10.アリウムは英雄を作る
村人達が帰った後も僕は呆然としていた。
(戦争のために英雄を作ろうとした姉さん……だけど、そもそも何のために『アンデッド』の研究なんかしているんだ? 英雄を作る事と何の関係があるんだ?)
まさか、アンデッドを兵士として使おうとでも言うのだろうか。
僕は静かに姉さんに語りかけた。
「どこか、違和感はあったんです。姉さんは僕達を迎え入れた時『よく来た弟君』と言いました。初対面の僕を弟だと見抜いた。それはもしかして、この村のあちこちに、音を聞いたり姿を見る事が出来るヤドリ器が隠されているんじゃないですか?」
「おお! よくわかったね! まだ開発途中の『監視システム』ってやつなんだがな! 《鏡草》の特性を応用したものだよ!」
「それで僕らの会話を盗み聞き出来たんですね」
配達員のバンクシアがやって来た時、ティオーラ姉さんが『こちらが妹だと名乗る前から知っているなんて』と言っていた。
バンクシアやコワニー達は、おそらく噂話でそれを知り得たのだろう。
けれど、アリウム姉さんは?
僕らが来るまでずっと家にこもっていたアリウム姉さんは、どうやって僕らの事を知ったんだ?
たとえ誰か村人が、わざわざアリウム姉さんの家を訪ねて知らせたとしても『妹が来た』と伝えるはずだ。
『弟』ではない。
父さんとの連絡をたったアリウム姉さんが、村に訪ねてきたのが『弟』だと知り得る術はないはずなのだ。
そんな疑問を抱いた時だった。
僕の身体を『彼』が乗っ取った。
自由のきかなくなった僕に向かって、僕の口を使って『彼』は言った。
『夜になったら、アリウムを尾けろ。それでだいたいの事がわかるはずだ。まったく』と。
そう言って『彼』はすぐに消えた。
その言葉の通り、僕らは採取に出かけた姉さんの後を追い、そして墓をあばく所を見てしまったのだ。
ふと、アリウム姉さんに目をやると、ゴーグルを頭から外し、内側についているネジをクルクルと外している。
「……姉さん?」
「ほら、弟君。これを渡しておこう!」
ネジを外すと、そこには小さな石が隠すようにしまわれていた。
「それ、もしかして……」
「そうさ、アキレアの子である証の石さ! なくさないようにここにしまっておいたんだよ!」
僕は、四つ目となるその石をそっと受け取った。
「姉さん、英雄を作る研究って……実際は何をするんですか? どうして墓を暴いてまでアンデッドの研究にこだわっているんですか?」
「うん、そうだね! わかりやすくいうとだね」
僕は受け取った石をぎゅっと握りしめる。
姉さんの答えを聞くのが怖かった。
「ウチはね、人間に人間を寄生させる研究を行っているんだ!」
「……人間を寄生?」
「そうだ! ウチは、命のスペアを作ろうとしてるんだよ!」
ずっと黙っていたクローが、「アリウム……それは……」と動揺した声を発した。
「冒険をしていれば、戦争に加われば、あっという間に死んでしまう! だろう? でも命のスペアがいくつもあったら?『ああ、一回死んだ。でもまだ命が二個残ってる』そう思えないかい? そうすれば、危険を顧みず勇敢な行動をとれる。他人のために命をかけられる。英雄的な行動を取れるんだよ!」
「そんな……スペアなんて、そんな事できるわけが」
「できるんだよ!」
姉さんは、ぐいっと《小箱猫》の腰を掴み、自分の前に押し出した。
ヤドリ獣に乗っ取られた彼。
コバという名前は、彼の名前ではなく、ヤドリの名前だったのだ。
生前から家族のように暮らしていたから、《アンデッド》のように人に襲いかかる事もないと姉さんは言っていた。
僕はぼんやりと、この家を訪れた時に聞いた、姉さんの言葉を思い出す。
ーー彼はコバ。家族みたいなものさ。
(あれは……あの言葉は、姉さんの家族という意味ではなかったんだ……宿主の家族みたいなもの、という事だったんだ)
「よく考えてみてくれ! ヤドリ獣は? あれは身体にもう一つ命を宿しているようなものじゃないか?」
「……でも、人が死んだらヤドリ獣に身体を乗っ取られる可能性があるんですよね? それは命のスペアなんかじゃなくて、ただ成り代わられただけなんじゃ――」
「だったら、人間に、人間を植え付けてみたらどうなる?」
(……にんげん?)
「人間にヤドリ獣を植え付けるから、死んだ時にアンデッド化してしまう。でも、人を植え付ける事に成功すれば、不死の人間、まさに英雄を作る事が出来ると思わないか!」
姉さんは、ウヒェイッと笑う。
「ティオーラ! 君だって思った事があるはずだ! 大切な人に、命のスペアがあれば良かったのに、と」
ティオーラ姉さんはそう言われて、まるで殴られたような顔をした。
「クローだってそうだろう? 永遠の命があればいくらでも無謀な事が出来たのに、と」
クローは、悲しげな目でアリウム姉さんを見つめている。
「ウチの研究は、人のためになる。そのはずなんだ!」
ウヒェイッ、ウヒェイッ、ウヒェイッ。
姉さんの笑い声は止まらない。
「寄せ集めの兵士よりは、全員が武力に優れ、ヤドリ術を使えた方がいいだろう! ウチの研究によって、ヤドリ器と命のスペアを持った英雄に、誰もがなれるんだ! それがどういうことかわかるかい!」
——石を割り、岩を砕き、木を倒す――
「腕力のない人でも、僕の発明の力を借りてなんでも出来るようになるんだ」
——女性や年寄りでも、力のある男性がやっている仕事をできるようになる――
「つまり、誰でも戦争に優秀な兵士として参加できるんだ!」
——そうすれば、生活がもっと豊かになる。そうだろう――
「武勲をたてて、褒賞をもらえる。そうすればどんどんと豊かになる!」
——たとえ才能がなかったとしても、努力によりそれをカバーできる、そんな未来を――
「ウチの発明で、人々は英雄に変身出来るんだよ!」
翌日、僕らは追い出されるようにして、インディゴ村を発つことになった。




