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人間やめても君が好き  作者: 迷子
五章 知恵の迷宮 砂の涙
105/141

分かったらとっとと●出せやぁああああああああ!


 守り人の部族の集落を発って、ネコタ達は祭壇の場所へと近づいていた。

 祭壇で女神の祝福を受ける、だけではない。

 砂漠の民を苦しめる悪魔を打倒せんと、勇者一行は使命に燃えていた。


 使命感に燃えていた六人は今──見事に死にかけていた。


「……ガハッ! ダメ、だ……限界……だ……!」


 ガクリ、と。エドガーは膝をついた。

 ヒュー、ヒューと掠れた呼吸で、胸元に手を伸ばす。


「み、みず……お水をください……! 本当に……洒落にならな……!」

「皆お前と同じだよ。ギリギリの所で頑張ってるんだ。お前も我慢しろ」

「我慢……出来るなら……! そうしてる……!」


 エドガーは血走った目でラッシュを見上げ、訴えかけた。


「足が痛いなら、我慢して歩く……腹が減ったなら、お腹を鳴らしながら歩く……だが、俺はこの砂漠で嫌というほど思い知った……飢えは我慢出来ても、渇きは我慢出来ねぇ!」


 切実な叫びだった。

 冗談ではなく、エドガーは今、死に瀕していると思った。そしてその想いは皆同じなだけに、責められなかった。


 集落から旅立ってから何日も経ち、六人は祭壇のある地帯へと辿り着いていた。なのに、祭壇を未だ見つけることが出来ず、こうして彷徨っている。

 その理由は──


「ラッシュさん、どうですか?」


 ネコタの期待が込められた声に、ラッシュは胡乱な目をしながら、守り人から預かった祭壇へと通じる羅針盤を見る。

 旅に出た当初、その羅針盤は同じ方向を指していた。

 しかし、今は──


「ダメだ。やっぱりイカれてやがる」


 ラッシュは顔を顰め、盛大に舌打ちをした。

 羅針盤の針は、グルグルとひたすら回り続けていた。

 半分予想はしていたが、ネコタは気が遠のいたように空を見上げた。


 これが、六人が今も砂漠を歩き続けている理由だった。

 歩いても歩いても同じ方向を指し続けていた羅針盤は、いつの間にか機能を失っていた。それでも、時折正常に直る羅針盤に従い、六人はひたすら歩き続けた。


 何度も何度も方向を変え、羅針盤に従い続けたのにも関わらず、六人は裏切られ続けていた。気づけば、水はもう僅かとなっていた。


 ドシャッと、今度はフィーリアが崩れ落ちた。


「私も……もうダメです……お願いですから……私にも水を……!」

「ダメだ。考えなしに飲めば、集落に戻ることすら出来なくなる。死なない為にも、ここは我慢するしかない」

「今飲まないと、今、死んじゃいますよぉ〜!」


 半泣きになってフィーリアは訴える。フィーリアの悲しみを感じ取ったのか、大量の火の精霊が慰めるように側に寄り添ってきた。


 とうとう我慢の限界を迎えたフィーリアは、きぃぃいいいい、と金切り声を上げると、頭と腕をブンブンと振って癇癪を起こす。


「──もうっ、いやっ! なんでこんな時まで寄ってくるの! 嫌いっ! 大っ嫌い! あっついから寄ってこないで!」


 キッ、と。フィーリアは涙目で宙を睨みつけた。ガンッ! とショックを受け、火の精霊はよろめきながら、ちょっとずつフィーリアから離れる。


 何故か、そんな光景が精霊術に適性の無い面々の目にもありありと浮かんだ。

 そんなフィーリア行動に、ジーナはこの状況で冷や汗を流した。


「すげぇなアイツ。自分を守ってくれる相手をああまで無下に扱うか」

「自分の価値がどこにあんのか分かってんのかな」


 ラッシュはとても心配になった。

 精霊術を使えなくなったフィーリアなど、ただの大飯食らいだ。もはやなんの役にも立たない。ああいや、奴隷商に売り払って緊急の資金には出来るが。

 そうはならないでほしいと、ラッシュは密かに祈った。


