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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第一章 ボーン・ミーツ・ガール
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第十九話 早速の再会

 それから二人は大通りの市まで足を運んだ。


 時刻はちょうど多くの店が開き始める時間となっている。リッチ騒ぎでただよっていたという不穏な空気はなくなって、町はすっかりもとの活気を取り戻していた。


 そんな市の空気の中、ルドルフがまずはセラの装備品を買う店を探していると、不意に横からルドルフをたしなめる声がかかった。


「あなた歩くの速すぎよ。セラちゃんが付いていくのでいっぱいいっぱいになってるじゃない」


 二人が雑踏の中でもよく通るその声のした方を振り返ると、アリアナがそこにいた。彼女は呆れた声で続けた。


「それに町に出るとか。ほんとバレないようにしてよね」


 街中でどこかおどおどびくびくしていたセラがパっと表情を変える。嬉しそうに近づいていくと、アリアナも楽しそうに手を広げて抱き留めた。少女はこのエルフにもうすっかり懐いているようだ。


「というかどうして町の結界を何事もなくすり抜けて来てるのよ。どんな手管?」


 ある程度大きな町では、町を囲むようにして魔物除けの結界を張るのが普通である。強い魔物ならそれを破ることもできるが、無理にそうすれば大きな音がするため、少なくともひそかに侵入することはできない。


 それは決まって古代のとある魔道具によるものなのだが、ところがルドルフはそれをごまかす方法を熟知していた。かつてその魔道具のことをつぶさに研究したことがあったからだ。


 ルドルフはそんな事情は説明することなくとぼけて言った。


「やはり俺は魔物ではないということかな」


「まあいいわ、そこはこの町の問題だし。それよりちょうどあなたたちに会おうとダンジョンに向かう途中だったのよ。そうしたら道端に怪しい仮面の巨男がいるでしょ。相変わらず探しやすくて助かったわ」


 仮面の持つ認識阻害の魔術もどうしてかアリアナには通じないようだった。さすがエルフといったところだ。


「少し話があるんだけど」


 アリアナがニコニコしながら切り出す。


「こちらにはないが」


 面倒ごとの予感しかしないので腰が引けるルドルフ。


「そう言わずに」


 食い下がるアリアナ。


 二人の間に挟まって安全地帯とばかりに一息ついているセラ。


 通りの真ん中で押し問答しているのも邪魔なので、とアリアナはとりあえず路地裏へと二人を誘った。セラがいそいそとそのエルフに付いていくので、保護者であるルドルフも付いていかざるを得なかった。


 辺りに人がいないことを確認するとアリアナは話し始めた。


 それによると、聖剣の件は無事に返還して問題なし。アリアナはここから去る予定だった。しかし聖剣を取りに第四層まで行っていた四日間の留守に、エルフの上役から連絡が来ていたのだという。


 突然現れたリッチのせいで聖剣旅団があわや全滅という憂き目に会ってしまったことは、エルフの間でも物議をかもしたらしい。そこでこれ以上不慮の事故が起きないように、ダンジョンに危険な魔物がいないかどうかを一度確認する必要がある、という任務が発生した。


 そしてたまたま近くにいて、それが実行可能な人物ということで、そのままアリアナに白羽の矢が立った。修行を積む聖剣旅団はパーティ単独での第十二層到達が目標なので、そこまでの偵察と、必要ならば露払いを、というのが任務の内容だった。


「というわけで、斥候を任じられてしまったの。いっしょに付き合って?」


 アリアナは頬の横で両手を組んでにこやかに言った。


「うーん、めんどくさい。パス」


 正直言うと予想よりかなりマイルドな面倒ごとではあったが、面倒は面倒に違いない。ルドルフはにべもなく断った。


「そう言わないでよ。もちろん報酬だって払うし」


 だが断られてからが本番とばかりにアリアナは動じない。


「あいにくと仕事の掛け持ちは苦手でね。俺たちはさっさと第十二層まで行かせてもらうよ。だいたいその程度のことお前一人でなんとでもなるはずだろう」


 アリアナとしては任務にかこつけて二人に絡みたかっただけに違いない。実際こいつは一人で何とかするのだ。手伝いなど無用である。


 彼女はその点については反論しなかった。そしてアプローチを変えたようだ。少し間考えてから次のように言った。


「私、ひとつ心配していることがあるのだけど……あなた女の子の面倒なんて見られる? 逆に私が付いていかなくて大丈夫?」


「セラは……」


 セラはこれでも成人だぞ自分の面倒くらい自分でできるさ、と言おうとして、ルドルフは急に自信がなくなっていくのを感じた。つぶらな瞳を二人に向けているセラを見る。ほんとうに大丈夫だろうか。魔術の話をしている時は利発そのものといった風だが、町に来てからずっと見せている頼りない顔を見るとそうも言いきれない気がしてきた。


 魔術には長けているのに生活力はからきしというのは、魔術師にはよくある話だ。生前のルドルフはそういうタイプではなかったが、セラがそうだとしたら、年頃の女の子の面倒を自分が見なくてはならない……? 改めて考えるに、はるか星空の深淵をのぞくような気持になった。


 そもそもルドルフは子供を育てたことがない。それどころか魔術の道にかまけている間に伴侶を得る機会も逃し、生涯独身を通した身である。


「自分の面倒くらい自分で見られる……よな?」


 セラに向かってルドルフが自信なさげに聞く。するとそれにつられてかセラも急に不安げな顔になってしまった。


「アリアナさんがいた方が……いい?……いや、大丈夫、です……たぶん?」


 完全にルドルフの顔色をうかがっている。


 これはいけない。そうだ、俺がしっかりしなければ。


「いや、大丈夫だ。セラもそう言っている」


 ふーん。と、アリアナはいったん黙った。それからにこやかに言った。


「あなたたち、これから出発の準備で買い物するのよね? この話はとりあえずあとにして、その買い物を手伝ってあげるわ」

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