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『山田太郎』は逃げ切れない。  作者: クル猫
『山田太郎』は飛ばされる。
3/3

『山田太郎』は飛ばされる。その①

ついに始まりました、『山田太郎』シリーズ。

これは"普通"な"日常"を愛する青年が、未来に飛ばされてしまうお話です。

因みに未来と言っても、一度『人類滅亡』してますけどね。

2020年1月1日、近未来の小説の様に科学が発展して"空を飛ぶ車"が出来たり"人工人間"はまだであった。ただし"深海の奥底まで行ける潜水艦"や"多脚兵器"等が生まれ、戦争は人が要らなくなってきている。工場はオートメーション化されてしまい、今では匠の技も機械で大体は真似できる様になっていた。


……労働者は、必要とされなくなってきていたのだ。


だがプログラムを作成する人間や、やはり人の手が居る場所は残っていた。とにかく言えば、微妙な所で科学が発展し、微妙な所で人の手が必要な難しい状態が起きていた。まあ私が思うにこの世界は狭くなってきたと言う事だ、だからこそ私『リアス・クトゥルー』は人々が住める世界を探していた。

そこで見つけたのだ、『多重並行世界』と呼ばれる"様々な次元/空間"に存在する世界の事を。私はこの事を発表した、全世界の人々はその発見に喜び・恐れ・不安を抱いてしまった。だけど私は研究を続けていた、この世界のどれかが我々"人類"の楽園となる事を求めて……。


――『山田太郎』は飛ばされる。その①――

……山田太郎は今日も"日常"が来る事に安堵しながら、コタツの中に入り机の上に置かれたみかんを食べつつテレビのチャンネルを切り替える。最近は『リアス・クトゥルー』と言う女性が、発見した『多重並行世界』についての話題で持ちきりだ。ただし、大統領や総理の会見を見ると否定的な事が多い。

――――まあ俺も否定派の1人ではあるが。

今は2020年の1月1日であり正月の真っただ中、学校は休みだしやる事も無いので"日常"を楽しんでいると言う訳である。「お兄、リモコンちょーだい。オレは違うの見たい!」とコタツの中で足を、げしげしと蹴ってくるのは親戚の一人娘である山田悠希(やまだゆうき)だ。名前は男の子だが性別は女の子、だが乱暴者でガキ大将をしていたらしい……噂だが。


「えー、良いじゃねーか。見る物無いしさー?」

「良いから、よこせっ!!」

「――――っ!? 痛いなっ、お前は絶対に嫁の貰い手無いだろーっ!?」

「うっ、うるさい!! お前には関係無いだろー!?」


女でありながら男の急所を力強く蹴ってくるなんて、本当にこいつのお婿さんになる男が可哀想だよ。

そんな事を思いながら山田はリモコンを悠希に向かって放り投げると、寝転びながら片手でしっかりとキャッチしやがった。そう言えば悠希は文武両道でしかもどっちも成績優秀であり、平均学位が中間の俺としたら羨ましいとは思うけど絶対に嫌だ。


「……で、何見るんだー?」

「えーとぉ……おっ、これだこれを見たかったんだよなー!」

「正月からホラーって、お前、趣味悪いな?」

「良いだろ、これ見てなかったんだからさー!」

「まっ、良いか……よいしょっと」


親父臭いと思いながらも掛け声を出し"魔のコタツ"から抜け出ていく、するとホラー映画スプラッタシーンに集中していた悠希が顔を此方に向けてきた。そんな事は気にも留めずに山田は、上着を羽織って財布を手に取る。お年玉でずっしりと重くなった財布は、持っていると顔がにやけてきてしまう。


