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ネクロノミコン~神話生物と暮らす~  作者: @素朴
第三章
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28-1 従者

 枯れた大地にシュブ=ニグラスから恵みを与えてもらってから二十日程が経過していた。


 この間インスマスは大きく変化を遂げていた。


 まずシュブ=ニグラスによって恵みを与えてもらった耕作地だが、なんとか草むしりを終え、現在は耕しているところだ。


 しかし、元々は枯れた大地。その土は硬く、非常に重労働である。更にインスマスには満足な農具もないため、畑を耕す作業に苦戦していた。


 次にシュブ=ニグラスのうっかりでできてしまった広大な森だが、此方にも人手が割かれていた。


 というよりも、この森はシュブ=ニグラスの恵みを受けすぎていて、放っておくとインスマスの飲み込みかねないため、人員を注ぎ込む他ないのだった。


 イアンの元で建築の仕事をしていたムーン=ビースト達を中心に、木が増えすぎないようにするため奔走していた。


 ここでも満足な道具がなかったが、ムーン=ビーストが持ち前の膂力を発揮し、大活躍していた。


 切る道具がなければ引っこ抜けばいい。そんな脳筋理論の元、ムーン=ビースト達は成長している木を丸ごと抜根していった。


 が、問題はここからで、インスマスには木材を加工する道具もなければ、技術を持った人材もいない。


 大量の木材はインスマスの発展に繋がるかと思いきや、そう簡単なことではなかった。


 イアンが探り探り色々試してくれてはいるが、今のところ大きな進展はない。


 そのため、インスマスの一角には大量の丸太が積み上げられていた。


 漁、狩り班は今のところ、今まで通り仕事をこなしている。とはいえ、今まではインスマス面が、彼らのとって来た獲物の整理等をしていたが、インスマス面のかなりの数が畑仕事に移ってしまったので、彼らの仕事量も増えている。


 インスマスは今、村全体で人手不足が深刻化していた。


 人手不足により、個々の仕事量も増えているため、疲労の蓄積も問題だ。


 林業、農業が新たにインスマスに加わったことで、インスマス自体はこれまでよりも活気が出てきてはいるが、時折疲れた顔をする者が増えてきていることも事実であった。


 村の様子を見るために、フラフラと歩きながらアルハードはナルに話しかけた。


(というわけで、なんとかなりませんかねナルさん)


(なんとかならない訳がないでしょう?)


(流石ナル! 教えて!)


(どうしましょう)


 ダメ元でナルへと聞いたアルハードだったが、いつものように軽くあしらわれることはなかった。


 普段と変わらない気もしたが、端から突っぱねるようなことはなく、含みのあるナルの言い方に、アルハードは少しばかり期待してしまう。


(インスマスの皆は働き者過ぎなんだよな……一生懸命村のために仕事してくれるのはいいんだけど、自分達のことを疎かにしてまでやってほしいとは思ってないんだよ)


 アルハードの思いとは裏腹に、現状インスマスの住民は仕事に精を出しすぎるあまり、自分達のことが疎かなっていた。


 自分達のこと……家のことや私生活についてだ。


 休みを返上してまで仕事をする者や、疲れから家事を後回しにする者などが続出している。


 インスマスには娯楽がないので、休みとはいえやることがないことはわかる。各属性魔石の数も少なく、家事をやるにしても手間と時間がかかる。


 だからといって、それが自分のことを蔑ろにしていい理由にはならないし、村長アルハードが目指すのは住みやすい場所だ。


(人手が足りないのならば増やせばいいでしょう?)


(それは考えた。ムーン=ビーストをもっと呼び寄せるとかな……でもまぁ、今いるムーン=ビースト達のことを思うと、そう簡単に増やしていい気もしないし)


(アルはお人好しですね)


(そうかなぁ)


(……まぁ、いいでしょう)


 少しの間の後、ナルから思わぬ返事が返って来た。


 少しの間があった。というところに一抹の不安を覚えるアルハードだったが、ナルが知恵と力を貸してくれるならば、安いものだろうと即座に結論づけた。


 ナルの気が変わらないうちに話を進めてしまおうと思ったからだ。


 アルハードはかなりニャルラトホテプという邪神のことがわかってきていた。


 それは、わかったつもりになっているだけかもしれなかったが――。


(神話生物には、奉仕種族というものが数多います)


(深きもの達がそうだっけ?)


(そうです。ちなみにムーン=ビーストは独立種族ですね)


(そうだっけ?)


(まぁ、それはどうでもいいのです。で、今回はその奉仕種族の中でも、比較的躾やすい者を呼びましょう――まぁ、家事などを主に仕込む方針ですね)


 ナルが協力的なことに、やはりアルハードは不安が隠せないでいた。


 ナルの話しっぷりから、アルハードが今インスマスに欲しいと思っていた人材? にドンピシャの神話生物のように聞こえる。


 けれど、ナルがその情報をあっさりと教えてくれるなどおかしい。


(それでですね、彼らを使役するにあたって、アルには一つしてもらいたいことがあります)


 ほら来た! とアルハードは思った。


 きっと碌でもない事に違いないと身構えてしまう。


(何を身構えているのですか……?)


(いや、気にするな)


(そうですか? それで、今回呼び出す神話生物は、『ショゴス』と呼ばれる者達です)


『ショゴス』と言う名に、アルハードは聞き覚えがあった。


 暇を見つけては読み進めていたアル・アジフに書かれていた名前である。しかし、アル・アジフの中で『ショゴス』の存在は否定されていたように記憶していた。


(『ショゴス』って……アル・アジフに書かれてたことが本当なら、いないとされてなかったっけ?)


