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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第四章 不死の国の王

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第百五十五話 八方塞がり

 遠くで聞いても恐ろしくなるようなエゼルの叫び声が聞こえてきたが、ルドルフたちは構わず先に進んだ。


 やがて吹き抜けの塔にたどり着き、その中を巡る長い長い螺旋階段を見上げる。ルドルフにとっては見慣れた光景である。リッチキングの授業はいつもこの上の展望室で行われていたからだ。


 塔の上からかすかに戦いの音が聞こえてくる。ルドルフが感慨に浸る間もなく先頭を切って螺旋階段を登り始めると、セラとアリアナたちもあとに続き、間もなく剣と魔術の飛び交う展望室へとたどり着いた。


 リッチキングは新たな闖入者の中にルドルフの姿を認めると、多数の障壁を展開していったん戦いの手を止めた。サイラスたちも呼応するように少し下がって一息つく。その姿はボロボロで見るからに満身創痍。従士たちも同じく激戦を物語るような恰好をしている。よくもまだ誰も倒れていないものだと感心するほどだ。


 部屋の一隅にイーリスの首が向こうを向いて転がっている。その光景を見たセラは、杖を持っていない方の手でローブの胸元を強く握りしめた。


「ふむ。侵入者たちと妙な動きをしていると思いきや、やはり我が支配を脱しておったか。ルドルフよ。いったいどのような手管を使ったのだ?」


「秘密の奥の手だ」


「よい。あとでゆっくりと聞かせてもらおう。墓所を荒らした件でこちらからも話がある」


 穏やかに言ったリッチキングは再び呪文の詠唱を始める。


 それに対抗するべくルドルフが前に出ようとした時、アリアナがそのローブの裾をつかんで止めた。そしてルインを呼ぶと、ルドルフの次元収納からありったけの霊薬を吐き出させ「惜しまず使いなさい」と大袋いっぱいにして渡した。


 傷を癒す薬、精神力を回復させる薬、失った魔力を満たす薬。まるで自分のもののように渡したけど俺の薬なんだけどな。だがいくら文句を述べたところで、今の彼女は有無を言わせやしないだろう。


「ザイオン、ちょっとこっちへ。セラちゃん、ザイオンと変わってちょうだい」


「お嬢ちゃん、頼む。前衛にフィジカルエンチャント、それに全員にレジストマジックは切らさないように頼む。エンチャントウェポンはうちはリズだけでいい。聖剣は強化の魔術を受け付けないからな」


「はいっ」


 ザイオンはやって来るなり速やかに引き継ぎをし、セラは元気よく返事をして戦いの場に赴いた。ベルタ、シャーロット、メアはすでに参戦しており、先に戦っていたサイラスたちを助けている。


 新手の敵がやってきて加勢を始めたにも関わらずオースは動かず沈黙を守っている。ルドルフにはそれがどうにも嫌な風に感じられた。


「聖剣が封じられちまってる。奴さんが魔術で何か黒い霧を出したかと思うとそうなった。イーリスもそれを食らった。おそらく神子の力を阻害する何かだ」


 アリアナとルドルフを前にしたザイオンは開口一番にそう言った。


「そんな魔術聞いたこともないわ」


 アリアナは険しい顔でそう言うと、ルドルフの顔を見た。ルドルフは軽く首を横に振る。そんな魔術があるとは初耳だ。リッチキングもすべての魔術を自分に教えたのではなかったらしい。


「それでも戦況はといえば、今は膠着状態といったところだ。戦いの相手としては正直、旦那よりも素直なもんだ。ああ、このボロボロの有様? こんなのはいつものことさ」


 これをいつものことと言うザイオンの言葉に、また相変わらずずいぶんと綱渡りをしてきたのだろうなとルドルフは呆れた。


 ザイオンが言うには、リッチキングの魔術は当然ながら強力無比、魔力に応じて高まるリッチの腕力も意味不明なほどだが、彼らはそれを堅実にさばくことができている。もともと守りにかけては他の追随を許さないパーティである。


 そして攻撃に転じればその骸骨の体を易々と砕くことができた。並の戦士顔負けの体さばきで近接戦闘に対応してくるどこかのリッチとは違い、リッチキングの動きは単なる魔術師のそれである。リッチならではの高い防御力があるとはいえ、武者修行で鍛え直したサイラスたちには十分にそれを貫く力がある。


 彼らはリッチキングの体を何度も砕いた。繰り返し何度も何度も。


「だがそれでも正直、勝てる気がしない。まったく魔力の底が見えないんだ」


 しかしその体は砕かれるそばからいともたやすく再生し、リッチキングはそれをダメージとして意に介している様子がない。むしろ力の差を思い知らせるため、わざと好きに攻撃させているのではないかと疑いたくなるほどだ。


 聖剣が通じない以上、リッチを殺し切るにはその魔力が尽きて再生できなくなるまで、その体を破壊し続けなくてはならない。だがそれは実質的に不可能なことだった。


「ちょっとセンスマジックでリッチキングの周りの魔力の流れを見てみてくれ」


「わかっている。敵はこの土地全体だ」


 ルドルフはそう言いつつもザイオンの言う通りセンスマジックを使った。そして目を凝らすとこの城塞都市のあらゆる場所からリッチキングに膨大な魔力が流れ込んでいるのが見えた。