「お兄、何処かに行くのかよ?」

「あぁ、初詣にな。お前はどうする?」

「……んあー、よしっ、折角だしお兄に付き合ってやるよ。どうせ彼女いないだろー(笑)」

「……喧嘩でも売る気でしょうかねぇ? お嬢様?」

「……お兄こそ、倍返しにしてやろうかー!」


『あんた達、仲良くしてるんならついでに買い物もお願いするわよー?』


「「絶対に嫌だっ!!!」」


山田と悠希は急いで玄関で靴を履き、寒空の下を出て行った。

空気は冷たくて吐く息が白くなっている、そんな中を山田と悠希はの2人は神社に向かって歩き続ける。近くの神社までは歩いて5分の距離にあるが、悠希は寒がりなのでコートを羽織りマフラーをしていても「寒い……寒いなぁ」と呟くので山田は自分のマフラーを悠希の首に巻いてやった。


「……ん、ありがとお兄」

「良いって事さ、それより神社が見えてきたな」

「うん、お兄は何をお願いする?」

「俺か? 俺はなぁ……何時も通りに"普通の日常"を暮らせますようにと願うつもりだ」

「何だよそれ、もっと夢のあるお願い事しようぜお兄?」

「……良いんだよ、これでな」


何を願うか2人で話しながら歩いていくと、ざわざわと人々の楽しげな声がして屋台が出揃っていた。

神社までの道路には屋台が出ていて美味しそうな匂いが漂ってくる、悠希はついついリンゴ飴やたこ焼きに財布のひもが緩みそうになるが、それを山田が財布を持つ手を握って止めた。ハッとした悠希は顔を赤くしたまま山田の手を握り締めて歩き続ける、それが当然とでも言う風に。


「さて、賽銭はやっぱり五円玉にするか? ご縁がありますようにってさ」

「うーん、オレは五円玉が無いからなー」

「じゃあ、手を出してみろ」

「……へっ?」


すんなりと出した手に金ぴかの五円玉を置く山田に、悠希は最初は何が何だか分かっていなかったが分かるとニッコリ笑った。そのまま2人で一緒に五円玉を賽銭箱に投げ入れて、手を合わせて心の中でお願い事をする。その時、悠希はチラッと山田の方を見て顔を赤くした。


(……今年も普通に過ごせますように)

(……お兄と結婚出来ますように)


各々お願い事を終わらせた2人はおみくじを引く事にする。

100円を払い、おみくじを引いてみると山田は"凶"が出て悠希は"大吉"が出た。こればっかりは運勝負なので仕方が無いのだが、正月早々に"凶"が出るとは幸先が良くないような気がした。


「おぉう、まさかの凶かよ……悠希はどうだー?」

「お兄は凶か、オレはえーと……おっ、大吉だっ!!」


おみくじを結び、山田と悠希は屋台巡りをする事にした。

財布の中には1万円札が5枚と5千円札が2枚、それに千円札が5枚も入っているのだから山田の心は寛大になっているだろう。はしゃぐ悠希と離れないように手を繋ぎ、リンゴ飴とたこ焼きを買って先ずは腹ごしらえをする事にした。ベンチに座り肩を寄せ合い、たこ焼きを食べる俺に悠希は羨ましそうに見ている。


「1つ食べるか、たこ焼き?」

「えっ、えあ……良いの?」

「悪かったら、最初から言わないだろう?」

「じゃ、じゃあ……頂きいますっ!」


パクリと勢いよく差し出されたたこ焼きを食べた悠希だったが、あまりの熱さに慌てて買っていたコーラを飲み出す。そんな姿を見て山田は思いっきり笑ってしまう、悠希は恨めしそうな顔で睨んできた。

もう1つ、たこ焼きをつまようじで刺して差し出すがぷいっと頬を膨らませてそっぽを向く。


「さっきは済まないって、次は冷ますからさ(笑)」

「……冷ますって?」

「こうするんだよ……ふーふー、ほら冷めた」

「……なっ!!!」


何故か顔をゆでだこの様に真っ赤にする悠希に、理由が分からない俺は首を傾げる。

そんな山田に悠希は思い出す、山田は度が付くほどの鈍い男だった筈だと。仕方なく悠希は目を瞑って、勢い良くたこ焼きを口に入れて噛み締める。山田の息がかかっているかと思うと、自然と悠希の頬は赤くなってきてしまう。