「だがよ、いい加減なんとかしねぇとまずいんじゃねぇか? 引き返すなら今だろ?」

「はい。僕もそう思います。というか、僕自身そろそろ限界に近いです」

「……まぁ、その通りなんだよな」


 真剣な表情で言うジーナとネコタに、ラッシュは同意する。

 いくら祭壇に近いとはいえ羅針盤が働かず、正確な場所が分からない。そして、水も残り少ない。冷静な目で見れば、引き返した方が無難だ。


 問題があるとすれば──


「あんだけ盛大に送り出されたのに、見つからなかったので戻ってきました、と説明しなきゃと思うとな」

「確かにな。恥晒しにもほどがある」

「いや、でも、命には変えられませんし」


 暗い顔で三人は俯いた。いや、仕方ないことではある。それは分かっている。でも、それはそれとして恥ずかしいよねっ!


「いや、ここで彷徨って死ぬ方がよっぽどバカらしい。生きていればまた来られる。そう、逃げるのもまた勇気だ」

「守り人の人達も分かってくれるといいですね。散々飲み食いしたと思うと……」

「言うなよ。それは言うなよ……」


 ラッシュとネコタはズンと肩を落とした。

 やはり、想像するだけで気が重くなる。

 三人の話を横で聞いていたアメリアは、倒れるエドガーの頭をそっと撫でた。


「エドガー、聞いてた? 帰るって。もう少しの辛抱だから、頑張ろうね」

「あぁ……アメリア〜……」


 撫でられ、渇きで荒んでいたエドガーの表情が穏やかなものになる。

 冷たい手が、エドガーの心を癒していた。


「はぁ〜、頭がスッキリする。気持ちいい……もっと撫でてくれ」

「しょうがないな。エドガーは甘えん坊さんだね」


「この暑さならしょうがないだろ〜……? アメリアの手が冷たくて……気持ちいいから……………………冷たい?」

「あ」


 スッ、と。茹で上がったエドガーの頭が冷静になり、目が細まる。

 バッと。慌てたようにアメリアは手を離した。


 ジッと、エドガーはアメリアを見つめる。ダラダラと、アメリアには珍しく、分かりやすいほど焦りの汗を流している。


「なぁ、アメリア。おかしくね? お前の手、やけに冷たくないか?」

「なに?」


 ラッシュはエドガーの言葉を聞き逃さなかった。そして、それは他の面々も同じだ。ピクリとエドガーの声に反応し、アメリアを見る。

 己に集まるいくつもの視線から逃げるように、アメリアは目を逸らした。


「……わ、私、冷え性だから」

「いや、それはおかしい。いくらなんでも、そういうレベルの話じゃ……あっ!」


 エドガーはガバリとアメリアの胸元に飛び込んだ。

 サッとアメリアの顔が青くなる。そして、エドガーはハッとした表情を見せた。


「やっぱり! お前、自分だけ氷の魔法を使って涼しくなってやがるな!?」

「なにぃ!?」


 ギロリと、いつになく本気の殺気でジーナはアメリアを睨みつけた。

 ジーナほどでは無いが、他の仲間もアメリアを剣呑な目で見続ける。


「アメリアさん、本当なんですか? まさか、今までずっと?」

「ずるいですっ、アメリアさんだけ。私達、皆我慢してたのに!」


「なぁにが暑さに強い、だ。そんなイカサマを使ってりゃあそりゃあ強いだろうよ。なぁ、自分だけ楽してへばってたあたしらを見ているのはどんな気持ちだった? 楽しかったか? ああ?」

「アメリアよ、流石にこれは俺も庇えねぇぞ。上手く使えば全員が体力の消耗を抑えられたんだからな」


「うっ、うぅ……」


 全員から責められ、オロオロとしていたアメリアだったが、開き直ったのか、逆に睨み返した。


「黙ってたけど、しょうがないでしょ。いくら私でも、全員に同じ魔法を一日中かけ続けるなんて無理だもん。だから、せめて自分だけでも体力の消耗を抑えようとしただけのことだよ。

 それを馬鹿正直に伝えたら、今みたいに私が皆から責められるだけでしょ? だから黙ってただけのことじゃん。私、何か間違ってる? 

