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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第一章 ボーン・ミーツ・ガール
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第二十五話 セラの実力

 その日の昼をだいぶ過ぎた頃にようやくアリアナがやって来た。


 第三層のキャンプまで行って、第四層に魔物が湧くようになった、という報告をすませて戻ってきたのだ。その報告に対する周囲の反応はおおむねポジティブで、早速第四層の狩場を開拓に行くと息まいている冒険者たちも多かったという。突然魔物が湧き初めたことで犠牲になった冒険者はいなかったそうだ。あとは何が起きても彼らの自己責任である。


 ルドルフの方からも昨日の顛末を話すと、料理をふるまい始めたあたりの話で「あなたたち最高だわ」とアリアナは腹を抱えて笑ったが、持ってきた酒がすべてなくなったという報告には真顔になった。酒がなくなったと言ったらどんな顔をするか楽しみにしていたルドルフも、その感情の消えた顔のあまりの怖さに「大丈夫。また買ってくるから! またすぐに買ってこられるから!」と全力でなだめに回るほどだった。


 いずれにしろ昨夜の大盤振る舞いで食糧もほとんどなくなってしまったので補給はしなければならない。ルドルフ独りならば転移魔術でいつでも町へ戻れる。訓練の疲れから昼寝しているセラをアリアナにまかせて地上へ買い出しに出た。行きがけにアリアナから購入すべき酒の銘柄のリストを渡されたが、その買い物を最優先で消化したのは言うまでもない。


 ルドルフが買い出しから戻ると、朝から第五層へ狩りに出ていた聖剣旅団の三人もまたキャンプへ戻ってきていて、アリアナから聖剣返還の顛末やセラとルドルフのこれからのことなどを聞いているところだった。それを聞き終わった三人は一刻も早く地上へ戻るべく、足早にキャンプをあとにすることとなった。


 アリアナが彼らのための転移門の鍵をせびってきたので、ルドルフは追加で三つのクリスタルを出してザイオンらに渡した。


 彼女は聖剣旅団の五人分すべてを神官のエレノアに預けてきたので、本来彼らに渡すべきクリスタルは地上にある。まさかこうしてダンジョンの中で会うとは思っていなかったためだ。一応余分のクリスタルは後で返してもらうということで話をつける。


 去り際にリズがセラを名残惜しそうにぎゅっと抱きしめていった。セラは戸惑いつつも嫌がってはいない。ザイオンは「また転移門が使えるなんて楽しみだなぁ」と相変わらず飄々とした様子で、ルインはほかの二人を早く早くと急かして出て行った。


 翌日からルドルフらは本格的にアリアナの仕事にかかった。


 ルガルダのダンジョンの第五層から第七層は冒険者たちの活動が活発なエリアで、どこにどんな魔物が出るかまでを記した詳細な地図が作られ売られているほどである。


 なので特におかしな魔物がいる心配は少ない。聖剣旅団にとってもこれらの階層は単なる通過点であり、彼らがここを改めて念入りに探索するとは思えない。


 とはいえ、同じ通過点であった第四層でリッチと遭遇している。一応はくまなく確認せねばなるまい。方針はそうと決まった。


「それじゃ、今日は私はここからここを回るから、ルドルフたちはこの辺りをお願い」


 毎朝、地図を指さしながらアリアナが言う。


 このようにルドルフとセラ、アリアナの二組に分かれることで、仕事は極めて効率よく進んだ。通常、ひとつの層全体をなめるように探索するには通常一週間はかかるが、ルドルフらはそれを二日で終えてしまう。


 このうちルドルフとセラの組はさすがにセラがいるため常識的なスピードに留まっている。しかしアリアナがとにかく常識では考えられないほどの健脚で動き回り、どんどん歩を進めていくのが大きかった。実際、全体の七割か八割はアリアナが片づけたものである。


 この探索の間、ルドルフは先の反省から認識阻害の面をかぶったまま行動した。セラと二人だけの時に、冒険者たちに行き会って騒ぎになるのが面倒だったからだ。


 一方で各層のキャンプでは面を外した。これはアリアナの言うイメージ戦略のためである。目の前に巨漢のリッチが佇んでいても、隣にエルフがいれば騒ぎになることはない。その上でそれぞれの場所で第四層のキャンプでしたのと同じように酒と料理をふるまい、わざと耳目を集めてこのリッチが人畜無害であることを広めていく。


 長く冒険者をしていても出会うことなどまずないエルフ、同じくほとんど出会うことはあり得ないリッチ、それとは対照的にどこにでもいるような小さな少女という異色の組み合わせは、たちまち様々な脚色を経ながら伝聞していった。おかげでそのうち面のないルドルフと遭遇しても危険な魔物だと思う者は徐々にいなくなっていった。


 こうした日々の中、セラは相変わらず人見知りを発揮していたが、人間ではなく魔物と対峙する時はなんだか見違えるように生き生きしていた。


 第五層、第六層ではオークや猪系の魔物を相手取る。セラは相変わらずエナジーショットの一撃一殺で進んでいた。


 「あの、私、お役に立ててますか?」


 「もちろんだ。その調子で頼む」


 ある時、一歩下がってついてくるセラがうかがいを立てるように聞くので、ルドルフは何気なく答えた。セラはうつむきがちにはにかむ笑顔を見せた。


 続く第七層からは大トカゲ、毒蛇などの爬虫類系の魔物や筋骨隆々で角の生えたオーガなどが現れる。一般的基準で考えるとまあまあの難敵とされる魔物で、敵するのに求められる冒険者の格は中級の上位以上となる。


 が、これらの魔物たちももれなくセラの魔術のいい練習台となった。さすがに初級魔術の一撃では足りないものの、それでも追加で何発かを当てれば倒れぬ魔物はいない。前衛に立つルドルフは殴られてもビクともしないので、セラは時間をかけて何発でも好き放題に魔術が撃てる。訓練として見ると、タフな的はかえって効率がいいくらいだった。


 セラが当たり前の顔で放つその魔術の威力。ルドルフはいくらかの感服とともにそれを眺めていた。実のところ初級魔術の数発で第七層の魔物を倒すというのは並の魔術師ではできない芸当だ。


 呪文の短い初級魔術にはこめられる魔力もおのずと少ない。ゆえに威力も低くなるのだが、一方で魔術というものは熟練度によって効果を高めることができる。初級のエナジーショットも極めれば並の魔術師の使う中級魔術くらいの威力を出す。


 セラの放つエナジーショットはそのような満点のエナジーショットだった。まるで熟達の魔術師の技である。それはリッチであるルドルフ自身が放つものとまったく遜色がない。


 この娘はやはりただものではない。


 すでに中級の冒険者の中に混ざって活躍できる実力を持っている、とルドルフはその評価を再確認した。やがて中級魔術を覚えればさらに先に行くことができるだろう。まあ中級魔術を熟達の域まで持っていくには、初級魔術のように簡単にはいかないはずだが。


 ルドルフから伝え聞くそのセラの実力にアリアナはニコニコしていて、ニコニコを向けられたセラもまたニコニコしている。


「思った以上の掘り出し物だったわ。あなたを訪ねてきて正解」


 ある夜セラが寝た後、アリアナはそんなことを言いつつルドルフの肩を叩いた。

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