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美少女にTSした天才パティシエ、メイド喫茶で働く〜製菓技術と料理配信で気づけば超有名なメイドさんになってました〜  作者: かなめ
第2章 宣戦布告! 和菓子VS洋菓子

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12/12

2-2 憂う新人メイド

 遅くなってしまいましたが、今回もご愛読ありがとうございました。たくさんの応援ありがとうございます。


 やっぱり、いろんなことを知るって良いですよね。製菓界隈のことを調べていると、知らない知識とネタが湧き上がってきます。しかし、調べるのに時間が掛るのが難点ですかね。すぐに書きたい派としてはその点ムズムズします。

 ブーンと唸り声のような機械音を立てて熱気を発するオーブン。窓から差し込む陽気な日照りと合わさり、ぽかぽかと心が温まるような優しい空気に包まれていた。


 そのぬくもりは朝の冷気を払い。溶けたバターと甘い砂糖の匂いも合わさり、目を閉じて深呼吸をするとほのかな幸福感を得られた。


「ふんふ~ん♪」


 光を反射して混ざり合うように輝くピンク色と銀色の二つの煌めき。シャカシャカと泡だて器で混ぜ合わせる二つ作業音。それを伴奏にしてソプラノの鼻歌は楽しそうにハミングを奏でていた。


「楽しそうですね」

「ふふん♪ だって新メニューだよっ?」


「まだ、出すと決まった訳じゃありませんけどね」

「ふふっ♪ いちごのぱんけーきぃ♪ 楽しみぃ~」


 視線を白卵が入った容器から上げていつもよりも弾んだ声を出す。なんだ試食が狙いでしたか……そういえば、こなこちゃんいちご大好きだったな。旬の食材を使って他の店では真似できない凝ったモノを作る――ってそれっぽいこと言ってたけど、ただ自分が食べたいだけか……


「別にこなこさんのために作ってるわけじゃありませんけどね……」


 容器がずれない左手にグッと力を加える。ちょっとしんどいな……


 右手を振るいシャカシャカと黄金色の液体が大きなガラスボウルのなかで渦を描き、しっとりとした白身が表れていく。そろそろかな……?


「でもぉ、雫莉ちゃんの渾身のパンケーキでしょ? 絶対美味しいよぉ~」

「保証はできませんよ。ふぅ……」


 程よい白みを帯びた液体に今度は溶かしていたバターと牛乳を入れる。底の深いステンレス製のボウルには溢れんばかりに貼られた肌色の液体。今の自分の手が何倍にも小さく見えてしまうその容器に手をかけて持ち上げる。


「……ッ!」


 ――おもっ……本当に1500gなのこれ?


 左手首に鈍い熱とドクドクと脈打つ感覚が走る。大きく息を吸って息を止めながら持ち上げると、こぼさないようにしてゆっくりと中身を注いでいく。二つの液体は混ざり合い、生クリーム色へと変色していった。


 ――筋力落ちたなぁ……女の体だから当然なんだけど……


 今度は粉類を投入する。重さはたかだか数百グラムだが材料運びやこうしてお菓子を作ってるとひしひしと感じられる。鼻歌歌いながら軽々とこれらを扱えるこなこちゃんは実は凄いのでは……?


「……はぁ……ッ……」


 持ち手を回すたびに襲ってくる抵抗感。牛乳とバターを加えたそれは一気に重みを増していた。額に汗を滲ませながらなんとか仕上げに入る。


「おっしゃっ、完成したー!」

「ありがとうございます」


 作業をやめて左手を背に回す。軽いステップを踏みながらやって来る彼女の持つガラスボウルには、まるで雲をそのまま容器に移したかのような、ふわふわした純白の塊が入っていた。


 うん、見た感じばっちりだ。こなこちゃんも知らないうちにかなり上達してる。


「上手ですよ。粘度も質感もばっちりです」

「えへへ、褒められた」


 大切にそれ受け取ると自分が作っていたモノに数回に分け、加えて……混ぜて……を繰り返す。彼女が一生懸命に作ってくれたものだ。失敗は許されない、持ち手をがっしりとしっかり掴み、変な力が加わらないように適度に正確に固定する。