 というか、自分の力を使って環境に対処して何が悪いの?

 皆も自分でなんとかすればいいじゃん」


「嫌味かテメェ! 出来るならとっくにやってるんだよ! んな魔法を使えんのはテメェだけだろうが!」


 まったくもってジーナの言う通りだった。

 喧嘩を売っているのかと思うほどの開き直りに、ワナワナとジーナの手が震える。しかし、アメリアはツンと顔を背け、聞く耳を持たなかった。

 これはもうやるしかない。ジーナが行動に移そうとした時、バッと間にエドガーが立った。


「よせ、アメリアは何も間違っていない! 全員を守ることは不可能だというなら、黙っているのは当然じゃないか!」

「黙れウサギ! テメェだってずるいと思ってんだろうが!」


「思っている! 思っている、が! 俺は全員が苦しむくらいなら、アメリアだけでも助かってほしい!」

「エドガー……!」


 仁王立ちで己を庇うエドガーの姿に、アメリアはキュンと乙女心が疼いた。やっぱりこの子だけは違うと、改めて彼を見直した。盲目にもほどがあった。


「ところでアメリア。俺だけだったら、俺をお前が抱きながら、魔力の消耗も抑えられると思うんだが」

「……ごめんね。せっかく暑さを遮断しているから、今は汗をかきたくないの」


 ガンッ、と。エドガーは岩をぶつけられたようなショックを受けた。溺愛している相手とはいえ、やはり一番可愛いのは自分なアメリアだった。


 エドガーは絶望し、再び四つん這いになって項垂れる。


「バカな……ッ! 俺の完璧な計画が……何故……!」

「自分だけ助かろうって気持ちが見え見えなんですよ。あのタイミングで庇うなんて、バレないと思ってたんですか?」


「聞いたか今の!? 汗をかきたくない、だぞ!? この状況であんなこと言ってんだぞ!? それでも許せってのか、なぁ!?」

「いや、まぁ、流石にどうかと思うが、魔力が足りなくなるっていうなら無理強いする訳にも……自分を差し置いて他人を助けるのは嫌だって気持ちは分からんでもないし。いや、限界が来たら助けてほしいが」


「酷いっ、酷いですっ! アメリアさん、私にも黙っていたなんて。友達だと思ってたのに!」

「え?」

「え? えってなんですか? ……まさか、アメリアさん!?」

「………………」

「アメリアさ〜〜〜〜んっ!?!?」


 最悪の空気だった。

 これが勇者の一行とは思えない険悪さだった。とてもではないが、これ以上探索を続けられる状況ではない。まぁ、こいつらの平常運転でもある。


 苦労人のラッシュは色々なものをため息として吐き出しつつ、周りを宥めながら言う。


「とりあえず、休める場所を探して休憩を取ろう。そうしたら集落に帰るぞ」

「休める場所なんかどこにあんだよ! こんな暑さじゃどこで休もうが一緒だろうが!」


 キツくあたるジーナをあしらいつつ、ラッシュは辺りを見回す。

 起伏のある熱砂が広がるばかりで、改めて嫌気が差す。だが、ある一点が気にかかり、【鷹の目】を使ってみた。


「おい、こっちの方角に大きな岩が見える。俺達が入れるだけの影もあるし、そこで休もう」


「……どこにあるんだよ。全然見えねぇじゃねぇか」

「まさかお前、スキルを使って調べてんじゃねぇだろうな。こんなだだっ広いところでお前がスキルを使ってようやく見えるような場所、一体どれだけの距離があると思ってんだ」

