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人間やめても君が好き  作者: 迷子
六章 亡国の覇王
136/141

皆一緒なら……怖くないから……

「トト……どこに行ったの……?」


 うつろな目を上げ、アメリアは呟く。

 トト、トト、と。大好きだった少年の名前を呼び続ける。

 そんなアメリアを案じ、思わずエドガーが叫んだ。


「アメリア! テメェ、アメリアに何をしやがった!?」

「ふふふ、先ほど言ったでしょう?」


 そんなエドガーを見て愉快そうにしながら、マリンは言った。


「【格闘家】のお嬢さんはともかく、彼女は少年に会えたことで、鏡に信仰を捧げました。その時点で鏡に支配権が渡ったということです。なので、少々操らせて頂きました。

 さすがにあなた方全員を敵に回すのは私でも厳しいので、彼女にはこちらの味方になってもらおうかと。

 言ったでしょう。最低でも五対二だと。ですが、私が圧倒的に有利になりましたね。貴方達に彼女を傷つけることはできますか?」


「このっ……! クソ野郎が!」


 エドガーは、ギリッと歯ぎしりをする。悔しいが、こうして悪態を吐くしかできない。


 マリンの言う通り、エドガーにアメリアと敵対するという選択肢はありえない。

 それを見透かし、マリンはなおさら笑みを深めた。それがなおさら苛立たしい。


「あわわっ、アメリアさんがっ、そんなっ……ど、どうしましょう!?」

「どうしようと言われても、さすがにアメリアさんを斬る訳には……」

「一発殴れば正気に戻ったりはしねぇか?」

「アメリアはお前と違ってそんな単純に出来てないだろ。だが、正気に返る方法がなくはない」


 ラッシュの発言に、視線が集まる。

 ラッシュはアメリアを観察しながら続けた。


「アメリアは【賢者】だ。いかに信仰を利用したとはいえ、こういった魔法的なものにはずば抜けた耐性があるはずだ。何か切っ掛けさえあれば、自力で戻ってこれるかもしれん」



「そっ、そうか! それなら……アメリア!」


 ラッシュの言に希望を見出し、エドガーは迷わず名前を呼んだ。

 炎に囲まれたアメリアは、ゆっくりとエドガーに目を向ける。


「トト……」

「そう……ッ! ち、違う! アメリア! 俺だ! エドガーだ!」


「エド……ガー……」

「そう、エドガーだ! お前の大事なエドガーだ! 俺達は敵じゃない! お前の味方だ! 正気に戻ってくれ!」


「自分で大事な人とか、よく言えますね」

「黙れ! 俺は必死なんだよ! 今は茶々入れんじゃねえ! つぅかお前らも声をかけてやれや! 少しでも刺激を与えりゃ正気になるかもだろうが!」


「それもそうだな。アメリア! 心を取り戻せ! あたしに反抗出来るくれぇだ! お前はそんなヤワな女じゃねぇだろうが!」

「アメリアさん! フィーリアです! 頑張ってください!」


 それぞれがアメリアに声をかける。すると、アメリアは震え、頭を抱えだした。


 それを見て、エドガーは一層強く声をかけた。アメリアなら己を取り戻し、大事なものを思い出してくれると信じて。


 ──俺と一緒に旅したあの時間を。

 ──俺と協力して潜り抜けた、あの死線を。

 ──俺と過ごした、あの楽しい瞬間の数々を。

 ──俺との大事な絆を!


