妹
妹…。
そう言われると、納得出来る。だって、髪の色と瞳の色が同じなのだ。二人共、月光を帯びているかのような淡い金髪に、アクアマリン色の瞳をしている。
なんで、私、その事に気がつかなかったかなぁ。
でも、顔立ちが違うから、気がつかないのも仕方がないかなー。フィオ様はキレイ系だけど、ナーディアちゃんは可愛い系だもんね。
そっかー、妹かー。
「それで、ナーディア、お前は何しにここに来たんだ?」
「まあ!お兄様ったら怖い!『お前』なんて言わないで下さいまし」
「あっ!すまない」
フィオ様ったら、そこで素直に謝っちゃうんですね。
「って、そうじゃない!!『何しにここに来たんだ?』って聞いてるんだ!」
「あら?そうでしたわね。お兄様がいつまで経ってもこちらに連れて来て下さらないから、とうとう自分で来る事にしましたの」
ナーディアちゃんはそう言うと、『ウフッ』と可愛らしく笑った。その仕草、美少女がやると、とても可愛いね!いーなー。
「あのな〜、まだダメだって何回も言っただろう!」
「でも〜〜〜」
ナーディアちゃんがフィオ様を見上げてお目々をウルウルさせている。
「そんな顔をしても無駄だぞ!私には効かん!!」
「え〜〜〜」
フィオ様に一刀両断されたナーディアちゃんは不満顔だ。でも、そんな顔でも可愛いって、ずるいよね。
「ナーディア、今回の事で、どれだけの人に迷惑をかけたのか分かるか?」
「…分かりませんわ」
「はぁ〜、何か言う事は?」
「……………ごめんなさい……」
フィオ様は再び『はぁ〜』とため息をつくと、『もう良いよ』と優しく笑った。そして、ナーディアちゃんの頭を優しくポンポンと叩いた。
「うぅ〜〜、でもでも!わたくし、あのオバさんよりは周りの方に迷惑をかけてないと思うわ!!」
「ナーディア!!こらっ!滅多な事を言うものじゃないぞ!」
「…はぁ〜い」
ナーディアちゃんはやや不満そうに返事をすると、『でも、お兄様もそう思うでしょう?』と小首を傾げた。
ー『あのオバさん』?って、誰だろう?身近に、そんなに周りに迷惑をかける人がいるなんて、二人共大変なんだなー。
「…黙秘する」
フィオ様は、ナーディアちゃんの『お兄様もそう思うでしょう?』の質問に黙秘権を行使した。この国にも黙秘権があるかは分からないけれどねー。
「フフっ。沈黙は時として、答えを雄弁に語るものですわよ?」
「私は何も言ってはないぞ?」
「はいはい、そうですわね。フフフ」
フィオ様はそんなナーディアちゃんに『やれやれ』と言わんばかりに肩をすくめてみせた。そして、その後に手を差し出した。
「ここに来たのだから、気は済んだだろう?もう帰るぞ」
ーあれ?そう言えば、兄妹なのに同じ家に住んでないんだなー。フィオ様が独り立ちしたのかな?それとも、ナーディアちゃんがどこかにお嫁に行ったのかな?この国なら、16歳で結婚してても普通だもんなー。
私がそんな事を考えていると、ナーディアちゃんが腰に手を当てて、こう言い放った。
「まだ終わってませんわ!!」
「まだ何かあるのか?」
「ええ、わたくし、こちらに新しく入ったというメイドを見に来ましたの」
ーはっ!?私、ですか??
突然のご指名に、私は目を瞬いた。
ー新しく入ったっていうメイドって、他に誰かいたかな…?いや、やっぱりいない…。私が一番新しい…。
「何故だ?」
「あら、わたくしが前に扇子をあげたからですわ」
「…なるほど…」
ーええっ!?『なるほど』なんですか!?何が『なるほど』なんですか!?そんな理由で納得しちゃうんですか!?
私が人知れず慄いていると、麗しの兄妹が私の方を見てきた。
ーひ、ひえぇぇぇぇ〜!!誰か、お助けをーーーーーー!!
そう願うけれど、このお屋敷においてフィオ様に逆らえる者はおらず。すると、必然的にフィオ様の妹であるナーディアちゃんにも逆らる者はおらず…。
ーああ、無情…。
今の気分は、市場に売られていく仔牛の気分だ。ドナドナドナドナドナドナ…。




