果し合い……33
二人して気まずそうに俯いて座っている。鋼など顔から火が出てもおかしくない。
まだ半べそをかいている総史郎を見て、流石に気が引けたのか座漸がひとつ咳ばらいをした。
「で、鋼は、倒すのか?」
「べつに、倒す必要はありません」
しれっと言ってのけた。それに座漸は首をかしげる。
「あの人が二振りの持ち主に相応しいかを確かめるだけです。もし見合わなければ、返却させていただきますが」
顔を上げた彼女の目は、すでに強い志のみが支配していた。
「そうか、なら、アイツは、おれが殺す」
ひどく冷たい目で、座漸は笑みを浮かべて言った。
「え……?」
鋼が声を出すと、座漸はむしろ爽快さを感じさせるような声で語り出す。
「アイツは、おれの仇だ。絶対殺す」
総史郎の背中がぞわりとおぞけが走った。
百人殺しの狂犬、嘆外座漸が殺気を隠さずあらわにする。
「アイツは、おれの獲物だ。手出しはさせねぇ」
とがった犬歯を剥きだしにさせ、威嚇する彼女。それ様に二人は気圧された。
「おれの目ん玉と腕、あんちゃんをぶっ殺した落とし前、つけさせる」
その言葉で理解した。
彼女の眼と腕を奪ったのは彼なのだ。そして聞く限りではその家族までもが敵だという。
総史郎と同じ境遇を、持っていたのだ。
「いいな」
是非はない問い。鋼は小さくうなずいた。
「決まりだ。さぁ、エサを探しに……」
言葉を止め、三人はそろって大戸を見た。
「失礼仕る」
ぞわと全身の毛が逆立つ。そこにいた全員が顔に青筋を立てて、声の主を見た。
「九慟鋼。いざ、御首を賭けて勝負願う」
そこにはただの虚無が佇んでいた。
しかし彼からは狂おしいまでに殺意を渇望して、切望する気配が零れ滴り漂っている。
この男、審造の芸術に憑かれるのか。彼の刀匠の狂気的なまでの殺意という芸術に、憑かれているのか。
人切り、狂犬と恐れられている座漸でさえ、己が愛刀とそこまで同心していないし、彼女はここまで狂えない。
この男は完全に愛刀と同化している。その身さえも、二振りの刀同様ただの殺しの道具へと成り果てている。刀に込められた刀匠、九慟審造の意志を継いでいるのだ。
対峙するだけで鳥肌が止まない。この男の戦闘態勢がこれほど恐ろしいものだとは、ここにいる誰もが知らなかった。咽ぶほどの死臭と狂気と殺意。性交渉にも似た、殺し合いの悦楽に対する切望が漂っている。
それ即ち虚無。非生産と反生産の賜物たる、虚無。
「……いいでしょう」
鋼の声が強張っていた。動きも何処と無く険しい。それでも彼女は立ち上がる。
「外で、やりましょう。ここでは、家主に怒られてしまいます」
「いや、まて。ひっこんでろ」
座漸が鋼を押しのけて前へ出た。
「いったろ。こいつは、こいつの首は、おれのもんだ」
いっそ微笑んでいるようにも見える、怒りと歓喜と憎悪でゆがんだ彼女の顔。
彼が九慟の狂気を体現するなら、彼女は明瞭な人の殺意を現していた。
ギラギラと飢えた獣のように輝く目で、座漸は阜雫へにじり寄る。凶暴な厄神の刀身が滑るように近付いていく。
間合い詰められる。しかし阜雫はまだ二振りの刀を抜くことなく、たたずんでいた。
そして、座漸の間合いが、彼をとらえた。
それは一瞬だった。地を這うように滑り飛び掛かる座漸。そして彼女の体はあっけなく横に飛んだ。
「邪魔立て、無用」




