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2-1 はじまりの朝


 まだ太陽が昇ったばかりの朝、日が昇ったばかりの薄暗い暁色のそらが除く窓。気温も低く、春にしては肌寒い。まぶたに残る眠気の重みを擦りつつ一日の始まりを迎えた。あのお風呂のできごとのせいかなかなか寝付けなかった。朝は強いけどちょっと辛いな……


 寝不足な感じはあるけど菓子職人として眠気を踏みしめて台所に立ち、なんとか三人分の朝食を作ることができた。さっそくと言わんばかりに昨日。黒咲さんと話したテーブルを三人のメイドが取り囲む。


「これは……」

「うわぁ、おいしそっ!」


 テーブルに並べられた食事を見て驚く二人。照明を反射して煌びやかな光を放つ料理の数々、ほぼ消費期限切れ近い余りものしかなかったけど、満足してくれたのなら良かった。味はあんまり自信ないけど……


「よく、あの少ない食材だけでこれだけのものを作れたな……」

「調味料や組み合わせを工夫すれば、バリエーションはたくさん出せますよ」


 数はあまり出せなかったが、一つ一つの料理は手を抜かずに作りこんだ。スクランブルエッグ、コンソメスープにパプリカスライスのサラダ。主菜はトーストとバターといった具合だ。メニューこそ定番だが飽きさせないためにいろいろ工夫を凝らした。


「すごいねぇ、このスクランブルエッグ……ふわっふわ~でメイド長のぱさぱさたまごと全然違う」

「ぱさっ……」


「コツは空気を逃さないですね。他にも生クリームやバターを使って卵液にも工夫してます」

「生クリームなんか入れてるのッ⁉」


「はい、コクも増しますし。舌触りもなめらかになります。できあがりもふんわりしてて見栄えも良くなりますよ」


「そ、そうか……そうなのか? そうなんだ……」

「あぁ、こんな豪勢な朝ごはん食べらるなんて幸せぇ……」


「もう、口の端からよだれ出てますよ」


 ごはん前の犬のようになっている。そんなに慌てなくても朝ごはんは逃げないのに……まっ、時間もあまりありませんからさっさと済ませないと。


「黒咲さん、では」

「そうだな、さっそくいただくとしようかな」


 三人とも席に着くと両手を合わせる。ボクはこなこちゃんのとなり、黒咲さんは向かい側に腰を掛けた。


 「「「いだきまーす!」」」


 朝の食卓に三人の声が響く。パクパクとスタートダッシュだと言わんばかりに食べ始めるこなこちゃん。ボクも続くようにして料理に手を付ける。


 ――ん、即興料理だけど意外といけた……かも。ん、うーん、少し味付けを間違えたかな。


 それにいつもよりも味が濃いような……ちょっと失敗したかな? おそるおそる二人の顔を伺うと……


「んんん〜! 美味しぃ!! おいしいよこれ!」

「もぐっ――これは驚いた。これは美味い」


 とても喜んでくれる二人。少し腑に落ちないが美味しいと思ってくれて良かった。


「うまーっ! むしゃむしゃっ!」

「もう、落ち着いて食べてくださいよ……もう、ほっぺたに付いてますよ」


 食べかすが飛んできそう……早食い大会と言わんばかりの食べっぷりだ。そっとティッシュで頬を拭いてあげる。白く柔らかい肌についた、黄色い汚れを撫でるように拭う。


「ごめんごめん、ありがとぉ」

「もう、しっかりしてくださいね。下品過ぎますよ」


「美味しいものを食べるとつい暴走しちゃうんだぁ」


 ――知ってる、昔からよくお菓子とか汚くバクバク食べてたよね。でも、最後に食べに行った高いレストランとか、学校の学食とか、ここ最近は落ち着てたはずなんだけど……どうしたんだろう?


「ふむ、見事だなこのスクランブルエッグ」

「気に入って貰えたようで光栄です」


「ああ、本当にな……うむ……」


 卵を口に含みながら何やら考え込む黒咲さん。どうしたのかな?


「あ~お味噌汁も美味しぃ〜メイド長のと比べ物にならないよぉ」

「さっきからずっとワタシの手料理をディスってくれたな……まあ、その通りなのだが……うむ、盛り付けも綺麗だし流石だな……ふっ」


 嬉しそうな優しそうな笑みを浮かべる。二人とも気に入ってくれてよかった。


「んっ……」


 お椀を手を取り味噌汁を口に含む――あったかい、ほどよいしょっぱさが口の中に広がる。味噌の良い香りが鼻孔を通り抜け、やがて温かな感触が喉を通って体内へと取り込んでいく。


 味噌汁はいい感じだ――やっぱり一人で食べるんじゃなくてみんなで食べるの良いな……


 母さんが亡くなってから一人飯ばかりだったから、誰かと話しながら食べるっていうのが新鮮に思えた。二人の会話や表情を見ていると、自然と頬をほころぶ。


「はぁ、朝早くから掃除もしてこんな料理も作ってくれる良いお嫁になれるよぉ……」

「嫁って……やめてください」


 そこはメイド喫茶なんだからメイドさんといって欲しかった。体も女になってるし冗談じゃ済まされない。嫁呼ばわりはやめてほしい……


「ふむ、母性的で家庭的だし、理想の嫁といった具合だな」

「シズママー! お昼もご飯作ってー!」


「なぁ、や、やめてくださいってばっ!」


 悪乗りし始める二人に対して思わず怒鳴りつけてしまう。だけど、完全にスイッチが入ったのか、小悪魔のような笑みを浮かべる二人。


「雫莉ママ! このオムレツ最高だよ!」

「このスープは母性を感じる」


「ママのこのサラダのお手製のドレッシングも美味しいよぉ」

「ああもう! やめでぐださいってばッ!!」


 さすがに耐えきれなくなって大声で塞ぎ込む。もうっ、バカにするなんて……母性とかママとか――こなこちゃんはともかく事情を知ってる黒咲さんは見過ごせない。女の子のこと気にしてるのに……


「むぅ……二人とも、お昼ご飯作りませんよ……」

「怒った……? ごめんっ! だからお昼も何か作ってよ~本当に美味しいんだよぉ」


「すまない、つい優しい味だったからな。ふぅ……」


 マグカップに手をかけてスープをズズっとのどに流し込んでいく。暖かな吐息をつき、コトっと置いたあといつものような切り目に戻る。


「さて、二人とも。昨日話した通り、今日は大忙しになるぞ」

「特訓、メニューの改善、あとは雫莉ちゃんの動画取るんだったねぇ」


「そうだ、特に雫莉くんは凄く忙しくなる。慣れないことも多いだろう……もし、何かあったらすぐにでも言って欲しい」

「はい、大丈夫です。体力には自信がありますから」


「頼もしいな。料理の腕も良し……奴らに一泡吹かせてやろう」

「おーっ!」


 暖かな朝日が差し込む部屋のなか、こなこちゃんの元気な掛け声が響き渡った……

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