「ジーナ……フィーリア……ネコタ……ラッシュ……」


 エドガーの想いが届いたのか、アメリアは順番に仲間の名前を呼ぶ。

 そして、ゆっくりとエドガーに目をやった。


「……エド、ガー」

「そうだよ、アメリア! エドガーだ!」


「エドガー……あなたの、せいで……!!」

「えっ」


 明らかに、他の仲間に対する反応とは違った。

 アメリアのうつろだった瞳に憎悪が宿り、エドガーを射抜く。


「せっかくトトに会えたのに……なんであんなことをして……なんで……なんで……あなたのせいで!!」


 反応する間もなく、アメリアの周りで蠢いていた炎が膨れ上がる。そして、その炎は真っすぐエドガー達に襲い掛かった。


「──ッ! 精霊さん!」


 咄嗟にフィーリアは精霊に呼びかけ、自分達を守るように火の精霊で包み込む。その直後、アメリアの炎が五人を飲み込んだ。


 フィーリアは皆を守りつつ、そのままアメリアから火の制御権を奪おうとする。が、その魔力の強固さゆえにそれは叶わなかった。それに衝撃を覚えつつ、守りを固めることに全力を尽くし、精霊に強く語り掛ける。


 それが功をそうしたのか、五人はアメリアの魔法から無事に生き延びた。


 炎が止んだのを見て、フィーリアは火の精霊を散らす。そしてほっと息を吐き、どさりとその場に腰を下ろした。


「よ、良かった……一瞬、もう駄目かと……」

「いえ! 本当に助かりましたよ! さすがですフィーリアさん!」

「ああ、本当によくやった。しかしこいつは……」


 ラッシュはフィーリアを褒めつつも、引き攣った表情で周りを見回す。


 五人とその周囲には、一切の異変はない。だが、その他の場所は凄惨な有様だった。

 アメリアの火が通った場所は、地面が焼き焦げ、五人の背後にあった分厚い壁には大きな穴が開いていた。


「……以前、火を得意とする【魔導師】の方の炎は奪うことが出来たのに、アメリアさんの物はビクともしませんでした。それどころか、防ぐので精一杯で」


「Sランク冒険者のエルネストって奴だな。エドガーの顔見知りの。だが、あれも確かに人外の領域だ。【賢者】には劣るかもしれんが、そこまで差はないはず。だが、そうなると……」


 それだけ、アメリアが強く殺意を抱き、本気で魔法を放ったということになる。

 その事実と、まるでフィーリアの炎を彷彿とさせる破壊の跡に、仲間達は寒気を感じた。

 だが、それは五人だけではない。


「……驚きました。まさかこれほどとは。なるほど、これが【賢者】ですか」


 鏡を収容するこの場所は、それを守るために、厳重な結界をマリンが直々に施している。そしてアメリアの魔法は、それを容易く燃やし尽くした。


 その事実と、己に対する自負ゆえに、マリンはアメリアの脅威をある意味で一番理解していた。


 同時に、幸運も感じていた。自分が何もせずとも、アメリアの憎悪を引き起こしてくれた人物に。


「アメリアが……俺を……本気で殺そうと……そんな、なんで……どうして……」


「なんでもクソもあるか! っこのクソウサギ!! どうすんだよテメェ! テメェのせいでアメリアがやる気になっちまっただろうが!」

「本当ですよ! あんなことしたんだから当然の怒りでしょ! 自業自得ですよ!」


 ジーナとネコタから責められるが、あまりにショックが大きかったのか、エドガーの耳には入ってこなかった。


 ガビーンと衝撃を受け、ボロボロと涙を落ち込んでいる。もう何もする気力が起きない。いっそこのまま死んでしまいたいと本気で思っていた。


「あっ、あのっ、いくらなんでもこの状況でエドガー様を責めるのは酷では……!」

「自分で蒔いた種ってのは間違いないがな。というか、そんなことしてる場合じゃねぇ!」


 見れば、アメリアの炎はますます大きくなっている。

 先ほどより規模の大きい魔法に、皆が青ざめる。

 

