50 シウタと3枚のお札
シウタ
ならず者の拠点を叩くべく出撃した道中、すぐに連合のモガ大将が立ち塞がってきた。
待ち伏せとも思えるその状況で、なぜモガ大将は自分達が通る事を知っていたのか。
何者が情報を漏らしているのか?
まぁ、いい。
ここでモガ大将を捕らえて情報を聞き出し、さらにならず者の拠点で大勢を確保しよう。
古代アステカでは捕らえる事が目的で、戦うのは代表の戦士だけで十分だった。
血が流れる事を最小限で押さえる。 これも 『繁栄』 の掟じゃないかな。
各自のヴォルテクスへ足早に乗り込み、それぞれのコクピットで戦闘準備を進める。
「ハハッ、『銀河の英雄』 をご指名です。お望み通りに華やかなネオンビームでおもてなしを致しましょうかね!」
「まさか戦闘の方のシウタ君をご指名だなんて、モガ大将も物好きね。じゃあ私たちも、歓待するとするかな。熱いヒートソードを受け取って貰うわ!」
「ふーん、エースって看板が欲しいだけじゃない? 目がチカチカするぐらいの歓迎のビームを撃ち込んであげよっか!」
「シウタ王子の指名料でしょ? 払えないと思うな~。 破滅する未来しか見えない、ラーメンの時にスパチャ機能あったら、全財産イッたと思うし」
なんて心強い戦友だ。
ラーメンネタを引っ張るのやめてくれない? 放送事故の類でしょ。
『νノクターン』 の機体が黒の装甲で覆われ、その隙間の部分がまばゆい青白いエネルギーラインが輝いている。
背部には新型のビームウィングが光を放ち、静かに待ち構えていた。
ノクターンに飛び乗りコクピットに身を沈め、スティックを握りしめると、なんとなく新型のケミカルな匂いを感じる。
目の前の巨大なハッチが ガコン! いう音とともに動き始め、真っ暗な宇宙への通路が開いた。
「シウタくん、こっちはオールグリーン。いつでも行けるわ!」
「「「了解! 出ます!」」」」
ブースターが唸りを上げ、光を引きながら暗黒の宇宙へ飛び出していく。
スクリーンには敵反応のマークが浮かび上がっていた。
そこには、モガ大将の名が表示されている。
「フン、出てきやがったか、銀河の英雄め!」
通信にモガ大将の声が割り込む。
装甲マシマシの機体。背部のエンジンから吐き出されるプラズマの輝きが、その姿を照らし出していた。
「戦艦の急襲とは、やりますね。気に入りました。おごらしてもらいます。後ろの隕石群に奥に伏せている3機も出て来てもらっていいですか。たっぷりと弧状ビームを堪能してくださいね」
軽口を叩きながらも、ノクターンの操作パネルを叩き、ビームウィングのエネルギー充填を開始する。
背部から放たれる弧状のビーム。
翼を展開するように光を放つと、宇宙空間に虹色の反射が走った。
ホログラム越しに見える光景が美しすぎて、脳が震えている。
「派手に行きましょう。ハハハッ! モガさんと言いましたか、その気概にお答えし、木っ端みじんにしてやります、宇宙に漂う藻屑となるがいい!」
「あの、シウタ君。あのゴメンね。派手にやると私達がアーレ大佐に怒られるのよ。これも放映されるよ、ほどほどにね」
「キラキラお星さま、闇に煌めくお星さま。子供の時に読んだ、王子様はビーム兵器で夜空を彩るみたい。どうみても残虐騎士よね」
「早く終わらして、王子様ゲームで遊ぼう。さぁ、ゲームをしよう。」
ソウだった、ほどほどにしないと怒られてしまう。
ノクターンの背部から弧を描くビームが散らばり、モガ大将の機体を捕捉していく。
散開するビームが相手の回避を強要する。
モガ大将の機体が回避行動をとるが、トリガーを引きビームライフルを撃ち込んだ。
「ぐあっ!?」
モガ大将の苦悶の声が混線して入る。
それでも機体を見事なカスタマイズをしたのか、装甲に大きくヒビが走っただけで、轟沈する様子はない。
「大金をかけて、それでもこんなもんか!? 荒稼ぎして新型にしたのだろう!」
おいおいおいおいおい、煽りよるわ!
