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扇子の数は?

「いえ、1つあれば十分ですから。そのレースの扇子と羽の扇子もどちらかで良いですよ?」


『勿体無いですからね』と私が言うと、フィオ様は焦った声を出した。


「いやっ、それは困る。じゃないと、妹に怒られる」


そう言った後、落ち着きを取り戻したのか、しつかりした声で私に告げる。


「それに、2つ貰って貰えないなら、もう1つは捨てるしかなくなるが」

「えっ!?捨てちゃうんですか!勿体無いです!」

「では、貰ってくれるな?」


フィオ様がニッコリ笑って言ってきた。その笑顔には、私を威圧するような威圧感があった。


「う、ううぅ……。分かりました。2つ頂きます…」

「いや、5つで」

「えーーー。だから、5つも要りませんよ?」

「では、4つで」

「多いです」

「うっ…。では、3つで」

「うーん。3つでも多いと思いますよ?」

「だが、2つでは、妹からの物だけではないか」

「そうですね〜」


私は頷いた。正直に言うと、フィオ様の和風な扇子にはすごく惹かれている。けど、2つも頂いてるのに、更に頂くというのは気が引けるのだ。


「それはダメだ!せめて1つだけでも受け取ってほしい」

「うーん。有り難いお申し出ではあるのですけど…」

「どうしてもダメか?なぜダメなんだ?」


言葉を濁しているからか、フィオ様に理由を聞かれた。


「あの、この扇子って、私が『ほしい』と言ったから、下さるのですよね?」

「そうだ」

「他の人にはこういった事はされるのですか?」

「……しないな。オルランドやアンナにはあるが…」

「そうですか。分かりました」

「何か問題でも?」

「問題大有りです!これでは、特別扱いではありませんか!」


私は腰に手を当てて、更に続けていく。


「良いですか?働いていく上で、人間関係っていうのは重要なんです!なのに、この様な特別扱いを受けたら、他の人に妬まれたりするんですよ!」

「はあ」

「幸い、このお屋敷の皆さんは、全員その様な事をしない良い人達ですけれど、私が特別扱いされて面白くない思いをする人だっているかもしれません!」

「な、なるほど。では、どうしたら良い?」

「そうですね〜」


解決策を考えてみるけど、私がこれ以上扇子を受け取らないっていう案はきっと採用されないだろう。私としても、これ以上フィオ様のお申し出を拒む事はしたくない。

だって、フィオ様の心遣いを無下にするって事だもんね。勿体無いからと拒否して申し訳なかったかな…。でも、そんなにたくさんは要らないし、特別扱いは困るしな〜。

そうだ!特別扱いが困るなら、特別じゃなくなれば良いんじゃないかな?要は、『木を隠すなら森の中だ』だ。


「使用人全員に特別給金をあげたり、差し入れをしたりっていうのはどうでしょうか?あと、使用人の為にパーティーを開くっていうのも良いかと思います」

「なるほど!それは良い考えだ。後でオルランドに相談してみよう」

「は〜、お役に立てて良かったです」


渡してが胸をなで下ろしていると、フィオ様がニヤリと笑った。


「これで、問題は解決したな。では、私からも扇子を受け取ってくれるな?」

「はい、ありがとうございます。有り難く頂きます。でも、1つで十分ですからね?」

「分かっている分かっている。1つで良い」


フィオ様は私の返事にニコニコした笑顔で頷いている。私に受け取らせた事が、嬉しいのかな?孫に贈り物をして喜ぶおじいちゃんみたいな感じ?


「どれが良い?」


フィオ様に聞かれ、私はテーブルに並べてある扇子をじっくり見る事にした。1つ目は、魚の絵が描いてある。2つ目は、お空の雲っぽいものが描いてある。そして、3つ目は鳥の絵が描いてある扇子。

魚の絵の扇子は紺地に白い魚が描いてあり、雲っぽい絵の扇子は黒地に灰色の雲が描いてある。そして、鳥の絵の扇子は白地に水色で鳥が描いてある。その鳥は千鳥のような感じで、可愛らしい。

私は鳥の絵の扇子に決めた。


「この鳥の絵の扇子にします」

「分かった」


私が鳥の絵の扇子を指差すと、フィオ様がその扇子を持ち上げてさっと閉じた。そして、先に決まっていたレースの扇子と羽の扇子と併せて私に渡してくれた。


「どうぞ」

「ありがとうございます。大切にしますね」


私は扇子を胸に抱えて、微笑んだ。

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