 アメリアを傷つける訳にはいかない。かといって、救い出す方法も今は思いつかない。

 ならば、取るべき手段は一つしかない。


 誰よりも早く、ラッシュが叫んだ。


「──逃げるぞっ!!」

「ッッ! 分かりました!」

「えっ? あっ、はい!」

「アメリア……なぜ……どうして……?」

「いつまで落ち込んでんだよ。おら、とっとと行くぞ」


 それしかないと、誰もが悟っていたらしい。


 のんびり屋のフィーリアですら、すぐに行動に移す。落ち込んで役立たずになっていたエドガーの首根っこをジーナが掴み、皆が背後の大穴に飛び込んで逃走した。


「ふむ、潔い」


 マリンは感心すら浮かべ、五人の背中を悠々と見送る。そして、支配下にあるアメリアへ目を移した。


「トト……トト……エドガーのせいで……許せない……許せない、けど……でも……」

「……驚きましたね。ここまで抵抗出来るとは」


 ぶつぶつと呟き、その場に立ち尽くしているアメリアに、マリンは小さく目を瞠る。

 ラッシュの推測は正しかった。信仰というこの世で最も強い力であっても、【賢者】の魔法的耐性が、その効果を弱めていた。


 だからこそ、あの五人をまんまと逃がすことになった。感情が高ぶらない限り、アメリアが仲間に対して、攻撃行動を取ることがないゆえに。


 つまり、全てエドガーのせいである。救いがない。


「まぁ、より多く力を込めればいいだけですがね」


 マリンの杖が再び怪しく光る。そしてアメリアの体が同じように光ると、うつろだった目が一点に定まった。


「……行かなきゃ。皆を、殺さなきゃ」


 先ほどよりは意思がはっきりとしている。だが何の感情も見えない無表情で、アメリアはゆっくりと逃げた五人を追い始めた。


 そんな彼女に、マリンは満足そうに頷く。


「これでよし。私が手を出す間でもなく、彼らは彼女によって裁かれるでしょう。が、もう一つ手を入れておきましょうか」


 勇者一行が【賢者】を奪われて、このまま逃げ出すとは思えないが、万が一にでも他へこの街の実態を知られると面倒なことになる。そうならないよう、保険をかけておくに越したことはない。


