果し合い……32
「落ち着きましたか?」
背中を撫でてくれる鋼の手が、暖かくて優しい。総史郎はなんとか肯く。
めそめそと泣いている自分が情けないが、止まらないモノは仕方ない。
涙腺が決壊したように溢れ続ける涙と、全身の筋肉を操作する神経も暴走したかのように全身が震えてしかたない。
「うそですね」
鋼は照れているのを隠すように呟くと、子供のように脅えて震えていた総史郎を抱きしめた。
優しい温もりが総史郎を包み込み、暖かい手がゆっくりと背中を撫でる。
今まで人を抱く事で、必死に煉獄にも似た自己嫌悪を隠してきた。しかしそれは同時に自分の醜態を晒すのと似ていて、結局短い恋の後に待つのはどうしようもなく倍増した自己へ向けられる嫌悪だとしても、麻薬のように止める事が出来ずにその行為は続けられた。
待っていた結果は度重なる自傷や摂食障害などのストレス性障害。
手首を何度も何度も切りつけていた。右腕全体に残る縦の傷跡。幸か不幸かなぜか絶命する瀬戸際で、何かしらの出来事が起きて助かってきた。
「私は、あの時何も出来なかった」
阜雫が笹木邸を襲撃した時、総史郎は刀を持って構える事ができたのに、何も出来なかった。あの時道場で誰よりも強いと誇っていたのに。それはただ周りの門下生が道場の一人娘というポジションの総史郎の顔を立ててくれていただけだったとしても。そうとも知らず、馬鹿のように自慢していた。そして今もそこから何一つ進歩していない。
「私は、何の役にも立たない、ゴミです……」
どうしようもないクズだ。誰の役立たない生ゴミだ。
次々と出てくる自分へ向けられる罵りの言葉が、自身を傷つけ蝕む。そして蝕まれた心は更に自責を続ける。それの繰り返し。悪循環の坩堝が総史郎の中で渦巻き、それからの開放を求めて何度も死のうとして、結局死ねなかった。
さらに中途半端なやつだ、という自責が募るばかり。悪循環の環は断ち切れる事がなく、総史郎の精神を着実に殺ぎ続ける。
「もう、嫌です……」
虚脱と衰弱で埋めつくされた心から搾り出された悲痛な叫びは、弱々しく世界に洩れた。
「何も、心配は要りません」
彼女は引き寄せるようにして総史郎を抱きしめる。
そのぬくもりに甘えて、鋼の胸にしがみ付いて、声を押し殺して泣く。
「おーい。どこだぁ?」
そして、このワンこはあまりにも間が悪い。