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刀狩り  作者: 夜桜月霞
果し合い
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果し合い……29

 五年前。まだ総史郎が本名を名乗り、先祖代々受け継いだ道場に住んでいた頃だ。


 この国の片田舎である素朴な町に有名な剣客が来たと聞いて、元気と好奇心が売りの中学生が黙っていられるわけがなかった。


 早速帰りの号令と共に教室を飛び出した。


「じゃあねー!」


 クラスメイトに後ろ手で挨拶して、誰よりも速い足で廊下を駆ける。もちろん教師が怒鳴っているが、知ったことじゃない。何時ものことだ。


 下駄箱で靴に履き替え、そのまま校庭を突っ切って正門をくぐる。


 何時もは口うるさい両親が剣士が走り回るんじゃないと叱るが、今はそれだって関係ない。


 正門を出て五分の所にバス停がある。総史郎は公共交通手段が大嫌いだが、自転車より速いことと、乗り物が好きという理由で何とか乗っていられる。


 これから向かうところは、あまり治安のいい所ではない。


 剣客や非合法の殺し屋などが、たむろしている場所だ。剣客が来たということは、おそらくそこに居るに違いない。


 バスを二回乗り継いで、到着したこの街一番の暗黒街。売春婦と薬売りが闊歩し、殺し屋と剣客が小競り合いを続ける街。八六合やくに区。


 とりあえず、来てみたはいいが、どうやって調べようか。


 ここの人間とは口をききたくない。何があるか分からない。本音を言えば怖い。


 どうしようかどうしようかと心もとなく街を彷徨っていると道に迷った。今居る場所が全く分からない。


「こんなアブナイ街に、一人でどおしたんだい?」


 酒が入って出来上がったような顔に、焦点がいまいちあっていない目。これは教科書に載っていたのと同じ、麻薬中毒者ジャンキーだ。


「ちょ、ちょっと人をさがしてて」


「だめだよ。こんなところに居ちゃ。おじさんが、おうちまでエスコートしてあげようか?」


 だめだ。話を聞いてない。


 男の大声で、さらに人間を集めることになった。


「ねえ、ねえ。君一人なの? 危ないよ……」


「おうち何処?」


 男や女。はたまたヒゲ面の女や、異常に顔を上気させ興奮している男など、ひどい臭いのする連中が次々と集まってくる。


「おい! 聞いてんのかガキぃ!!」


 最初の男が突如暴れだした。


 総史郎は咄嗟に後ろに跳んで避けたのだが、何か踏んだ。


「いってええ。指折れたかも? 責任とってもらおうか?」


「ガキぃい」


 暴れだした男が回りに居た人間を吹っ飛ばしてとばっちりを振りまく。


 踏んだ何かは、痩身の男の足だったようだ。


 痩身の男に掴みかかられ、総史郎は身がすくんで動けなくなった。


「痛! 離せ!」


「ちょっと、こっち来てもらおうか!」


 軽い人だかりとなったその場で、総史郎の衣服は瞬く間に破かれていた。恐怖で声すら上げられず身を小さくする事しかできなかった。


 そのまま怪しい建物の前まで引っ張って行かれ、男は何かにぶつかった。


「ああ? な」


 男が変なところで言葉を区切った。否、途切れた。


 草色の着流しに袴。その上に長い草木染めの羽織を着て、頭に切れ目の入った笠。腰に長刀と中刀の二振り。しかし、一方の鞘には収めるべき刀身は不在だ。


 不在の太刀は、笠の男の右手の中。


 そしてたった今総史郎を怪しい宿に連れ込もうとした男の首は、地面にあり、体はまだしっかりと立っていた。


「邪魔だ」


 腹の底に響くような声は、重いのだがどこか爽やかな声。その時はそれが荒涼という事を知らなかった。


 笠の男は自分にぶつかってきた、痩身の男の首を刎ねた。


 やっと思い出したように、首の断面が噴水のように血を噴出す。


 首を刎ねたのに笠の男の太刀は微塵も汚れていなく、妖しい黒い波が光の反射で見えた。その妖しい波紋は九慟審造の作のものだ。男はそれを流れるような動きで鞘にしまう。


 何が起きたのか全く分からない総史郎はぽかんと泣き顔のまま固まって、笠の男の動きを見ていた。


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