第13章 国会の修羅場(10)エピローグ 2031年12月20日 金曜日 午後9時
◆ エピローグ 2031年12月20日 金曜日 午後9時
◇ 厚生労働省 年金局 会議室
「じゃあお疲れ様です」
そう言うと守本吾郎は会議室を後にした。年金改革の叩き台を作っていた頃と同じく、実際のシステム構築段階においても定期的にアドバイスをもらう業務委託が続いている。今日も私的年金ファンドの運用ルールについて、3時間みっちり議論したところだった。
梶川と市島は山積みの書類に囲まれたまま、しばし呆然としていた。来年4月の実施まであと3ヶ月。準備は佳境に入っている。
「年金移行債の発行システム、なんとか間に合いそうです」梶川が疲れた声で報告する。
「私的年金ファンドの金融機関との調整も、ようやく目処が立ちました」市島もげっそりとした顔で応える。
二人の周りには、若手官僚たちが黙々と作業を続けている。誰も帰る気配はない。
梶川がため息をつく。「今年の年末年始は…」
「ゆっくり過ごしたいですよね」市島が苦笑いを浮かべる。「まあ、無理でしょうけど」
その時、梶川の携帯が鳴った。
「はい、梶川です…あ、志茂野大臣の秘書官…はい…えっと、お弁当ですか?」
市島が顔を上げる。梶川の表情が微妙に変わっていく。
「大臣がお気遣いくださって…はい…《いざ》という時のために皆の好みを把握しておきたいと?種類ですか?そうですね、中華、和食、洋食…あ、カレーも人気ですね…はい、アレルギーは特に…あ、市島さんは甲殻類が…」
電話を切った梶川と市島の目が合った。
「年末年始も、ここですね」
「みたいですね」
二人は同時に深いため息をついた。
「でも」市島が小さく笑う。「日本の年金制度を根本から変える仕事ですからね」
「そうですね」梶川も微笑む。「やりがいは、ありますよ」
窓の外では、霞が関の灯りが煌々と輝いていた。日本の未来を設計する官僚たちの、長い夜はまだ続く。
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第13章 終




