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49 グレートボア

「おらあああッ!」


 リーダーが雄叫びと共に剣を振り下ろす。その切るよりも叩きつけるような豪快な一撃に、血まみれのグレートボアは苦しげに大きな牙を振り回して暴れた。


 その時、グレートボアが見せた一瞬の隙を見逃さなかったのはギータだ。ギータはグレートボアが突き上げた牙をかいくぐって避けると、その真っ白な喉元に剣を突き立てた。


「グルオオオオオオオオオオオンン!」


 断末魔の叫びを上げるグレートボア。


 グレートボアはこれまでで一番の抵抗を見せ、手足を乱暴に振って荒れ狂うが、ギータは離れることなくさらに奥へ奥へと刃を押し込んでいく。


 やがてグレートボアは剣を突き刺させたまま、力尽きたように頭から地面に倒れ込み――そのまま二度と起き上がってくることはなかった。


「うおっしゃあああああああああーーー!!」

「うおおおおおおおおおおおおおああああ!」


 拳を突き上げるギータと、喜びを爆発させる冒険者たち。そしてそれを見学して、年甲斐なく大興奮したのが俺である。


「いやあ、すごかったね!」


 声を上げ、窓から振り返る俺。しかしこういうのを見慣れているのか、車内の二人のリアクションは落ち着いたものだった。


「そうですわね、旦那様。私としてはもう少し、守りを重視していただければ安心して見れたのですけど……」


 心配そうに冒険者を見つめていたのが伊勢崎さん。たしかに冒険者は擦り傷や多少の出血は当たり前といった状況だ。


 そんな血を流した冒険者の元にはシリルが駆け寄っていった。シリルが手から淡い光を放つと、その血がピタリと止まる。どうやらシリルは回復魔法の使い手のようだ。


 そして伊勢崎さんとは対照的に、満足げに笑みを浮かべていたのはレヴィーリア様。


「それでも腕がいいのは確かなようでしたわ。グレートボアというと、C級パーティでも手こずると聞いております。それをあっという間に倒しましたのですから」


 貴族であり護衛慣れしてるであろうレヴィーリア様が言うのなら、この冒険者たちの質はかなり高いのだろう。


 やはり攻撃こそ最大の防御。力こそパワーってことなのかもしれない。ある程度の傷は回復魔法で治せるみたいだし。


 とはいえ、伊勢崎さんが心配するように危なっかしかったのも事実なんだよね。まあ見てる分には構わないんだけど。


 それなら、他にどのような攻撃方法があるのだろうか。


 弓と魔法で遠距離からヒットアンドアウェイとか? ……ダメだ、それだと馬車に危険が及ぶ。


 じゃあ盾で攻撃を防ぎながらとか? でも冒険者が持っているのは移動に便利な軽そうな盾だし、グレートボアの攻撃を防げそうにないよなあ……。


 ――などと、気がつけば俺は自分だったらこうするのに、みたいなことを考えていた。


 もちろんプロの冒険者の皆様がいるのに、素人の自分が差し出がましいアドバイスをするつもりはない。


 これは例えるなら野球をやったこともない人間が、「えっ、ここで送りバント!?」とか、「ここはピッチャー交代でしょ~」みたいに、テレビでプロ野球を見ながらああだこうだと言ってるようなものだ。


 それはそれで結構楽しいものなんだよね。そんなものを頭の中で妄想するくらいなら問題ないだろう。


 そうして俺は、自分ならこうする――みたいな妄想を続け、なんとなく手のひらにいくつもの小さな異空間を浮かばせながら、冒険者のみなさんがグレートボアを解体する様子を眺めていたのだった。



 ◇◇◇



 解体が終わった後は少し遅れた分を取り戻すべく、やや早いペースで移動を続けた。


 だが歩くペースが早いにもかかわらず、馬車の窓から眺める冒険者たちの顔はみな一様に明るい。その理由はおそらく、彼らの今夜の食事がグレートボアになったからだろう。


 グレートボアの肉は高級食材の部類に入るらしく、冒険者にとってもなかなかお目にかかるものではないのだそうだ。……ふーん、なるほど。



 そうしてやがて日が暮れてきた。


 馬車で夜間の移動は危険を伴う。今日の移動はここまでとし、今夜は近くに川が流れる平地で野営をすることになった。


 パチパチと焚き火が音を鳴らし、その周辺で冒険者たちが野営の準備を行う中、俺と伊勢崎さんは彼らの元を訪ねることにした。


 理由はもちろん、俺もグレートボアの肉を食べたいからである。土ネズミよりも美味しいらしいグレートボア。そんなのご相伴にあずかるしかないだろう。


 そのための策を十は用意した俺は、焚き火の前でグレートボアの肉を切り分けている冒険者リーダーに近づいていったのだった。

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