 杖を掲げ、マリンはクスリと笑った。


「即座に逃げに転じた判断は見事。ですが、愚かな選択でもある。あなた方は初めから、逃げることなど叶わなかったのですよ」


 そして、杖が再び一際強く輝き出した。




 ♦   ♦




「はっ、はっ……! う、うまく逃げ出せましたねっ!」

「ああ、うますぎるぐらいにな」


 走り、息を切らせながら言ったフィーリアに、ラッシュはそう返した。

 同意するように、ジーナが頷く。


「確かにな。こんな簡単に逃げられるのはちっとばかり不自然だ」

「えっと、僕らが素早くて反応できなかったとか」


「それだったらいいけどな。こんなとこで数百年もふざけたことを企んでいたやつだろ? そんな奴が呆気なくあたしらを逃がすとも思えねぇな」

「そう、ですよね。アメリアさんが最後に止めに来なかったのも変ですし」


「アメリア……なんで……どうして……俺との思い出は……今までの絆が……」

「テメェはいつまで落ち込んでんだ! いい加減自分で走れや!」


 ジーナは容赦なくエドガーをぶん投げた。


 んぁ~、と間抜けな声を出しながら放物線を描き、ゴチンッ、と小気味よい音が聞こえる。


 んぬごぉお~、と唸り声を上げゴロゴロと数回転がってから、エドガーは走って戻ってきた。


「テメェ! 何すんだ!? 頭がカチ割れるかと思ったろうが!」

「やっと少しはマシになったか。あたしのおかげだな。感謝しろよ」


「するかっ! 見ろこれ! 今ので俺の美しい毛並みにハゲが出来た上にタンコブまで! お前のせいだぞ!」

「いつまでも落ち込んでいるお前が悪いんだろうが。状況を見ろよ。ふざけてる場合じゃねぇんだよ。アメリアが奪われてんだぞ」


 ぬぐぐっと、エドガーは悔しそうに唸る。

 この雑な女に説教をしてやりたいところだが、アメリアのことを言われては仕方がない。


「確かにそうだな。あのいけすかねぇイケメンから、アメリアを取り返さねぇと。俺の女を寝取られたままにするわけにはいかねぇ」

「寝取られるとかやめろ。まずアンタの女じゃないだろ。アメリアさんに失礼ですよ」


「はぁ? 俺とアメリアは相思相愛ですし。嫉妬は止めてくれません?」

「嫉妬じゃないですから! 相思相愛ってペットと主人の関係だろ! 分をわきまえろ!」


「はいはい、じゃれるのはそこまでな。これからどうするか、話し合うぞ」


 パンパンと手を叩き、エドガーとネコタの争いを止め、ラッシュは続ける。


「まず、このままアメリアを放って逃げるのは論外だ。これはいいな?」

「当たり前だろ。アメリアを置いていくとかありえねぇ。当たり前のことぬかすな」


「はいはい。そうなると、だ。なんとかアメリアを取り戻す方法を考えないといけない訳だ。一番有力なのは、アメリアが操られる原因となったあの鏡を壊すことなんだが……」


 そこまで言って、ラッシュは難しい顔を作る。

 それに、フィーリアは首を傾げた。


「どうしたんですか? 鏡を壊せばいいのでは?」


「いや、本当にそれでいいのかと思ってな。大本を絶つってのは、最も有効な方法ではあるんだが、心を操るような道具をそのまま壊していいのかと」


「……最悪、操られていた人間が精神崩壊を起こす可能性があるってことか。あり得るな」


 エドガーの発言に、ぎょっとした顔でネコタが驚いた。


「えっ!? アメリアさんに被害が行くんですか!? なんで? 鏡が壊れたなら解放されるだけでは!?」


「この手の道具ってのは、そういうパターンが多いんだよ。曲がりなりにも、道具と人の間に繋がりが出来ている訳だからな。本体がぶっ壊れたらその影響が操った人間にまで出るんだ。

 パソコンだってブレーカーが落ちたらデータが吹っ飛ぶことがあるだろ?」


「ああ、なるほど。それじゃあどうするんですか?」


「正式な手順を踏んで解放するか。あるいは【呪術師】や【神官】の力で浄化するって手段が考えられるが……」


「どちらも、今の俺らじゃ出来ねぇな」


 エドガーの考えに、ラッシュが結論を出す。


 正式な手順は、おそらくマリンしか知らない。だが、アメリアを従えたマリンから情報を聞き出すのは至難の業だろう。そのマリン自身も、得体のしれない力を感じる。


 そして、【呪術師】や【神官】は此処に居らず、手を借りるあてもない。


 難しい顔をするラッシュに、憮然とした表情でジーナが言った。


「なんだそりゃ。結局打つ手がねぇってことじゃねぇか」


「今の段階では、な。だが、ないなら持ってくりゃいい。

 アイツが今まで秘匿を第一にやっていたのは、アイツのやろうとしていることに、敵が多いからだ。

 死の神に連なる者はもちろん、他の神の関係者であろうと、ここまでの神の侮辱を許す訳がない。絶大な影響力を誇るハーディア神殿に恩を売れるしな。この見返りはデカい。

 そして、奴が生き返らせようとしている王は、この世界全ての敵だ。この周辺の国家なら、火種がでかくなる前にすぐにでも防ごうとするはずだ。

 最大の問題はこの話を信じてくれるかだが、【勇者】の名前を使えば真偽を疑うことはないだろう。

 だから、外に助けを求めて、腕の良い【呪術師】か【神官】を連れてくればいい」


「いや、これだけの危険度なら、冒険者ギルドも自発的に緊急クエストを出すはずだ。冒険者ギルドなら俺が言えば疑うことはないだろう。

 神殿だの国家だのじゃあ足が遅いし、そこの小僧が頼むより俺が動いた方が遥かに早い」


「いちいち僕を乏しめるのはやめろ!」


 ネコタの真っ当な抗議を聞きつつ、ラッシュは頷く。


「決まりだな。一刻も早くこの街を抜け出し、冒険者ギルドに応援を求め、腕の立つ【呪術師】か【神官】を借りる。そして、アメリアを救い出した後、あのイケメンをとっちめる」


