言葉を思い出す。


『アイビーも幼い子供だったから仕方がないわ。可哀想なのはあなたも同じよね。だからあなたのせいではないわ、私が捨てられたのは』


 あの時は、姉さんの言葉の意味をわかっていなかった。

 僕を貶めて、男子生徒からチヤホヤしてもらいたいのかと思ってた。


 でも、違ったのだ。

 あれはきっと姉さんの本心なのだと思う。

 ツィー姉さんはよろけるように立ち上がった。


「……ねえ、私困っちゃった。ケンドー先生のレポート、再提出になったの。もう何度やり直したかわからないわ。何度やってもうまくいかないの。

私一人じゃ無理かもしれない……」


 姉さんの細い指が、何かを掴もうと動いた。


「私独りじゃ無理かもしれない……」


 それに応えるように、鳥の声がぎゃあぎゃあと響き渡る。

 姉さんのすすり泣きは、その声にかき消されて、鈍色の空に散って行った。

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