第34話 時を超えし想い
―――禍津御霊 五重の塔 三階層
ももは倫也を縛る封神陣を解き得意げに腰に手を当てふふんと鼻を鳴らす。
「ももちゃん、これどういう事? なんでその服着てんの? 説明を求めます!」
倫也は訝しげな表情でももをじっと見る。
「あはははっ! っだよねぇ〜!? ももちゃん、敵になっちゃったって心配したぁ? それはないからあんしんだよぉ!」
倫也に近づき、しゃがみこんで笑う。倫也はそれに対し、顔を赤らめ横を向く。幼い顔をしたももがタイトな白い軍服を着ているため、豊かな胸部やら腰つきをどうしても意識してしまっていた。
「はいはいはいはい! 心配したよ! いきなりの瀬織津姫さんの所からいなくなったって聞いてたからね! そしたら禍津御霊にいるわ、白い服着て立ちはだかるわ全く……んで、どうしてなの?」
ももは少し伏し目がちに思案顔で倫也の問いに答えた。
「倫也はさぁ、吉備津彦命って分かるよね? 桃太郎さん。もものご先祖さま。あの人は後悔してるの……鬼をね、温羅をマガモノにして無かったことにしようとしたことを」
「は?だって鬼は人間や神様たちに酷いことをしたからそうなったんだろ?」
「違うのっ!! ももちゃんね、思い出したの。ずっと忘れてた。多分兄さんも覚えてない……ううん。多分知らないと思う」
ももは目に浮かぶ涙を払いながら倫也に向き直りここに来るまでのことを伝えた。
「ももがあの洞窟でやられた時に、ももにかけられていた吉備津家の術式が発動したの。多分本当に消えかけたからだと思う。それで、本当の力と一緒にももの中のご先祖さまが目覚めたの」
「ご先祖さま……って桃太郎が?」
倫也はそう言う記録のようなものがももの中に封印されていたのかなと思ったがももの言葉は違ったのである。
「そう。吉備津彦命様がももちゃんの中にいて教えてくれたの。ももちゃんは……記憶と吉備津彦命様の全てを受け継ぐ子孫じゃなくて後継者だって」
「待って!それって!? 子孫じゃないって吉備津隊長とは家族じゃないの? それに全てを受け継ぐって何!?」
ももは首を横に振り否定する。
「家族は家族だよ? お母さんもお父さんも一緒! そうじゃなくてね、子孫じゃないってただの吉備津家の子供じゃなくて、ももちゃんが二代目の桃太郎なんだよ」
ももの話によるとももには血脈としてではなく、初代吉備津彦命がそのまま、記憶も能力も全てがももの中にあるという。そして、幼い頃に今の世に女の子には必要ないと吉備津家の力を統べて、封印いたのだという。
「それから瀬織津姫の所で目が覚めたんだけどね、ももちゃんずっと夢見てるようにぼうっとしてて、吉備津彦様の声の通りに歩いたの。気づいたらこの塔の前にいて魅桜に匿ってもらったの。あの子も天津国の被害者なんだよ……?」
「魅桜? あん時、ももちゃん刺したやつじゃんか!! 天津国の被害者って何だよ!?」
倫也は魅桜という女性を思い出したがそんな庇うような覚えはなかった。むしろももを刺した敵である。
「魅桜は謝ってくれたからもういいの。それより教えてくれたのは禍津彦が一番悪いやつだってこと。魅桜はその計画を知って禍津彦を討とうとしてる。その計画こそが天津国と人間界の境界を無くすこと。そうなったら世界は壊れてちゃう!」
「マジか!? ちょっとそれはやばいな……早く、クロたちのところに行かないと!」
走り出そうとする倫也をももが引き止める。服を引っ張られて倫也は後から倒れそうになった。
「なに!? ももちゃん急がないと!」
「倫也、あのねももちゃんやらなきゃいけない事があるの。だから倫也にはももちゃんと来て欲しいの! きっと倫也の力が必要になるから!」
倫也はももの頭をポンポンと叩くと頭を撫でながら笑う。
「だったら最初っから助けてって言えって仲間だろ?」
ももは嬉しくなり、涙が出そうになるのを堪えた。そして、前と違いなんだか頼もしい倫也に胸が急に締め付けられ、顔を赤くした。
「……泣くなよ」
「泣いてないもん!……それに今からももちゃんは泣いてなんかいられないから」
そういって姿勢を正し、ももは銃を天に突き上げた。つい先程とは違い、その目には涙ではなく決意の火をともし、倫也にだけ宣言した。
「我は禍津物を穿つ者。四道将軍が一人、吉備津彦命を正統に継承し、真に日ノ本の礎とならん!!我が名は吉備津彦命 桃華比売なり!!」
普段のももとは違い凛とした佇まいで声は透き通るように耳に心地よく響いた。
「倫也。もう、ももちゃんのままじゃいられなくなっちゃった……」
聞こえないように呟いた。振り返り倫也に背を向けたももが一瞬寂びそうに見えた。