「ご馳走様でした、さて次は何する?」

「……ご馳走様。お兄、次はなんかして遊ぼうぜ?」

「おっ、良いな。じゃあスマートボールでもするか」

「えー、あれ長いから嫌いなんだよなー……なあお兄、あそこにある屋台に入らない?」

「えっ、どれどれ……?」


悠希が指さしたのは、曲がり角で2,3組のカップルが並んでいる占いの屋台であった。山田は仕方ないなと思いながらも、悠希に手を引かれて列に並ぶ。すると2人が並ぶとすぐに列が捌けていき、さっきの列が何だったかと思えるほどに順番が回ってきたのである。

屋台には若い女の人が椅子に座っていて、気怠そうに欠伸を噛み締めているだけであったが2人の順番になった瞬間、目が赤く染まり不敵な笑みを浮かびだした。


『いらっしゃい、此処は未来を確実に当てる占い師のお店だよ。……そこのお兄さん、すぐ先に普通じゃない事に巻き込まれる事になるねぇ』


「……はい?」

「うーん、お兄。この占い屋さん、なんか変だよなぁ?」

「そうだな、あのお姉さん……占いはやっぱり良いです」


『まぁ、聞いておいた方が良いよ? 特にお兄さん……いや、山田太郎。あんたは特別な人間だ、だからこそ"この世界"はいる場所じゃない。あんた専用の世界に行くことになるよ、此処にいたけりゃ注意しな』


「いや、だから……」

「なあ、お兄。なんか怖いよ……早く帰ろうぜ?」

「……そうだな、特にする事も無いし」


まだ何かをぶつぶつと呟き続ける女を放っておき、俺と悠希はすぐにその場を立ち去った。

2人仲良く手を繋ぎ帰る途中、コンビニに寄る事にした山田。悠希がお菓子を買いたいと言い始めたので、仕方なく、神社からの帰り道にあるコンビニに寄ったのだ。するとすぐさま悠希はコンビニに入り、雑誌売り場のコーナーを通り過ぎトイレに駆け込んでしまう。


「あー、悠希はトイレに行きたかったのか―」

『ねえ、そこのお兄さん……君は神を信じるかイ?』

「……はい? あんた、何を言ってるんだ?」

『良いから、質問に答えなヨ』

「はぁ、俺は無神論者だからなぁ……神はおろか、聖書ですら信じてないぞ?」

『ふフ、やっぱりネ……』


黒フードの女は金色の髪を揺らして笑い出す、それは徐々に大きくなっていき体全体で震えだした。

その異様な雰囲気に山田は背筋が冷たくなるのを感じてしまう、だが女はピタリと震えるのを止め右手を前に出す。超能力物の小説なら次の行で、何か力を出すだろうと山田が昨日読んでいたラノベを思い出していると女は呟く。


『……捻じれよ、"世界平線"』


すると俺の周りの何かが揺らぎ始める、グニャグニャうねうねと。


「お兄っ、大丈夫かよっ!?」

「悠希……俺、訳が分からないけど占いは当たってたみたいだ」

「どう言う事だよ!! 早く、早く逃げろ……っ!」

「……へっ?」


悠希が山田の背後を指差す、背後には黒い渦が空間上に浮かんでいた。

黒フードの女はそのまま片手を出したまま、山田に近付いていく。そしてポンッと山田の胸を押す、すると山田はゆっくりと黒い渦に吸い込まれていった。悠希は走り出し手を伸ばして、吸い込まれていく俺の体を掴もうとするが時すでに遅し。黒い渦ごと消えてしまったのだった。


「あ、あああああああぁあああっ!!」


悠希の悲鳴だけが響くだけであった。

その後、山田太郎は行方不明者として警察に捜索される事になるが、それはまた違う話である。

黒フードの女はいったい誰なのか、気になる事はありますが次へ進みましょう。

『山田太郎』は飛ばされる。その②へ続きます。

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