(ほう、アルは勉強熱心ですね。確かにアル・アジフでは『ショゴス』の存在は否定されていますが、実際にはちゃんといますよ)


(そうなんだ)


(えぇ――あと、『ショゴス』とは別に一体だけ『ショゴス・ロード』を呼び出したいと思います)


(『ショゴス・ロード』?)


(そうです。『ショゴス・ロード』は『ショゴス』の親戚みたいなものですが、『ショゴス』に比べて知性が高いので、『ショゴス』達のまとめ役をやってもらおうと思ってます)


 今回呼び出す『ショゴス』の数はまだ決めていないが、インスマスの住人全員のサポートができる数となると、それなりの数になる。今後もっと住人が増えるようなら、今のうちに余分に呼び出して置く必要もある。


 そうなると、それを纏める役がいないと統率が取れなくなってしまう可能性も出てくる。


 その為の措置として、ナルは『ショゴス・ロード』を呼び出すと言っていた。


 これにはアルハードも納得だった。


 アルハードの中では、『ショゴス』がメイドで、『ショゴス・ロード』がメイド長のようなイメージだ。


(なるほどね)


(そこで、アルにやってもらいたいということなのですが……アルには『ショゴス・ロード』と戦闘してもらいます)


(は?)


 メイドみたいな存在と、メイド長みたいな存在を呼び出すという話をしていたのに、いつの間にかメイド長みたいな存在と戦闘をするという話になっていた。


 話についていけず、アルハードはポカンと間抜けな顔をしていた。


 立ち止まって間抜けな顔を晒しているのを、何人かのインスマス面に見られていることに気づいたアルハードは、すぐに取り繕って再び歩み出す。


(待て待て待て、なんで今の話の流れからいきなり戦うってことになるんだよ)


(『ショゴス』は奉仕種族ですが、『ショゴス・ロード』は独立種族です。そんな彼が大人しくアルに従うと思いますか?)


(いやいや、話せばわかってくれたりしないの?)


(ムーン=ビーストを従えた時のことを思い出して下さい)


 そう言われたアルハードは、ムーン=ビーストを召喚した時のことを思い出した。


 最初アルハードは、ムーン=ビーストに魔族を倒してくれとお願いしたが、ムーン=ビースト達は全く聞き入れてくれなかった。その後、ナルの魔力を声に乗せ、威圧気味に言ったところ彼らは従ってくれた。


(確かに……)


(でしょう? なので、一度『ショゴス・ロード』を倒し、力関係を示したほうがいいかと)


(……ちなみにその『ショゴス・ロード』はどのくらいの強さなんだ?)


(ムーン=ビーストよりもやや強いくらいですね)


 ナルのムーン=ビーストよりも強いくらいという発言に、アルハードはかなりびびっていた。


 おそらく今のアルハードであれば、ムーン=ビースト相手でも勝つことはできる。しかし、ムーン=ビーストの膂力と、あの槍はかなり強力である。そのムーン=ビーストよりも強い存在となんて戦いたくないというのが本音だ。


 もちろんクトゥルフやシュブ=ニグラスなどの神格相手には、アルハードもムーン=ビーストも等しく雑魚扱いである。


 クトゥルフやシュブ=ニグラスが出張ってくれれば何も問題なく『ショゴス・ロード』は打倒されるだろうが、それをナルが許してくれるとは思えない。


(戦わない道はないのか……?)


(ありませんね。そもそもこれは、アルが今どの程度戦えるか知るためでもあるのです)


(本音は?)


(失礼な、半分くらいは本音ですよ)


(……もう半分は何)


(最近刺激がなくてつまんねーなと思っているだけです)


 やっぱりお前が楽しみたいだけじゃん! とアルハードは心の中で叫ぶ。


 人の目のある場所で声を上げなくなっただけ、アルハードは学んでいる。


 ナルと話していて、ナルの突拍子もない発言に叫んでしまったことがあり、何度か白い目で見られたことがあったからだ。


(し、死んだりはしないよな?)


(それはアル次第でしょうね。あの青い髪の老婆と戦った時みたいに手足がなくなっても再生できますが、『ショゴス・ロード』は人を食べます。なので、捕食され完全に消化されてしまえば死ぬのではないでしょうか?)


 さらりと、なんでもないことのようにナルは恐ろしいことを言っていた。


 消化される。その言葉に心底ブルってしまったアルハードである。


 なんとか別の方法。戦わないで済むとか、他の奉仕種族を呼び出すとかナルに提案してみるが、全て突っぱねられてしまった。


 どうしようどうしようとウジウジ悩んでいたアルハードだったが、不意に酷く疲れた顔で仕事をしているインスマス面が目に入った。


 彼らにあんな顔をさせてしまっているのは、自分の責任だ。アルハードはそんな自己嫌悪に陥ってしまう。それと同時に、だったらそれをどうにかするのが、村長の役割だと腹を括った。


(わかった……その『ショゴス・ロード』と戦うから、俺に『ショゴス』の召喚の呪文を教えてくれ)


(アルならそう言うと思ってましたよ)


 ニヤリと嗤っているナルの顔が思い浮かぶ。


 アルハードは、結局はナルの掌の上で踊る羽目になるのだと、小さくため息を吐いた。

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