「さぁ、それじゃ倫也、一緒に黄泉国に戻って温羅を止めるよ!ここにはクロたちと魅桜がいるから平気!」
「え? 待てよ! 魅桜が!? さっきの話って……」
「だから魅桜が協力してくれるの! そしてさっきクロにその事を録音した勾玉を渡したの。クロならきっともう気付いていると思うから平気!」
クロに渡したぁ!? クロのヤツあっさり俺に任せたと思ったらまた……無事に帰ったら絶対に仕返しする。絶対だ。
密かにクロへの天誅を行う事を倫也は心に刻み込んだ。
こうして、倫也とももは黄泉国へと別働隊として戻って行った。
―――時を同じく最上階では禍津御霊の主神 荒神 伊邪那美命との邂逅を果たしていた。
「伊邪那美命!? 嘘だ!イザナミ様は俺たちと一緒にいる!」
藍は信じられないと言った様子で取り乱している。 目の前の階段の最上部に置かれた玉座にはイザナミにそっくりの荒神 伊邪那美命の姿があったからである。
「神守殿? ご自分の目で見たものが信じられないと?」
禍津彦はせせら笑いを浮かべながら藍を挑発する。
「違います。藍さん大丈夫です。あれは私達のイザナミ様とは別の神様です。何者なのかは分かりませんが」
秋津が藍の腕を掴み気使い声を掛けた。しかし、その手は小刻みに震えている。藍はこんな小さな手で自分を落ち着けようとしてくれたのかと自分が情けなく思える。
「イザナミ様、あれはまさか先日の天津国での会議の時に上がった過去の……」
クロはイザナミに小声で話しかけるがイザナミはわなわなと震え自分の両肩を抱いている。怯える表情のイザナミを見てクロはイザナミの肩を抱く。
「イザナミ様ぁ?顔を上げましょう。これはイザナミ様が言った通りイザナミ様が対峙しなければならない事ですよ〜?」
「そう……ね。私が感じたのはきっとこれのことよね。クロ、もう大丈夫です」
おやおやと嫌味ったらしく肩を竦め様子を伺う禍津彦をイザナミはキツく人睨みして、再度玉座の女性に目を向ける。そして、その場に膝をつき丁寧に頭を下げイザナミは挨拶をする。
「永き時を超えてお目にかかることが叶いまして誠に恐悦至極にございます。伊邪那美命様。私は貴方様より数代の後、現在の黄泉国を治めるものにございます。私の名は黄泉津大神 伊邪那美命。死を司るものとして貴方様をお迎えに上がりました。」
そう言うとイザナミは立ち上がり、天を割くように右手を振り上げ荒神 伊邪那美命を指差した。
「混沌から日ノ本を創りし母なる神よ、荒神となりしその御身を我らが浄化致しましょう!!」
イザナミの宣戦と共にクロ、藍、秋津は構える。
「馬鹿なことを!! 魅桜!禍魂! こヤツらを殺せ!! 」
「やっとだァーーっ! っんはぁ! お兄さん遊べるねッッ!!」
禍魂は勢いよく野太刀を藍を目掛けて投げつけてきた。これを藍は微動だにせず片手で受け止める。正確には風の層を何重にも作り勢いを殺したのだ。
「イザナミ様。こいつは俺がやります!!」
藍はそう言うと野太刀を投げ返し、双剣を目の前で剣先が重なる様に構えた。
「藍〜?頼むよ〜! 負けたら置いてくからね〜!
秋津はそこの二人、ニニギとサクヤをお願いね! 特にサクヤは回復してくれたらすごく助かる〜」
秋津はいつになく大きな声で返事をすると二人を運び端の方へ移動する。
「さぁ、あとは俺たちですけど〜? 行きますか〜?」
「貴方はこんな時でも緊張感無いのに神庭宮ではおかしいくらい硬いの辞めてよね! ふふ……まぁいいわ。それじゃ行きましょうか。クロっ! 援護は頼みます!」
そう言って二人は一直線に走りだした。荒神 伊邪那美命に向けて。
「させるわけないだろうがっ!! 魅桜! なにをしてい……っ!? 貴様ぁっ!! 何のつもりだ!?」
魅桜は禍津彦の正面に立ち、その美しく、細長い刀を真っ直ぐに禍津彦へと突き付ける。
「何のつもり? それは貴方の方です。私の願いは天津国の神々へ我らを認めさせるため! かぐや姫がした事は神族としてあるまじき行為だがそれでも我らは!……私は一族のあるべき場所、天津国へ帰ることを願った! それは温羅も同じだ!それを貴方は……世界を壊そうとは!あの美しい夜の星も海も太陽さえわたしから奪うことなどさせはしない!」
帰る場所を取り戻したい。その想いを刀に乗せて魅桜は禍津彦へと斬りかかるのであった。
―――続く
大変でした。今回は本当に大変でした。それぞれのキャラが抱える想いを何世代にも渡る願いを書こうと思ったんですが……詰め込みすかなたかなぁと思ってます(反省)
でもまぁこんな1回で終わりじゃないですけどねー(ΦωΦ)フフフ…
 




