果し合い……28
一体どれほどの心配されていたのか、知る由も無いだろう。否、だれも語るまい。
総史郎が帰ってきてから一週間後、門下生を帰した後の静かな道場で、鋼が唐突に語りかけてきた。今まで近くに居る気配は無かったのだが。
「総史郎殿。あの男とは、なにかあったのですか?」
最初誰のことかはわからなかったが、直ぐに総史郎の男の知り合いが一人しか居ないことを思い出して気付いた。
「ああ。はい」
「答えるかどうかは、あなたの自由で、私はもう二度と聞きません」
気遣いか。でも、まず最初に何か言うのが大事であり、うっかりその点を忘れているあたり鋼らしい。
さすがにここで話すのは気が引ける内容だ。そもそも事件はこの道場で起きたのだ。
「私の部屋で話しましょう」
「分かりました」
鋼はこっくりと肯き、総史郎の後を追った。
総史郎の部屋は、半ば林に埋もれた洋館部分の右半分にある。ちなみに林の中には天然温泉の露天風呂があり、座漸はそこで毎夜体中マッサージしている。
その露天風呂を見下ろすところにあるのが、総史郎の書斎兼寝室である。
中は殺風景なもので、本棚とベッド。後は箪笥と机と椅子が一つずつあるだけだ。部屋の広さの割りに散らかるほど物が無いので、片付いているように見えた。
ベッドに鋼を座らせると、総史郎は椅子に座った。
「あの人、阜雫伊蔵、さんは、昔私を助けてくれた恩人の一人です」
ゆっくりと語られる言葉に、鋼は意外と強い衝撃を受けたようだ。
「では何故?」
鋼が最大の疑問を口にする。
「順を追いましょう」
それから総史郎はゆっくりと語りだした。