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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第二章 聖剣の神子
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第五十七話 精霊たちをうまく動かす方法

「精霊さんたちにもっとうまく働いて欲しい~?」


 ある日寺院の広間でシャーロットは首を傾げた。その前には相談に来たラエルがいる。


「シャーロット姉さんが頼むと精霊は色々と器用に仕事するけど、僕の場合はそうじゃないみたいなんだ。どうやったらそんな風に精霊たちをうまく動かせるの」


 シャーロットは困った顔をする。そう言われても彼女の方こそラエルのように一度に強く多くの精霊たちを動かせたらと思っているくらいなのだ。それにシャーロットには何も特別なことをしている意識はない。


「毎日精霊さんを使っていれば、きっとそのうち自然とできるようになりますよ~?」


 たしかに昔よりは今の方が精霊をうまく動かせていると感じているが、シャーロット自身どうしてそうなったのかうまく説明できない。これまでの経験によると言うほかなかった。


「そのうちじゃなくて今すぐがいいの!」


 ラエルは子供らしいかんしゃくを炸裂させる。十歳ではない。十四歳である。


「それはね、きっとラエル自身が頭を使って工夫しなきゃ駄目さ」


 そばで槍の手入れをしていたベルタが口を挟んできた。近くのソファに寝っ転がっていたメアもちらりと会話の方を見る。


「工夫?」


「冬に雪玉作りの競争をしたことを思い出してごらんよ」


 ラエルとシャーロットは先の冬に雪玉作りで競ったことがあった。精霊使いの里で子供たちがよくやっているもので、寺院の外に雪が積もっているのを見てラエルがやりたいと言い出したのだ。


 観衆が見守る中競争が始まると、ラエルはたくさんの雪の精霊たちに命じて、ものすごい勢いで雪玉を転がしてみるみる大きくしていった。たちまち大人の身長を超える雪玉ができる。一方のシャーロットはそれより少しの精霊たちに頼んで、小さな雪玉をいくつも集め、それをまとめてさらに大きな雪玉を作った。シャーロットの雪玉が自分のものよりも大きくなったので、ラエルはもっと自分の雪玉を大きくしようとしたがシャーロットの雪玉を追い越す前にそれは崩れてしまった。


 自分の方が一度にたくさんの精霊を使えるはずなのに、と真似して小さな雪玉を集める方法で雪玉を作ってみたが、やはり途中で崩れてしまう。ラエルが「どうしてどうして」とシャーロットを問い詰めると「雪の精霊さんだけでなく水の精霊さんも使って雪を湿らせるといいんですよ~」と答えが返ってきた。


 実際その通りにやってみるとラエルもシャーロットと同じくらい大きな雪玉を作ることができ、すごいすごいと喜んだものであった。


「でもそんなの知ってたらできるってだけのことじゃないか。それに雪玉を作る時しか役に立たない」


「そうだよ。なんだってそうさ。ひとつひとつ教わったり経験したりして覚えるんだよ」


 ベルタの言葉にラエルは物申した。


「んー、そうじゃなくて。どんなことでも精霊が今よりうまくやってくれる方法を知りたいんだけど。もっと簡単ですぐにできるやつ」


「そんなもんあったら苦労しないよ」


「でもシャーロット姉さんはやってるじゃないか」


「だからひとつひとつのことをそれぞれうまくやってるだけさね」


 ラエルは腑に落ちない顔をしている。


「そうですね~。精霊さんにやってほしいことをうまく伝えることが必要かもしれません~」


 一方のシャーロットはベルタの話を聞いて昔の自分と今の自分の違いに気がついたようだ。


「うまく伝える……」


 ラエルはしばし考え込んだ。


「わかんないよ」


 そして途方に暮れたようにそう言った。それを見たベルタは苦笑する。


「そうだね。じゃあたとえば火の精霊を使ってロウソクに火をつけてもらう時、ラエルはどこに火をつけてもらう?」


「どこにって。ロウソクはロウソクじゃないか。どこに火をつけるも何もあるもんか」


「ロウソクの頭かい? それとも根本かい?」


「根本から火を近づけたらロウソクがみんな溶けちゃうよ。頭に決まってる」


「だろう。それはラエルがロウソクは頭に火をつけるものだって知ってるからさ。それを知らなかったら火の精霊もうまくロウソクに火をつけることはできない。知ってるからうまくやらせることができるんだ」


 ラエルはそれを聞いてもよくわからない顔をしている。ベルタが何を言おうとしているのかいまひとつピンとこないようであった。


「あたしの説明分かりにくかったかね」


「私はよくわかりました~」


 あれれ、という顔をするベルタの横でシャーロットはニコニコしている。


 ラエルはひとまず理解をあきらめて言った。


「わかった。じゃあひとつのことでかまわないから、精霊たちに魔物を解体させる方法を教えて」


「精霊に?」「精霊さんに?」


 ベルタとシャーロットはラエルが口にしたことが斬新すぎて、一瞬何を聞かれているのかわからなかった。


「精霊さんにお願いして魔物を解体しようと思ったことはありませんね~。そういうのは自分の手でやった方が早いですから~」


「そんなもん自分の手でやりなよ」


 ベルタとシャーロットの意見が重なった。


「でも魔物の血がドロドロしてるところを触りたくないんだもん」


「ラエルちんは意外とおぼっちゃまなんだよねー」


 メアがソファに寝っ転がったまま眠そうな声で言った。彼女はラエルが魔物の解体を前に引いている姿を目の当たりにしている。


「ふうん。でもまあ、ほかのメンバーができるなら別にやらなくてもいいんじゃないか。できるに越したことはないけど、誰もが手先が器用なわけでもないしね。むしろ解体するって本人が言っても触らせたくないやつとかも中にはいるよ」


「そうそう、ラエルはやんなくてもいいよー」


 ベルタの言葉にメアがかぶせる。


「でも僕も解体をうまくやりたいんだ!」


 どうやら少年はセラやバルドより自分がうまくできないというのが悔しかったらしい。


「精霊にねぇ……まあ、精霊にやり方を伝えるためには、少なくとも自分がそのやり方をよく知っている必要はあるだろうね。いや、それで本当に精霊が魔物を解体できるようになるかはわからないけどさ」


「まずは僕がちゃんと解体の方法を覚えないとダメってこと?」


「まあ、そうだ」


「どうやって覚えたらいいの?」


「やって覚えるのが一番早いが、触りたくないなら目で見て覚えるしかないだろうねぇ」


「このあいだ見ててもよくわからなかった」


「何度も見るしかないんじゃないか?」


「それまでできるようにはならないってこと?」


「当たり前だろ」


「どうして? なんでー?」


「あぁん? あたしがなんでって言いたいよ」


 なぜなぜ言うラエルの声が明らかにふざけた風を帯び始めた。こいつは理解を諦めた。気づいたベルタはバカバカしくなり声をわずかに荒げた。その横でシャーロットはやや困ったような顔をしている。メアはいつの間にかすやすやと寝息を立てていた。

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