「うだうだ抜かすな。運良く集落の方向だし、帰り道にちょうどいいじゃねぇか。ほれ、とっとと歩け」


 グチグチと文句を言うジーナとエドガーの背中を押し、ラッシュはその岩場へと案内した。

 エドガーが言う通り、六人がその岩場にたどり着くには思った以上の時間がかかった。しかし、その場所にはそれだけの価値があった。


「いや、本当に運がいい。まさかこんなに広い洞穴になっていたとは」


 陰に入れればマシ、程度に考えていたその大岩は、近寄ってみれば相当な大きさだった。おまけに洞窟のように穴が空いており、中は六人が優に入れる広さだった。この砂漠でこれだけ休める場所は他にない。


 ここなら、十分な休息が取れる。しかし、もはや六人の体力はただじっとしているだけでは回復出来ない状況にあった。

 簡単に言えば、水が絶望的に足りてなかった。


「頼む……! 頼むから、水をくれっ……! お願いっ……少しで、いいから……!」

「私も、もう限界で……」


 洞穴の中に入るなり、エドガーとフィーリアはバタリと倒れ込んだ。

 日光が届かぬその場所からは、ジリジリとした熱も届かない。僅かに風も感じ、涼しく感じる。

 

 しかし、やはりこれでは足りない。

 水! 何を置いても、水が必要なのだ!


「ほら、大事に飲めよ」


 ラッシュから差し出された皮袋を、エドガーとフィーリアは笑顔で飛びつかんばかりに受け取る。そして、一気に煽った。


 ──ゴキュ。


 一口飲み、それ以上出てこなくなった皮袋を逆さまにして、笑ったまま覗き込む。それが間違いでないと分かると、エドガーは地面に叩きつけてブチ切れた。


「舐めてんのかテメェ! こんなので足りるわけねぇだろうが!」

「だから言ったろうが。大事に飲めよと」


 抗議するエドガーに、ラッシュは冷めた目を向ける。あれだけ言ったのに分からない奴だと、軽蔑しているようであった。


「いくら文句を言っても無駄だ。ここで無駄に飲んだら、それこそ帰る途中で死んじまう。死にたくなかったらそれで我慢しろ。辛いのは皆一緒なんだ」


 そう言いながら、ラッシュも僅かな水を大事そうに飲む。苦い顔をしながら、他の者もラッシュに習った。


「チッ、しゃあねぇ。死ぬよりはマシだ」

「そうだね。死にたくないもんね」


「いや、そんな平気そうな顔で言わないでください。いくらアメリアさんでも流石に怒りたくなります」

「私だって、皆よりはマシってだけで、辛いんだけどな」


 仲間外れにされたような気がして、アメリアは一人、疎外感を感じた。とはいえ、当然の扱いでもある。


「ぐずっ……くしゅ……! うっ、うぅ……これしかないんだったら……もっと大事に飲めば良かったです……なんで、私は……私のバカッ……!」


 フィーリアは取り返しのつかない過ちを嘆き、涙した。そうして、貴重な水分をさらに消費していく。現在進行形で過ちが進んでいることに気づいて欲しい。

 そして、フィーリアと同じミスを犯したウサギさんは……何故か異様に静かだった。


「水……水だ……なんとかして水を……」


 エドガーはかつてない窮地に追い込まれていた。この極限状態に、高速で頭脳が回転する。


 どうにかして水を得る方法はないか、ありとあらゆる方法を模索し続ける。しかし、そう都合いい方法は浮かばない。だが、諦める訳にはいかない。ここでなんとかしなければ、ウサギの燻製焼きが出来てしまう。それだけは避けなければならない!


 グルグルグルグルと、頭だけではなく目も回っている。もはや彼は混乱状態にあった。


「ぐすんっ……エドガー様も悲しいんですか……? お互い、もっと考えるべきでしたね……」


 そのエドガーの姿を悲しんでいると勘違いしたのか、フィーリアは気安く慰めた。

 馴れ馴れしくすんじゃねぇ、バカが! 俺はお前とは違うんだ!