「ハハッ、素敵なセリフだ。 『負けたけど負けてない』 と言うのが対戦ゲーの基本! いさぎよくなく、素晴らしい強がりですね!」
そうだよね、負けた事なんてない。レーバーが悪いかキャラ相性が悪い。
連射を続けながら、小惑星を爆破して隠れていた敵三機を炙り出す。
その機体達にフェリシア先輩の近接、イーリス先輩が狙いを定め、ミラグロ先輩は相手の死角に回ってけん制のビームを放つ。
その連携の間に背部ウィングの充電の光量が増大し、螺旋の光をを放った。
ビームウィングから繰り出される弧状レーザーが、モガ大将の機体の装甲を削り取る。
光と衝撃が交錯し、相手は大きく体勢を崩す。
「ちっ、仕方ねぇ! 今回はここまでだ!」
と、不利を悟ったのか、背を向けて逃げようとする。
「ハハッ、どこへ行こうと言うのですか? 逃がすと思います? この銀河に散れぇええ!「「「シウタ君!!」」」
トリガーを引きかけた瞬間、先輩たちの声が重なる。
ハッと我に返る。
螺旋状のビームの色が狂気に駆り立てる、自分のせいじゃないと思う。
モガ大将の機体はプラズマブースターを全開にして闇の中へと姿を消す。
装甲の破損からの火花が残りながら、通信越しに「次は負けない、覚えてろ!」という声が聞こえた。
貴重な対戦相手だ、あの頃を思い出す。
もう少しで勝てそう! と、見せ場を与えてやらないと連コインしてくれなさそう。
大いに、反省して次回に活かそう。
「どうやら退却したみたいですね」
「シウタくん、ナイスファイト! 戦闘終了、相手は退却しました。破損被害は軽微。モガ大将の機体を無力化こそできなかったけれど、当面は脅威にはならないでしょ」」
フェリシア先輩が管制に向かって通信を開く。
「よーし、みんな休憩しよ!」
「さあ、帰ろう! みんな、無事に帰艦するよ!」
「急襲に成功したのに、相手の戦意が低くかった。何か違和感を感じる」
そう、戦意が低い。全力で倒しに来ていない。向こうがやった事と言えば、挑発と時間稼ぎだ。
メインキャラじゃない時の謙虚さがあった。
――
戦闘宙域を抜け、資源惑星の拠点に着陸してみたものの、そこには誰の気配も感じられない。
先輩達に拠点の探索を願い出るが
「お願いだから、シウタ君。ここは待機をお願いできないかな?」 「ごめん、王子様。悪いけど、今は待機をお願いしたいの」 「王子に何かあったら、銀河の灯が消えてしまう」
と断られた。
先輩たちのホログラムリアルタイムで見てみると、作業用のコンテナが散乱し、急に人々が姿を消してしまったかのようだ。
静寂だけが漂う、もぬけの殻の拠点になっていた。
拠点急襲作戦失敗と言う事か。
「撤退の手際が良すぎるわね」
もんもんとした気分を味わいながら、帰りの戦艦で王子様ゲームをやりながら帰投した。
敵が逃げた以上、ひとまず任務は終了か。
未来の王子様ゲーム?
おままごとだった。王子様になった人が王子様をやる。
これさ、イメージクラブ。イメクラじゃない? 今じゃこの言葉なくなったけど。
言い変えると、メイド喫茶か。 えっ、メイド喫茶も古い?
そうか、時代はヴィチューバーだ、君に会ったヴイチューバ―に会いに行こう。
言い変えると、2次元イメクラよな?
――
戦艦が軍事拠点に戻り、任務が終了した。
先輩たちと 「何か軽く食べようか」 という話になって、拠点の物資が並ぶ露店を一緒に歩くことになった。
お洒落な店なんて望めないこの場所には、この銀河女性たちがガッツリ食べそうな露店だそうだ。
そんな雑多な通りを歩いていると、先輩たちが足を止めて、やや困ったような表情で声をかけてきた。
「シウタくん。ホットドッグの中身だけ買ってくるから、悪いけどここで待ってて。ここなら見つからないから、この箱の中に隠れていてね」
「ごめんね、王子様と一緒に露店で食事してたら、絶対絡まれて、殴り合いの争奪戦になっちゃいそうだから。ハンバーガーのパテだけ買ってくるから、箱の中で待っててくれない?」
「大人しくしててね。シューマイの中身だけ買ってくるから」
そう言い残し、先輩たちは、左右を警戒し足早に露店のほうへと向かっていく。
鋼で作られた小麦粉部分へ対し、男性への配慮が行き届いてる。
つまり、ソーセージ、ミンチ肉、肉。
最近、暮らしが長いせいか肉の違いが判る様になってきた、住めば都と言う事か。
置き去りになって、なんだか妙な気分で木箱の陰から、賑やかな露店街を覗いていた。
ふと視線を向けると 『宇宙花と雑貨のお店』 と書いてあり、この軍事拠点に花屋のホログラム看板があった。
日用品には、酒は無かった。もしかしたら、高嶺の花の枠で花屋に酒が置いてあるか、雑貨として扱われているかもしれない。
感が働いた自分はこっそりと襟を深く持ち上げ、身バレしないように花屋へ足を延ばす。
その色とりどりな、サイゲデリックな花のお店には、緑髪のリューラーさんがいた。
「いらっしゃい~・・・、いやいやいや! ウチのお店は、これにて営業終了です! 店内の奥に行った所、逃げられないようにシャッター閉めないと! これが、近距離の残虐騎士様! 脳がおかしい、愛され愛したいと脳が囁くのは絶対おかしいですよね、マジやばっ!」
どこかで聞いたことがある台詞。
この逆転銀河で、男が来たらシャッター閉めるのはやってんの? 犯罪ちがうんか?
