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人間やめても君が好き  作者: 迷子
五章 知恵の迷宮 砂の涙
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──超似合ってんじゃん


「また行き止まり、と見せかけた問題だな」

「そうだな。どれ、次はどんなものかなと」


 また場面を戻して、エドガーとラッシュの二人である。

 先に進んだ二人は、再び先ほどと同じ行き止まりに当たっていた。もちろん、壁には問題が書かれている。


『6+6=2

 2+1=11

 4+3=7

 3+4=7

 1+6=7


 6+2=◯』


 問題を眺め、ラッシュはああと呟いた。


「数字の法則のクイズか。気づけば簡単なもんだが……さて、これは何の法則か……こういうのは気づくまでが大変だからな……」

「6……2……4と3は7……3と4も7……1と6が……あっ、分かった。サイコロじゃねぇかこれ?」


「ん、サイコロ? なんでだ?」

「裏面よ、裏面」


「裏……ああ、そういうことか。ということは答えは6か。よく気づいたなお前」

「ふっ、なに。一時期はイカサマで賭場を荒らし回ったからよ。サイコロの扱いはお手のものよ」

「碌でもねぇ理由だなおい。まぁ、賭け事は勝ってこそ、というのは認める」


 正直、どっちもどっちである。

 答えに反応し、壁が地面へと消えていった。


 二人は迷うことなく先を進む。すると、またしても一度目の問題と同じような部屋に繋がっていた。そして全く同じ位置に台座が置かれ、装飾品が飾られている。


「うっひょぉおおおおおお! キタキタァアアアア! これよこれ! これを待っていたのよぉ!」

「待て! だから迂闊に近づくな!」


 宝に飛びつこうとしたエドガーの首根っこを、ガシリとラッシュが捕まえる。

 エドガーをぶら下げながら、ラッシュは台座に近寄った。


 今度の台座の上には、ブレスレットが飾られていた。これもまた、エドガーの首に掛かったネックレスに負けないほど、宝石が散りばめられた豪華な作りだった。


「おぉ……すげぇ……」

「ああ、確かにな……」


 ゴクリ、と二人は思わず唾を飲む。

 手を伸ばす衝動を抑え、ラッシュは台座を観察した。水のマークが描かれていた所と同じ場所に、今度は十字架のマークが刻まれている。


 平時ならともかく、この場においては不吉すぎる模様に、流石にラッシュは目が覚めた。


「おい、ダメだろ。これはダメだろ。絶対手を出したら碌なことにならないぞ」

「いや、そうとも限らない。さっきと同じように、何も起きないかもしれん」

「欲に眩んでんじゃねぇ! どう見てもヤバイだろうが!」


 ラッシュは手でぶら下げたままエドガーを叱りとばす。しかし、エドガーは全く聞く耳を持っていなかった。目が$の字になり、ブレスレットから目を外そうともしない。

 使い物にならねぇと、ラッシュは相棒の頼りなさに辟易とした。


「さっきのは水だったから、実際罠が発動してもまだなんとかなったかもしれん。だがな、もし今度こそこのマークの罠が発動すればどうなるか、想像はつくだろ?」

「いや、これは罠のマークじゃない。俺たちの幸福を願う祝福のマークだ」

「寝ぼけたこと言ってんじゃねぇ! こんな危険地帯で十字架なんぞどう考えても一発昇天の即死トラップだよ!」


 抵抗すら出来ず、死ぬ可能性もある。とてもではないが、ラッシュは試そうとも思えなかった。

 エドガーを掴んだまま、ラッシュはブレスレットを無視して先を進む。


「ともかく、こればかりはダメだ。物事は常に最悪を考えなくちゃならん。必要になったら取りに戻ればいいんだ」

「生憎と、俺はお前のような臆病者ではない。ここぞという時は迷わず勝負に出る。それが博徒エドガーの生き様よ!」

「またくだらないことを……アイタッ!? あっ、待て!」


 エドガーはぐるりと首を回し、ラッシュの手に噛み付いた。

 ラッシュは思わず手を離してしまう。拘束から解き放たれた瞬間、ダッとエドガーは走った。そして台座の上に登ると迷わずブレスレットを手に取り、高々と掲げる。


「取ったー! これおーれのっ!」

「お前なっ! 本当に洒落にならな──」


 ──ゴゴゴゴゴゴッ!