 思考に僅かなノイズが走り、エドガーは苛立った目をフィーリアに向ける。


 そして、フィーリアを目に入れた瞬間──エドガーの頭で、全てが繋がった。


 なぜ、こんなことに気づかなかったんだろう。

 こんなにも簡単なことだったじゃないか。


 気づいてしまえば、これ以上の手はないと思えた。


 誰もが気づきそうでありながら、思考の外に追い出され、届きようのない解答。

 まさに天啓。いや、悪魔的閃きと言った方がいいかもしれない。

 この状況を一変する答えを、彼は見つけた。


「ヒッ、ヒヒヒッ!」

「えっ? エドガー様? ……ヒッ!? きゃあ!?」


 エドガーの表情を見て、フィーリアは悲鳴を上げた。

 飢えた獣のような形相で、エドガーは自分を見ていた。

 狙われている。そう直感した彼女は、アワアワと腰を抜かしながら、四つん這いでアメリアの元へ逃げ出した。


「きゃっ!? えっ、何?」

「あっ? なんだ、どうした?」

「あわわわっ! エドガー様がっ! エドガー様がっ!」


 アメリアの腰元に飛びついてきたフィーリアに驚きながらも、いつになく怯えた彼女の姿を見て、アメリアとジーナはエドガーを見る。そして絶句した。


 眼球がはみ出さんばかりに目を見開いた、狂気が垣間見える形相で、エドガーはフィーリアを見ていた。


「お、おい、エドガー。どうしたんだ一体」

「ちょっとエドガーさん。洒落にならない顔してますよ?」


 あまりに壮絶な表情に、男二人も及び腰であった。

 止めなくてはならない。そう分かってはいるのだが、今のエドガーには、触れた瞬間から呪われそうな狂気を感じた。


 ヒタヒタと、エドガーはゆっくり歩き続ける。

 ヒッと、エドガーが近づくたびに、フィーリアは引きつけを起こした。

 これはまずいと、ラッシュが間に割って入る。


「待て待て待て! 本当にどうした!? 何かに呪われでもしたのかお前!?」

「エドガーさん! 正気に戻ってくださいっ! 相手はフィーリアさんですよ!」

「安心しろ。俺は正気だ。ただ、見つけちまったんだよ。この水不足の状況を、解決する手立てを」

「なに!」


 狂気の表情とは裏腹な理性的な言葉。そしてその内容に、ラッシュとネコタは囚われてしまった。それは、この場の誰もが願ってやまない物であったからだ。


 もしそんな方法があるなら……そう思ってしまったからこそ、二人はエドガーを止めることを忘れてしまった。二人の間を通り抜けたエドガーは、アメリアとジーナの背中に隠れるフィーリアの前で止まる。


 明らかに普通ではないエドガーに、フィーリアを隠す二人は身構える。狼藉を働こうものなら、全力で止める思いだった。

 しかし、エドガーはそれに気づいてもいないかのように、フィーリアに言う。


「出せ」

「へっ? 出せって何を?」


 思ってもいないことを言われ、キョトンとするフィーリア。

 それに苛立ったのか、エドガーは声を荒げた。


「とぼけてんじゃねぇよ。お前も一緒だろ? こっちも限界なんだ……だからとっとと出せ」

「出せって言われても、お水なんかもってませんよ〜! 私だって飲みたいですっ!」


「誰が水を出せなんて言ったよ? お前が水を持ってないなんて分かりきってんだろうが。俺が言ってるのは、もっと別のもんだよ」

「別のもの?」


 何を言っているのか分からず、フィーリアはますます混乱する。

 しかし、エドガーにとっては当たり前の答えだった。

 そう、水がないのなら、代わりの物で代用すればいい。それだけの話だったのだ。


 その代わりの物を求め、エドガーはじっとフィーリア見つめていた。

 フィーリアの胸にぶら下がる、柔らかく大きな膨らみを、じっと見ていた。


「………………え?」


 その視線に気づき、まさかと思いつつ、フィーリアは間の抜けた声を上げた。


 ──そのまさかであった。


「とぼけてんじゃねぇよ。分かったらとっとと乳出せやぁあああああああああああ!」


 エドガーは血走った目で剣を突きつけた。


 ──そして話は冒頭に戻る。


 ギリギリまで追い込まれているとはいえ……なんというか、もう、庇いようもなく。





 ──彼は、まごうことなきゲスであった。




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