 ――集中、ひたすら集中だ……全てが溶け合うよう、生地全体が均一に混ざり合うように、それでいて力を加えすぎないようにゆっくりと落ち着いてやるんだ……


 いろんな角度からボウルを覗き込んで全体の様子を確認する。お客さんに提供するからには不利益や偏りがないようにする必要がある。


 ガラス越しに生地を確認する。マーブル模様を描いていた生地は、しっとりとした質感に、白い光沢を帯びる。


 ヘラをスーッと持ち上げると、1本の橋のように糸が伸びた。先端には纏わりつくように生地が絡まり、重量に引かれてぽとぽとと尾を引きながら、ボウルへと落ちていく。


 ――うん、いい感じ……


「おぉ、これで完成?」

「はい、型に入れてオーブンで焼き入れ、盛りつけるだけです」


 銀のトレイにゴムベラを置いて「ふぅ」と一息つく。深いため息とともに肩の力が抜けると一気に体が軽くなったように感じた。


「大丈夫? 疲れてない?」

「いえ、これぐらいは何ともないですよ」


「そっかぁ……凄く辛そうな顔してたから大丈夫かなって」

「辛そう? そんな顔してましたか?」


「ううん、辛いっていうか、えーと……その、怖い?」

「こわ……?」


 思いがけない言葉に舌がもつれて目を伏せる。そんな顔してたんだボク、まったく自覚がなかった。


「そんな顔してました?」

「うん、あれは獲物を狙うハンターって感じだね~殺し屋の目だよ」


「そんなにですかっ?!」


 思わず頬に手を当てて顔を隠す。殺し屋って……ボクそんなに怖い顔してたの? ちょっと顔を上げるのが怖くなり、目だけを動かしてチラリと彼女の瞳を覗いた。


「じょーだん! 冗談だよ。でも、凄い真剣なんだなってのは伝わってきたね」

「変なこと言うのは控えてくださいよ」


「ごめんごめん、思ったよりもめっちゃ気にするじゃん……やっぱ、雫莉ちゃん乙女だよねぇ。指摘されると恥ずかしがって顔隠しちゃうし」


 乙女……か。確かに、体はそうだけど中身はバリバリな男性……なんだけどね。


「そんなことないですよ。ボクなんて乙女なところなんかこれっぽっちもないです」


「そうかな? 少なくても私よりも清楚で可憐で、お淑やかだよ。お菓子作りの身振りも、所作もすごく上品だし」


「や、やめてください……そんなこと言うの」


 少しむず痒くなってしまって思わず視線を外す。えぇ……ボクが? 無理無理ムリィ! ボクが乙女とか……ない、絶対無い!


「でも、そんな雫莉ちゃんでもあんな顔するんだなーって」

「……そ、そうですね、さっきはかなり集中してましたからね」


「そう? かき混ぜるだけなのに?」


「そんな単純な作業じゃありません。生地の状態、空気の入り方、温度、粘性――と、常に変化する状況から最適解を常に考える、正確で緻密な作業なんですよ?」


「知ってるよー、私だって意識してるもん」


「いえ、こなこちゃんは雑念が多くてまだそこは甘いです。お菓子作りはミクロな世界、寸分の狂いが味にも影響するんです。規則性、正確性、均一性、感情や雑念が命取りなんですよ」

「えへへ、厳しいねぇ……そうだね……うん、でも、やっぱり私は楽しさとか嬉しさとか、そういうのを作っている間も大切にしたいな」


「そ――……そう、ですか……」


 ――それは誤りだよ……って、言いかけたけど唇を閉ざす。否定しきれなかったから、そんな綺麗ごとや夢物語は世の中には通用しないって分かっているのに。それで解決したなら母さんの店は今頃も存在していた。


 でも、なんだか彼女の楽しそうな姿ときっぱりと言い切るその姿に何かしらの説得感が感じられた。眩しいな、窓から入ってくる光が後光のように彼女を照らして、神聖な雰囲気を漂わせていた。そんな彼女に背を向けると、作業台からボウルを持ちあげる。


「では、さっさと焼いちゃいましょうか」

「おー」


 生地を黒色のオーブン天板の上に均等に置かれた円形の型に流し込んでいく。全ての生地を入れ終わると、予め予熱しておいたオーブンに運ぶだけ。


 手袋をしたあと両腕を広げて天板の持ち手を掴む。業務用ということもあり、面積は広く、重量もそれなりにある。めいいっぱい腕を広げないと持ち手まで指が届かない。


「――っと、んんっ……え、あれ……?」


 力を込めて持ち上げようとすると、持ち上がりはするがずっしりとした鉄の板に小さな女体の腕力では支えきれず、思わず前のめりになる。左手首には急激な負荷がかかり、ドクドクと脈打ち始めたが気にせず続ける。


「――はぁ……ッ! ん、ぎぃ……! っ……!」


 ゆっくりと下ろして、肩で息をする。――あれ……今のボクってこんなに力弱いの……? 白く細い細枝のような華奢な腕と黒く鈍く光る鉄板。持ち手に手を戻して、再び持ち上げようとするが腕がぷるぷると震えだし力が入らなくなっていく。


「代わろうか?」


 見かねて彼女が手を差し伸べる。男としてのプライドからボクは首を左右に振ると、再び持ち上げようと試みるが、持ち上がるどころか指先に血が通わなくなって冷たく痺れ始める。


「はぁ、はぁ……」

「代わって……仕方ないない。雫莉ちゃん私より小さいし、力仕事はまかせて――っと」


「え……?」


 こなこちゃんは両手を添えると一気に天板を台から引き離す。少し、彼女は表情をしかめるがすぐにいつもの笑顔に戻る。


「ちょっと重かったけど、まーこれぐらいなら大丈夫。雫莉ちゃんはオーブンの蓋開けてくれる?」

「は、はい……」


 軽く眩暈がして視界が揺らぐ。ふらふらとした足取りで言われた通りにオーブンの蓋を開けると、ガタっと天板をオーブンの中へ押し込んだ。吸い込まれるように天板は奥深くへと沈んでいく。オーブンの扉を閉め、ピッピッと音を鳴らしながら操作している彼女を横目に見ながら、作業台の上に手をついて脱力する。


 ――まさか、こなこちゃんよりもずっと非力だったなんて……自分の弱さに呆れると同時に、自分自身への失望感と情けなさがこみ上げてきた。


 パティシエにとって非力なのはかなりの致命傷。この体でお菓子作りをするのは苦難の道だろう……眉を八の字に曲げて唇を噛む。


「んー雫莉ちゃん、ちょっと鍛えた方がいいかな? 筋トレしたほうがいいよー、ここ、結構こうやって力使うところ多いし」

「あ、あ、はは……うん、そうだね……」


「気にしないで、女の子ならそんなだよ。私も昔はあんまり力なかったけど、ある人から勧めてもらった筋トレやってから、筋力パワーもアップしてねーそれから……」


 上の空だった。適当に相槌を打つと、オーブンから聞こえてくる機械音に耳を傾ける。熱気がじりじりと身を焦がし、暑さに額にうっすらと水気を帯びて汗ばむ。ボクはふつふつと湧き上がるストレスを感じながら、喪失感と焦燥感に身を委ねて、ただぼーっとオーブンを見つめる。


 ――体力作りしないとね……

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