 また、迷宮のどこかから振動が伝わってくる。それに加え、ヴォォオオオオ……! と、背筋が凍るような掠れた声が聞こえてきた。


 サァッと、二人の顔が青くなる。これは明らかにまずい。今度こそおしまいだ。半ば諦めの境地で、何が来るのかと身を固める。しかし、待てども待てども、それ以上の変化はなかった。


 何もないとみるや、エドガーはフフンと自慢げに笑った。


「ほれ見てみろ。やっぱり何もねぇじゃねぇか」

「んなわけあるか! 絶対におかしいだろ。あんないかにも何かがありそうな音が出ておいて……」


 音を出して、脅かすだけ? いや、バカな。そんな子供騙しで終わる訳がない。

 音の意味に考え込むラッシュだったが、いくら考えても答えは出ない。そんなラッシュに、エドガーはお気楽な調子で言った。


「だから言ってんだろ。深読みしすぎなんだって。やっぱりこれは問題を解いたご褒美なんだよ。迷宮には財宝が眠ってるってのが相場だろ?」

「いや、絶対におかしいだろ。それを手にして何かが起きているのは間違いないんだぞ? それなのに、肝心の俺らに何も異変がないなんて」


「そうは言っても、実際に何も起きてないじゃねぇか」

「それは、そうだが……」


 それにしたって、どうにも納得がいかない。

 悶々とするラッシュに、エドガーははしゃいだ様子で腕を上げて見せる。


「それよりも、ほら。見てみろよ。どうどう? 似合ってる?」

「お前なぁ、調子に乗るなよ! そうやって油断した頃を見計らって、本命の罠が……発動して……」


 エドガーを叱るラッシュだったが、目がエドガーの腕に引きつけられるにつれ、語調がみるみるうちに弱くなっていく。


 エドガーの腕には、眩いばかりの光を放つ腕輪が付けられていた。下品にならない程度に並べられた宝石は、それはそれは美しいものだった。


 へっ、と。ラッシュの頬がだらしなく緩んだ。


「──超似合ってんじゃん」

「だろだろぉ! そうだろ〜? 知性溢れる俺にぴったりのアクセサリーだと思うだろぉ〜? こりゃ、あれじゃねぇかな? 知的な人間を讃える為の宝なんじゃねぇかな? だから問題を解く度にこうして褒美が用意されている訳よ!」


 そんなはずがないと、ラッシュは心の中で否定する。いくらなんでも、そんな都合の良いことがあり得るはずがない。ほぼ間違いなく、これは罠だろう。この先、しっぺ返し食らうような結果が待っているはずだ。


 しかし、そうは言っても、それを否定するだけの材料がないのもまた事実。あっさりと宝を手に入れても、実害は何もないのだから。


 ……まさか、本当にご褒美なのか? 罠だと思ったが、当たりの道を引いたと? 警戒のし過ぎか? そんな都合のいい話が……いや、でも……そうだったらいいな〜。


 ──そんな気がしてきた。


「さぁーてっ! 次、行ってみよー! 待っててね俺のお宝ちゃん! 今迎えに行ってあげるよ〜ん!」

「……待て、エドガー!」


 ウキウキと進もうとするエドガーを、ラッシュが鋭い声で止める。

 また説教かと、エドガーはうんざりした様子で振り返り、怪訝そうに眉をひそめる。

 ラッシュは、気まずそうに顔を逸らし、目を合わそうとはしなかった。


「なんだよ。まだ何か文句があんのか?」

「いや、その、もし、次も同じような宝があったらの話なんだが」

「……おう」


 ラッシュは苦々しい表情で、重たそうに口を開いた。


「つ、次は、俺が宝を手に取ってもいいかな?」


 その言葉に、エドガーは目を丸くする。

 しかし、すぐに柔らかい表情を作ると、ラッシュに近寄り、ポンと膝下を叩いた。


「当たり前だろ。俺達──友達じゃないか!」

「エ、エドガー君……!」


 ブワッと、ラッシュは目元が熱くなった。

 そんなラッシュをバシリと叩いて、エドガーは言う。


「さぁ、行こうぜ! 宝は俺達で山分けだ!」

「お、おうっ! よぉーし、俺も頑張って問題を解いちゃうぞ!」

「はははっ、調子がいいなこいつぅ! でもまぁ、その意気だ! この迷宮の宝は根こそぎ頂いちゃうぞっ!」


 二人は高笑いをして、意気揚々と先に進んだ。

 こうして、二人は完全に迷宮の罠に嵌った。






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