クララの手紙①
親愛なるケンドー先生。
昨日はとても素敵な、記念すべき日でした。
全ては《大陸の架け橋》のおかげです。
わたくしは生まれて初めて『獣人』に会う事が叶ったのです。
獣人の毛皮には美しい縞模様が浮かび、牙は鋭く尖っていました。
先生の書籍に書かれていた通り、その姿はわたくし達のよく知る『虎』にそっくりでした。
強さと恐ろしさ、そして品格の漂う毛皮に、わたくしはすっかり魅了されてしまいました。
《大陸の架け橋》の者に話を聞いたところ、獣人の毛皮は、色合いにかなり個体差があるそうです。
白と灰が混ざり合い、まるで月明かりのように銀色に煌めいている者。
深い灰色と黒の縞が融合し、闇夜のような黒い毛皮をまとっている者。
黒の縞に引き立てられた黄色の毛皮が、太陽の如く黄金に輝いている者。
その魅力は十人十色、いえ、獣人十色、と言ったところでしょうか。
胸の高鳴りが止まりません。
ああ、早く他の獣人にもお会いしたいものですわ。
ところで、ケンドー先生の本を読んでいると、面白い記述がありました。
鋭い爪と牙を持つ勇敢な獣人が『蛇』を異様に怖がる傾向にある、と。
獣人にとって蛇は死の象徴なのだ、と。
確かに、鋭い爪も牙も、蛇の毒の前には無力です。
強そうな獣人が、蛇にビクビクしているなんて……
なんだかとてもかわいらしく感じ、わたくしはますます獣人の虜になってしまいました。
——《ラ虫ノ国》の人間 クララ=エンジュの手紙より