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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第四章 僕は扉を開けたくない
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1.アリウムは村で暮らす

 扉が開いた。

 そこには小柄な女性が立っていた。


 ピョコリと寝癖の立った頭にゴーグルを被り、農作業中の村人のような簡素な服に身を包んでいる。

 湿った土の匂いがふわりと漂った。


 この人が、僕の十九人の姉さんのうちの一人、アリウム姉さんだ。


 『守り人の村』インディゴ。

 南側は農地が広がり、小川の水音が耳に心地良い。のどかな村の奥まった土地に、アリウム姉さんの家はひっそりと佇んでいた。


 と言っても、その家から出てきた姉さん本人に『ひっそり』という印象は全くなかった。


「いやいやいやいや! よく来た弟よ! それからクローにティオーラ! 久しぶりじゃないか!」


 僕らを家の中に招き入れたアリウム姉さんは、早口でそう言って手を振り回し、積み上げてあった本の山を二つ程崩した。

 小規模な雪崩を気にする様子も見せず、白茶色の寝癖をピコピコと揺らす。


「申し訳ない! 散らかっている所に伯爵家の跡取りを招き入れるなんてね! まあその辺に座ってくれ!」


(その辺……と言われてもなぁ)


 姉さんの家は、文字通り物で溢れていた。

 片側の壁に並んだ本棚には何かの専門書が詰め込まれていて、そこに収まらなかった本が床に積み上げられている。

 もう片方の壁には薬品棚だろうか。

 天井からは、干した植物や骨がぶら下がっていた。


 そして、陽の差し込む窓際に目を向けると、大柄な男性が座っていた。


「あ、えっと……お邪魔します」


 そう言って僕はペコリとお辞儀をした。

 雑多なものがぎゅうぎゅうに詰め込まれた部屋に、彼の大きな身体がスポッと収まっている。

 まるでパズルみたいだ。


 灰色の髪の毛の隙間から、透き通った緑の瞳がのぞいている。

 彼は僕らの方を横目で見ると、大きなあくびをしてそのまま何も言わずに膝を抱えた。


「彼はコバ。家族みたいなもんさ」


 アリウム姉さんはそう言って奥の部屋へと姿を消した。


 乾燥させた植物を編んだシートの様な物の下から、座れそうな椅子を発掘し、僕らはその上に腰を下ろした。


「悪いなティオーラ! ウチは酒を飲まないんでね! お茶でかまわないかな!」


 奥の部屋からガチャンガチャンと音をたてながら、アリウム姉さんがお茶を運んで来た。


「お気遣いなくですぅ。あたしは自前のがありますぅ」

「姉さん、その酒瓶はしまおっか」


 僕は冷たい視線をティオーラ姉さんに向ける。

 アリウム姉さんは気にした様子もなく明るく笑う。


「そうかそうか! だったらつまみでも用意すれば良かったな!」

「いえいえ、私は人生を肴に酒が飲めますのでぇ――」

「お願いだからお茶を飲んで」


 このままだと酒盛りを始めかねない。

 ティオーラ姉さんは僕をチラリと見てやれやれと肩をすくめる。


(やれやれはこっちの台詞だ!)


「それにしても、村の方々から随分と信頼されてるみたいですな、アリウム先生」


 出されたお茶を飲み、その苦さに顔をしかめながらクローがからかうように言った。

 アリウム姉さんはワタワタと慌てながら頭をかく。


「ちょっとクローやめてくれ! 君から先生なんて呼ばれるなんて!」

「村の人達も言ってました! アリウム姉さんは優秀な発明家なんだって」


 僕の言葉に、姉さんは「いやいやいや、優秀なんてそんな!」とさらに慌てふためく。


 ティオーラ姉さんの《天眼鼠》達によってアリウム姉さんの所在を知った僕らは、馬車を乗り継ぎ、悪路を歩いてインディゴ村にたどり着いた。


 辺境の地では余所者は目立ってしまう。

 訝しげにこちらを伺う村人達に、恐る恐るアリウム姉さんの名前を出すと、彼らは途端に顔を輝かせて姉さんの家を教えてくれた。


 姉さんの事を『アリウム先生』と呼ぶ村の人達は皆どこか誇らしげだった。


「凄い研究をたくさんしてるって聞きましたけど……えっと、なんだっけ?」


「確か『ヤドリ器』でしたかな?」とクローが首を傾げる。

 すると、姉さんは突然前のめりになる。

 置かれたカップがガチャリと音をたてる。


「いやいやいやいや、聞いたかい、『ヤドリ器』の話。そうさ! ウチはここで『ヤドリ器』を研究したり、村人の手伝いをしたり、ゆったりのんびりスローライフを送ってるワケだ!」

「スローライフ……ですか?」

「そうさ! 畑を耕し水をやり、採集と研究に明け暮れる日々。あ! そのお茶もウチが育てた茶葉なのだよ!」


 ウヒェイっと変な笑い声をたててアリウム姉さんは首を傾げた。


(……そもそもだけど、『ヤドリ器』ってなんだろう)


「『ヤドリ器』ってのはだねぇ!」


 僕の心を読んだのか、姉さんは嬉しそうに言葉を続ける。


「誰でもヤドリ術を使えるようになるアイテムなのだよ!」

「……え? どういう事ですか?」

「まあ、見てもらうのが一番手っ取り早いだろうな! そら、これだよ!」


 そう言って、姉さんはゴソゴソと棚を漁り、小さなロッドを取り出した。


「ほら、これを見てくれ! ウチが作ったヤドリ器なんだが――」

「ああ!」


 姉さんの手元を見て、僕は思わず大声をあげた。

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