 ルドルフがダンジョンの地脈の側でその恩恵を受けるのに似ているが、その規模と効率は比べ物にならない。土地に縛られることを代償に、この土地の持つ力とまさに一体化しているのだ。


 だがルドルフが見ようとしたのはそれではなかった。見ようとしたのはサイラスの神子の力を縛っている魔術である。


 黒い魔力がサイラスの体に幾重にもまとわりつき、その身を縛っている。その黒い力に向けてリッチキングから今も多大な魔力が流れていた。神子の力を封じるにはあれくらいの魔力の出力と消費がいるのだろう。


 リッチキングがこの土地に座してこそ使えるような大喰らいの魔術。言うまでもなくすさまじく強力な魔術だ。


 検分するルドルフの横でアリアナがわずかに焦りをにじませる。


「とにかく聖剣をなんとかしないと。リッチキングの魔力を削り切って殺すのは無理よ」


 彼女がそう口にした刹那、ルドルフがリッチキングのいる方向に向けてシールドを張った。爆風とともに飛んできた無数の岩がその障壁を打つ。それは戦っている者たちへリッチキングが放った攻撃魔術の余波だった。


 ちらりと見ると踏み込んだリズがリッチキングに軽く払いのけられ、剣を持つ腕があらぬ方向に曲がるのが見えた。その勢いで後衛のところまで転がったリズにエレノアが素早く治癒の法術をかけると、たちまちのうちに腕は元通りになり、女剣士は再びリッチキングに向かって行く。


 その法術の威力も目を見張るものだが、腕を折られても剣を放す気配が微塵もないことにやや呆れる。


 ルドルフは再びザイオンに向き直った。


「あの調子で戦ってきたのか」


「そういうこった」


 苦笑したザイオンはすぐに真顔に戻って言った。


「だが実際問題、聖剣が使えないならいくら凌いでもどうしようもない……旦那、何かいい知恵はないか?」


「ブレイクスペルは?」


「もうとっくに試したさ。俺の得意だからね。だが魔術の強度が強すぎて歯が立たない」


 ルドルフはそのザイオンの言葉を聞いて黙った。


 さすがはリッチキング自らが編んだとっておきの魔術といったところか。ブレイクスペルが無理となると、解除するには術者であるリッチキングを倒すくらいしか思いつくことがない。魔力を供給する術者がいなくなれば、あの魔術は雲散霧消するはずだ。


 そこで思考は袋小路にぶち当たる。


 リッチキングを倒すには聖剣が必要だが、聖剣を復活させるにはリッチキングを倒さなければならない。不条理である。


「ルドルフ、なんとかならないの?」


 アリアナが難しい顔をして問うた。ルドルフとしては「なんともならない」と匙を投げたい気分だった。


 ルドルフの霊薬によりサイラスたちの動きはよくなっている。だがそれは回復してよくなったということなので、言ってみれば今まで徐々に削られていたということだ。宵闇が舞い降りる頃には、霊薬の在庫も使い果たし、瀬戸際まで追い詰められていることだろう。


 ベルタたちが参戦しても戦いの趨勢は相変わらずだった。変わらぬ膠着状態。湖の水をすくって干上がらせようという仕事に、人手が何人か増えたみたいなものだ。


 このまま戦い続けてもリッチキングを倒す目はない。


 王の盾であるオースが黙して動かない理由はそれだ。王の勝利と侵入者の敗北が時間の問題であることを理解している。


 ルドルフは聖剣の力を取り戻す手段を考えるのと並行して、早くも逃げることを考え始めていた。さすがに自分だけでというわけではない。この場の全員でだ。


 王宮には転移阻害の仕掛けが施されているから、転移魔術やショートリープで逃げることはできない。逃げる手段は徒歩しかない。シンプルに誰かが食い止めている間にほかのみなが逃げるという手しかないだろう。その殿役はアリアナと自分が適任か。


 だが逃げようとすればオースが動く可能性がある。オースとリッチキングが力を合わせるとなると、易々とはこちらの思い通りにはならない。


 ならばオースを先に倒すか。


 しかしリッチキングの前でその身内を消し去ることは、まず間違いなくかの王の逆鱗に触れることになる。サイラスたちは今のところたしかにリッチキングの魔術をさばいているが、それはリッチキングがこの王宮ごと巻き込むような大魔術を使っていないせいでもある。


 周りへの被害を考慮しないほどに頭に血の上ったリッチキングが、先のダンジョン・オーバーフローを一撃で屠ったような魔術を使えば、こちらは瞬時に全滅するだろう。


 仮にうまくこの場を脱することができたとしても、逃げた先にエゼルがいるかもしれない。そして大挙して王宮を目指すアンデッド兵たちの問題もある。そこまで考えてルドルフはようやく悟った。我々はすでに逃げられない状況にあるのだと。


 ほんの試しに自分だけならどうかと、ちらと考える。その場合は逃げおおせたとしてもエルフからもリッチキングからも追われることになる。そちらの道も申し分なく詰んでいる。


 サイラスの神子の力を、聖剣の力を取り戻す方法に関しては相変わらずノーアイデアだ。


 あまりの八方塞がりにルドルフはむしろ笑ってしまった。

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