「なんだよ、結局逃げるんじゃねぇか」


 不満そうに言うジーナに、ラッシュは強く言う。


「一時的に、だ。置いて先に行くわけじゃない。

 アメリアを取り返そうにも確実な手段がないとどうしようもないだろうが」


「確かにそうですね。気は乗りませんが」

「アメリアさんには申し訳ないですけど、少しだけ我慢してもらいましょう」


「……かといって、完全に放っておくわけにはいかないよな。よし、俺が街に潜んで情報を集めておこう! お前らは早く助けを──」


「アホかお前! 自分で言っただろうが! お前が行かんと冒険者ギルドがすぐに動く保証がないだよ! お前は絶対に行くの!」


「ん゛……ん゛ん゛~~~~……!!!!」

「泣きそうな顔しても駄目だ! 絶対にお前は行け! いいなっ!?」


 涙目になって頬を膨らませるエドガーを叱りつけ、ラッシュは呆れたような息を吐く。


「だが、奴の動向は掴んでおかなきゃならんし、エドガーの言う通り情報収集は必要だ。

 俺なら絶対に見つからず街に潜むことも出来る。だから、俺を置いてお前らは助けを──」


 そう言って、ラッシュは麓の街に目をやる。そして、固まった。


 それにつられ、四人も同じ方向を見る。そして、そこに広がる光景を目にし絶句した。


 ゆらゆら、ゆらゆら、と。


 大量の黒い影が、街の方から、この神殿一帯を囲むようにして、登ってきている。

 まだ遠くに居るため、はっきりとは見えないが、間違いない。

 

 ──あれは、間違いなく人だ。


 シオンの街から、隙間を失くすようにこの神殿に人が集まってきている。

 それはまるで、大量の蟻が食料に集まっているかのようで。


 それを想像した時、ネコタはぞっとした寒気を感じてしまった。


「あの、ちょっと、これって」

「最低でも二対五。アイツの言っていたのはこういう意味か」


 ラッシュは苦虫を嚙み潰したような表情で、登ってくる人の群れを見ながら続ける。


「アメリアの信仰を奪ったというプロセスは、一つの手段。結局のところ、あの鏡そのものに信仰が集まっていれば、それで支配権が移るんだ。

 この街に住む人間なら、当然信仰を向けている。そして、あの鏡を求めてこの街に訪れた人間は、言うまでもない。つまり……」


「この街に居る人間全てが、敵に回る」


 ラッシュの言葉を、エドガーが引き継ぐ。

 へへっ、と。ジーナはこちらに向かってくる町人を眺めながら言った。


「どうする? 片っ端から片づけるか」


「出来る訳ないだろ。操られているだけの普通の人だぞ。俺らが一発殴るだけで下手すりゃ致命傷だ。

 とはいえ、これで助けを求めることはもちろん、潜むことも難しくなった。

 奴の余裕はこれだったわけだ。まったく、嫌な手を使ってくれる。こうなると、俺達だけで奴とアメリアを……」


 ラッシュが新たに方策を練っていた、その時だった。

 ザッ、と。


 静かに、しかし確かに。五人の背後から、足音が聞こえた。


 おそるおそると、五人が振り返る。

 するとそこには、俯いたアメリアが立っていた。


「皆……私を置いて……どこに行くの?」

「ア、アメリア……」


 声を震わせて、エドガーがアメリアを呼ぶ。

 そして、アメリアは……ゆっくりと顔を上げ、嗤った。


「皆で仲良く……トトの所に、行こう? 大丈夫……皆一緒なら……怖くないから……私も、一緒だから……!」


 アメリアの周りに、炎が生み出される。

 炎に囲まれたアメリアは、さながら地獄で笑う幽鬼のようだった。


「──キャアアアアアアアアアアアアアア!!」


 エドガーの恐怖の悲鳴が、神殿一帯に高く響いた。




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