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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第七章 小さな魔王の国

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第二百五十話 魔物と人間の国

 ガディレルム。


 北海に面するとある港町を中心として魔物と人間がともに暮らす少し不思議な国。


 ある日いきなりガディが建国を宣言して、満場一致で受け入れられたらしい。すべてがノリと勢いで進んだことは想像に難くない。


 ルドルフとセラはその足でガディレルムの首都ザマルへと移り住んだ。盛夏の頃のことである。


 トロール兵団を相手取るなど面倒極まる話ではあるが、自分の住む土地にまで飛び火しかねない危機と来ればルドルフもものぐさは言っていられない。放置すればより面倒になるとわかっているなら、手を講じるのはやぶさかでない。


 幸か不幸か、今の最優先業務である師匠業はどこでもできる。アリアナのその依頼は、依頼主自身にも期限の明言ができない性質のものだったが、ひとまず来年末のセラの年季明けまで、ここガディレルムで暮らしたとしても何も支障はない。その間、報酬に何をもらおうかと心躍らせる楽しみもある。


 セラもその師匠の方針に習って依頼を快諾したが、彼女にはそんな事情や報酬以外にも思うところがあったようである。なにしろ今の彼女にはもはや人間よりも魔物の知り合いの方が多い。


 そしてセラがそうするならと、バルドは依頼を受けたわけでもないのにそのまま居座っている。まあとりあえず転移門をひとつ余計に作る手間が省けた。ルドルフとしては特に言うべきこともない。


 ルドルフたちはザマルの城壁の内側にある北街区、中心街の近くにある一軒の広い家を住居として暮らし始めた。そこは海に面した城壁にほど近く、壁面の裏側に設けられた石段を登って行けば、すぐに城壁の上まで出られる。


 もとは三万人ほどいた人間の住人が今では三千人ほどにまで減ってしまっているので、魔物たちが移住の居を定めた後でも住居の数にはだいぶ余裕がある。ルドルフたちが住む家の元の主も、トロール兵団に町を落とされた際に行方知れずとなっていた。


 人間の町だった頃にトロール兵団が攻めてきた時と、トロールたちの占領下だった頃にルドルフら魔物の混成軍が攻めた時、ザマルはこの短い間に二度の戦火にさらされている。そのため痛々しく荒廃したままの部分も目立つ。


 が、生き残っていた人々と、新しくやって来た魔物たちがともに生活を始めた一角には十分な活気が戻って来ていた。


 港の市には毎朝水揚げされたばかりの新鮮な魚介が並び、中心街には店を開けた商店もいくらかある。客の多くは人間、あるいは人間と区別のつかない獣人であるが、中には固まって住む南街区から来ているオークの姿も珍しくない。まれにゴブリンやコボルト、オーガの姿も見られる。


 近年はもっぱら漁業の町であったが、かつてのザマルは商業の花開く貿易港として栄えていた。北方大陸の王国が極北の魔王に滅ぼされるとその貿易もなくなってしまったが、往時の名残からか街並みにも複数の文化の入り混じったような独特の異国情緒がある。


 そこに人間と魔物たちが肩を並べて闊歩していると、それはまるでどこにも見たことのないおとぎ話の国のようですらあった。


「なんだか面白い風景です」


 ルドルフの隣を歩くセラが辺りをしげしげと眺めながら言った。そのセラの隣にはバルドがいる。


 三人が通るところ、行きかう人々は必ず彼らに目を留めた。それは骸骨の頭をむき出しにして歩くルドルフのせいばかりではない。セラの魔王としての能力が魔物たちを惹きつけてやまないのだ。親しく挨拶をしてくる者もある。彼女はこの町では明らかに特別な存在だった。


 セラの力の影響を受けない人間たちもまた、彼女を興味深い目で見ている。異形のアンデッドを従え、魔物たちからも一目置かれている風である少女はいかにも只者ではない。とはいえ、彼らも魔物と暮らしてすでに二ヶ月が経っており、多少のことでは動じなくなっていた。この町にはこの町の日常が形成されつつある。


 そのルドルフたちの行く手にわずかなざわめきが起こる。見れば大通りを練り歩いてくる者たちがあった。


 小さな王冠をかぶった背の低いコボルトを先頭に、熊のような大男と、ひょろっとしてルーズな服装の若い男が後ろに控えている。さらにその後ろに親衛隊と思しき数人のコボルトが続いていた。


 魔王ガディは王威を臣民に示すため、獣人のダドリー、赤竜のグレアズを従えて毎日のように街中を見て歩いていた。


「やあ! 誰かと思えばルドルフではないか。そちらはセラにバルドだったな。どうだ、この町には慣れたか?」


 近くまで来たガディはルドルフたちを見上げて呼びかけた。キリっとして凛々しい顔をしているが、尻尾はぶんぶんと喜びを表現しており、そのつぶらな瞳はどうしたって愛らしい。その横でダドリーは自信満々の笑みを浮かべていて、先ほどまで気怠そうにしていたグレアズはルドルフを前にピンと背筋を伸ばして直立している。


「まだ昨日の今日だ。俺はともかく連れはどうかな」


 そう言って応じるルドルフの横で、セラとバルドはガディたちに向けて軽く会釈をした。ガディは目を閉じて得意げにその一礼を受ける。


「……かわいい魔王様ですね」


 ガディの後姿が十分に遠ざかったところでセラが珍しい物でも見るような目でつぶやいた。お前も人のことはいえないぞ、と思いつつルドルフはガディへの感服の気持ちを述べた。


「愛嬌は何物にも勝る武器だからな。あれはどうにも真似できん」


 周りがうまく支えれば、あれはあれで悪くない王の器かもしれん。ルドルフはそう思い始めている。


 根拠のない自信がやや誇大な割にろくな知勇があるわけでもないが、少なくとも王としてあるべき形というものを自分の中に持っている。形から入るのが今のところうまく行っているようである。


 またヴァルターが言うには、強がりを言いながらも人の意見によく耳を傾け、振る舞いを改めることができるという。その素直さも愛嬌とならんでなかなかの武器だ。むしろ素直すぎるがゆえに、側にいるダドリーの存在がちょっと不安なのだが。


 実のところ、人間たちがこれほど早く魔物たちとの生活に馴染んだのは、そんなガディの性質によるところが大きい。あの裏表のない豊かな喜怒哀楽には、魔王の力と関係なく人を惹きつけるところがある。


 本来ならば人間に嫌悪を抱かせる魔王の呪いは、ルドルフが渡した銀の腕輪で抑えられている。これはヌイがつけているのとまったく同じ腕輪で、過去世界で黄金竜が極北の魔王に渡したものを、さらに譲り受けたものだ。ほかに知る者こそいないが、非常に由緒ある代物である。


 その由来はさておき、この腕輪のおかげで人間たちは呪いの影響を受けず、素のガディと親しく触れ合っていた。人間の姿をしているダドリーとグレアズが左右を固めていることも、人魔共存への安心感を増していたかもしれない。おそらく当人は深く考えてそうしているわけではなさそうだが。


 できたばかりの魔物と人間が共に暮らす国の王の姿とは、そんな風なものだった。


 できたばかりの魔物と人間が共に暮らす国の王の姿とは、そんな風なものだった。

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