めざせ家族団欒
私誘拐未遂事件からはや2年。私も多少動けるようになったし、言葉も話せるようになってきた。賢い早い等と言われているが、あの時レベル上げなきゃ死ぬじゃんっていうのと、この家族早く何とかしないと、とかなり深刻に感じたので、一般的な赤ちゃんの成長に合わせてられるか!と頑張った結果である。
ちなみに自分で自信を持って言うが、家族や使用人含め、みんな私に甘いので、食事はみんなで食べたいな、と言った私のわがままにより家族顔を合わせて食べるようになってから数日目、パパがおもむろに口にしたその言葉にユーリスが眉をひそめた。
「向こうから写真も届いたから見るだけでもみてみろ。」
「こんな僕に嫁ぎたいなんて子が居るはずないだろ。」
婚約者候補をどうするかとの話題である。
本人に意見を聞くところを見ると強制的ではないようだけど、そう言って自分の身体に目線を落とした兄。ママはこれについてどう思っているのか、と隣のママを見ると、何の話か分からなかったと思われたのか、お兄様のおよめさんの話よ、と柔らかく教えてくれたところで、さらに凍った空気を私が何とかしなくちゃ!とばっと両手を上げた。
「だめーーー!」
「「!?」」
「おにいさまとけっこんするのはわたしだもん!」
むっと頬を膨らませ、可愛い顔をつくってパパをみる。パパは何故かショックを受けたような顔をしているが、きっと私しか気づいてはいない。
「ふふ、ハルティナは本当にお兄様がだいすきね。」
「うん、だいすき!」
「ハルティナ…」
「んとね、パパがつかれたら、おにいさまがこうたいしなくちゃいけないでしょ?そしたらわたしがおにいさまをてつだうの!」
いまママと一生懸命勉強してるんだ、と誇らしげに伝えると、食べ終わった食器をメイドさんたちが微笑ましい顔をしてかたづけてくれて、先程凍った空気も何とか温まったようだ。
「ハルティナ。」
私専用に作られたのであろう快適な椅子の隣で、ユーリスがにっこりと両手を上げた。
その両手に捕まるように彼の腕の中におさまり抱っこされ、機嫌の良さそうなユーリスに身を預けた。
「グレン公爵、僕も婚約者はハルティナがいいです。」
「なっ!」
「婿養子として貰えれば問題ないでしょう。」
な、ハルティナ?といい笑顔の兄にうなづいておく。ユーリスはシスコンになりつつあるけど、歳を取れば落ち着くだろう。
それに、最近ユーリスが読み聞かせをしてくれる際、感じることがあるんだけど、この子多分すごく頭がいい。私がする質問にママよりスムーズに分かりやすく返してくれるのだ。暇な時間は本を読んでいたということから、知識が豊富にあるのだろう。
なので、将来ユーリスがこの家を継ぐ事にまったく異論はない。ただ、賢いせいでやらなくていい勉強をサボって、怠け者と思われているし、剣術体術もやればきっとできるんだろうけど、だからこそやるのがつまらないと思っていそうだ。
油断したら死ぬかもしれない世界である。強いに越したことはないんだけど、どうにかして兄をやる気にさせられないだろうか。
ちらりとパパを見るとなんだかしょんぼりしているように見えて、ハッと思いたつ。
シスコンを利用しようと。
「でもパパが1番すきだよ!」
「「!?」」
「1番つよいから!」
「いちばん…つよい…?」
私の観察眼によると、この屋敷で1番レベルが高いのは執事のカルロスなんだけど、ニコニコしてるから大丈夫だろう。
その次にレベルが高いのがパパで、持ってるスキルとかで強さも変わると思うけど、ユーリスよりは圧倒的に上であることは確実だし。
私が強い人が好きであるという概念をうえつけられたユーリスと、それをよしとしたパパによる、オレに勝てたら娘をやってもいいの戦いが幕を開けたのである。