まぁ、いい。本題に入ろう。
「お酒ありませんか」
「あの? 先日、ウチと商談しませんでしたか? ここ、お花のお店ですけども?? お取り扱いしてませんてば。 そうだ、騎士様、お花買いませんか? 騎士様にお花貰ったら、女性達の脳が爆発すると思います。 鬼に金棒、残虐騎士様にビームライフル、王子様には花の最強コンボですよ。お花どうですか~? 騎士様なら誰に渡しても、ドンッと吹き飛ぶと思いますよ」
お花を進めて来る、リューラーさん。
違う違う、そうじゃない。
「失礼致しました。雑貨にお酒ありませんか」
「ううん? 商談がクロージングしていない?? あの、聞き方を変えれば、出るという商品では無いのでは、ありませんか。お酒の様な匂いがする花ならありますけども。サボーテンの花なんていかがでしょうか」
「それ、全部下さい」
「毎度ありぃいいいいいいいい!」 と、イソイソと花を包むリューラーさん。
商売が上手だな。
店を出てすぐに、包装に包まれた花の匂いを嗅ぐ。
騙された、テキーラの匂いがかすかにするが、全然違う。
でも、少し安らいだ気がする。
そして、箱の周りに集まっている先輩3人。
花を少し買いすぎた、差し上げよう。
女性には花。女性には、パスタ。女性には、ショッピングデートだ。
あぁ、ステレオタイプの感覚が古いかな?
今だと、デートコースの字プリが夏ウォーズの監督に変ったのは、知ってる。
安易なプレゼントかもしれないが、花を貰って瞬間ぐらいは、いい気もする事だろう。
「ありがとうございます。お肉の代わりです、どうぞ」 と、花を渡そうとすると。
「グハッ!」 「ガハッ!」 「ウハッ!」 と全員が吹き飛ぶ。
よろけながら起き上がる3人。
そして、周囲の軍人女性達に気づかれたのか、色めいた声が周囲から聞こえる。
「王子様がお花持ってる! 私の物よ!」 「ちょっと、王子様。そのお花と王子様、今すぐ私のものにしていいよね? え、ダメとか言わせないから!」 「あら、王子様、お花なんか持って歩いて。もうれーぷしていいって事?」 「あらあら、残虐騎士属性とお花でギャップで〇しにきてるわね」
と、何かに火が付いた。
花が良くなかったか? これからの危険な展開を察した先輩たちが、慌てて声を張り上げる。
「シウタ君! 逃げて! 相手もプロの兵だから、抑えきれないかもしれない! 捕まりそうになったら、その花を3回に分けて、投げるのよ! 必ずだよ!」
「王子様、ダッシュで帰って! 敵は訓練されている、このままじゃ食い止められない。ヤバいと思ったら、その花を三回に分けて投げるのよ、絶対に!」
「王子! 退避して! 相手はプロ級。もし限界を感じたら、その花を三回に分けて放り投げてね。それが、生存の合図だから」
まさに未来に生きる、三枚のお札ではなく、3回のお花。
急に怖くなってきた。 その選択を三回を間違えると、即〇しそうで怖い。
サウンドノベルのカマ―インたちの夜もそんな感じだった。
すぐさま女性達が瞳を光らせてこちらを狙い、で素早く距離を詰めてきた。
命の危険を感じ、思わず背を向けて全力ダッシュで逃げ出す。
――
逃げ帰った居住区の門前には、金色の瞳を光らせたアーレイン大佐が待っていた。
大佐を見た瞬間、助かったと実感して胸を撫で下ろす。
「シウタさん、お帰りなさい。三人もまだまだね、あなたをちゃんと守り切れるほどには鍛えられていないわね。もっと強くなってほしいところだけれど」
そう言いながら大佐が近づき、耳元へとそっと唇を寄せる。
吐息交じりの囁きが誘惑のように聞こえる。
「内緒話よ。どうやらここの情報が外に漏れてるわ。あと二、三日あれば突き止められると思うけど、シウタさんも用心して任務を続けてね。わかった?」
「承知しました」
心の中で思う。
連邦の情報管理はゆるいんじゃないか。戦争の時も、拠点以外ゆるゆるだったし。
戦闘の様子だってリアルタイム配信されているし、大丈夫なのか?
でも、大佐が着任しているなら大丈夫か。
しかし今は、無事に帰れただけでも十分だ。
そんな考えが頭をよぎりながらも、また次の戦いの事を考える。
いつもありがとうございます。
犯人は、みきもと。




